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「2030年、旅ってどうなっているんだろう?」第6回/株式会社ディスカバー・ジャパン 代表取締役社長 編集長 高橋俊宏さん【後編】

2021.06.24
2030年には「旅」というものはどうなっているのでしょうか?
アフター・コロナの時代は、旅の仕方も、好みも、大きく変化していくことでしょう。
さまざまなジャンルで活躍する人たちに「2030年の旅(いまからだいたい10年後)ってどうなってるか?」「その時に、大事な人に旅を贈るとしたら、どんな旅をつくる?」という話をwondertrunk & co.代表の岡本岳大がお伺いします。

前編はこちら

■地域に眠る価値を見出し、クリエイティブの力でコンテンツ化していく

高橋
僕らは昔から、日本茶発祥の地とも言われる佐賀県の温泉地・嬉野に関わっているんですが、いま嬉野は、温泉旅館の若旦那たちが中心になってティー・ツーリズムというのを推進しています。「茶泊」という名のプログラムをつくっていて、チェックインしてからティーバトラーがついてお茶を出してくれるほか、見晴らしのいい茶畑の中に茶室があって、茶農家の方が出してくれるお茶を飲めるんです。このプランはそれなりの価格ですが、予約は入り始めたそうです。茶農家の人にしてみると、お茶を摘むだけの場所だったのが観光の場になり、稼げる場にもなった。価値転換ですよね。

岡本
そうなんですね。これまでの営み、生活の糧を維持しつつ、観光がエッセンスとしてそこに加わることで、地域の暮らしがより豊かになる。まさに理想的なかたちですね。

高橋
そこで大事なのはやっぱり、クリエイティブの力ですよね。センスのいい空間、舞台設計をつくることもそうですが、お茶を飲むときもテイスティンググラスみたいなものをささっと出したり、茶農家さんも白いコックスーツをぱりっと着て、かっこいい所作でエレガントに出すとか。彼らはとりわけ特別なことはやっていませんが、ちょっとした発想の転換と、見せ方、プレゼンテーションの仕方で、日常を価値に変えることを上手にしている。その一連のお茶の体験をDiscover Japanが「ティーツーリズム」と名付け、新しい観光体験として提唱させていただきました。

岡本
もし海外のバイヤーの方がお客さんにいれば、販路も広がって、本業の方にも相乗効果が生まれそうですね。ティー・ツーリズムのお話は非常に勉強になります。

高橋
あと、UAEの砂漠のテントリゾートでは、夕方になると砂漠の中にテーブルをセッティングし、夕焼けを見ながらディナーをしたりするんですよね。僕が体験したツアーでは、あるとき車に乗せられ、郊外の丘の麓に連れ出された。途中野生のヤギの群れと遭遇しながら丘の頂上を目指して徒歩で移動し、「一体なんのために?」と思っていたら、見晴らしのいい頂上にたどり着いた。時は夕方、目の前には海越しに夕日が沈もうとしている。するとおもむろにバトラーがシャンパンを注いでくれて、さあ乾杯という瞬間、下の街から突然ワーンというイスラム教の礼拝を呼び掛ける放送が大音量で響いてきたんです。あれには鳥肌が立ちました。地元の人にとっては何気ない日常のワンシーンですが、そのタイミングをわざわざ狙って、上手にコンテンツにしてしまっている。
そういう点で、日本の地域もまだまだできることがたくさんある気がするんです。たとえば石見神楽も、夏の時期など、海側のロケーションの良いところでやるといいような気がしています。いまのままでも感動的ですが、ちょっとロケーションを変えるとかそれこそ夕焼けの中でやるとかタイミングをつくることで、また新しい価値が生まれる気がします。

岡本
そうですね。石見神楽の旅行商品は、イギリス人のクリエイターと一緒につくったんですが、彼女たちは地元の工房や和紙、あるいは伝統技術、伝説……すべての生態系をひっくるめて「アラウンド神楽」と表現していました。日本中あちこちが、そういう構造になっているんじゃないかと思っています。

