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経営のコトダマ 第12回 先輩のコトダマ ひきたよしあき

2019.06.25
政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

会社人生の大半は、OJTの先輩に
よって決まるのではないか。

定年を目前にした今、
そんなことを考えています。

今から35年前、OJTについて
くれた先輩は、ちょうど10歳年上でした。

「いいか。一年先輩は、すぐに抜け。
3年目がライバルだ。5年先輩に
相談しろ。10年上、つまり俺の背中を追え」

トレーニングの初日に言われた言葉です。
まだ、自分の席も決まっていないのに、
先輩は、1年目、3年目、5年目の人の
苗字を書き出しました。

その紙をもって、社内を見渡すと
風景が一変しました。
全員が「年上の人」に見えていたのが、
「ライバル」「相談相手」
「背中を追う人」などに色分けされたの
でした。

「コンセプトなんて、難しく考えるな。
『狙い』程度に考えて、

『この企画の狙いは・・・』と言って
説明してみろ」

と言われて説明する。

「ちっとも『狙い』になってないやないか」

と指摘され、苦し紛れの企画案は、
どんどんボツにされました。

「ひきた、広告マンの最大の敵は、
『時代』やで。自分の時代にしがみ
ついとったらあかん」

こう言いながら、しょっちゅう映画を
一緒に観に行きました。

「新しいというのはなぁ。
組み合わせを変えるってことなんや」

「中途半端はあかんで。
中途半端は逃げ道を用意していることや。
お前の企画は逃げ道だらけや」

来る日も来る日も、痛いところを
突かれます。

しかし、よく振り返ってみると
どれもこれも名言ばかり。

OJTの先輩についた一年。
その時に書き留めた言葉が、
私の職業人生を決めたようなものでした。

今も私の手元には、革張りの
ノートがあります。
あちこちに書いていた先輩の名言を
一冊にまとめたものです。

「元気とは、笑えること」

「耳障りのいい言葉は流れる」

「二人で蝶々を追いかけてる。
楽しいとは、そういうことや」

「何よりも勢い!
欠点を取り除きすぎると、
活力がなくなるで」

今となってはまるで自分の言葉の
ように脳と心に染みわたっています。
大学の教壇に立つ時、企業の研究に
向かうとき、私はこのノートを
開きます。
パラパラめくると、懐かしい大阪弁が
聞こえてくるかのようです。

企業は何でできているか。

私は「言葉」でできていると
考えます。

その組織の中で語られる言葉が
風土を作り、個性を生み、強みへと
変容していきます。

先輩の言葉を振り返る時、

「私はこんな名言を今、吐いているだろうか」

と不安になる。

向き合うたびに意想奔出、
露骨で、不屈で、荒々しかった
先輩の言葉に静かに向き合うとき、
自らの言葉の脆弱さに、
じっと手をみるばかりになります。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ
第11回 変化のコトダマ

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