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なぜ博報堂が「事業共創」に踏み込むのか?

2021.10.07
いま、さまざまなパートナーとの「事業共創」を進めている博報堂。その動きを牽引するのが、新規事業開発の専門組織「ミライの事業室」です。なぜいま事業共創なのか?博報堂が発揮できる強みとは?事業共創をめぐる環境変化や今後の方向性について、ミライの事業室長の吉澤到と、同事業室の「みんなの事業」チームリーダーである宮井弘之が語り合いました。

吉澤 到 博報堂ミライの事業室 室長/クリエイティブディレクター
宮井弘之 博報堂ミライの事業室 みんなの事業チームリーダー

「チーム企業型事業創造」の現在地

宮井
吉澤さんが「ミライの事業室」を立ち上げて、早2年強ですね。私も今期からチームリーダーとして参画していますが、まずはミライの事業室のこれまでの振り返りと、現状の動きについて教えていただけますか。

吉澤
2019年、博報堂初の新規事業専門組織として動き出すにあたり、自分たちが提供できる価値は何だろうと博報堂の強みやアセットを捉え直すことから始めました。そのなかで見えてきたのが、3000社を超えるさまざまな業種業態のクライアント企業とのつながりでした。そこから、多様な企業やパートナーと業種や分野の枠を超えた“チーム”を組み、一企業ではできないような大きな事業創造を目指す「チーム企業型事業創造」という独自のコンセプトが生まれました。

2年間やってきてはっきりしたのは、我々は「企業Aと企業Bをつなげればこんなことができそうだ」といった構想は非常に得意な反面、実際にプロセスを設計し、事業としてスケールさせていくノウハウの部分は不足しがちだということ。一方、宮井君が2015年から経営していた博報堂発社内ベンチャーのSEEDATAには、数々の企業のイノベーションや事業創造を支援してきたスペシャリストたちがいる。また、グループの中には、媒体社やコンテンツホルダーと深いつながりを持つ博報堂DYメディアパートナーズという会社もある──。今年4月、ミライの事業室とSEEDATA、博報堂DYメディアパートナーズのリソースを統合しました。「チーム企業型事業創造」実現のための体制がいよいよ整ったと感じています。

宮井
最初に「チーム企業型事業創造」というコンセプトを掲げたときは、どういう状態が成功のイメージとしてあったんですか?

吉澤
当初の大きな見立てとしてあったのが、今後デジタル化が加速するにつれて、産業の垣根がどんどん融解していくだろうということ。そうなったとき、多くの企業が、自社のアセットだけで変化に対応していくことは難しくなるだろうと考えました。そこで博報堂のような、色々な業種業態の企業とのビジネスの経験があり、あらゆる企業とのコラボレーションに長けた会社が、産業同士を新たにつないで、新しいビジネスを生み出していくことができるのではないかと思ったんです。
コロナ禍でデジタル化が一気に加速し、色々な仕組みがうまく回らなくなってきた。あらゆるシステムを考え直さなければならなくなったいまこそ、我々が新しい産業の編集に臨むタイミングだと感じています。

宮井
なるほど。産業の垣根が融解していくというメガトレンドがあり、一方でコロナによって各産業のこれまでのやり方が通用しなくなってきた。その二つの社会変化の境目に新しいビジネス創発の可能性があって、そこを博報堂が再編集していく時がきていると。「チーム企業型事業創造」への流れが加速しつつあるということですね。

新規事業開発をめぐるトレンドの変遷

吉澤
何より、自分がこの2年間で最も感じた大きな変化は、クライアント企業のマインドが変わったことです。僕たちが「チーム企業型事業創造」を掲げて活動を始めると、いろいろなクライアントが声を掛けてくれました。「うちも自社だけではなく、さまざまな企業と組んで事業開発したいんです」と。そういう声が2年間でどんどん増えてきて、博報堂に求められるものも変わってきました。

宮井
事業開発の世界で「共創」の意識が広がってきたことは、僕も強く感じます。おそらく数年前までは、外部の顧問やコンサルを活用しながらも、基本的には自社リソースだけで事業創造にあたろうとしていた。でも少しずつ、自社だけだと足りないということに気づき、誰かと組んでいく「オープンイノベーション」の考え方が広がっていった。自社とパートナーがどうリソースを出し合い、ビジネスをつくっていけばいいかというところに、クライアント企業の課題意識が移行していった気がします。
実際にSEEDATAでも、支援する企業からそうした相談をよく受けるようになったのが、この2年ですね。博報堂がやりたいことと、クライアント企業の認識が合致したのが今期で、いまがまさに事業共創に本腰を入れて取り組むスタート地点ということだと思います。

吉澤
そう言えますね。企業がPoCを回すだけで満足していたステージは終わり、本気で事業を立ち上げないといけないという感覚に変わってきた。実際問題、自分たちだけでできるのか、誰と組んだらいいのかといったことを本当に真剣に考え始めている。

宮井
過去10年間の企業の新規事業開発のパターンを振り返ると、大きくは「自社でやるか、他人とやるか」の2択でした。そのほかにもM&Aで事業拡大するやり方や、スタートアップと組んだアクセラレータープログラムなどの手法もあり、それぞれに強みはあるんですが、どれも“決定打”に欠けていたんです。
そして、どれか一つの正解を探すのではなく、どれかとどれかの手法を最適な組み合わせで編集し、自分たちの会社なりにアロケーションしていくというやり方が、いま事業創造やイノベーションの最先端の流れになりつつあると思います。ミライの事業室も、独自の手法の組み合わせを探りながら進んできていますよね。

