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BXラウンドテーブル【第2回 パーパス・前編】
パーパスと生活者価値から考える「これからのよいブランド」

2022.03.03
#BX#ブランド・トランスフォーメーション
ブランド発想で実現する事業変革「BX=ブランド・トランスフォーメーション」。この概念の明確化を目指す研究者と実務家の連続ディスカッション「BXラウンドテーブル」がスタートしています。新進気鋭の研究者たちと博報堂社員が繰り広げる議論の過程を記事でお届けします。
1月に開催された第2回ラウンドテーブルは、「パーパス」が議論のテーマになりました。(→連載 BXラウンドテーブル

BXラウンドテーブル参加者(五十音順)
岩嵜博論 武蔵野美術大学 造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科 教授
杉谷陽子 上智大学 経済学部経営学科 教授
本條晴一郎 静岡大学 学術院工学領域 事業開発マネジメント系列 准教授
水越康介 東京都立大学 経済経営学部 経済経営学科 教授
山野井順一 早稲田大学 商学学術院 商学部 准教授
竹内慶 博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理
*司会:岡田庄生 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局部長
会場 UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)

前回の振り返り

第2回ラウンドテーブルのプレゼンターと参加者がテーブルに着きました。はじめに司会の岡田が、前回のディスカッションのポイントを振り返りました。
司会の岡田庄生(博報堂ブランド・イノベーションデザイン局)

岡田(博報堂) 前回はラウンドテーブルの第1回として、「そもそもBXとは何か」という議論からスタートしました。我々も実務の場面では、“社会や生活者を起点としたブランド発想による事業変革”と説明したりしていますが、まだ固まりきっている概念ではありません。皆さんの幅広い領域の知見と実務の知見を掛け合わせながら、この輪郭を徐々にはっきりさせていければと思っています。
前回の内容を少し振り返りますと、まずブランドと経営の関係性についての議論からスタートしました。BXは、従来のブランディングのようにブランドのイメージをどう作るかではなく、「その事業がどこを目指すのか」といった根本から考えていくことであるという指摘や、それを顧客視点やヒューマニティの視点でつくっていくという意見がありました。ほかにも従来のブランディングとの違いとして、ステークホルダー間の境界線が曖昧になっていることや、ファンコミュニティの囲い込みの強度についての興味深い議論もありました。
後半ではBXとテクノロジー、特にDXとの関係についての議論が広がり、「BXはDXの上位概念なのではないか」など、重要な意見が飛び交う貴重なディスカッションだったと思います。
今日は、近年注目が高まっており、BXにとっても重要な要素である「パーパス」をテーマに、さまざまなご意見を伺えたらと思います。まず博報堂の竹内さんから、議論の前提となるプレゼンテーションをお願いします。

【プレゼンテーション】ブランドが変容を遂げる中で重要性を増す「パーパス」

続いて、パーパスの概念と、パーパスやブランドの考察にあたって注目すべき重要な変化について、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の竹内慶がプレゼンテーションを行いました。

竹内(博報堂) 博報堂のブランド・イノベーションデザイン(BID)局という部門に所属し、15年以上にわたって企業のブランド開発やイノベーション支援の仕事に携わってきました。かつてはイメージを競っていたブランドの概念がだんだんと変化し、すべての企業活動の起点のようになり、今では「社会にとっての共創物」のような概念にまで広がってきています。松下幸之助氏の「企業は社会の公器である」との言葉が、まさにブランド論のど真ん中になってきた、そんな感覚です。そうした中で、今日のメインテーマである「パーパス」が、ブランドにおいて非常に重要な要素になっていると認識しています。

竹内慶(博報堂ブランド・イノベーションデザイン局)

そもそも「パーパス」とは何か、どう捉えればいいのか。これも一つの論点になると思いますが、我々BIDではクライアント企業の方と議論するときに、「パーパスとは、『どんな未来の社会をつくり出したいか』『その社会の中で自社がどんな役割を果たすのか』という2つの問いをセットで考えることです」とお話ししています。

