THE CENTRAL DOT

クリエイティブリーダーシップで未来の生活をアップデートする。新規事業開発組織「ミライの事業室」発足

2019.07.11
#イノベーション#ミライの事業室
2019年4月、博報堂は「事業創造への挑戦」という大きな旗を掲げます。その推進役として、「ミライの事業室」を発足しました。この動きの背景には、デジタル化の進展による社会の変革、博報堂を取り巻く企業や業界のビジネスの変化、博報堂に求められる役割の変化などがありました。博報堂ならではの生活者発想や、クライアントワークで培ってきたイノベーション創出のノウハウを強みに、全社から集ったメンバーが動き出しています。室長を務める吉澤到に、この取り組みで目指すことを聞きました。

博報堂自身が、事業オーナーになる

――今年4月、博報堂内にまったく新しい組織として「ミライの事業室」が設立されました。室長を務める吉澤さんは、以前から事業開発の業務をされていたんですか?

この2年ほどは、博報堂ブランド・イノベーションデザインという組織に属して、クライアント企業に対してコンサルタントという立場で事業開発支援やイノベーションの支援をしてきました。私は新卒以来ずっと博報堂で、入社直後の数年を除いて20年近くクリエイティブの業務に携わっていましたが、2016~2017年に英国にあるロンドン・ビジネス・スクールで、イノベーションやアントレプレナーシップを中心に学んだことをきっかけに、クリエイティブディレクターでありながら事業コンサルティングに近い仕事をするようになりました。

――これまでの事業開発支援の業務と、今回の「ミライの事業室」でおこなっていくこととは違うのでしょうか?

博報堂としては今後もこれまでご提供してきたクライアント企業の事業開発支援は続けていきますが、「ミライの事業室」で志向していくのは「自分たちが事業オーナーになる」ことなんです。私の業務としては支援ではなく、主体的に事業開発をしていく立場に変わったと認識しています。

――「ミライの事業室」が発足した背景をうかがえますか?

発足の背景には、まず大きな社会の変化があります。IoTが縦横無尽に広がって生活全体のデジタル化が進む現在、リアルとデジタルの境目はなくなり、業種や産業の垣根が融解しつつあります。例えばプラットフォーマーが金融業を始めたり、逆に金融業がデータビジネスに参入する例が出てきていたり、メーカーがメディアを運営するような越境がいつ起きてもおかしくない時代です。
このような世の中の動きに対して、企業には業界を超えていくことも躊躇しない柔軟な発想と実行力が求められていると思います。同様に、こうした変化に直面している企業のみなさまをクライアントとする我々広告会社も、率先してトランスフォームし、新しい価値を提供していくことが必要になってきていると感じていました。
そして新規事業開発の潮流に目を向けてみると、自社だけでイノベーティブなプロダクトやサービスを生み出すのではなく、色々な企業と協力してやっていこうという動きが活発化しており、博報堂にも、コンサルや支援ではなく「パートナーとして組めないか」というご要望がこの1、2年で急激に高まってきていました。

対等な立場でのパートナーに

――「パートナーとして」とは、具体的にどういうことでしょうか?

これまでのような受発注関係ではなく、我々もリスクテイクをし、事業オーナーとして対等な立場で取り組んでいくということです。相手からはそれくらいの強いコミットメント、本気度が求められています。よりよい社会を目指して志を同じくする者同士が1つのチームとなって、業界を超えてつながっていくことを理想としています。

――現在は、どのような体制になっているのですか?

「ミライの事業室」は博報堂内の組織で、現在は一部の兼任者を含めて30人ほど属しています。メンバーの出自はコンサルタント、マーケター、クリエイター、ビジネスプロデューサーなど多様で、私のようにイノベーションの実務経験のある人間も多数参加しています。
実は博報堂にはアントレプレナーシップ、企業家精神が旺盛な人も多く、自主事業開発や社内ベンチャーの経験者も「ミライの事業室」に集結しています。たとえばmonomというクリエイティブチームを率いるメンバーは、以前から自主事業としてプロダクト開発をしており、実際に商品化・販売まで展開しています。
また、生活者分析をもとにイノベーションを支援するSEEDATAと、スタートアップスタジオとして新規事業創造を行うquantumという2つのグループ会社とも、日々連携して事業開発を進めています。

ミライの事業室のVI。右肩の青いリングはFuture Dotと呼ばれ、北極星を表している。

ビジョンとシーズの両方向から発想

――ミッションに掲げていることと、そのための具体的な業務をうかがえますか?

ミッションは、博報堂の新規事業をつくることです。しかしそれは、我々だけの力だけで成し遂げられることではないと思っています。我々が強みとしているクリエイティビティや多様な専門性を提供し、我々にはない技術など有形のアセットを持った方々とチームを組んで、お互いのミッシングピースを補い合いながら新規事業を生み出していくことを目指しています。お付き合いのあるクライアント企業のネットワークはもちろん、スタートアップ、プラットフォーマーや、行政や大学などもパートナーとなりうると思っています。こうして業種や立場の垣根を越えて、イノベーティブなサービス・プロダクトや事業を開発することを、「チーム企業型事業創造」と名付けています。
具体的には「ビジョンドリブン型」「みんなの事業」という2つのアプローチで事業創造に取り組みます。
「ビジョンドリブン型」は、博報堂が事業オーナーになって進めていく方法です。まず我々が自主的に社会のなかでイノベーションの機会がありそうな領域を模索し、ビジョンを策定します。それから、その実現に必要なパートナーを集めていくという方法です。
一方で、日々クライアントと向き合っているスタッフに寄せられる情報や相談事にも、大きな事業の“芽”になるものが沢山あります。「みんなの事業」は、そのような“芽”に対して、博報堂はどのように関わっていけるか、こんな企業と新たにつなげば実際の事業になっていくのではないか、などを提案していくという事業創造の方法です。

