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博報堂がなぜ新規事業に取り組むのか 「ミライの事業室」が挑む生活者視点のイノベーション

2019.12.04
#イノベーション#ミライの事業室#生活者発想
博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」が、今年4月に始動した。博報堂が持つ企業やメディアのネットワークを駆使して産業や分野の枠を越えたチームをつくり、博報堂が事業オーナーとなる新規事業を創出する組織だ。「ミライの事業室」室長の吉澤到氏に、同組織が掲げるビジョンや、いち早く注力する領域について、話を聞いた。
(※この記事はAdverTimesに掲載されたものです。)
博報堂 ミライの事業室 室長 吉澤 到氏

産業の垣根を越えたチームで、新規事業を創出

今年4月、博報堂が新規事業の開発組織「ミライの事業室」を設立した。組織のミッションは、博報堂自身が事業オーナーとなって新規事業を創出することだ。これまでクライアント企業の事業開発支援やイノベーション支援を手掛ける立場であった同社だが、事業オーナーとして事業開発する試みは初めてだ。

5GやIoTなどのテクノロジーの進展によって、社会のあらゆるものがデジタル化され、ネットワークにつながっていく世界が実現しつつある。生活者の周りに様々なインターフェースが生まれ、それを用いた新たなサービスや価値が生まれていく未来を、博報堂は「生活者インターフェース市場」と呼び、大きなチャンスがあると見ている。「ミライの事業室」のミッションは、その新たに出現する市場で世の中にまだない事業を創造することだと室長の吉澤到氏は語る。

「生活者インターフェース市場の出現によって、産業の垣根が溶けていきます。あらゆるモノがネットワークにつながることで、生活者を中心にしたバリューチェーンの再構築が進んでいく。ビジネスの創造にもこれまで以上にクリエイティビティが必要になります」(吉澤氏)。

「ミライの事業室」の特徴は、「チーム企業型事業創造」と呼ぶ独自のアプローチ方法で新規事業を創出する点にある。産業やビジネスの変化を大きく上回るスピードで生活者側のライフスタイルや価値観、消費行動の変化が進む昨今、「生活者発想」を強みにする博報堂が、今後あるべき社会の姿や未来の生活をビジョンとして打ち出し、そのビジョンのもとに集まった企業や様々なパートナーと業種や分野の枠を超えた“チーム”を組み、一企業ではなし得ない大きな事業の創造を目指していくという考えだ。

「博報堂には、企業やメディアなどの幅広いネットワークがあります。我々はその企業同士を、産業や分野を超えてつなげることもできます。企業やメディアに限らずスタートアップ企業や行政、大学などとも一緒にチームを組んで、我々の生活者発想やクリエイティビティ、色々な産業の知識などを掛け算していくことで、新たな社会変革や生活の質の向上ができるのではないかと考えています」(吉澤氏)。

さらに事業の創出を加速すべく、今年10月にはアドライト、インターウォーズ、プロトスター、ミーミルの各社との業務提携を発表した。事業開発の支援経験、スタートアップや多様な領域の専門家のネットワークなど、4社それぞれが企業のインキュベーション支援での強みを持つ。

「事業開発では、未知の領域に入っていくこともあります。そういう時は外部の知見を積極的に活用して、スピーディーに事業化を進めていきたいと考えています」(吉澤氏)。

「ミライの事業室」がチャンスを見出す領域

「ミライの事業室」は現在複数の領域で事業機会を探索している。例えばコマース、スマートシティ、エンターテインメントなどの領域だ。これらの領域においては、特に生活者と産業の変革スピードに大きなギャップがあるため、新規事業の創出に大きなチャンスがあると考えている。

コマース領域では、近年のD2Cブランドの成長に見られるように、生活者は「他では買えない商品」や「つくり手とのつながり、ストーリー」などを求めはじめている。一方で大企業は、工場の生産ラインや流通各社との関係といった既存のアセットやネットワーク上の制約で、変わりゆく生活者のニーズに応えられないジレンマがある。

吉澤 到氏

「そこで、そういった制約がなく身軽な我々が企業の先鋒となってどんどん実験をすることで、今の生活者が求めている新しいコマースを実現していくことができるのではと考えています」と吉澤氏。加えて、「ミライの事業室」には博報堂の社内ベンチャー制度でハンドメイド製品のマーケットプレイスを起業したメンバーも在籍しているため、すでにコマース領域の事業ノウハウを持っていることも後押しになっているという。

スマートシティ領域では、「行政が主導しているため、どうしても政策先行や技術先行になってしまっている部分がある」と吉澤氏は指摘。博報堂が培ってきた生活者発想をベースに、本当に市民にとって住みやすい街や、市民の生活の質を高めるサービスに向けた議論がされているのかといった問題意識を持って取り組んでいく。

「もう一度、市民の視点でスマートな街とはどういったものなのかを捉え直し、テクノロジーも活用しながら都市の在り方を模索したいと考えています。そのための体制づくりはすでに進んでおり、公共と民間の連携に取り組んでいる外部有識者など、さまざまな領域の専門家にパートナーとして入ってもらっています。スマートシティ構想がまたがる領域は非常に広いので、いろいろな企業とパートナーシップを組みながらも、企業や市民の論理だけでなく、行政の論理も理解した上で進めていく予定です」(吉澤氏)。

エンターテインメント領域は、生活者のテレビ視聴機会が減った一方で、インターネットで動画や音楽を視聴する機会が増えるなど、ユーザーのライフスタイルが大きく変化している。台湾や中国では、エンターテインメントとコマースが複合した、新たなサービスが活況を呈している一方で、日本のメディア、エンターテインメント産業は権利の問題などが複雑に絡み合っているためにデジタルトランスフォーメーションやグローバル化が進まず、海外の国々に後れを取っているという。

「我々はもともとメディアやコンテンツホルダーに近いため、メディア側の特殊な事情も理解していますし、生活者のことも分かっている。そういう立ち位置だからこそできるアプローチがあると考えています」(吉澤氏)。

生活者にとっての最適解を、一緒に考えていきたい

ビジョンのもとに仲間を集めるアプローチのほかに、「みんなの事業」というボトムアップ型の事業開発アプローチも採っている。これは、普段のクライアントとのやり取りやクライアントのシーズから発想した事業案を全社から募り、その事業を「ミライの事業室」が支援するというものだ。現時点でのエントリーは50件弱。すでに実証実験に進んでいる事業もあるという。

「新規事業はやってみなければ分からない部分も大いにあるので、まずはたくさんトライアルすることが重要です。できるだけ全社員に事業案を考えてもらえるような仕組みを模索しているところです」(吉澤氏)。

現時点ではいずれのアプローチにおいても、ともに事業開発に取り組むパートナーはクライアントが多いというが、吉澤氏は「すばらしいテクノロジーを持っているスタートアップ企業や、ビジョンをもった企業経営者の方、自治体の長などに、ぜひ声を掛けていただきたい」と話す。

「新規事業開発において、多くの企業は『今あるアセットをどう活用するか』『どうすればすぐにマネタイズできるか』という話になりがちですが、それは企業の論理です。そうではなく、解決しなければならない様々な社会課題に向き合ったときに、生活者にとって最も良い解を考えるということに共感してくださる方々と仲間になって、一緒にイノベーションを生み出していきたいと考えています」(吉澤氏)。

「ミライの事業室」メンバー。多様な領域のスペシャリストが集結している。
博報堂 ミライの事業室 http://mirai-biz.jp/

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