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経営のコトダマ 第17回 肩書きのコトダマ ひきたよしあき

2019.10.11
政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

名刺は、紀元前2世紀頃に中国で生まれました。
訪問して、相手が留守のときに竹に自分の名を
書き、戸口に刺す。
だから名刺には、「刺」という字が使われます。

日本で今のような形で名刺が使われ始めたのは
幕末からと言われています。
身分の高い人が海外の人と交渉するときに渡す。
鹿鳴館で流行した名刺には、「家紋」が印刷
されていました。

この「家紋」入りの名刺が、日本独特の
「名刺文化」を生んでいきます。

海外では、連絡先を伝えるCalling Cardや
自分や会社を宣伝するためのBusiness Cardが
主流ですが、日本の名刺はちょっと違います。

「家紋」から派生して「組織における自分の
肩書き」を示す道具として使われるように
なったのです。

会社のロゴはどこに入れるべきか。
肩書きはどう扱うべきか。
連絡先はどのあたりに入れるのか。
手のひらに収まる紙の中に、日本人は
巧みにレイアウトしていきます。

昔よくあった縦型の名刺を渡す時は、
中央に書かれた「肩書き」の部分に
かからぬよう親指を添えて出すのが
礼儀とされてきました。

今でも社長クラスの名刺だけは、
縦書きにレイアウトされたものも
用意する会社があります。
昔ながらの習慣を大切にしている
相手先もいる。
それに対応してのことだと、とある
社長から聞きました。

得意先を訪問して、相手が「部長」の
肩書きをもつ人が応対してくれた。
しかし、こちら側は「課長」クラスしか
訪問していなかった。

ビジネスの内容以前に、こうした
名刺の格付けで、一喜一憂することが
昔はよくありました。

それが崩れてきたのは、部署と肩書きに
カタカナ英語が増えたせいでしょう。
「局長」と「コミュニケーション
プロデューサー」は同格かの判断が
つきにくい。
また同じ「プロデューサー」という
肩書きでも会社によって格付けや職の
内容が違います。

「肩書き」が多様化し、さまざまに
表現されるようになってきた。
同時に、メールアドレスやURLも
入り、「この紙は再生紙を使用しています」
の一文までいれるとなると、もう
「名刺」の役割は鹿鳴館の時代には
戻れません。
ビジネスにおける連絡方法が、
メールで集約されている今、名刺の
役割は次第に終わりに近づいている
ように思えます。

しかし、それでいいのでしょうか。

確かにネットを通じてあらゆる連絡方法は
あります。
それでも直に会い、直に話すことは
ビジネス上では最も力のある行為である
ことに変わりはありません。

そこで交わされる名刺の肩書きが、
自社にしかわからない名前で、
何を専門に、どれくらいの責任を負える
人間であるかすら見えないことは、
不利益になることが意外に多いのではないか。

「肩書き」で仕事をする時代ではない
ことは十分わかった上で、大きなビジネス
チャンスを掴むには、「肩書きのコトダマ」に
もう少し注力した方がいいように思えるのです。

ぜひ、名刺を取り出して、あなたの部署と
肩書きをじっくり眺めてください。
それは、相手先の誰もがあなたの実力を
理解できる内容になっていますか。
「肩書きのコトダマ」が泣いていませんか。

これは日本の多くの企業で真剣にとりくむ
べき課題です。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ
第12回 先輩のコトダマ
第13回 効率のコトダマ
第14回 短気のコトダマ
第15回 世代のコトダマ
第16回 信頼のコトダマ

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