高橋
そうですよね。そういうストーリー、歴史、文脈をまた特に海外の富裕層は求めるんですよね。地域に眠る価値を外部からの視点で探し出し、光を当て、いわばそのテロワール(ワインにおける気候や地域などの生育環境)をしっかりと伝えてあげる。そうして観光コンテンツにしていくことが必要なのだと思います。

■高付加価値に対価を払う人たちを、きちんと巻き込んでいく

岡本
コロナ禍も経て、今後旅や移動についての価値観が少し変わってくるのかなと思っています。日本の価値を世界に発信するうえでは、この先どんなことがポイントになってきそうでしょうか。

高橋
よりマニアックな場所、あまり一般には知られていないような場所はますます注目が集まると思いますし、発信側である日本の方も、自分たちの価値をしっかり見直し、見定め、それがコンテンツになると気づけた地域は、より海外へと発信していくことになると思います。基本的に、“一般にあまり知られていない場所・コンテンツ”こそがお客さんにとっても大きな価値になっていくと思うので、どんな地域でもそこを発信していけば勝てるのではないかと思っています。

岡本
その価値を再発見するのが『Discover Japan』のようなメディアだったり、僕らの仕事だったりするわけですね。

高橋
そうです。マイクロツーリズムじゃないですが、僕らとしても目指すのは、量より質です。別に大量の観光客を呼び込みたいわけではなくて、高付加価値をちゃんと感じて、対価を払ってくれるような人たちをしっかりと巻き込み、取り込んでいく。その方が絶対本質的だし、何より勝てると思うんです。これからの地域、あるいは日本全体がそういう方向性を目指していくといいと思いますね。

岡本
『Discover Japan』としても、海外への発信にはより注力していらっしゃる予定ですか?

高橋
もちろんです。Discover Japanというブランドとして、海外の人にも日本の魅力をもっともっと伝えていきたいと思っています。冒頭にお話した、主な読者層である“知的好奇心が旺盛で意識の高い人たち”というのは、おそらく国境を超えるんですよね。そこまで他国のことに興味関心がある人は、絶対その本質を知りたいと思うはずで、だからこそ旅をするし、本質に触れて得られる感動にはちゃんと対価を払う。国籍は関係ないですね。

岡本
確かにそうですね。
高橋さんは日本全国、さまざまな地域の情報にアンテナを張っていらっしゃると思いますが、情報収集やリサーチ、あるいは地域でのネットワークづくりなどはどんな風に行っているんですか?

高橋
結構泥臭いことをやっていますよ。地域の方々と長い時間飲んだりとか(笑)。最初に誰とどうつながるかというのは、基本は野生の勘のようなものですが、面白いもので、いい人と1人つながるとその人の友達を何人も紹介してもらえたりするんです。地元の名士なり、志を持って頑張っている若者なり、いい人にはいい人がつながっているものなんですよね。そういう人たちとのご縁が、ときには地域も超えてどんどんつながって、大きな輪になっていきます。

岡本
その輪が、また次の企画なりプロジェクトの大きなきっかけになったりするんですね。
今後、どういったことにチャレンジしていこうとお考えですか?

高橋
基本的には、メディアとして日本の価値を高めていくという、今やっていることをしっかり続けていくことですね。雑誌なりデジタルなり、リアル店舗なり、総合的にうまく編集してビジネスを広げていければと思っています。

■これから鍵になるのは、“その人に会うため”に行く旅

岡本
これは毎回ゲストの方に伺っていることなんですが、いまから約10年後の2030年、高橋さんご自身が行きたい旅、あるいは読者や大切な人にプレゼントするとしたら、どんな旅になりますか。

