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【セミナーレポート】コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから
第三回/コミュニティがもたらすこれからのCRM

2022.07.04
2022年2月~3月に行った博報堂マーケティングスクール「コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから 」のセミナーの模様を3回に分けてお届けします。

「コミュニティは企業・ブランドに何をもたらすのか?」を主テーマに、近年の事例を通して、これからの「コミュニティ」のあり方のヒントを提供するとともに、企業ブランド変革への活用について探っていく本セミナー。
第三回は流通科学大学商学部の羽藤雅彦准教授をお迎えし、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 上級研究員/博報堂ブランド・イノベーションデザイン コミュニティプロデューサーの米満良平のファシリテーションのもと、これからの顧客との関係構築について提案します。

■コミュニティ型ブランドの育て方

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター上級研究員/博報堂ブランド・イノベーションデザイン コミュニティプロデューサー
米満良平

顧客を“育成”するこれまでのCRM発想

企業はコミュニティに、顧客育成、LTV向上、推奨促進、さらに価値機会の探索を期待しますが、それぞれぶつかりがちな壁があります。顧客育成においては、既存顧客の頻度アップが難しい、既存顧客の熱狂が新規顧客参加の障害になるなど。LTV向上においては、お客様を囲い込んでの購買促進にトライするものの効果が出ないなど。推奨促進においては、アンバサダープログラムや会員制にトライするもののファンが推奨に抵抗があったり、なかなか拡散しないなどです。背景にあるのは、良い顧客=たくさん買ってくれる人と捉える従来のCRM発想。「買う」だけがブランドと生活者との関係性でしょうか。コミュニティが「共通の目的の実現に向けて協力し合う活動体」ならば、ブランドと生活者の間にはさまざまな関わり方があるはずです。

たとえば「環境にもっとよいアクションをしよう」と活動を共にする顧客、「一緒に楽しい体験をしよう」とイベントに参加する顧客、「こんな商品が実現できたら」とアイデアを提供する顧客は、必ずしも「買う」ということつながらないかもしれませんが、ブランドにとって良い価値をもたらしてくれる存在です。必要なのは、価値を提供し競争のなかで市場をつくる発想から、手を組んで価値を一緒につくる発想への転換。どう「消費者」を「管理」し「購買促進」するかではなく、どう「仲間」を「発見」し、「関係を深化」させるかという視点が重要です。

コミュニティ型ブランドが持つべき“共に育つ”という視点

商品アイデアを投稿してくれる顧客は、アイデア自体がイノベーションをもたらす可能性があるし、企業を応援してくれる存在でもある。「ニーズを解決してくれる」「独自性がある」などの企業イメージにつながり、ほかの消費者にも良い効果をもたらしてくれます。つまり彼らを商品開発者やイノベーターと同様にとらえ、関係構築する発想が必要になります。あるビール会社のコミュニティで、他社ユーザーがいることでコミュニティが活性化したり、参加者の満足度が上がった例もあります。彼らをコミュニティの運営をサポートする存在と捉えることも可能です。またある消費財メーカーの会社では、ファンを入社式に呼ぶ交流イベントを実施。コミュニティの新規参加者でもある新入社員に対し、ブランドの想いやパーパスを伝えるアンバサダーとして貢献していました。彼らを、想いやパーパスを広げてくれる存在としても捉えられます。このようにより多様な「良い顧客」を定義し、一緒に育てていくという視点が重要です。

コミュニティ型ブランドが見るべき6つの力と24の指標

我々はブランドが見るべきポイントを3つの視点ごとに、6つの力と24の指標にまとめました。

視点1 PARTICIPANT「ブランドと顧客が接点を持ち体験が共有されているか?」
ファン力:
・愛着をもってくれるファンがたくさんいる。
・家族や友人知人に商品やサービスを紹介してくれるユーザーがたくさんいる。ファン同士の交流をつくれている。
・中長期的に使い続けてくれるユーザーがいる。
オープン力:
・ユーザーと直接つながる。
・日常的にユーザーとコミュニケーションできている。
・交流や活動をファン以外の人にも共有している。
・都合の悪い方法も公平に発信できている。

視点2 INTERACTION「ブランドと顧客の共創アクションが実装できているか?」
傾聴力:
・お客様相談室、SNSなどユーザーの声を聞く場がある。
・その声に真摯に耳を傾けている。
・それに対し対話やコミュニケーションを積極的に行っている。
・対応する部署にフィードバックし企業やブランド活動に活かしている。
実現力:
・ユーザーと一緒に商品やサービスを開発したりアイデアを募集している。
・他企業や団体とも共創している。
・ユーザーに対して成長や新たな発見を提供できている。
・ユーザーの期待を超える体験を提供できている。

