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ミライの生活者のウェルビーイングを考える 宮田裕章教授×ミライの事業室

2020.11.12
#ミライの事業室
コロナ禍で働き方や生き方を見直す人も増える中、「ウェルビーイング(well-being)」という概念がますます注目を集めています。博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」では、このウェルビーイングを注力領域の一つに掲げ、事業創造を通じて未来の新しい生活をつくることを目指しています。今回は、DXやデータサイエンスを通じてウェルビーイングな社会の実現を目指す慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授と、ミライの事業室の堂上研、喜田村夏希が、いかに生活者のウェルビーイングな未来を実現していくかをテーマに語り合いました。

ウェルビーイングとは?「新しい豊かさ」がキーワード

堂上(ミライの事業室)
本日はよろしくお願いします。僕は博報堂の新規事業開発組織である「ミライの事業室」で、ウェルビーイングをテーマに活動しています。ウェルビーイングは広い概念ですが、あえてヘルスケアとは言わず、「生活者が幸せな状態」と僕たちは定義しています。病気にならなかったとか、笑顔が増えたといった生活者の幸せな状態を実現するための事業創造にチャレンジしています。
宮田さんには今年からミライの事業室のフェローになって頂き、僕らのビジネスにアドバイスして頂いています。宮田さんとお話しすると、構想がどんどん膨らむんです。宮田さんが考えるウェルビーイングと僕らが考えるウェルビーイングとが共通の財産となって、世の中が変わったり、新しい生活者の幸せ価値を作ることにつながっていくと嬉しいなと思っています。

宮田裕章教授
私の専門は、「科学を使って世の中をより良くすること」です。そのための手法には実はそれほどこだわりがないのですが、この10年のスパンだとデータはすごく大事になりましたね。科学的なデータや統計の手法を用いながら、より良い社会を目指していく。その中での「新しい豊かさ」が、これからの世の中を変えていくキーワードになると思っています。
私自身は医学部で働いていますが、お金以外の豊かさとして、すでに明確に数値化され、人々が重視しているものが医療でしたので、まずはそこから実践していこうと考えて、今に至ります。
かつての「豊かさ」は、物を所有することでした。ただ、時代が変わり、それでは豊かさは測れないと、アマルティア・センやスティグリッツといった経済学者がウェルビーイングと言い出した。つまり“一人ひとりが豊かに生きる”、これが物の所有の次に来る豊かさだ、ということです。
ただ、今は一人ひとりの行動と世界とつながっているので、一人だけがご機嫌でも、その状態は続きません。社会とつながる中でお互いがウェルビーイングであり続けることを、私は「better co-being」と呼んでいます。社会とのつながりの中で多様な豊かさを感じていくために、何を考えていけばいいかが大事だと思っています。

喜田村(ミライの事業室)
私はPHR(パーソナルヘルスレコード)への関心をきっかけに、ミライの事業室のウェルビーイングのチームに参画しました。私自身がもともと医療業界にいたこともあって、今後オンライン診療が広まっていく中でも、医療情報の連携はますます重要になってくると考えています。
ウェルビーイングについては、以前は私、「幸福」を言い換えたものかな?くらいにしか思っていなかったんです。でも、宮田さんや堂上さんと何度も話す中で、ウェルビーイングには、個だけでなく「他者」という概念が入っていることに気づかされました。コロナ以降、コミュニティや共感、つながりといった言葉がこれまで以上に聞かれるようになって、なぜ人が誰かとつながりたいと思うのかと考えると、誰かと一緒に未来を見たいとか、作っていきたいとか、そういう気持ちが人にはあるのではないでしょうか。誰かと一緒に見る未来に心がワクワクする。その状態こそが、ウェルビーイングなんじゃないかと思っています。

デジタル革命で重要なのは生活者価値

堂上
早速データの話題が出ましたが、先日、いろいろな企業の経営層が集まってDX(デジタルトランスフォーメーション)を各社がどう進めるべきかという議論になった時にも、医療分野を含めたデータをどう取り扱うかという話になったんですよね。

宮田
デジタル革命で最も大事なことは、生活者価値なんですよ。まずは生活者にとって、どういう社会を実現したいのか、そこからのリデザインが1丁目1番地なんです。生活者価値を体現するために、いろいろなスタイルを提案していくと、そこに消費や経済が生まれてきます。ここでもキーになるのは多様な豊かさです。better co-beingは、いろいろな人たちと共鳴しあいながら新しい価値を一緒に作っていくことが重要で、そこにはクリエイティビティが必要になってくると思います。

堂上
生活者価値に根差して、クリエイティビティを発揮していくというのは、博報堂が掲げていることのど真ん中でもあります。

宮田
「ミライの事業室」にもある“ミライ”ってどういうことだろうと考えたとき、一人ひとりの豊かさは多様だとしても、ふと目線を上げたときに見えるものは同じ空ですよね。これが未来のイメージだと思ったんです。一人ひとりが何を生きがいにするかは異なっていていいけれど、世界がさりげなくつながるための一番のツールって、空を見ることなんじゃないかなと。今日のTシャツはそういうイメージで着てきました(笑)。