これまで企業は、「ミッション」や「ビジョン」というかたちでブランドらしさを語ってきました。それらは「未来に向けてこうありたい」と宣言する企業の自己表現であり、その主語は企業自身──「I」だったと思います。しかし最近では、自己表現という範囲を遙かに超えて、どんな社会にしていきたいか、社会生活にどんなインパクトを与えることができるのか、どんな価値を提供できるのかを示すことまでが企業に求められています。それが「パーパス」であり、企業側からの一方的な宣言ではなく、あくまで生活者と一緒に作っていくものとして、主語は「We」になっている。そこが従来のミッションやビジョンとは異なる点だと考えています。

パーパスはブランド・トランスフォーメーションにおいても重要な要素です。組織や人材をどう変えていくか、ビジネスプロセスをどう変革するか、商品やコミュニケーションをどう作っていくかといったBX全体の入り口、すべての起点となるものがパーパスである、我々はそう捉えています。

生活者やブランド概念の変化から考える、これからの「よいブランド」

竹内
これからのパーパスや、パーパスを起点にしたよいブランドというものを考えていく上で、我々が注目している“大きな変化”がいくつかあります。

まず、生活者にとっての「時間」の価値が、これからますます高まります。デジタル化は、いわば生活者と企業やブランドが常時接続している状態をもたらしました。これは、無数のモノやコトが「私たちも仲間に入れてください」と、生活者の有限の時間に入り込んでくるということです。裏を返せば、これからのよいブランドとは、人生の有限な時間を共に過ごしてもいいと生活者に思われるようなブランドになってくるのではないかと考えられます。
その結果、ブランドパーソナリティのような言葉で表現されてきたレベルをはるかに超えて、あたかも一人の人間として信頼できるか、企業の「人格」が厳しく問われるようになっていくとみています。

また、企業と生活者の「交換の概念」の拡張が起こりつつあります。これまで、企業は商品・サービスの品質を保証し、生活者がその対価としてお金を払うという関係でしたが、今は生活者がそのブランドに投じた時間が、どれだけ豊かな時間になって返ってくるかが求められています。「お金とモノの交換」「お金と品質の交換」に、「時間と時間の交換」という新たな概念が加わってきたという印象です。

さらに企業と生活者は、企業が送り手、生活者は受け手という固定的な関係性から、流動的で対称性のある関係性に変化しようとしています。作り手と使い手、主客の役割が入れ替え可能になり、客が主になって、さらなる客を呼び込んでくるような環境をつくれるブランドが、強いブランドになるのではないかと考えています。
そうなると、もはやブランドは特定の企業を指すものではなくなり、企業や生活者をはじめとする多様な関係者が共にいる「場そのもの」がブランドになっていきます。ブランドへの関わり方も多様化し、ブランドのコミュニティもオープンで出入り自由で、多様な参加が可能なものへと変わっていくはずです。

そうした変化の先に構想できる「よいブランド」とは何でしょうか。これまでは、「これが幸福のあり方です」というメッセージを、主に企業側から一方的に発信してきました。これからは「幸福ってなんだろう?」という問いを、生活者側が主体的に考える機会を提供できるのが、よいブランドになるのではないかと思うのです。
“自己実現欲求”など、マズローの欲求5段階説のいわゆる高次欲求も、「安心できる」とか「気持ちが安らぐ」といった心理的安全性につながるような欲求も、生活者にとってはどちらも等しく大切です。強く憧れるハイブランドも、一緒にいて安心できる共感型のブランドも、どちらも貴重なものです。ハレもケも分け隔てることなく、ブランドに参加してくれる生活者にとって大切なものを等しく扱えるのが、「これからのよいブランド」になるのではないかと考えています。

以上のような問題意識を踏まえて、パーパスを起点に考えると、ブランドの概念はどう変化していくのか、これからの社会に必要とされる「よいブランド」とはどんなものなのか、みなさんとディスカッションできたらと思っています。よろしくお願いします。