高橋
これからの旅って、名所ではなく“人観光”になると思うんです。その人に会いたいから旅に行くという。たとえば、年に1度必ず行く宿があったりして、「そこのおかみさんとご主人に会わないと夏が来たと思えない」なんていう話は、これまでだってあったと思う。そういうことがこれからもっと増えるのではないかなと思います。あるいはちょっと辺鄙(へんぴ)なところでも、友達がいるから行ってみたという人は、実際少なくないはず。美しい風景や美味しい食べ物も当然魅力的ですが、知り合いがいるということは、究極、そこへ行く最大のモチベーションになりえますよね。

岡本
確かにそうですね。

高橋
観光のための観光ではなく、現地で営まれる生活を体験しに行く観光になれば、それは結局、人に行きつくのだと思います。しかも、オンラインで何でもできる世の中になったからこそ、リアルな体験に対する飢えもきっと出てくると思うんですよね。

岡本
日本のインバウンド施策は国籍ベースであることが多いですよね。自治体の事業の都合上、致し方ない部分はあると思いますが、大事なのはどの国の人に来てほしいかよりも、どんな人に来てほしいかだと思うんですよね。

高橋
その通りですね。

岡本
僕らが自分たちの商品などを提案する時には、国籍ではなく旅人のタイプ別に作ったフレームワークを使っています。サイトシーイング、いわゆる「東京、京都、富士山」など物見遊山を求める層があり、その対極にはエデュケーテッド、つまり「歴史、文化、芸術、交流、滞在」などに興味がある人たちもいる。あるいは、スペシャルインタレスト、つまり雪が好きだからニセコとか、スピリチュアルが好きだから熊野古道、といった、「旅の好みやテーマが明確な層」といった感じで、旅人のタイプを分類しています。この分類の中に、FR(Friend and Relatives)という層もあるのですが、これはつまり先ほどおっしゃっていた、知り合いをたずねていく旅人の層です。僕自身、過去に行ってきた旅を振り返ってみると実はこのFRしかやっていないし、この人たちは旅人としても最終的に一番強いのではないかとも思うんです。ただこれは、マーケティングで簡単にどうこうできる部分ではない。おそらく人とのつながりとか信頼関係といったものが、鍵になるのではないかとは思っています。

高橋
メディアの立場から言うと、僕は、地域の人たちにスターになってもらいたいんですよね。たとえばこのお寺のお坊さんの説法がとても面白いから、会いに行きたいとか。一緒に農業をしてくれる若手の農家がいるとか。そういう人たちにもっとフィーチャーしていき、その人に会いたいという人が遠くからでもやってくるような存在、つまり地域のスターにしていく。そんなケースをどんどんつくっていきたいんです。やっぱり現場で働いている人たちは、かっこいいし魅力的ですからね。

岡本
なるほど、そうですね。
今日はすごく勉強になりました。貴重なお話をありがとうございました。

高橋
いえいえ。これから何か面白いことをぜひ一緒にやりましょう。

岡本
そうですね、ぜひお願いします!今日はありがとうございました!

高橋 俊宏
株式会社ディスカバー・ジャパン 代表取締役社長 編集長

岡山県生まれ。建築やインテリア、デザイン系のムックや書籍など幅広いジャンルの出版を手掛けたのち、2008年に日本の魅力を再発見をテーマにした雑誌、Discover Japanを創刊。編集長を務める。2018年11月に株式会社ディスカバー・ジャパンを設立し、代表取締役社長兼統括編集長を務める。雑誌メディアを軸に、イベントや場づくりのプロデュース、デジタル事業や海外展開など積極的に取り組んでいる。
現在、環境省グッドライフアワード実行委員、京ものユースコンペ審査員、高山市観光経済アドバイザー、高山市メイド・バイ・飛騨高山ブランド認証委員会 委員長、
経産省や農水省関連のアドバイザーなども務める。NHKラジオ「マイあさ!」に隔月でゲスト出演、JFN「オーハッピーモーニング」に毎月ゲスト出演中などメディアを超えて、日本の魅力、地方の素晴らしさを発信中。

岡本 岳大
株式会社wondertrunk&co. 代表取締役共同CEO

2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。

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