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BXラウンドテーブル【第3回 組織と人材・後編】
動的でオープンな組織は本当に成立するのか?

2022.03.18
新進気鋭の研究者たちと、ブランドの実務で活躍する博報堂社員が繰り広げる連続ディスカッション「BXラウンドテーブル」の模様を記事でお届けします。第3回のラウンドテーブルでは、「組織と人材」をテーマに活発な意見が交わされました。(→連載一覧 BXラウンドテーブル

参加者(五十音順・敬称略)
岩嵜博論 武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授
杉谷陽子 上智大学 経済学部経営学科 教授
本條晴一郎 静岡大学 学術院工学領域 事業開発マネジメント系列 准教授
水越康介 東京都立大学 経済経営学部 教授
山野井順一 早稲田大学 商学学術院 商学部 准教授
荒井友久 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 部長
*司会:岡田庄生 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 部長
会場 UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)

「これからの組織と人材」を考えるための3つの視点

「これからの組織と人材」をテーマとした博報堂の荒井友久によるプレゼンテーション(※前編)を踏まえて、今回もファシリテーターである岩嵜博論氏より3つのテーマが提示され、全体ディスカッションがスタートしました。
【本日のテーマ】
1.動的組織が求められている背景はどのようなものか、これまでの組織とどのように異なるのか?
2.静的組織から動的組織へ移行するときのマネジメントはどう変化するのか?
3.BXを進めるとしたとき、組織はどうあるべきか?

テーマ1:動的組織が求められている背景はどのようなものか、これまでの組織とどのように異なるのか?

杉谷氏がコメントした「関係流動性」と組織の関係についての話題から全体ディスカッションがスタート。はたして動的組織は日本人にとって有効といえるのか。社会心理学の知見などを踏まえた見解が投げかけられました。

岩嵜 荒井さんのプレゼンにあったインスタント型組織をはじめ、動的な組織へのシフトは止められないトレンドだと言えそうです。しかし、杉谷先生がおっしゃった関係流動的な状態に移行していくと、日本人の持つ文化的背景と齟齬が生まれる可能性もあります。日本人としては、働きにくくなっていくのでしょうか。

杉谷 社会の関係流動性を規定する要因には、どれくらい多民族社会であるか、どういう教育システムの中で育つか、一つの会社に長く勤めるのが一般的かどうか、などがあります。生まれてから死ぬまでにそれぞれの環境で関わる人の選択肢バラエティが関係流動性を決めていくのであって、個人の意識というレベルで変えられるものではないのですね。
日本人の場合、人の入れ替わりが激しく、絶えず知らない人と関わるような組織形態は相対的には苦手ではないか、とは考えられます。ただ一方で、チームで戦うことは日本人が得意とする面でもあって、インスタント型組織での強みにもなり得るかもしれません。

本條 思い出したのが、社会心理学の「一般的信頼」という概念です。社会心理学者の山岸俊男先生が、「アメリカ人は知らない人を信頼することができる。それに対し日本人は、知っている人を信用するけれど、知らない人は信頼しない」という主旨のことを言っていました。この考えに従うなら、日本人が初対面の人たちとチームを作って活動するのは結構難しいのではないかなと考えられます。これも、杉谷先生がおっしゃった国ごとの文化的背景と密接に関わっている気がします。

山野井 たしか一般的信頼の概念には「能力に基づく信頼」と「愛着に基づく信頼」という考え方がありますね。人が何の条件もなく誰かを信じる傾向には2つあって、1つは相手に能力があるかどうか。自分の期待通りのことをやってくれる能力が相手にあるとわかれば、不確実な状況にも身をさらすことができる。
もう一つが愛着です。人間関係が長くなると、明確な理由はなくてもとりあえず信頼しちゃう。能力はないかもしれないけど、付き合いが長いからお金を貸してあげるというのは普通にあると思います。インスタント型組織では、能力の方はともかく、愛着に基づく信頼は生まれにくい気がしますね。

テーマ2:静的組織から動的組織へ移行するときのマネジメントはどう変化するのか?

