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“既存企業はオープンイノベーションで進化できるのか?”(日経バリューサーチ 価値創造マネジメントフォーラム パネルディスカッションより)

2020.03.31
#ミライの事業室
2020年2月に開催された「日経バリューサーチ 価値創造マネジメントフォーラム」のパネルディスカッションに、博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」の堂上研チームリーダーが登壇しました。ディスカッションでは、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授をモデレーターに、オープンイノベーションに携わる3名のパネリストが、「既存企業はオープンイノベーションで進化できるのか」というテーマのもとに議論を交わしました。

登壇者
入山章栄氏:早稲田大学ビジネススクール教授
大櫃直人氏:株式会社みずほ銀行 執行役員 イノベーション企業支援部長
松本勝氏:VISITS Technologies株式会社 CEO/Founder
堂上研:株式会社博報堂 ミライの事業室 チームリーダー

社内の推進役に求められる資質とは

入山教授
皆さんはそれぞれの立場からオープンイノベーションを実践されていますが、オープンイノベーションって結構大変ですよね。特に日本での課題やカギはどういう点にあると思われていますか。

松本氏(VISITS Technologies)
スタートアップの立場から言うと、一番はマインドセットですね。資金ショートしそうなタイムリミットが迫るスピード感やヒリヒリ感と、毎月安定した収入があるという心理的安全性には、かなりの差があると感じます。私たちはイノベーションテック・コンソーシアムというネットワークを運営しており、そこで色々な大企業のオープンイノベーションのサポートをしていると、「どうやったら現場の人がやる気を出してくれるだろうか?」みたいなご相談も多いです。いまこの瞬間に世界最速で走り切る話をしている人と、どうやったらスタートラインに立てるかという人の間に共通言語を成立させる難しさを感じています。

堂上(博報堂)
僕たちは昨年ミライの事業室という新しい組織を立ち上げ、100社以上のスタートアップの方々とお会いしてきて、スピード感とスタートラインがもう全く違うということを実感しました。企業が主催するアクセラレーションプログラムも増えていますが、まだ「大企業がスタートアップを選ぶ」という上から目線感がぬぐえない。今後この目線を変えていくには、企業の中にいるイントレプレナー的な人間が重要な役割を持つのではないかと思っています。

入山教授
その話で言うと、あるベンチャー支援の専門家から、大企業とスタートアップを組ませるときは大企業の超エースの人よりも、ちょっと社内で浮いていたり、少し評価されていない人の方がはまりやすいという話を聞いて、なるほどと思ったことがあります。

堂上(博報堂)
僕もそのタイプかも(笑)。企業の中で真面目に失敗せずにやってきた人はきちんと偉くなりますよね。でもこれからは、ちょっと外れていても、殻から飛び出して何かやれそうな人間をトップが見つけ出して、「お前ちょっとやってみろよ」と権限も含めて与えることが大事になると思うんです。

松本氏(VISITS Technologies)
“鈍感力”が高くないといけない、とよく話しています。スタートアップが本当に大きく何かを変えるようなサービスを出すときって、大体周りから非難轟々なんですよ。そこで「やっぱり駄目かな」と思うような人は向いていなくて、「いやお前たちは分かってないけど、これは絶対できるんだ」という、ある意味空気を読まない鈍感力みたいなものがないと超えていけないんです。大企業で成功するタイプとはペルソナが違うかもしれません。

大櫃氏(みずほ銀行)
私は当行が立ち上げたM’s Salonという会員組織で、大企業とスタートアップを結びつける場作りをしています。その活動の一環で、うちの頭取や副頭取とスタートアップの方々との朝食会を3ヶ月に一度開いているのですが、実はそこに仕掛けがあって。大企業の社長の方々にも同席していただくんです。その場で、頭取たちがスタートアップの経営者から「今どき優秀な人は銀行には行きませんよ」とか、けちょんけちょんにやられるのを横で聞いていてもらう。大企業の社長はその様子を見て、こんなに優秀なスタートアップの方々がいるのか、Tシャツとジーパンでもいいじゃないか、自分の方からカルチャーフィットしていかないといけないな、ということを実感して頂くという取り組みを一生懸命やっています。