視点3 PURPOSE 「魅力的なパーパスが設定、実行推進されているか?」
未来志向力:
・目指す未来、新たな幸せを設定できている。
・それが社内で浸透しており、活動が行われている。
・生活者から見て自社、ブランドが社会になくてはならない存在だと思われている。
・SDGs、ダイバーシティなど社会的イシューに積極的に力を入れている。
求心力:
・パーパスを生活者と共有できている。
・パーパスを積極的に発信している。
・それに賛同し応援してくれる人がいる。
・生活者からともに時間を過ごしたいと思われている。

どういうコミュニティを目指すかによって重要な項目は変わってきます。ぜひ目指すコミュニティのタイプから、ブランドが大切にする指標を設定してください。

■ブランド・コミュニティに参加する消費者を理解する

流通科学大学商学部准教授
羽藤雅彦 氏

そもそもブランド・コミュニティってなに?

消費者とブランドの結びつきの強さには5段階あります。第1段階はブランドの存在を知る「認知」、第2段階はブランドで自己表現する「アイデンティティ」、第3段階は反復購買する「長期的な関係性」、第4段階はファン同士で話し合う「コミュニティ」、第5段階は他者に薦める「口コミ」で、これを絆の5段階と呼びます。
単なるブランドと消費者の結びつきと、ブランド・コミュニティの違いは、後者には消費者同士の関係性という社会性があること。企業が消費者同士の相互作用を促すために何ができるかという視点が重要です。学術的には「当該ブランドを好む人々の社会的関係から構成される、地理的な制約を伴わない特殊なコミュニティ」と定義されていて、特定ブランドを好む人の集団であり、社会的関係から構成されており、地理的な制約を伴わないという特徴があります。中でも特定ブランドを好む集団のうち、商品に注目するコミュニティは消費コミュニティと言われており、イノベーションを一緒にしたい、体験を共有したいというコミュニティは、ブランド・コミュニティと分類されています。

消費者とブランド・コミュニティ

消費者の意識は、コミュニティに参加するなかで、参加、相互作用、意識変化、行動(成果)の段階に変化していきます。初めは情報収集が目的でもやり取りが面白くなり相互作用が主目的になるなど参加動機は変化します。このとき、情報収集も相互作用も参加への影響は同じことがわかっているので、企業はどちらにも注力する必要がありそうです。次にどんな相互作用をしているか。たとえば、とあるスナック菓子のコミュニティ(2021年に閉鎖)には受験制度があり、合格者のみ3年間のメンバーシップを得られます。生徒数は9000人。企業の事業部の社員が先生役で、居住地に基づいたクラス分けがされます。各クラスの代表1名が立候補で役員になり、任期1年でクラスの管理にあたります。クラスごとの掲示板で語られる内容を分析すると、商品とは直接関係のない話題が多く、かつ大半が雑談ということもわかりました。
相互作用の頻度の高まりとブランドとの結びつきの強化の因果関係を分析すると、そこにファクターXとして、コミュニティとの同一化(一体化)があることがわかりました。コミュニティのイメージと自分のイメージが重なり合えば合うほど、一体感が高まる。そしてコミュニティやブランドをひいきする傾向が強まるのです。つまり参加や相互作用の頻度、いいねの数だけに注目しても、成果につながらないということ。結びつきが強まった消費者は商品開発への協力や口コミ、再購買を積極的にしてくれることが明らかになっています。同一化を高めるためには、他者を信頼でき、互いに助け合うことができる、居心地のいい場が必要。この「信頼」と「互酬性」という社会関係資本を醸成することが重要です。

ブランド・コミュニティにはどんな消費者が参加しているのか

ブランド・コミュニティ参加者を対象に、コミュニティとの同一化、ブランドとの同一化のレベルを測ると、39.45%の人はそこそこブランドが好きで一体感もあり、コミュニティとの同一化もそこそこしているけどそこまで高くないことがわかりました。17.9%はコミュニティともブランドとも同一化が低く、24.1%は逆に同一化が高いことがわかりました。重要なのは、一体感が高い人の方がロイヤリティ水準も高く再購買の傾向があるということ。このように消費者をまずは分類して、各グループに刺さる施策を考え、低同一化グループから高同一化グループへと育てていくことが重要と考えます。

■ディスカッション

ブランドが大事にすべき指標

米満
前述のブランドのコミュニティにおける指標(3つの視点と24の指標)について、どう思われますか。

羽藤
PARTICIPANTとINTERACTIONとPURPOSEという分け方には同意します。ただ、同一化や、参加者がどう感じているかの視点も必要かと思いました。