ディスカッションに向けて ~研究者の皆さんから~

BXラウンドテーブルに参加いただく研究者の皆さんに、プレゼンテーションに対する感想や、ラウンドテーブルで議論したいポイントについて伺いました。

岡田 竹内さんのプレゼンへの感想や、パーパスについての意見・論点などをお一人ずつうかがっていきます。では、水越先生から時計まわりでお願いできますか。

水越 「パーパス」というキーワードは、ここ数年で急に注目度が高まってきた印象です。以前から気になっているのが、かつてのコーポレートアイデンティティやブランドアイデンティティとどう違うのかということです。「会社は何のためにあるのか」という問いは繰り返し起こっていて、80年代のコーポレートアイデンティティや、90年代のブランドアイデンティティと同じことが、現在ではパーパスと呼ばれているだけなのか。それとも明確な違いがあるのか。もし違いがあるとすれば、そこには前回議論した「ヒューマニティ」や「デジタル化」の論点なども含まれてきて、2020年代の「企業はなぜ存在するのか論」になるのだろうなと感じたところでした。
最近、自分の周囲の研究を見ていても、「幸福の研究」のようなテーマが消費者行動分析などに入り込んできていて、それも興味深いと思っています。企業行動や生活者の購買行動が幸福とどう結びついているのか、そうしたことを考えるべき時代になってきたことが、パーパス論の背景にあるのかもと考えています。

水越康介氏(東京都立大学)

本條 竹内さんのお話を聞いて、考えたことが3つあります。
1つはパーパスとビジョンとの違いです。私の印象ですが、「ビジョンとは未来のことなので頑張らないと実現できないけれど、パーパスは設定した瞬間に実現できるもの」と言えるような気がしています。例えば、私自身が「立派な研究者になる」と掲げたとするとこれはビジョンで、達成のために10年スパンで取り組むことになる。でも「私は愛の人になる」と掲げたとするとこれはパーパスであり、今この瞬間からなることができます。そういった違いがあるのではないかと考えました。
2つめは、パーパスは「プラスを作ること」にフォーカスしているのではないかということです。「意味のイノベーション(Innovation of Meaning)」を提唱しているロベルト・ベルガンティ教授が、「ニーズ(Needs)はネガティブな問題の解決を目指すものであり、ミーニングス(Meanings)はポジティブな方向に開いたものである」と説明しています。マーケティング研究の観点からは異論があるのですが、たしかに日常語としてのニーズという言葉は、ネガティブな側面を解決するという意味合いで認識されやすい。その一方で、ミーニングスにはポジティブなニュアンスがあって、ミーニングスに基盤を置いたパーパスは、プラスを作ることにフォーカスしやすい概念ではないかと考えました。
3つめは、最近のパーパス論は米国の株主中心主義へのアンチテーゼとして登場した側面があるので、日本の我々がそのまま受け取っていいのだろうか?という疑問ですね。むしろ今までの日本企業の良さからアプローチした方が、企業のパーパスや存在意義を考えやすい部分があるのではないかと感じました。神戸大学名誉教授の加護野忠男先生らが書かれた『コーポレート・ガバナンスの経営学』では、企業を投資家の手段として捉える米国的な企業用具説と、企業を共同体として捉える企業制度説が区別されているのですが、そうした対比を念頭においてパーパスの位置付けを考えると良さそうです。

本條晴一郎氏(静岡大学)

