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【セミナーレポート】コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから
第二回/生活者にとってのコミュニティと企業にとってのコミュニティ

2022.05.23
#ブランド・トランスフォーメーション
2022年2月に行った博報堂マーケティングスクール「コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから 」のセミナーの模様を3回に分けてお届けします。

「コミュニティは企業・ブランドに何をもたらすのか?」を主テーマに、近年の事例を通して、これからの「コミュニティ」のあり方のヒントを提供するとともに、企業ブランド変革への活用について探っていく本セミナー。

第二回は明治学院大学経済学部経営学科の大竹光寿准教授をお迎えし、博報堂第二BXマーケティング局部長の二木久乃と、リレーションシップマーケティングの観点から、これからの生活者に適したコミュニティについて考察した内容をレポートします。

■コミュニティのつくり方~生活者から見たコミュニティの魅力

株式会社博報堂 第二BXマーケティング局 部長
二木 久乃

そもそもコミュニティとは

コミュニティを単なるファンコミュニティではなく、「同じ目的を持った人たちがやりとりをする居心地のいい場」ととらえたうえでお話します。コミュニティづくりの大前提となるのは、企業とお客様が同じ目的に向かってやりとりができ、かつ購買/推奨/提案行動が推進される設計です。企業と顧客の目的を結びつけるのはそう簡単ではありませんが、成功している企業コミュニティの参加者を調査したところ、たとえば「企業が苦心して食品をつくっていることを知り、適当に選ばないようにしようと思った」「キャンプ愛が増した」「環境問題に目が行くようになった」などの声から企業と生活者が同じ目的に向かっているのが見えますし、「コーヒー愛を伝えあうのが面白い」「お金の不安が解消された」「生活が便利になった」など、ブランドとの距離が近づいて気持ちが満たされたり気付きを得られており、その結果、購買/推奨/提案行動に結びついていることがわかります。

成功ケースから紐解くコミュニティのつくりかた

コミュニティをつくる際は、企業はお客様の日々の不平不満と、自社コミュニティが提供できることのマッチングを考える必要があります。刺激のない日常、自分と似た環境の人が周りにいない、趣味について語る相手がいないなどといった誰にでもあるペインに対し、日々の買い物をちょっと楽しくしたり、沼れる趣味を作ったり、話の合う人を探せるような適切な場や情報を企業コミュニティが提供することで、ウィンウィンの関係になれるのです。さらに「このブランドと付き合うと毎日お得で嬉しい」「このブランドで知識が増えて生活が豊かになる」「このブランドが自分の居場所を提供してくれる」「このブランドの存在が人生を楽しくさせてくれる」といった関係性が築ければ、企業は購買喚起やロイヤリティアップというメリットが得られ、生活者は企業と距離が近くなることで潜在的なパーパスが顕在化され、両者が同じ方向に向かっていける。こうして顧客と企業の目的を近づけることができます。

生活者から見たコミュニティ4分類

企業コミュニティをタイプ分類すると、お得情報で買い物が楽しくなる「得」コミュニティ、沼れるカテゴリーを提供する「沼」コミュニティ、共感できる人同士繋がれる「絆」コミュニティ、ブランドのレア情報を入手できる「限」コミュニティがあります。たとえばあるガス会社ではポイントや節約金額を可視化し節電キャンペーンなどを実施する「得」コミュニティを、ある食品メーカーではキャンペーンで当たるトマトの苗を育てる過程で出た疑問を質問できたり、野菜全般の知識が得られる「沼」コミュニティを、ある銀行はお金の相談ができ、共感や納得できる情報を得られる「絆」コミュニティを、ある自動車メーカーはファン同士熱く語り合いつながれる「限」コミュニティを持っています。それぞれ企業にとっては、「得コミュニティ」では離脱防止を図れ、「沼コミュニティ」ではカテゴリーリーダーのポジションを獲得でき、「絆コミュニティ」では本音の意見を吸い上げることができ、「限コミュニティ」ではロイヤリティアップを図れるというメリットがあります。
またコミュニティは動的であり、課題を見極めながら機能を付加したり削除しながら活性化することもポイント。さらに「沼コミュニティ」なら「パーパスドリブンコミュニティ」に、「絆コミュニティ」なら「イノベーション共創コミュニティ」に、「限コミュニティ」なら「体験共有コミュニティ」などに進化させることも一手だと考えます。

■コミュニティは企業・ブランドに何をもたらすのか?