堂上(博報堂)
頭取も巻き込んでいるのはすごいですね。大櫃さんみたいにトップを巻き込んで動ける方が社内にいると強い。鈍感力と、それに加えて最後はそういう行動力。その両方を持っている人をイノベーションの推進役に選べるといいですよね。“巻き込み行動力”とでも言うか。

入山教授
なるほど、企業内での「人選び」はキーワードの一つですね。鈍感な人を選ぶとか、トップをうまく巻き込むことができる人、といったことですね。

ミライの事業室 堂上研

既存事業と新規事業をどう分けるか、どうつなげるのか

入山教授
企業の中での、既存事業と新規事業の切り分け方についてはどうでしょうか。

堂上(博報堂)
僕は既存事業と新規事業を完全に分けてしまうのはよくないのではと感じています。新規事業に取り組むときも、百何十年続いてきたような既存の事業の強み、自分たちの持っているリソースをきちんと探索した上で、それをいかに活かすかということを考えないと前に進まないと思っています。

松本氏(VISITS Technologies)
同感です。ビジネスモデルや事業が違っても、結局同じ会社の中でやっている以上、ビジョンは同じ頂上に向かっているべきですよね。OKR(Objectives and Key Results)のO(目標、どうありたいか)はそろえて、KR(成果指標)をそれぞれの事業で持てばいい。スタートアップが大企業を怖いと感じるのは、既存事業の顧客ネットワークや大きな資金を動かせるという条件があるとき。そこが切り離されていて予算数億円しかない、という話だったら全然怖くないんです。

入山教授
大企業でも中堅企業でも、自社のアセット、リソースを上手く使ってスタートアップと組むことが重要で、完全に出島にしてしまうと実はあまり意味がないということですね。

大櫃氏(みずほ銀行)
ある大手通信会社さんでは、出島と本体の間に新規事業創出チームを置いています。新規事業の人たちは、出島で探索してきたものを新規事業のチームで失敗を恐れず思いっきりやってみて、最終的に本体の事業に吸収していく仕組みを作っておられて、素晴らしいなと思います。

入山教授
外と組むことの重要性は分かっていても、社内の説得や調整に苦労されている方もたくさんいらっしゃると思います。皆さんはどういう工夫をされていますか。

堂上(博報堂)
本社組織のあり方も重要だと思っています。新規事業を始めるなら、経営企画や経理財務、人事といった、いわゆるヒトとカネと組織を作るところが三権分立状態ではだめで、三位一体にならなくてはいけない。さらには、トップと、現場でイノベーションを起こす人と、その事務局的に動く役割、僕はピッチャーとキャッチャーと呼んでいますが、ここも三位一体にしていくことが大事。そしてもう一つ重要なのが評価制度。前年比発想ではなく、事業開発ならではの中長期的な評価をどう行うのかがを考える必要があります。

入山教授
私も最近の講演では、とにかく評価制度ですと話しています。イノベーションに必要な「知の探索」は失敗が当たり前なのに、予算達成か未達かみたいな成功・失敗の紋切り型評価になった瞬間、人は失敗を恐れて絶対にできなくなるんですよ。

松本氏(VISITS Technologies)
失敗を前提としてやるのではなく、失敗から得られた学びを評価するということかなと思います。失敗していいのは、死ぬ気でやった結果、最後どうしようもない状況になったとき。「失敗していいんだよ」は、事前に提示する言葉ではなくて、事後に掛けられる言葉だと思っています。

入山教授
私はこういうとき「人材育成」という言葉を使うことをお勧めしています。成功・失敗の話じゃなくて、将来の経営者を育てているということなんですよと。

大櫃氏(みずほ銀行)
小さい成功事例をつくって示すというのもありますね。大掛かりなことから始めると時間がかかりますが、小さい成功事例、成功体験から作っていく。すると日本って横並び主義ですから、あんなに上手くやっている企業があるよねというのが見えると、自分たちも取り組まないといけないねという話になります。簡単でもいいので小さい成功事例を作っていくことが大事かなと思います。

