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BXラウンドテーブル【第5回 ビジネスプロセス・前編】
ビジネスプロセス(ビジネスモデル)の未来

2022.06.16
#BX#ブランド・トランスフォーメーション
ブランド発想で実現する事業変革、ブランド・トランスフォーメーション(BX)。この概念の明確化を目指して、新進気鋭の研究者たちと実務で活躍する博報堂社員が繰り広げるディスカッション「BXラウンドテーブル」の様子を記事でお届けします。第5回のテーマは「ビジネスプロセス(ビジネスモデル)」です。(→連載 BXラウンドテーブル

参加者(五十音順・敬称略)
岩嵜博論 武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授
杉谷陽子 上智大学 経済学部経営学科 教授
本條晴一郎 静岡大学 学術院工学領域 事業開発マネジメント系列 准教授
水越康介 東京都立大学 経済経営学部 教授
山野井順一 早稲田大学 商学学術院 商学部 准教授

土屋亮 博報堂 第一BXマーケティング局 局長
*司会:岡田庄生 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 部長
会場 UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)

前回の振り返り

今回も会場であるUoC(UNIVERSITY of CREATIVITY)の大きなラウンドテーブルを囲んで、プレゼンターと参加者が席に着きました。最初に司会の岡田が、前回の「コミュニケーション」をテーマとしたディスカッションの主な論点を振り返りました。

岡田(博報堂) 前回は、デジタル時代の本質的なコミュニケーションの変化と、生活者とブランドとの関係について、たいへん刺激的な意見が交わされました。デジタル化はあらゆる境界を溶かしていく。受け手と送り手の境界も融解し、誰かがコミュニケーションの主権を握るのではなく、情報や価値が、人々の間をまるで空気や血液のように対流していく時代になる。プレゼンターである黒澤さんから、そんなコミュニケーションの未来像が提示されました。
これを受けて、その後のディスカッションでは、企業が発信するブランドやパーパスの解釈を、生活者をはじめとするステークホルダーにどこまで委ねられるか、新たなコミュニケーションのエコシステムを企業はマネジメントできるのか、といった論点で意見が交わされました。議論の終盤では、企業がコミュニケーションの場づくりをする上では、長期的に信頼されるようなパーパスが一層重要になっていく。歴史の蓄積や文化性、人間らしさ、楽しさの提供などが今後のブランドをつくるカギになるのではないか、といった見解が導かれました。

今日のディスカッションテーマは「ビジネスプロセス(ビジネスモデル)の未来」です。ブランド起点でビジネスの変革を目指すBXに、まさに直結するテーマです。まず博報堂の土屋さんから、議論の前提となるプレゼンテーションをお願いします。

なぜビジネスプロセス/ビジネスモデルが変化するのか

ディスカッションに先立ち、「ビジネスプロセス(ビジネスモデル)の未来」と題して、ビジネスプロセスを含むビジネスモデルはなぜ変化するのか、BXを通じてどんなビジネスへと向かうのかなど、博報堂 第一BXマーケティング局 局長の土屋亮がプレゼンテーションを行いました。

土屋 ビジネスプロセスを含めたビジネスモデルの変化が、今日のテーマです。
ビジネスモデルとは、経営資源を使って顧客に対して何らかの価値提案をして、利益という形で回収する仕組みです。このベースには資本主義経済があります。つまり資本を所有する資本家が、労働力や産業設備を買って、それらの価値を上回る商品を生産し、利益を得るというシステムです。資本を参入障壁として、大量生産・大量販売の仕組みで、規模の経済を享受して成長してきました。もちろん、すべてのビジネスが規模の経済を追求し、享受してきたわけではないですが、経済全体としては、そのように動いてきたと考えています。

現在、この仕組みに大きな変化が起こっています。今の生活者は既存の製品・サービスに十分満足していて、欲しいものがほとんどないという状態になっています。資本を投じて新しいモノを生産しても、かつてのようには売れない。金利が世界的に低下しているのも、資本を投じる先がなくなって、お金が余っているからです。製品・サービスだけでは差別化がしにくくなり、広告も生活者に対して期待をつくりにくくなっている。従来のビジネスモデルがコモディティ化している状況です。