2つめのテーマでは、マネジメントのあり方についての問いから、マネジメントされる側の自律性の問題が中心的な話題となって、ディスカッションが展開されました。

岩嵜 静的な組織から動的な組織に移行するときに、マネジメントはどう変わっていくのかを議論してみたいと思います。特に、インスタント型のような動的組織になったとき、日本企業は今まであまり経験してこなかったマネジメントが求められていくでしょう。しかもコロナでそれが加速して、マネジメントの現場ではいろいろと混乱が起こっていると思います。

山野井 マネジメントのあり方はもちろんですが、先ほどもお話ししたように、インスタント型組織では強い個人でないと生きていけないのではないかと感じました。もし実際に、多くの企業が動的な組織形態に移行するのであれば、大学なども教育のあり方を再考しなければならないなと。

岩嵜 大学に限らず、日本の教育自体が個人の自立をあまり重んじてないような印象はありますね。逆にアメリカは「be independent」という表現もあるように、自立重視の文化です。自立を求められてこなかったのに、いきなり「自立的になれ」と言われても、日本の学生たちには厳しい気はしますね。

本條 中学・高校では「言うことを聞きなさい」と教わっていたのに、大学に入ると「自分で考えなさい」と言われ、社会人になったら「自分でプロジェクトを作りなさい」と求められる。大変すぎますよね(笑)。小学校から一気にその方向にフォーカスした方がいいのではないでしょうか。

荒井 ただ個人の成長という観点では、自立や自律が行き過ぎると、自分で想像した「なりたい姿」を超えるチャンスは減りますよね。日本企業の場合、総合職として入社してからさまざまな業務・職務を経験する。やりたくなかった営業の仕事を経験して、それが本人の気づかなかった良い面を引き出して、想像もしなかったポジションに至ることもあるわけです。最初から自立や自律が行き過ぎると、それはそれで問題が出てくる感じはありますね。

杉谷 こうした話は、最近の組織論や経営学ではかなり重要なテーマになっていると思います。ただ仮にわかっていても、社会に根づいた文化を変えることは簡単にはできないですよね。日本は「独立(自立)=independent」に対比して「相互依存=interdependent」の社会と言われるのですが、そういう社会でindependentな行動をすると不興を買ってしまう。現状の文化に合わせた方が、幸福感が高いという研究もあり、みんな心地良い方向に行きがちです。教育だけでこうした課題を克服していくというのは難しいかなと思います。「自律」についても、日本の教育現場では一生懸命取り組んでいるとは思うのですが、まだ大きな成果にはつながっていないような気がします。

テーマ3:BXを進めるとき、組織はどうあるべきか?

最後のテーマでは、組織の内部と外部を人材が出入りしたり、組織内部の人でありながら個人の存在や活動が外部からも認識されているような組織のあり方にはどんな可能性があるか、その場合のパーパスや組織文化はどのように醸成されていくのか、といった論点で活発なディスカッションがなされました。

本條 国民文化と組織文化の関係や、組織文化と組織形態の対応関係といった論点については、さまざまな先行研究があります。ただ、組織の内部と外部を人材が出入りしたり、組織内部の人でありながらその個人の存在や活動が外部からも認識されたりしている状態はイレギュラーで、これまでの組織研究では一般的に想定されていないように思います。最近はそのような組織のあり方や個人の働き方が実際に起こっていますし、それを許容する組織もおそらく増えています。このラウンドテーブルでBXを考える上では、こうした論点も含めて検討する必要があるように思います。

水越 従来は、外からは個人は見えず、“会社”しか見えていませんでした。今は社員が個人としてSNSで発信するようにもなって、会社の中にいる人もどんどん外から見えるようになってきています。

岩嵜 組織内で働いている人が、外に出て活動することで生産性が高まったり、実は自分が本当にやりたいことができたりする、というのはあると思います。ただ、ある企業の社員として安定した立場がある上で、サブ的に外部の活動をするとうまくいくけれど、完全に企業を離れて起業するとなると、そう簡単にはいかない……という面もあると思います。そのあたりはどうでしょう。

本條 その文脈で言えば、企業を離れる必要はないと思います。例えば、浜松のあるメーカーでは、製品の開発ストーリーなどを自社のウェブサイトで積極的に発信していて、そこでは開発者とブランド担当者が名前を出して対談していたりします。つまりそのメーカーは、個人の活動を外部に発信しているわけですが、彼ら自身は会社を辞める気は更々ないですし、いわゆる強い個人かというと、必ずしもそうではありません。
ただ個人の姿を公開することで、外部から見るとその企業がただの“箱”ではなく、あくまで人間の集団なのだと感じることができます。個人と組織の新しい関係性を考える上では、このあたりが出発点になるのではないでしょうか。

山野井 私も同意見で、個人が企業を離れる必要はないと思います。企業に所属しながら個人の存在を外部に発信していくことにより、境界を越えて個人・組織をつなぎイノベーションを導くような人材、いわゆる「バウンダリースパナー」が生まれていくのでしょう。企業としても、副業や複業などの形で複数の組織に所属する人材を抱えておくことで、異分野の知や情報を得ることができ、創造性やイノベーションの源泉になるのだと思います。

