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生活者の「時間」はどう変わるか/前沢裕文(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.6)

2020.07.13
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。
第6回は、生活者の「時間」をテーマに、博報堂生活総合研究所 前沢裕文の意見を紹介します。

Vol.6 生活者の「時間」はどう変わるか

博報堂生活総合研究所 上席研究員 / コピーライター 前沢裕文

コロナは“令和の文明開化”を引き起こした

 生活総研では、2020年1月に開催した「みらい博」*で『私の時間が溶けていく』と題し、生活者の「時間の使い方」に関する研究の発表を行いました。本コラムでは、コロナ以前から変わりつつあった、そしてコロナ禍によってさらに変化した「時間の使い方」について触れたいと思います。

 私たちは、明治の文明開化時の太陽暦の導入により「1日24時間」「1週間7日」「日曜日が祝日」といった時間制度に長らく従ってきました。それは、決められた社会の時間軸に合わせる生活だったといえます。しかし、「みらい博」の調査を進めていく中で、20代を中心に新しい「時間の使い方」が生まれつつあることがみえてきました。スマホをはじめとしたICT(情報通信技術)を駆使してすきま時間を自由に活用したり、スケジュール共有ツールで時間のアレンジを効率化したり、主体的に“時間をコントロールする”生活者が現れたのです。

 そのように「時間の使い方」が変化している真っ只中での、今回の新型コロナウイルスの流行。緊急事態宣言を受け、日本中で多くの年代層において、テレワークや買物のオンライン化といった生活のデジタルシフトが起こりましたーー。明治初期に西洋の文物が流入し、当時の制度・慣習が大きく変わったように、コロナは“令和の文明開化”といっても過言ではないほどに生活を変化させ、いわずもがな「時間の使い方」にも大きな影響を与えています。

*生活総研が毎年開催している、10~15年先の未来像をテーマにした研究発表イベント

いま、生活者は時間の使い方“再編中”

 「みらい博」の中で、「生活行動(仕事、家事、遊びなど)の速度が以前と比べて、『高速化しているか?』『低速化しているか?』」という質問の調査結果を、1999年と2019年の比較で示しましたが、今回、新たに非常事態宣言解除後の2020年6月に同じ調査を実施しました。

 20年間高速化していた生活行動が、コロナ下で低速化したことが如実に数字に表れています。つまり、コロナを機に、時間が生まれたというわけです。自由回答にも、以下のように、

「価値観が変わった。無駄なことにお金と時間を費やしていたことに気づいた。」
「勤務時間が減り早く帰ることができるようになって、平日の夜の有意義な使い方について考えるようになった。」
「家での時間の使い方を今までは意識していなかったので、見直す良い機会だと今は捉えている。」
*博報堂生活総合研究所 新型コロナウイルスに関する生活者調査[2020年4月]より

などの声が寄せられており、急に時間が生まれた中で、生活者それぞれがこれまでの生活を前向きに見直していることが窺えます。今後も、刻々と移りゆく状況に合わせて、その都度時間の使い方の“再編”に取り組むことになるでしょう。

日常は“高速化”しつづける

 では、その“再編”の方向とはどのようなものでしょうか。先程、生活行動の高速化・低速化の実態について調査をご紹介しましたが、「今後の理想として生活速度を『高速化したいか?』『低速化したいか?』」と欲求についても尋ねたところ、興味深い結果となりました。

 生活者はコロナ下のままゆっくり過ごしていきたいのかというと、結果は反対に生活速度を「高速化したい」生活者が、僅かながら増えているのです。特に、20代は70.5%、30代は68.0%が「高速化したい」と答えており、高速化欲求の強さが窺えます。また、下図「複数のことを同時にこなしたい」か「ひとつのことに集中したいか」という質問に対しても、コロナ前と比べて、すべての年代で「複数のことを同時にこなしたい」派が伸びており、20代、30代では半数を超えています。

 テレワーク中には、

「会社のオンライン会議に耳だけ参加しながら、それ以外(目・口・手)で子どもをあやしている。」
「カメラオフで会議しつつ、キッチンで料理をしている。」
*博報堂生活総合研究所 新型コロナウイルスに関する生活者調査[2020年4月]より