資本を投じて良いモノをつくっても価値を生み出せないとしたら、資本にかわって何が必要になるのか。私は、それは「ネットワーク」ではないかと考えています。
今までは資本を持っている人がビジネスを主導していましたが、これからは志をともにした人や企業のつながり、いわばネットワーク主義、関係資本主義をベースとしたビジネスモデルが発展していくと考えています。

パーパスへの共感により、ネットワークを持つことができたら、企業はバリューチェーンのすべてを自前で提供する必要はなくなります。たとえばホテル事業。従来はホテルを自前で建てて、それを部屋単位で貸し出してお金を得るというモデルでした。一方で、民泊仲介サービス事業者は、宿泊先は生活者が提供してくれているので、自前の宿泊施設を持つ必要がありません。同様に、従来のメディアビジネスは、自社でコンテンツをつくり、それを見てもらって対価を得るというものでしたが、現在の多くのソーシャルメディアはメディア企業でありながら、自前でコンテンツをつくる必要はありません。コンテンツを生み出す役割は生活者が担っています。かつては企業がバリューチェーンのすべてを担っていましたが、今後はパーパスに共感してくれる人たちがバリューチェーンの一部を請け負ってくれる。これからは、ますますそういう世界になるのではないかと考えています。

それともう一つ、今後のビジネスモデルは「何」を提供していくのか。製品やサービスのコモディティ化が進み、製品やサービス自体の質や機能では差がつかなくなっているので、提供する価値の中身も変化すると思います。コモディティ化を避けるためには、生活者に何らかの「体験」を提供することや、さらには生活者の自己実現を支援する「変革」を提供することが考えられます。

より多くの生活者が体験して、「いいね」のような評価や評判をどんどん伝播していくことがビジネスを大きくする。つまり、ネットワーク効果によってビジネスが成長していきます。
生活者体験の価値が高まると、より多くの利用者が集まって、それが評判を呼んでコミュニティが拡大する。参加者が増えれば、交換されるモノやサービスの品揃えもどんどん増えて、ますます生活者の体験価値が向上する。そうしたビジネスプロセスへ変化していくでしょう。

そうしたビジネスモデルを、私は「共給共足型モデル」と呼んでいます。企業だけがビジネスを運営するのではなく、生活者と協働して、必要な資源や運営の一部を生活者が担う。提供する価値も変化して、単にモノを売るのでは無く、生活者にとっての良い体験や自己変革などを叶えるようなサービスが増えていく。

生活者もバリューチェーンの一部を担うことになり、そこで生まれた収益は企業だけが得るのではなく、再投資分を除いて生活者と山分けする。そんなモデルに変化していくのではないかと想像しています。ビジネスは、企業と生活者が一緒に取り組む「プロジェクト」のようなものに進化していくのではないでしょうか。

カテゴリーを超えたプラットフォームづくり、生活インフラづくりへ

土屋 今お話ししたようなプロセスの変化を、ブランド・トランスフォーメーションの観点で簡単に説明してみます。
これまでのビジネスは、特定の市場において企業同士が生活者をめぐって提供価値を競い合うモデルでした。そこにはコストリーダーシップや差別化といった戦略があり、それをマーケティングの4Pで解決してきたわけです。
このモデルは、今後は通用しなくなっていくと思います。提供すべき価値が変化し、例えば「人の移動を豊かにする」といった、社会性を持った価値の提供が求められる。これからは何らかのパーパスを起点にして、ステークホルダーがみんなで協力して一緒にビジネスモデルを組んでいくようになるでしょう。

それを模式化したのが次の図です。環境や社会、経済、技術といった観点から、ブランドパーパスを考えて、それを実現するような生活者体験やサービスをつくる。生活者がそれに反応し、「いいね」の連鎖が広がっていくことでビジネスがスケールする。こういうモデルになると考えています。

この流れの中で、いろいろな変化が起こります。業界構造も大きく変わり、製品カテゴリーの垣根も崩れていきます。わかりやすく言うと、今は「洗剤」というカテゴリーで複数のメーカーが競い合っていますが、近い将来「洗う」という生活価値をテーマに、洗剤と洗濯機とコインランドリーを結びつけたプラットフォームビジネスが登場するかもしれません。その途端、ビジネスの仕組みがつくり替えられる可能性があります。洗濯機に自動的に洗剤が補充されるようなモデルになれば、洗剤メーカーが洗剤を売る相手は生活者ではなく、洗濯機メーカーになるかもしれないですね。今までのカテゴリーが融解して、生活者価値を一番届けやすいやり方へとビジネスプロセス、ビジネスモデルをつくり変えていく。そんな変化がこれからどんどん起きそうだなと思っています。