明治学院大学 経済学部 経営学科 准教授
大竹 光寿 氏

企業がコミュニティに寄り添うと、ブランドの認知があがる

コミュニティとは「デジタル世界においてブランドを介した会話ややり取りが生まれる場」であるというのが、研究上で厳密に定義されているコミュニティの意味です。参加者に当事者意識があること、企業がつくる場合もあれば愛好者がつくる場合も、あるいは企業と愛好者が一緒につくる場合もあること、また誰もが知るブランドだけでなく電球といった消費財にまでコミュニティが存在するという特徴があります。そしてモノ自体を語るというより、モノを使ったりやり取りする際にコミュニティが形成されると捉えるのが学界の主流です。たとえば、とあるカメラブランドのコミュニティは、ファンの間にできていたコミュニティに企業が入り、拡大・継続しているケースです。

工具のオンラインショップを展開する会社は、植物のSNSアプリを運営していますが、同社の社長いわく「毎日水やりや鑑賞で触れる花はコミュニティを形成しやすい」とのこと。加えて私は、参加者同士の共有知をつくり、そこでしか得られない体験知に触れられる良さがあると考えます。苗や品種など特定ブランドにこだわらないこともカテゴリーの共有知をうまくつくることに貢献しており、持続的なコミュニティ運営につながっていると言えます。またゴルフメーカーのコミュニティも、他社メーカーのユーザーも集まってスキルアップの知恵を幅広く共有する場になっています。

たとえば、欧州の自動車メーカーの場合、大きなイベントでは、イギリス好きやクラシックカー好きなどオーナー以外も参加できる自由度を担保しています。コミュニティの居心地の良さ、存続する条件としては、特定ブランドに縛られないこと、愛好者だけに制限しないことがあり、さらには企業が小さなコミュニティをつなげたり、適度に関与してカテゴリーコミュニティに昇華させる傾向もあります。日々の活動に対しては少人数の居心地のよさを担保し、年に1度は企業主催のイベントを提供するなど企業が主導することも可能です。

いずれにしても必要な視点は「距離感」と「メンバーシップ」。自然発生的にできたコミュニティを観察するだけで放置するのか、関与するのか。あるいは企業(社員)も一ファンとして活動するのかといった距離感。またコミュニティの成長と共に、ファンだけでなく開発者や関係者が参加し多様性が増すと、「メンバーシップ」における指針も大事になります。

「数人の対話」から発生し「提供者による関与」があり「デジタル世界で対話が共有」され、「多くの人によるブランド理解」につながることがコミュニティであるならば、企業は最初の数人の会話をうまく発見し、寄り添い、それを多くの人に向けて可視化する導線づくりをする必要があります。居心地のいいコミュニティは局所的にいくらでも存在しますから、企業がうまく寄り添うことでその姿勢が多くの人に伝わり、ブランド認知にもつながっていくと考えます。

コミュニティがもたらす弊害に向き合うと、ブランドが変革される

研究していて実感するのは、特定のファンだけでコミュニティを持続させるのは至難の業だということ。何十年も続くコミュニティは、特定のファンの集まりになっていません。また、お客さんに寄り添えば寄り添うほどその声を無視できなくなり、もともと持っていたブランドらしさがファンと一致しなくなるということもある。コミュニティがあることで、一部からの否定的な反応が強化されてしまうという弊害も、覚えておきたいところです。

■ディスカッション

いち生活者としてどんなコミュニティが居心地がよいか

二木
先生は、大学の准教授という肩書をお持ちですが、肩書を忘れられる場所はありますか?