水越 私のゼミ生で、インターンシップをテーマに卒業論文を書いた学生がいました。インターンシップを経験した学生たちにインタビューしたり、口コミ情報を調べたりしてまとめていたのですが、発見だったのは、多くの学生たちが「企業の社員たちに会えること」を喜んでいることです。インターンシップが当たり前になって、今まで出会えなかった企業の“中の人”と直接対話できる機会が増えました。デジタル上に限らず、社員が個人として企業の外に出て、外部の人々と交流する機会が増えている。これは新しい組織像かなと思います。

山野井 そうして組織像が変わり、人材の多様性が高まっていく中で、パーパスがより強く求められていく可能性はありますね。個々人の価値観や国ごとの文化は違っても、それを超えた価値観=パーパスに共感して、その企業で働きたいと思えるようになるという。
米国企業がビジョンやパーパスを重視するのも、そもそもバックグランドの異なる社員がたくさんいるからで、日本の場合は、同じ日本人として共通の価値観を共有しているから、ビジョンやパーパスの重要性があまり認識されてこなかった。でもこれからは重要になる、という話かもしれないですね。

荒井 業界で共通の価値観というのもありますよね。以前私がいたコンサルティング会社は、もともと働き方が自立&自律型で、常に案件ごとにほぼ初対面のメンバーでチームが組まれていました。メンバーにもさまざまな国籍の方がいて。でも、コンサル業界共通の価値観のようなものがあって、「はじめまして」から5分後には当たり前のように仕事の議論ができていた。これが文化や価値観に当たるのかわかりませんが、そういう前提がないと、インスタント型組織はうまくいかないだろうなと思います。

水越 海外のビジネスパーソンたちが初対面でもすぐに議論が成立するのは、文化やパーパスだけでなく、教育レベルと言うか、前提となるマーケティングや戦略論などの知見が共有されている面も大きいと思います。良いかどうかは別にして、みんなMBAを出ていて、ポーターの「ファイブフォース分析」を当たり前のように知っていたり。日本はそういう土壌がないので、まずは前提の確認が必要で、なかなか議論が進まない。だとすると、何らかの教育によって基礎的な知識や業界の共通言語みたいなものを先に伝えることができれば、議論が円滑に進みやすいという面もあるかもしれません。

岩嵜 会社に入る前の教育だけでなく、会社の中での教育も重要かもしれませんね。今までは暗黙知で良かった領域も、これからは再教育が必要で、その教育が組織文化の形成に繋がっていくと。

山野井 ただ、インスタント型組織でそれができるのかが問題ですよね。組織が動的になって、人材が出たり入ったりするとなると、長く組織に残る人がいなくなる可能性すらあります。パーパスを知らない人も出てくる。「そもそも企業組織はなぜ存在するのか」にもかかわるところですが、そういう状態にはならないように、ある程度の期間、人が集まって価値観が共有されていくようなマネジメントは必要になるでしょうね。

杉谷 「BXを推進していく中で組織はどうあるべきか」というテーマに立ち戻って考えてみますと、会社の内と外がつながって、組織内の個人の存在も外部に発信されていく時代になっている。そうした企業や組織のあり方自体が社内外へのメッセージになっていて、それが組織ブランディングに寄与していく、ということかなと思いました。
また一方で、そうした柔軟な組織だからこそ、新しいやり方で新しいブランドや新しい製品を生み出していける可能性もあって、組織のあり方がBXに還元されていくという道筋もあると思います。いずれにしても、外から見たときに、その組織が魅力的に見えるかどうかは、考えるべき点かなと思います。

本條 組織を外部に公開する、そのためにはそれに相応しい組織に整えなおすという捉え方は非常にBX的ですね。どんな形であっても、自信をもって外部に見せられるぐらいのものだったら、いいブランドにつながる組織なのではないかという気がします。

これからの組織のリーダー像

岡田 そろそろフリップ発表のお時間ですが、その前に、山野井先生が最初におっしゃっていた答えが何だったのか、うかがってもいいですか。これからの組織で求められるリーダーとはどんな人材像なのか。インスタント型組織でどういうリーダーシップが生まれるのか、というお話でした。

山野井 答えの一つになりそうだと考えていたのが「シェアードリーダーシップ」です。誰か一人がずっとリーダーをやるのではなく、タスクに応じて最も能力の高い人がチームを引っ張っていく。あるタスクが出てきたときに、これは私の専門分野だと思えば、その人がみんなに仕事を割り振ってチームをリードしていく。それをチームメンバー全員で実践していくのがシェアードリーダーシップです。これが実践できているチームはパフォーマンスが高いという研究結果もあります。

水越 インスタント型組織にも大いに整合性がありますね。シェアードリーダーシップを実践しようとすれば、それぞれのメンバーがリーダーシップを発揮できる場面がたくさん必要になります。インスタント型組織では、インスタントなプロジェクトやタスクが次々と出てくるでしょうから、ちょうど対応する考え方になりそうです。