多くの生活インフラは長期的に社会基盤化される

土屋 私が最近注目しているのが、生活必需品である生理用品を行政が買い取って、お金に困っている人に提供するというトピックです。強い生活インフラが1つできると、ネットワーク効果で富がそこに集中するので、そこに公共が介入し、生活に必要なものを買い取って、生活者に分配するという行動が生まれてくるのではないか、というのが私の妄想です。
誰にとっても必要なものは政府が企業から税金で買い取って、生活者に配るという公共化が進む。その一方で、企業のビジネスは嗜好性や社会性、自己実現など上位の欲求を満たすような領域に特化していって、小さなビジネスがたくさん生まれるのでないでしょうか。あくまで仮説ですが、百年後にはそんな社会になっているのではないかと想像しています。

そんな未来への思いも馳せながら、ここまでお話ししたような、生活者との共創が進むことによって引き起こされるビジネスプロセスの変化や、既存のカテゴリーの垣根が壊れて、生活者価値をベースにビジネスが再編されていくのではないかといった仮説を手がかりに、ビジネスモデルやビジネスプロセスの変化について、皆さんとディスカッションできたらと思います。

ディスカッションに向けて ~研究者の皆さんから~

今回もBXラウンドテーブルに参加いただいている5人の研究者のみなさんに、土屋のプレゼンテーションに対する感想や、ビジネスプロセス(ビジネスモデル)の変化とこれからのブランドとの関係などについて一言ずつ伺いました。

岩嵜 土屋さんのプレゼンにあった言葉で、いまデザインの領域でよく議論されている論点と重なる部分が1つありました。「プロジェクト化する」というところです。
企業内のデザイナーが、企業のためにデザインして、それが工業製品という形で世の中に伝わっていくという従来のモデルが変化し、今後はデザイン的な活動や所作が、さまざまな領域に偏在的に広がって、いろんな物事がプロジェクト化していく。そのプロジェクトをファシリテートするのがデザイナーの役割になる、という議論があるんです。それと非常に近しいものがあるなと思いました。

あと、プロジェクト化していく中で、生活者がバリューチェーンの中に入っていくという話は興味深いですが、根底に資本主義のシステムが維持されているとすると、生活者側は資本を持たないので、企業と生活者のコスト負担みたいなものはどうなるのか、などは論点になるかなと思いました。
今は「送り手としての企業」と「受け手としての生活者」という関係性が明確になりすぎて、生活者がバリューチェーンの中に入り込む余地がないように思われていますが、歴史をたどれば昔は結構あったんですよね。これからどんな形でそこに戻りうるのか、その先のプロジェクト化した世界とはどんな世界なのか、とても興味深いなと思いました。

岩嵜博論氏(武蔵野美術大学)

水越 ビジネスプロセスとビジネスモデル、どちらも大きな話で、前回の「コミュニケーション」の回で話題になった「エコシステム」とも密接な関係がありそうだなと思いました。従来のビジネスモデルは企業を中心として考えられがちでしたが、そこに生活者がどんどん入ってくる形で、それがエコシステムになっていく。そんな理解もできそうです。バリューチェーンの中にユーザーが入ってくるのはこの10年の重要な潮流です。それがもっと加速していくのかなと感じました。
もう一つ、土屋さんは、ビジネスモデルがプラットフォーム化、プロジェクト化していく中で、企業がピラミッド構造の下位に移っていく可能性があると指摘されていました。ユーザーや生活者のような人たちが中心になっていく可能性もありますが、その時にもおそらく「ブランド」は残っているでしょう。「あの会社となら一緒にやってみたい」「あの会社ならいいものをつくってくれそうだ」などの判断基準としてブランドが機能する。企業やブランドの役割は、そういう形に移行していくのかもしれないなと思いました。

水越康介氏(東京都立大学)