堂上
素晴らしいですね。僕が考えるウェルビーイングの基本的な状態は、“Live and think positive”というか、それこそ空を見た時のようなポジティブな気持ちのイメージです。誰もがそういう状態になれる社会をつくるために、どんな仕組みがあればいいのかなと考えています。

お金以外の価値で社会が回り始めている

宮田
これからはこれまでの資本主義の先の社会のありかたを考えていかねばなりません。Society5.0やIndustry4.0、あるいは世界経済フォーラムが「グレート・リセット」と言っていることとも直結しますが、すでに、お金以外で経済を回していく仕組みも生まれ始めています。例えば中国の「信用スコア」は、信用が中立的、客観的にデータで共有されて、ある一面でお金以上の価値を持ち始めています。お金だけではない多元的な価値で駆動する社会の入り口が国家単位で見えてきています。
経済の本流も変わり始めていて、少し前までは企業のCSRやESG投資といっても、片方で儲けて、片方で寄付をしてバランスを取ればいいという形だけのものも多かったんです。それに対し、今は生活者のデータを使わせてもらうためにも信頼が必要で、data for goodやAI for social goodとも言われるように、「私たちは良いことのためにデータを使っていますよ」と言えないと、データを使うことができなくなった。企業はビジネスの中でもいかにグッドに貢献するか、つまり、いかにウェルビーイングに貢献するかが重視されています。多様な豊かさに貢献する社会を、どう響き合わせて作っていくかという時代が、これから始まると思います。

堂上
先ほどのPHRの話もそうですね。PHRというと電子カルテの話になりがちですが、もう一歩踏み込むと、「どのぐらい笑ったのか?」とか、「どれくらい会話したか?」といったことも、僕は広い意味でのパーソナルヘルスレコードだと思うんです。社会とどれだけつながりがあったか、新しいものにどれだけ出会ったかも、人がウェルビーイングな状態になるために重要だという仮説もあります。そうしたデータが活用されて、なぜかこの町に来たら風邪をひかなくなったとか、笑顔が増えたといったような、生活者がウェルビーイングの状態に自然となるような仕組みが実現できたらいいなと思っています。街ごとウェルビーイングな、ウェルビーイングシティを作りたいですね。

宮田
ウェルビーイングシティ、いいですね! スマートシティというのは、決して企業のためのスマートや、いかに効率よく移動できる街をつくるかと言う話ではない。大事なのは、そこに住んでいる人たちが幸せになることです。こんなに笑えているのは、ここで暮らしているおかげだって感じられるような街ですよね。

喜田村
これからは街の作り方も変わっていきますよね。ハードを作って終わりではなく、そこに過ごす人の幸せのために柔軟に変化していけるような自由な街、一人ひとりがそれぞれの豊かさを感じられるような街が求められていくのではないかと思っています。

宮田
一人ひとりの好みに合わせる技術がローコストになって、実現可能になったということが一番大きいですよね。今までは理想論でしかなかった個別化サービスも実現できるようになってきた。すでに音楽や映像分野では、個人の好みに合わせてレコメンドしてくれる配信サービスも広まっていますが、コストは変わらないのに満足度は段違いに高い。良い音楽だなと思って見てみたら、海外アーティストのデビュー曲だったりする。そうした音楽には、これまで海外のライブハウスを回らないと出会えなかったのです。
今までの街づくりは、平均を想定して、全体を底上げするというやり方だったので、いろいろなものを取りこぼさざるを得なかったんです。でも、一人ひとりに合わせられる技術が出てきたことで、新しい生き方の選択もできるようになってきたと思います。

コロナ禍を機に人生の選択権が戻ってきた

堂上
今回のコロナ禍で、働き方や、家族との過ごし方などが強制的に変えられたことは、一人ひとりが「生きる」ということを考え直すきっかけになったと思っています。僕自身がまさにそうで、社会人になって初めて3食を家族と一緒に食べる経験をしたり、昼にパワーナップの時間を取ったら、午後からの仕事がすごくはかどるようになったり。時間の使い方を変える、働く場所を変える、そして会う人を変える。そこで新しい人や体験に出会い、習慣が変わっていく。こういう「生きる」もあるんだ、という気付きがありました。
最近手洗いをよくするようになったからか、全然病気になってないな、というのは、気づかないうちにウェルビーイングの状態がもたらされた習慣だと思います。一人ひとりが、自分がどうなったらいいかを意識して変えられれば、ウェルビーイングな状態も自分で作れるんじゃないかなと最近考えています。