岡田 山野井先生、ありがとうございました。それができる環境を整えることが重要になっていきそうですね。

第3回BXラウンドテーブルまとめ「組織とは?」

岡田 本日の議論もいろいろなトピックに広がりましたが、まとめとして一言、「BXを推進する上で、組織とはどうあるべきか?」について、フリップにご記入をお願いします。
前回、前々回の議論も思い返していただきながら、あらためてBXと組織の関係性を言葉で表していただけますでしょうか。

山野井 【組織とはブランドのよりどころである】
今日、皆さんと議論する前は、実は「組織は要らなくなるのではないか」と考えていたのです。個人が完全に独立し、スポットでどんどん仕事していくようになれば、組織は求められなくなるのではないか。しかし一方で、パーパスのように共通の価値観のようなものは、組織でないと生まれないだろうとも思っていました。
ジョブ型雇用やフリーランスの働き方が普及しても、インスタント組織などの形で組織は存在し続ける。そこで我々はどんな価値観を大事にし、何を目指すのか。これからの組織は、そうしたパーパスを醸成する場として、またBXにおいて重要な“ブランド”を醸成する場として機能していくのではないかと考えた次第です。

岩嵜 【組織とは企業文化のデザインである】
今日の議論では、特に企業の文化や組織の文化をどう作っていけるか、動的な時代に、組織を組織として、人の集まりを人の集まりとしてどう形成しうるか、柔軟性と定着性をどう両立させるのか、といった部分が重要だと感じました。
BXを推進する上では、組織を「文化のデザイン」と置き換えることができるように思いました。パーパスを組織文化に定着させることができれば、仮にインスタント型組織になったとしても、人が集まったり離れたりを繰り返す中で、組織で得た知見や経験が文化として外部に発信されていく。それが広く伝播すると、その文化に引き寄せられて、また人が集まってくる。これからの組織とはそんな構造になっていくのではないかと考えて、こういう表現にしてみました。

水越 【組織とは同じ目的を共有した活動するあつまり(活動体)である】
組織の基本的な定義をそのまま書いたような文言ではありますが、「同じ目的」という部分にパーパスやブランドの意味合いを含めたいと考えました。
正直、書きにくかったのですけど(笑)、なぜ書きにくいのかといえば、これからの組織は、もはや「組織」と呼べるのか?と感じたからだと思います。もちろん形式的には組織なのですが、社員だけでなく顧客も入ってくるかもしれないとなると、「組織」とは呼ばない「新しい何か」なのかもしれません。いずれにせよ、ブランドやパーパスを中心にした集まりが、これからの新しい形の組織として機能していくのだと思いました。

本條 【組織とは公開されても構わない美しさを持つものである】
公開と書きましたが、必ずしも公開しなくてもいいと思っています。企業には外部に簡単には公開できないものがたくさんありますし、組織構造を公開すること自体が経営にマイナスになる場合もあるでしょう。しかし、仮に公開されてもダメージにならないような美しさを持っていることが、組織にとって大事なのではないかと考えました。前回のパーパスの時に話した加護野忠男先生につづく「現代にこそ役立つ大御所先生シリーズ」として、榊原清則先生の『美しい企業 醜い企業』と嶋口充輝先生の『ビューティフル・カンパニー』のことも意識して書きました。
また、従業員個人が発信したいと考えたとき、何らかの形でそれを応援したり、リスクを負ってくれたりというような、そんな安心感まで含めて、組織には美しさが求められるのではないかと思っています。私のいう美しさには安心感が入っているので、潔く滅びることを良しとする美学という意味はないです(笑)。

杉谷 【組織とはパーパスに合わせて柔軟に変化するべきもの】
今の日本企業では、「パーパスは未来志向だけど、会社組織は昭和型」……みたいなことが現実には起きてしまっているので、その意味で、組織にとって変化が大事であることは間違いないと思いました。さらに、それがパーパスに合わせた変化であれば、まさにBX実現に繋がるのではないかと考えました。

荒井 いろいろと勉強になりました。普段の実務の中では、組織と文化が密接に関係するといったことはあまり考えたことがなかったのですが、そこに気づけたこと自体が、私の中では発見でした。岩嵜先生がおっしゃったように、組織が柔軟で動的になったとしても、組織の文化が外部にどんどん伝播して循環していくようなモデルを作れたら、結果的にその企業のブランドの向上になっていくはずです。その辺りをもっと考えていきたいと感じました。ありがとうございました。

次回(第4回 BXラウンドテーブル)のテーマは「コミュニケーション」を予定しています。

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