本條 まず、私も岩嵜先生同様にデザインの領域に関わる話をしたいのですが、最近のデザイン関連の議論では、デザイナーがソーシャルイノベーションに寄与するという側面が強調されており、そこで重要な役割を果たすのが「デザイン文化」だと言われています。デザイン文化(design culture)とは「新しいプロジェクトが構想され、開発され、そこから新しい意味が生み出される意味のある文脈」のことで、イタリアのデザインの伝統に由来する「プロジェクト文化(cultura del progetto)」が英訳されるときに翻案されたものです。プロジェクトとして物事を捉えることによって社会を前進させるというデザイン文化、プロジェクト文化の考え方は、今日の話と親和性が高いと思いました。

また、「差別化」から「独自性」へという移行についても論点になると思いました。マイケル・ポーターの論文も、時代が新しくなるにつれて、差別化ではなく独自性、ユニークネスを強調するようになっています。ブランド論でも似たような傾向が見られます。具体的な実践例としても、どう差別化するかという従来のコンサルタント的な発想よりも、生活者の体験を磨き込むことで独自性を築き上げていくというエンジニア的な取り組みに価値の源泉が移っているように見えるものが増えています。このことはビジネスプロセスやビジネスモデルにも直接関係すると思います。ネットワークももちろん重要な資産だと思うのですが、「差別化か独自性か」という軸を置いてみると、もう少し見通しが良くなるのではないかと感じました。差別化されていてもエコシステムには参加できるとは限らず、独自性がある場合にエコシステムのなかでニッチを占めることができるといえるかも知れません。ここではニッチという言葉を、従来の競争戦略論的な隙間という消極的な意味ではなく、本来の意味の生態的地位という意味で使っています。

本條晴一郎氏(静岡大学)

山野井 土屋さんのおっしゃるように、「正のネットワーク効果」が働くようなビジネスがどの業界でも増えてきて、プラットフォームビジネスが次々と生まれている。企業や生活者は、誰もがプラットフォームに参加することを選択する時代になっている。まさしくその通りだと思います。
これまでは、単に提供するサービスが優れているプラットフォームが勝つ、より多くの利用者を獲得したプラットフォームがますます強くなっていくという収穫逓増の視点で捉えられていたと思うのです。でもお話をお聞きしていて、今後はサービスの質だけでなく、ブランドやパーパスが重要な役割を果たしてくる気がしました。
競争に勝利したプラットフォームが市場を独占するのだとすれば、生活者も、プラットフォームの参加者となる企業も、どのプラットフォームを勝たせたいかと考えるはずです。自分たちの将来をこのプラットフォーマーに任せていいのか。本当に世の中にとってプラスのことをしてくれるのか。そういう意味で、ブランドやパーパスがプラットフォームを判断する重要な基準になるのではないかと。

もう一つ考えたのは、正のネットワーク効果ではなく、負のネットワーク効果が働く業界はないのかな、ということです。いわゆる高級ブランド品は、持っている人が増えれば増えるほど、その価値が低下しますよね。どんな業界でも土屋さんのおっしゃったような意味でのネットワーク効果が働いて、バリューチェーンがオープンになっていくのか。そうならない業界があるとすれば、どこでその区切りが生まれるのか。このあたりは考えてみると面白いかなと思った次第です。

山野井順一氏(早稲田大学)

杉谷 最後のお話は、土屋さんは妄想だとおっしゃっていましたけれど、生活の基盤になるところが公共化していくというお話は、あり得る未来だと思いました。そこも含めて面白く興味深いご提案だなとお聞きしました。
もしそういう流れが現実に起こったとき、企業の“資産”とは何になっていくのかなと考えました。バリューチェーンの図で示してくださったように、すべてのプロセスが共創的になると、これまで企業の大切な資産だったはずの特許とか独特の製法とかも、オープンになっていくでしょう。そうなると、各企業と共創することの価値を、どう見い出していくのかが重要なテーマになると思いました。
生活者は何をもって「このブランドはいいな」とか「何か一緒にやろう」と思うきっかけになるのか。パーパスの根底にはヒューマニティのような大きなものがあって、人間社会を良くするためにみんなで協力しようというのはいいのですけど、誰と協力するかを選ぶときには何らかの手がかりが必要で。そこで独自性や差別化の軸になるものは何か。ブランドというか、企業のようなものとして見えている対象がどう変化するのか、みなさんと議論してみたいと思いました。

杉谷陽子氏(上智大学)

岡田 今回も数多くの論点をあげていただき、ありがとうございます。さっそく皆さんと議論していければと思います。

→→第5回ラウンドテーブル「ビジネスプロセス」 全体ディスカッション記事(後編)へ

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