という生活者もおり、複数のことを同時にこなす便利さ、心地よさを多くの生活者が体験したことで、これまで以上に時間をコントロールして日常生活を高速化したいという欲求は高まっていくと考えられます。まるでアスリートが自己記録を更新していくかのように、私たちは望んで生活速度を高速化しつづける日常をつくっていくのです。

“時産”と“時間格差”がこれからの鍵

 高速化というとややもすれば単なる時短や効率化の側面ばかりに目がいき、せわしない印象を抱きがちですが、コロナ前とはその質が異なっているように思います。それは、

「動画サイトで贔屓にしている投稿者以外の人の動画を視聴するなど見識が広がった。」
「料理にかける時間が増えたので、栄養管理をしっかりするようになった。」
*博報堂生活総合研究所 新型コロナウイルスに関する生活者調査[2020年4月]より

といった声に代表されるように、過ごし方を見直す中でこれまでは知らなかった新たな「しあわせな時間の使い方」と出会った生活者が少なからずいるからです。コロナ後も続けていきたい生活行動が明確にみえ、そこに割く時間をしっかりとつくりだすための高速化。それは「時短」というより「時産」と呼ぶ方がしっくりきます。

 6月に調査を行った新型コロナウイルスに関する生活者調査で「新型コロナウイルス感染への懸念がなくなったとしても、充実化・習慣化が必要だと思う社会制度」について尋ねた結果でも、15項目中最も高かったものが、「出入国者の管理・許可の厳格化」(86.5%)。次いで、「テレワーク」(84.5%)が挙がり、「オンライン診療」(75.8%)、「オンライン授業」(75.7%)なども高い結果となりました。移動時間をゼロにしたり、家にいるまま複数のことを同時に行えたり、他のことに割く時間を産み出すものへの支持が非常に高まっていることが分かります。これまで企業は、いかに生活者に時間を使ってもらうかという視点で、限られた時間の奪い合いが起きていましたが、これからは、生活者が「時産」するためにサポートを行うという視点が重要になってくるでしょう。

 そして、もう一つ。時間をうまくコントロールできる人とできない人との「時間格差」が開いていく可能性も考えなければなりません。例えば、テレワークが可能な働き方とそうでない働き方、デジタルシフトへすぐに対応できる生活とそうでない生活とでは、使える時間に大きな差が生まれるという事態も起こり得ます。そういった時間格差を埋めるようなサービスや、極端に高速化を望むニーズに対するサービスなど、生活者それぞれの時間速度に合った環境やシステムを、いかにして提供できるかということも鍵になるでしょう。

【調査概要】
●生活速度調査
調査地域:首都40km圏
調査対象:20〜69歳男女 [1999年]1,500人 [2019年、2020年]500人
調査手法:[1999年]訪問留置調査 [2019年、2020年]インターネット調査
調査時期:1999年1月、2019年9月、2020年6月
●時間に関する意識調査
調査地域:全国
調査対象:20〜69歳男女 1,500人
調査首相:インターネット調査
調査時期:2019年9月、2020年6月
●新型コロナウイルスに関する生活者調査
調査地域:首都40km圏、名古屋40km圏、阪神30km圏
調査対象:20〜69歳男女 1,500人
調査首相:インターネット調査
調査時期:2020年4月、2020年6月

前沢 裕文
博報堂 生活総合研究所 上席研究員 / コピーライター

2000年博報堂入社。
CC局(コーポレートコミュニケーション局 現PR局)、営業局、クリエイティブ局にて、PR発想を起点とした統合コミュニケーションの企画制作に携わり、2019年より現職。
気になる未来は「2118年 甲子園を目指す野球部員の数が6-7万人に減る(生活総研「未来年表」より)」。
興味は、野球・ゴルフを始めとしスポーツ全般、漫画・小説、暴飲暴食。
生活者の楽しさや、生きやすさにつながる提案を心がけます。

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