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経営のコトダマ 第11回 変化のコトダマ ひきたよしあき

2019.05.31
政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

最近、二人の若い女性にお会いしました。
一人は、私の教える明治大学の卒業生。
大学をでて今年で4年目になります。

もう一人は、40代、50代の女性の
生き方を考える一般社団法人の理事。
彼女もまだ20代です。

二人には共通点がありました。
複数の仕事を持ち、並行してスキルを
磨いている。
所謂「パラレルキャリア」です。

「パラレルキャリア」が世界の経済学者
たちの間で提唱されはじめたのは、
21世紀に入った頃でした。
当時はまだ、「本業」のほかに「副業」を
もつ意味合いが濃かったように覚えています。

しかし、彼女たちは違います。
所謂「本業」にあたるものがない。
大学を卒業するときは、大手企業に
務めはするものの、そこで独り立ちできる
だけのキャリアと人脈を得ると、さっと
自立の道を選びます。

「私たちが育つ中で見てきた社会は、
絶対に潰れるはずがないといわれた
企業があっという間に消え、
いつの間にやらGAFAのような存在が
大きくなっている。リーマンショックや
大きな震災もありました。
国や企業に依存して生きていくのが怖い。
だったら、一人でも生きていけるように
自分を高めていくしかない。
そういう考えになるのは自然の成り行き
なんですよ」

彼女たちは、中学生の頃からボランテイアを
経験している。お金を稼ぐこととは別のところで
働きがいを味わっている。

「自分が好きなこと」「自分ができること」
を見極めて、それに見合う報酬がもらえれば
いいという考え方だ。

「貯蓄といっても、5年後、10年後に
どんな変化が起きるのか全くわかりません。
もちろん、生きていくためん必要なお金は
稼ぎたいし、未来の安心も欲しい。だからと
いって、お金に執着する生き方はしたくない」

どちらの女性に尋ねても、似たような
発言がでてきました。

「ひきたさんの時代の働き方を否定
しているわけではないですよ。その時代は、
均質化する教育も必要だったし、クオリティの
高い製品を大量に作る必要もあったのでしょう。
でも、それを今の世の中でやろうとしても無理。
ましてや私たちには、それをやる意味すら
わかりません」

ときっぱりと言われました。
私は完全に、おじぃさん扱いです。

「昔の人って、真面目で勤勉で、我慢して、
すごいとは思う。でも、なんだかみんな
同時にバタっといってしまうような怖さが
ある。変化に弱いというのか、有機的に
生きることができないというのか」

そう、彼女たちの中心には「変化」という
コトダマがあるのです。
ひとつの価値観や体制を信じることはない。
常に変化する社会の中で、自らも変化し、
強くなっていく。
変化の過程の中で、必要な人、必要なこと
と有機的に結びつき生きていく。
それが彼女たちの考える
「パラレルキャリア」なのでした。

「学生たちが就活に一生懸命になるでしょ。
あれはいい企業にいけば一生安泰だなんて
思っているんじゃないんですよ。30代に
なる前に自立するとしたら、どこの企業が
有利か。自分のスキルを磨くことができるか。
これが基準になっています。
『今の子たちは、3年で会社をやめる。
堪え性がない』と上の世代はいうけれど、
元から、そのくらいでやめる気持ちで入る
学生がたくさんいるんですよ」

と言われて、腕を組んだ。

そういえば、大学で教えて4年を超えた
昨年あたりから、転職の報告や相談がやけに
増えた。

「もう少し、がんばってみたらどうだ」

なんて言っていた自分が、昭和の化石の
ように思えてしまった。

若い世代をとらえてはなさない
「変化のコトダマ」はこれからますます
力をもっていくだろう。

その変化に耐えられるように、私もまた
変化しなくてはいけない。

「とりあえず今年は、有給休暇をちゃんと
とるよ」

と、「街おこし」のワークショップに向かう
女性に言ったら、

「かっこいいです!」

と親指を立ててくれた。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ
第10回 気くばりのコトダマ

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