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経営のコトダマ 第18回 質問のコトダマ ひきたよしあき

2019.11.13

博報堂
スピーチライター
ひきたよしあき
1984年、博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクター、ソーシャルプラニング局部長を歴任。東日本大震災 広報アドバイザーを一年間務め、明治大学経営学部で教鞭をとる。スピーチライターとして勤務する傍ら、明治大学全学部共通講義「広告と言葉」講師、朝日小学生新聞 小学生セミナー講師も務める。
その他、立教大学ホスピタリティマネジメント更新、岩波書店「広辞苑大学」講師など多数。

政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

100年の歴史を刻む企業のオーナーは、
起床すると、すぐに仏前に手を合わせます。

その1日、企業と家族の平安を祈ると同時に、
先祖に向かって語りかける。

「今の課題を解決するために、
2代目ならば、どう考えるか。4代目なら
どう行動するか」

その課題は、グローバルやデジタルなど、
過去にはないものが大半です。
しかし、そんなことは問題ではない。
先哲の中には、獅子のように立ち向かう
人もいれば、風が吹いても涙を流すような
芸術肌の人もいる。
その一人ひとりの気質と知恵の源泉に
向けて、現当主は問い続けると言います。

「結局は、自問自答なんですけどね」

と茶目っ気たっぷりに笑う当主。
しかし、その笑顔の裏には、その時代
その時代に果敢に挑戦し、家督を今に
残した先人の血が脈々と流れているのです。
深みや凄みがまるで違うのは、背負ってきた
ものの大きさが違うからでしょう。

現当主は、会議のときにも穏やかです。
上皇陛下のようにゆっくりと、きれいな日本語を
話す。不思議なのは、多くの発言が、質問形に
なっていることです。

「この件につきまして、ひきたさんは
どう考えますか」

と、まずはこちらの意見を聞く。
私がしゃべっているとき、目を薄く閉じ、
首を少し傾けながら、じっと聞いています。

しゃべり終わると、しばらくの間。
腕時計をちらりとみると、4秒ほどの
沈黙がある。緊張もしますが、私の考えを
懐に一度しまってくれているようにも感じます。

その後、自分の意見を述べるのですが、
それもまた決めつけない。

「・・・という考え方に関しては、どう思われますか」

「という考え方は、間違っていますか」

さらに深い考えをこちらに求めてこられます。
1時間も話すと、汗が流れてきます。

長年おつきあいさせて頂き、わかってきたのは
ただ闇雲に質問されているのではないこと。
明確な答えを自ら用意している上で、私の意見を
聞き、確かめたり、修正したりされているのです。

それが証拠にぴたりと意見が一致した時は、
人懐っこい笑顔を浮かべて、

「どうして私の考えがわかったのですか」

と素直に喜びを表現される。
この言葉を聞くと、こちらも小躍りしたいほど
嬉しくなるものです。

当主は、「質問のコトダマ」を、
朝、先祖に問い、従業員に問い、取引先に問い、
私のようなライターにまで問うことで磨いて
こられたのでしょう。
多くの意見を取り入れた言葉を彼が断じて
発する時は、誰もが「私の言葉だ!」と
体を熱くするようなカリスマ性を帯びています。
「王道学」とはこういうものなのかと、
いつも学ばせて頂いています。

最近は、起業家や経営者の発信力ばかりが
とりあげられます。ネットに登場し、早いテンポで
自分の意見をスラスラと述べる。
これがトレンドになっています。
それを否定するものではありません。
時代に即したスピードや語り方はあって当然です。

しかし、それがわかった上で、
あえて人を巻き込む「質問力」というものが
時代を超えて存在することを多くの方に知って
頂きたい。

帝王は、耳を澄ますものなのです。

<連載:経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学。
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ
第12回 先輩のコトダマ
第13回 効率のコトダマ
第14回 短気のコトダマ
第15回 世代のコトダマ
第16回 信頼のコトダマ
第17回 肩書きのコトダマ

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