大竹
週末に通っているゴルフ場で、初老の男性が、初心者の私が上級者向けのあるブランドのクラブを持っているのを見て話しかけてきて会話するようになりました。私は勘違いでそのクラブを使っていましたが、彼にとっては「そういう練習の仕方もあるのか」という発見になっていた。互いに肩書も知らないが、ブランドを介した居心地のいい空間ができています。

二木
参加者の温度感が同じくらい、干渉や否定がなくゆるやかにつながっている、ネット検索よりも知りたいことが知れる、無理せず参加できる…なども居心地の良さにつながりそうです。

大竹
コミュニティには現場で偶然発生した知を実感に基づいて獲得できる良さがありますが、これを企業が意図的につくるのは難しいですよね。

二木
ちょっとした失敗、苦労、変な使い方などをシェアできるような場ならリラックスして参加できるかもしれません。

大竹
前述のカメラブランドのコミュニティでは、「ズーム機能がほしい」という意見に対して、「ズーム機能がないのが良さだ」などブランド理解の深い消費者の存在によってメンバー間で解決しています。一方でブランド理解が低い人でも入りやすいある種の緩さも必要です。

局所的に発生しているファン同士のやりとり(コミュニティ)をどう見つけ、アプローチするか

大竹
商品が消費されている現場に企業が赴くことが大事。またデジタル上で、自社の製品について検索し発見することも可能。ある大手メーカーの電球ブランドに、コミュニティがあるのかを検証したところ、半年以上継続的に語り合っている人たちを発見しました。どんな製品でも探してみる意味はあると思います。
また、きっかけは同じブランド好きということでも、居心地を良くするにはそこから派生したほかの話題も語れる方がいいでしょう。初めから企業が作りこみすぎて、同じようなファンしか集まらず衰退する事例は多い。企業は囲い込みたくなるでしょうが、あえて広げる方が継続につながると思います。

二木
いざ見つけたら、スルーしないことが必要なんですね。
一方で企業がアプローチする際の最初の一歩は距離感が難しそうです。

大竹
失敗してもいいから踏み込んで反応を見ればいいと思う。企業が近づくことでテンションが上がる人たちがいることがわかれば、そこから育てることも考えられます。ブランド転換期の原点にかかわった人など、ファンよりも確実に詳しい人に入っていただくのも手。自社の資源とコミュニティを突き合わせ、優先順位を決めてアプローチし、得られた反応から、自社で構築するならどういう場にするかアイデアを練ればいい。

二木
企業が押し付けすぎずに、寄り添っている感じをうまく伝えるポイントはありますか。

大竹
カメラブランドの場合、愛好者どうしが写真とどう向き合っているかを語り合い、知識を共有しています。プロもいれば初心者もいて、コミュニティ主催者の方自身がブランドを体現する人としてイベントや話に登場され、会話が発生する場をつくっている。企業がコントロールしている部分もありますが、基本的には写真、カメラに対する考え方を提示しながら、顧客の声を聞いて育てていくという姿勢で、結果的にカテゴリー、業界の活性化の場になっています。

二木
企業が情報提供することで、参加者の毎日がちょっと楽しくなるような関係性をつくるということですね。

大竹
前述の電球の場合、住空間カテゴリーのコミュニティをつくろうとしていましたが、実際のコミュニティで語られていたのは、電球に使われているガラスの生産工場はどこかといった細かい話。小さなこの製品の部品が、いかに手間暇かけてつくられているかといった話の方が求められていることがわかりました。企業は各種のコミュニティにまずはアプローチし、そういうニーズを把握することが重要になってくるのだと思います。

大竹 光寿氏 (おおたけ みつとし)
明治学院大学経済学部経営学科 准教授

一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より明治学院大学経済学部経営学科専任講師を務め、15年4月より現職。
専門分野は消費文化理論、市場戦略論。消費文化の形成プロセス、市場認識と組織慣性を主要な研究テーマとし、正統性や組織慣性の観点からブランドマネジメントに関する研究に取り組む。
趣味はいろいろな企業の社史を読んで新たな社史のスタイルを考えること。

二木 久乃 (にき ひさの)
博報堂 第二BXマーケティング局 部長

新商品開発・コミュニケーション戦略・事業戦略などに従事。
これまで担当してきたブランドや企業は、トイレタリー・飲料・自動車・食品・教育・製薬・化粧品など、多岐にわたる。
ACCマーケティングエフェクティブネス部門審査員(2018年・2019年)
日経クロストレンド 『超図解・新しいマーケティング~5分でわかる「博報堂の流儀」~』共著(2020年)
「Initial Link(イニシャルリンク)※」リーダー。
※マーケター・メディアプロデューサー・戦略コンサルタント・デジタルクリエイターがワンチームとなることで、顧客ニーズに合わせたコンテンツ開発をすすめ、サービスやシステムのアップデートに統合的に対応できる横断型チーム

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