――ビジョンありきと、シーズありきの両方ということですね。

そうです。実際にクライアント企業から相談いただく内容も、自社が持っている技術をどのように社会実装できるか、どんなサービスとして育てられるかなど、今までになかった相談が増えていて、我々の対応スピードもますます加速させねばと思っています。これまでの博報堂の体制ではそうした動きに柔軟に対応することは若干難しかったのですが、今後は「ミライの事業室」が担っていきます。

「クリエイティブリーダーシップ」を発揮して

――事業開発における博報堂の強みとは、どのような点ですか?

今回の組織化にあたり、そもそも博報堂の強みとは何なのか、他の広告会社ではなく博報堂だからできる理由を棚卸して考えたんですね。結果、それは「クリエイティブリーダーシップ」という言葉で表せるのではないかと思うんです。

――「クリエイティブリーダーシップ」とは、どういうことでしょうか?

分解すると、その要素は3つあると捉えています。ひとつは、ビジョニングの力。こういう事業をつくりたいとか、生活者にとってのこんな価値をつくりたいという、まだない状態でイメージを構築する力です。社会の変化の中に機会を見つける経験を重ねてきています。
2つ目は、さまざまなステークホルダーを束ねて、チームとしてプロジェクトを推進するチーミングの力です。そして3つ目が、どう着地するのかわからない中でもとにかく形にしていく、実現力です。
この数年は、博報堂のそういった力に期待していただき、新規事業のプロジェクトマネジメントを任せていただくような事業開発の事例がかなり増えており、昨年末に1冊の本にまとめられるくらい(『イノベーションデザイン 博報堂流、未来の事業のつくり方』日経BP)、社内のあちこちでさまざまなケースが出てきていたんです。それらの段階ではまだ、従来の受発注やコンサル契約といった形態ではありましたが、いずれにおいてもクライアント企業と一緒に暗中模索しながら新しい価値の創造まで漕ぎ着けていました。実際にクライアント企業にも多く取材をしましたが、パートナーとしての博報堂が少なからず貢献できたと実感できるコメントを、いくつも聞くことができたんです。

――事業開発のシーンで、博報堂の強みを活かせた実感ですね。

企業の中にアセットがあると、そこから発想が離れられないことも多いですし、どうしても業界内に視野が限られがちです。そうした折に、我々のようなフラットな視点でのビジョニングやチーミング、実現力が役に立つことが往々にしてありました。
また、当然ではありますが、形になればなんでもいいというわけではないですよね。我々が考えるイノベーションとは、単に新規性があって斬新なサービスや事業ではありません。人々の生活に浸透し、生活がよりよく変わって初めてそれはイノベーションといえますし、それを現在どの企業も志向しているのではないでしょうか。「すごいね」といわれるだけで、誰も使わず喜ばれないものは、意味がありません。イノベーションを起こすことは、我々にとっては“未来の生活をつくる”ことと同義です。
生活の質を上げていく事業・サービスを生み出していくために、我々は、業種業界に縛られず、全産業を再編集するような気概で考えていきたいと思っています。

――たしかに、人々に受け入れられ、次第に当たり前のようになっていくのがイノベーションといえるのかもしれません。

生活自体がアップデートするような、誰もがそれを自然に享受するような。そして、気づいたら生活が変わっていたね、というのが博報堂が目指すイノベーションであり、ミライの事業室が志向する共同事業です。なのでこうして解説していくと、ミライの事業室で進めていく活動の根底には、博報堂が長年ずっと大切にしてきた「生活者発想」があるんです。
クライアントから課題を与えられたとき、これまでも我々は「いったん生活者の目線に立ち戻って考え、課題を捉えなおす」ことをしてきました。このリフレーミングは、博報堂の人間なら皆がそのマインドをもっている、くせのようなものですね。
ただ、リフレーミングをしたとしても、これまでのクライアントとの関係性では、やはり“世の中最適”よりも“クライアント最適”が優先される場面もあります。そういうとき、我々が志向している「チーム企業型」のスタイルで取り組むことができれば、皆が対等な立場で、社会にとって生活者にとってあるべき事業を“世の中最適”で考えられます。クライアント側にもそういう志向の方が増えているから、我々に「パートナーになってほしい」と言っていただけるのだろうと思っています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

生活者発想と同時に、博報堂には自分の興味関心をエンジンにして動いていく“興味駆動”とも言える自由なカルチャーも根付いています。前述のように、広告会社ながら企業家精神が旺盛な人が意外と多いのは、そうした社風もあるのかもしれません。今はまだ動き始めたばかりの組織ですが、私自身も博報堂の個々のメンバーが持つ力、個人的には特にチームづくりの力を信頼しているので、事業創造のプロを社内に増やし、次々と新規事業を芽吹かせられるように、社内外一緒になって奔走したいと思っています。

ミライの事業室 WEBサイト
http://mirai-biz.jp/

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事