宮田
人生の選択権が自分に戻ってきたわけですよね。働く時間って、会社にすべて捧げて、窮屈に過ごさなきゃいけないものだと思われていたけれど、実はそんなことをしなくてもちゃんと回る。コロナを機に、素敵じゃないノーマルにも気づけたし、何がウェルビーイングなのかを考えることができるようになりましたよね。

喜田村
選択するには、一人ひとりが意志を持つことも重要ですよね。普段の生活の中で「これが自分の幸せかも」って思えたり、誰かが提示してくれた未来や新しい認識が、自分にとって幸せかどうか判断できたり、自分の幸せを他人に委ねないことが大切だと思います。
そうあるためにも、いろんな形の幸せを散りばめた世界が作れるといいなと思っていて。利便性は、ある側面では正義ですが、それ自体が幸せを生むものではなく、その先を考えなければいけません。このサービスはどう人を幸せにできるのか?それがしっかりデザインされたサービスをたくさん散らして、いろいろな幸せに出会えるきっかけを作ることで、人が幸せを感じ取る感性が高まったら素敵ですよね。

宮田
まさに万博(※宮田氏は2025大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサー)でも、一人ひとりの力を響き合わせることで、世界を自分たちが変えるという体験をつくりたいと考えています。自分が貢献できる未来を可視化できれば、ちょっとした勇気が持てたり、背中を押せるんじゃないかと思うんです。

ウェルビーイングのための衣食住

堂上
ウェルビーイングを考える上で基本になるのは、衣食住ですよね。特に食は、生きることの根源ですし、どういう栄養素が足りていないのかというデータが疾患リスクを防ぐことに活用できるなど、食に関するデータに注目しています。また日本の食文化を世界に発信することで、健康寿命を延伸させるようなきっかけを作れるんじゃないかと思っています。

宮田
日本の食のおいしさは世界でもトップ評価ですからね。間違いなく国際的な競争力を持っている分野です。

堂上
ミライの事業室では「Food Tech Studio - Bites!」というオープンイノベーションプログラムにビジネスパートナーとして参画していて、これからフードテックで革命を起こす意気込みのある会社と新しい食産業を創っていこうという取り組みです。食を通じたウェルビーイングを実現して、世界を変える。ライフチェンジャーになれたらと思っています。

宮田
ライフチェンジャー、良い言葉です。衣食住で言うと、僕はファッションについては思うところがあります。制服やスーツって、最近では個性を刈り取るためのドレスコードとして運用されてしまっています。これはSociety5.0など政府が掲げる未来社会のビジョンに照らし合わせると、完全にずれているんですよ。個性を生かそうと言いながら、依然として個性を刈り取る文化になってしまっている。ドレスコードはある程度必要ですが、これからは、その中でいかに個性を出していくかのアドバイスをしていった方がいい。それがおそらく、喜田村さんがおっしゃった「意志を育む」ことにもつながります。異質なものを刈り取るのではなく、違った個性を認め合っていくことが必要なんじゃないかと。「僕は普通の格好でいいです」という人も当然いますが、それが個性を刈り取られ続けた結果というのも否めないですよね。

堂上
食も服も含めて、一人ひとりが自分はどうなりたいかの意志を持つことは本当に重要ですね。そして、教育の場でも変えていかなければならないことはありそうです。僕は教育も、スマートシティも、コマースも、全部ウェルビーイングにつながっていると思っています。

宮田
そう、すべてはつながっているんです。今はつなげながら、それぞれの壁を一緒に破っていこうとしているフェーズと言えます。
私が医学のメインストリームでウェルビーイングという概念を言い出した頃は、周りから「は?何その言葉?」と随分言われましたが、やはりこのコンセプトは重要でした。それも、喜田村さんが冒頭でお話しされたつながるウェルビーイングだったり、私が言う「better co-being」ということ。一人だけがWellではなくて、ともに輝くということが最も重要だと思っています。

皆がクリエイターになる世界へ

堂上
最後に、これから宮田先生と僕らでどんなことを一緒にやっていきたいか、ということで一言ずつお願いします。僕は、先ほど「空」というお話が出ましたが、空を見上げてポジティブに考えられる人たちを増やしていきたいですね。ワクワクするような社会をつくるために、背中を押せるような仕組みを宮田さんと一緒に作っていきたいです。

宮田
クリエイターとは誰だろう?と考えた時に、今まではクリエイター側とそうじゃない側という見えない線引きがあった気がします。でも、これからの皆でつながる世界の中では、あらゆる人がクリエイターになって、皆で新しい豊かさを創っていく。それが一人ひとりの意思を持った生き方にもつながっていくんじゃないかと思います。クリエイティビティを軸に活動してきた博報堂の皆さんの強みが活かせる時代だと思います。

喜田村
以前に宮田さんが「データは弱い立場の人や困っている人を救える手段」とおっしゃっていました。今まさに、その準備が整ってきたように感じています。テクノロジーと掛け合わせながら、誰も取り残さずに、一人ひとりのためのよりよい社会のあり方を見つけていきたいと思います。

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