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経営のコトダマ 第24回 小説のコトダマ

2020.10.21

博報堂フェロー
スピーチライター/コラムニスト

ひきたよしあき
1984年、博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクター、ソーシャルプラニング局部長を歴任。東日本大震災 広報アドバイザーを一年間務める。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活躍。

「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるうコミュニケーションのプロ・ひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

小説が苦手な人の多くは、
冒頭に描かれる「状況説明」に
入っていけないようです。

いつの時代のどんな土地の
誰の話か。主人公の設定、人間関係
などが続く。
物語が始まる前提にイライラして
しまうのです。

しかし、小説にとって「状況」は命。

「男は、駅のホームで女を待っている。
時刻は、4時20分。約束の時間をとうに
過ぎている」

という「状況」があって、はじめて

「男は、『やっぱり、来ないのか・・』と
雨の降りそうな空を見上げた」

と、男の「心情」がわかってくるのです。

「状況」「心情」ときたら次は「行動」です。
男は、その場を去るのか、待つのか、
スマホで連絡をとるのか。こうした「行動」を
描くことで、また「状況」が変わる。

「状況」→「心情」→「行動」

のサイクルによって物語が進行していくのが
小説だと、私は予備校で学びました。

しかも、多くの場合、作者は「心情」を
いちいち書きません。

「イライラしている」「不安でたまらない」
「怒りが爆発しそうだ」

なんて書いたら、読者に想像する余地を
与えません。安っぽくなってしまいます。

だから作者は、「心情」を描かずに、
「状況」や「行動」にそのエッセンスを
溶かしていく。

「イライラした」

と書くかわりに、

「何度もスマホを見た」とか
「駅のアナウンスが、やけに大きい」

なんて書くのです。

この一連の流れ、
「状況」→「心情」→「行動」は、
実は、私たちの暮らしと何ら
変わりません。

自分も周囲の人たちも、小説風に
考えれば、このサイクルで動いている。
人がそれぞれの「状況」「心情」「行動」
で触れ合い、感じあい、行動を決めるのが
「人間関係」というものです。

ビジネスマンは、もっと小説を読むべきだ。

私がこれを強く思うのは、「人間関係」の
シミュレーションができるから。
自分以外の人の「状況」「心情」「行動」を
手軽に体験できるからです。

「こういう状況に陥ると、人はこんな
行動にでるのか」

そんな発見が、名著と言われるものには
必ずあります。

また、作者が「心情」を描かない分、
そこを自分の想像力で補う力もつく。
「小説のコトダマ」は、「人間関係」を
強くし、コミュニケーション力をつける
必須アイテムなのです。

効率ばかりを考えて、ビジネスに関係ある
テキストやデータばかりを読んでいる。
無論、それを否定するわけではありません。
しかし、それだけではいつAIに仕事を
奪われるかわからない。

人が人と交わり、何かをなしていこうと
するとき、様々な物語のインプット量が、
洞察力、推察力、決断力の確かさにつながる。
私は、こう考えています。

季節は、秋。
ひんやりしてきた空気の中で、
未知の物語に触れてみませんか。

<連載:経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ
第12回 先輩のコトダマ
第13回 効率のコトダマ
第14回 短気のコトダマ
第15回 世代のコトダマ
第16回 信頼のコトダマ
第17回 肩書きのコトダマ
第18回 質問のコトダマ
第19回 母のコトダマ
第20回 希望のコトダマ
第21回 未来予約のコトダマ
第22回 深夜放送のコトダマ
第23回 伝統のコトダマ

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