博報堂は事業共創において何ができるのか

吉澤
もう一つ大きな時代感として、「生活者発想」や「生活者中心で考える」ということが、あらゆる企業にとって当たり前のプロトコルになったことも、博報堂が事業共創に踏み込むべき大きな理由だと感じています。これからの社会が生活者主導になっていくことは間違いなくて、コロナやデジタル化の影響もあり、いまやどんな企業も、新しいサービスを開発するときは当然のように生活者中心に考えるようになっている。

宮井
僕もそう思います。新規事業開発のトレンドと、生活者中心の視点を掛け算したときに、「生活者発想で企業をつなげて、新たな価値を生み出していける」というのは、博報堂の強みが活きる流れですよね。

吉澤
僕が思うに、ここ数年の企業の新規事業は、ほぼDXドリブンで進んできた。それが一段落し、気づいたらどこも同じことをやっていた。「生活者サイドの新しい価値創造ができなければ、差別化はできない」と気づいてきたと思うんです。生活者に対して価値創造し続けてきた博報堂が必要とされる状況になってきている。実際、博報堂がどうやって生活者の価値をつくっているのか?という“魔法”の部分に、多くの企業から大きな興味関心を寄せられています。

宮井
なるほど。DXが一巡してみて、実はDXでは新しい付加価値の創造につながっていなかったという反省があった。だからこそ生活者発想で付加価値を生み出すためのパートナーとして博報堂が期待されているし、期待してほしいということですね。

吉澤
また、コロナ禍もあって、博報堂が提唱してきている「生活者インターフェース市場」という考え方の蓋然性が非常に高まってきた。それを受けて、今後は自社での生活者インターフェース基盤、つまりプラットフォームをつくり、そこにいろいろなプレイヤーを呼んで一緒に事業をつくっていく方向と、クライアントと一緒に生活者インターフェース市場における新しいサービスを共創していく方向、この大きく2つの方向性で事業開発を進めていこうとしています。

宮井
はい。2つ目の方向を推進するために、先日僕のチームで「Hakuhodo JV Studio」というプログラムを立ち上げました。クライアント企業と博報堂が“両者のリソース出し合い型”で事業共創していく仕組みです。自分自身いろいろな企業の共創に関わってきましたが、やはり生活者発想や構想力のような、博報堂が一番自信を持ってやれるところに、クライアント企業の得意なところを掛け算するという形が、両者の良さを互いに活かせるんじゃないかなと考えています。

「事業共創パートナー」への挑戦

吉澤
企業の新規事業開発を数多く支援してきた宮井君から見て、博報堂が今後クライアント企業と新しい価値を創造していくためには、どんなことが必要だと思いますか?

宮井
新規事業開発の方法は、自社だけであれば0→1のやり方だけでもいいですが、外部との共創となると、1→10、10→100の考え方も導入しながら付加価値の創造を目指すことになります。様々なやり方の中から、最適な組み合わせを選択していく。こうした編集に、これからどんどん博報堂も長けていくし、クライアント企業も馴染んでくると思う。それが、おそらく次のイノベーションのステージを一段上げる条件になるんだろうなと思います。

吉澤
これまで組んでこなかったような企業やスタートアップと組むなど、組み先のバリエーションや、それに応じた手法のバリエーションも増やしていく必要がありますね。

宮井
そうです。吉澤さんが最初に、この2年で事業の実行力不足という課題が明らかになったと言われましたが、僕はその要因の一つは「手口の少なさ」にあったんじゃないかと思うんです。僕らはマーケティングコミュニケーションにおいてはあらゆる手口を熟知しているけど、こと事業開発においてはそうではない。そこで、共創というコンセプトを中心に置くことで手口の広がりが具体的に見えるようになれば、おのずと実行力も高まっていくのではないかと思います。

吉澤
確かにそうですね。今後、博報堂がクライアント企業から「事業共創パートナー」として認識される存在になるよう、さまざまな観点で自分たちを進化させていく必要があると思います。クライアントと新しい関係性で、ともに価値創造に挑戦していくことに、博報堂全員でチャレンジしていきたいですね。

関連リンク

ミライの事業室 ウェブサイト(2021年10月リニューアル)
生活者発想
生活者インターフェース市場
「Hakuhodo JV Studio」プログラム設置 ニュースリリース(2021.8.13)

吉澤 到
博報堂 ミライの事業室 室長

東京大学文学部卒業。ロンドン・ビジネス・スクール修士(MSc)。
1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上に渡り国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事。その後海外留学、ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理を経て、2019年4月、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に就任。クリエイティブグローススタジオ「TEKO」メンバー。
著書に「イノベーションデザイン~博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)他

宮井弘之
博報堂 ミライの事業室 チームリーダー

慶応義塾大学商学部卒。02年博報堂入社。情報システム部門を経て、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局へ参画。新商品・新サービス・新事業の開発支援に従事。幅広い業界のリーディングカンパニーと300を超えるプロジェクトを経験。15年、博報堂子会社として、近未来の消費者洞察データを基軸にイノベーション支援を展開するSEEDATAを創業。21年度より博報堂の新規事業組織ミライの事業室みんなの事業チームTL。著書に『バカにされたらありがとう』(幻冬舎)他多数。
博士(経営学)(筑波大学)

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