新規事業は人が成長する機会である

入山教授
会場から手を挙げていただいての質問です。「未来価値の源泉はどこにあると思うか。未来価値を見つける方法は?」

松本氏(VISITS Technologies)
やり方はあります。未来の価値は今の価値の組み合わせ、新結合なんですよね。例えば新しいタクシーを作るという課題があったとして、ライバルである電車やバスの価値はコストの安さや渋滞のなさ。タクシーにはドアtoドアで行けたり、プライバシー空間といった価値がある。じゃあその価値のセット同士を組み合わせた、ドアtoドアなのにコストが安く、渋滞もしなくてプライバシー空間がある新しいモビリティって何だろう?と考えればいい。人が利用している以上、そこには価値がある。それを分解して組み合わせて新しい価値の組み合わせを見つければ、未来の価値は作れます。私の会社では、それをデータで集めてAIで組み合わせて、新しいアイデアを自動で作ることをやっています。

堂上(博報堂)
僕個人としては、意志が大きいのではないかと思っています。どういう夢を描きたいか、僕らの子供が大きくなったときにどんな社会を作りたいのかといった内発的な動機をどれだけ持っているか。大企業は“SHOULD”や“MUST”から入りがちなんですけど、未来の価値を作るためには、自分は何をしたいのか、生活者のどんな困りごとを解決したいのか、といった“WILL”が重要なのではないかと。

入山教授
私もその考え方に近くて、日本の企業は意志がないんですよね。どんな価値を生もうかという方から考え出しても、そう簡単には出てきません。やはり、自分はそもそも何をやりたいんだろうということが重要だと思います。日本の会社で終身雇用で働いていると、意外とそういうことを考えるチャンスがないだけに。

大櫃氏(みずほ銀行)
あまり先のことを考えると分からなくなりますから、ちょっとだけ先の未来価値を見つけていくというのがよいかもしれません。例えばアメリカやイスラエル、インドなどを回ってみると、色々な新しい価値が生み出されています。それらを参考にしながら、ちょっとだけ先の未来価値を取りに行くと、実はその先に大きな未来価値が見えてくるんじゃないかなと私は思います。

入山教授
面白いですね。ちょっと先の未来から創造性を働かせてみる。あとはやはり危機感というものがあります。頭の認知よりも感情の方が人間にとっては大きい。シリコンバレーに行って衝撃的な未来の現場を見て血の気が引いた体験をした経営者と、それを見ていない経営者の差はありますよね。
もう一つ会場からの質問で、先ほどもお話がありましたが「新規事業の評価方法」について。具体的なご意見はありますか。

松本氏(VISITS Technologies)
事業のKPIを設定する力かなと思っています。アクティブ率でも何でも、これだけは崩しちゃいけないというものをちゃんとトレースすることで、それさえ伸びていれば赤字でも何でも目をつむる。社内で皆で納得する基準は、別に売上じゃなくていいんです。

入山教授
スタートアップでも最初の頃はずっと赤字続きで、最後に跳ねるというケースもあります。PLでやっていたら即潰れているけど、その期間でも「これがある限りは続けよう」と踏ん張れるKPIをどう作るかというのが重要ですよね。

堂上(博報堂)
やはり既存事業の評価とは色々な点で違うべきで、失敗するのが当たり前の新規事業の場合は、評価しない評価制度がベースになると僕は思います。ただ結果を出したらきちんと評価してあげる。

大櫃氏(みずほ銀行)
失敗を恐れないことを企業の文化にするためには、失敗した人に対して「どんな気付きがありましたか?」と尋ねる項目を作っておくべきですね。失敗しないとその項目は書けません、ぐらいの。

入山教授
なるほど、やはり新規事業は学習であり、人の成長の機会としても捉えるのがよいということですね。今日はありがとうございました。

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