山野井 水越先生や本條先生のお話とも重なりますが、パーパスはミッションやビジョンとどう違うのかという問題について、明快に答えられる軸があるといいと感じました。ミッション・ビジョンが「I」で語られ、パーパスは「We」で語られるというお話でしたが、果たして本当にそうなのか。Weで語られたミッション・ビジョンもないとは言い切れないので、もし本当にビジョンとパーパスが明確に異なる概念であるならば、もう少しクリアに説明できた方がいいかなと。
もう一つ、ブランドが場となり、生活者が主体的に幸福を考える時代というのは素晴らしいですが、生活者が大変そうだなぁ(笑)、と感じました。あるブランド品を受動的に買うだけで、我々は一種の安心感を得られます。主体的に考えて何かを決めるという状態は、結構ストレスがかかりますよね。目的意識があって主体性の強い個人であればよいですが、そうではない個人──主体的に考えられない、考えたくないという人も多いと思うのですね。果たしてどこまで個人や企業がそういう形に対応できるのか、実現可能性という点がやや気になりました。

山野井順一氏(早稲田大学)

杉谷 この2年、コロナ禍で人間社会の活動のほぼすべてがストップした中で、私は改めて経済や企業活動が果たす役割の大きさが浮き彫りになったという印象を持っています。企業が人間の幸福にどう貢献できるか、人々が豊かな時間を過ごしていくために何を提案できるかという視点は、今すごく重要になっていると思います。竹内さんのお話を伺って、企業やブランドが生活者に「いきいきと主体性を発揮できる場」を与えてくれるような世界、まさにこれが実現できたら素晴らしい人間社会の未来が見えてくるなと思いました。
ただ、具体的に「何をすべきか」というレベルに落とし込むには、もっと明確なメッセージが必要だなとも感じました。ハレもケも、高次も低次の欲求も全部となると、ブランディングとは何を目指すどんな活動なのか、焦点がぼやけてしまうようにも思います。
山野井先生のご指摘とも重なりますが、調査をしてみると、若い人ほど「自分らしさ」とはどんなものなのかわかっていないんですよね。自分らしさを表現できるブランドもいいのですが、まだ自分探しをしている世代の人には「ブランドから与えられる自己」も重要なんです。むしろ押し付けがましいぐらい主張の強いブランドの方が、新しい自分を表現できると感じる人もいるかもしれない。そういう視点で見たとき、今回のパーパス起点のブランド論がどう展開できるか。これも、議論の大きなテーマになるかなと思いました。

杉谷陽子氏(上智大学)

岩嵜 私は2021年にパーパスをテーマとした本を出したのですが、執筆する際に感じていたのは、パーパスという概念は「ブランド」よりも一般的に語られているということです。ブランドはマーケティング領域の人々が主に語っている言葉ですが、パーパスはもう少し一般用語的に語られている印象です。
もう一つの特徴としては、パーパスは非常にシンプルに定義されていること。ブランドの場合、ブランドストラクチャーやブランドピラミッドなどがかなり緻密に規定されていますが、最近のパーパスについてはそういうものはないんですよね。
一方で、「戦略」と密接に結びついているのもパーパスの特徴だと思います。自動車の大手グローバルメーカーはパーパスを掲げている例が多く、しかもパーパスのステートメントのすぐ下に戦略が置かれていたりする。企業の中ではマーケティングよりコーポレートストラテジーに寄っている印象です。
最後に、これは問いかけですが、杉谷先生もおっしゃったように、主体と客体が融合し、変化を許容して流動的になると、そもそも企業やブランドの姿を誰がどう作っていくのか?という問題も出てくると思います。そこはぜひ議論してみたいと思いました。

岩嵜博論氏(武蔵野美術大学)

岡田 皆さん、ありがとうございました。いま挙がったご意見を踏まえながら、第2回ラウンドテーブルの全体ディスカッションに移りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

→→第2回ラウンドテーブル「パーパス」全体ディスカッション記事へ

連載「BXラウンドテーブル」アーカイブ
【第2回 パーパス】
■前編:パーパスと生活者価値から考える「これからのよいブランド」 ※本記事
後編:全体ディスカッション「なぜ今、パーパスが重視されるのか?」
【第1回 経営とブランド】
前編:研究と実務の融合から生み出す「新しいブランド論」(巻頭言)
後編:全体ディスカッション「なぜ今、経営にブランドが必要なのか?」

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