米満
確かに参加側のモチベーションを知ることも大事ですよね。スナック菓子のコミュニティではどんなモチベーションで参加者が集まっているのでしょうか。

羽藤
まず、女性が多い。特に主婦の方は属しているコミュニティが少ないので、スナック菓子のコミュニティが大事な場所になり、継続的参加につながっています。小学生から高齢者まで互いの属性を知らないままフラットに会話しているのは匿名性ならではの居心地の良さなのだと思います。

米満
コミュニティが自走する仕組みができていますね。

羽藤
ブランドとの結びつきが強まれば強まるほどコミュニティは保守的な傾向になりますが、期限も3年なので長老的な人が出てこず、流動性があるのもいい。「学校だから3年で」という理由で設計したそうですが、結果的に奏功しています。

コミュニティを成長させるために必要なこと

米満
スナック菓子のコミュニティは大規模ですがクラスという形で小さいコミュニティをたくさんつくっている。生徒が入れ替わるので規模感もコントロールできていますよね。

羽藤
小さめの熱のある人を中心にした場でもいいし、SNSのように緩い大きな結びつきでもいい。2種のコミュニティを持ち、コントロールすることは可能でしょう。規模は、数10人~100人くらいが適当。大規模だと結局企業からのワンウェイのやり取りになり、コミュニティである必然性もなくなってしまいます。結びつきを強めるためには、規模よりも熱量をどう高めるかが大事だと思います。

米満
互酬性について、企業がうまくアプローチすることはできますか。

羽藤
大事なのは積極的に活動してくれる、同一化の高いメンバーを見つけること。そのためには企業が会話を促したり返答するのも大切です。

コミュニティの中でロイヤリティはどのように高まっていくのか?

米満
ロイヤリティを高めるために大事な視点は何ですか。

羽藤
同一化の数値が高まればロイヤリティも高まるので、同一化をしっかり測定しながら運営すること。アンケートなどで恐れずに質問していいと思います。

米満
企業が参加者の声を活かそうとしていること自体、信頼や互酬性につながりそうです。いろんな視点でコミュニケーションをとることですね。
スナック菓子のコミュニティではどうやって自然な相互作用が生まれていましたか。

羽藤
掲示板のように、書き込みやすい場の設計が大事。もし相互作用が生まれないのであればその「場」はやめてもいい。他のユーザーの存在を紹介するなど、もっと緩い結びつきからロイヤリティを上げることもできると思います。いずれにしても熱狂的な人が1人でも2人でもいればどんどん巻き込めばいいと思う。彼らは積極的にSNSで発信する傾向があるので、新しい人を連れてきたり、彼らのフォロー先を見て企業のどんな点が好かれているかを知ることもできます。

ロイヤリティと推奨・提案行動/信頼はどのように関係するのか?

米満
すでにわかりやすく講義していただきましたが何か補足があればお願いします。

羽藤
ロイヤリティが高まると推奨行動も出るという相関関係がありますが、親が買うからとか、学校指定だから使う人も含まれるので、ロイヤリティの測定は難しい。ですからマーケティングにおいては推奨行動を最終的な成果として見ることが重要だと思います。またコミュニティ開始からどんな変化があるかを測定しながら改善していくことが大切です。

米満
本日は、ありがとうございました。

羽藤 雅彦氏 (はとう まさひこ)
流通科学大学商学部マーケティング学科 准教授
関西大学大学院商学研究科博士課程後期課程終了。博士 (商学)。

専門はブランド論、消費者行動論、マーケティング論。ブランド・コミュニティを中心に研究を進め、2019年に単著『ブランド・コミュニティ』(中央経済社) を出版 (日本広告学会奨励賞)。
主な業績は「ブランド・コミュニティにはどんなメンバーが参加しているのか:同一化を軸にした分類」(2020, 消費者行動研究)、「ブランド・コミュニティへの参加を促す要因に関する研究」(2016, 流通研究)。

米満 良平 (よねみつ りょうへい)
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員
博報堂ブランド・イノベーションデザイン コミュニティ・プロデューサー

マーケティングリサーチ会社を経て、2009年に博報堂入社。
共創型のマーケティングを専門に、新商品開発・ブランディング、地域・地域創生、産官学連携オープンイノベーション、コミュニティづくりなどのプロジェクトを担当。
法政大学と博報堂による産学連携プロジェクト「ユーザー・イノベーション・ラボ」に参画・運営

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