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【セミナーレポート】コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから
第一回/企業が構築すべきコミュニティ

2022.04.25
2022年2月14日(月)に行った博報堂マーケティングスクール「コミュニティによるブランド変革ー研究と実践から読み解くブランドコミュニティのこれから 」のセミナーの模様を3回に分けてお届けします。

「コミュニティは企業・ブランドに何をもたらすのか?」を主テーマに、近年の事例を通して、これからの「コミュニティ」のあり方のヒントを提供するとともに、企業ブランド変革へのについて探っていく本セミナー。

第一回のテーマは、『企業が構築すべきコミュニティ』。ゲストとして、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科の宮副謙司教授をお迎えしました。まず、博報堂ブランド・イノベーションデザインの上地浩之より「コミュニティの定義」などについて、宮副謙司教授より「コミュニティ型マーケティング」について説明をしていただきました。また、その後、コミュニティの多様性をテーマに、戦略ごとに切り口を変えて育むコミュニティのあり方についてディスカッションをおこないました。

■わたしたちはどのようなコミュニティを構築するべきか?

博報堂ブランド・イノベーションデザイン
コミュニティプロデューサー
イノベーションプランニングディレクター
上地浩之

わたしたちが捉えるべきコミュニティとは?

これからお話しするコミュニティは、いわゆるファンコミュニティではありません。たとえば某自動車メーカーが進める他企業や地域生活者を巻き込んだ共同実験は、“モビリティの未来をつくる”という価値を共創する新しい集団、という意味でコミュニティといえます。近年経営戦略として、地域社会との価値共創について語られる企業も増えてきています。そうした動きも含め、いま企業やブランドにとってコミュニティのあり方が問われ始めています。

ブランドをとらえる視点も変化しています。高度成長期はブランドらしさを定義し、世の中に定着させていくという考え方、低成長期では資産としてブランドを貯め、人格ととらえて定義していくブランドアイデンティティの考え方でした。定常化期のいまは、コミュニティ型のブランドがひとつの答えになっています。なぜなら、商品過多・情報過多により、売り場という接点だけではもはやブランドの価値を届けにくくなったため。またブランドと生活者が直接つながれるようになり、それが可視化されることで、そこでの対話やコミュニティがブランディングに寄与するようになったためです。ブランドと生活者の関係をどう設計し構築するかが成功の鍵になります。

たとえばD2Cなら、顧客対話による継続的な商品のアップデートが、サブスク型ビジネスモデルなら、一過性の商品提供から継続的な関係構築が必要になります。パーパスブランディングにおいては社会への価値提供をいかに企業の文脈に組み込むか、VOC(Voice of Customer)経営においては顧客の声を中心においた経営戦略が重要になります。
ブランドや企業のあるべき姿も、かつての「価値提供」から「価値共創」へ、「競争戦略」から「共創戦略」へとシフトすることで、顧客に対して、また他社に対しての態度、施策、発信する情報も大きく変わってきます。コクリエーション型の共創戦略において、コミュニティは重要な装置になるのです。

コミュニティはブランドに何をもたらすのか?

改めて「コミュニティ」を定義するならば、「共通の目的の実現に向けて協力し合う活動体」と考えることができます。そこでの意義は「目的の達成」にあり、必要なのは「目的を共有する仲間」が集まれる設計で、ブランドと参加者は、目的実現のための協力関係という「繋がり」になる。こうしたコミュニティが企業にもたらすのは、自発的な応援行動の推進。つまり、心から買いたいと思って買ってもらう購買行動、愛着や信頼をもとにした推奨行動、生活者から声を挙げる提案行動といった応援行動をコミュニティがうながしてくれるのです。
なお自発的応援行動を前提するとブランドのありかたも変わります。二次的な行動も含めた顧客体験設計や、VOCなどに合わせた事業構造の進化の姿勢を示すことも重要。パーパスも、企業単体ではなく生活者や他のステークホルダーと協力して実現する社会について語ることで共感が生まれていきます。

具体的にブランドコミュニティを3つに分類すると、1つ目はブランドを中心とした体験の共有を目的に集まる活動体があります。ブランド体験を共有したい人の集団で、いわゆるファンコミュニティも含まれます。2つ目は、事業の継続的アップデートを目的にした活動体。D2Cの多くはこのタイプのコミュニティを形成しているブランドが多いです。ブランドに共感する人が商品やサービスのアップデートを推進するイノベーション共創コミュニティです。そして、3つ目は、何かしらの社会的意義を持った“パーパス”の実現に向けて活動を推進するパーパスドリブンコミュニティです。それぞれのタイプによって持つべきKPIや取り組むべきアクションも異なり、企業は目的に応じてブランドにとってどのような活動体が適しているか検討する必要があるわけです。

ブランド構造の変化とコミュニティ設計の3つの視点

これまでのブランドはいかにその価値を高め、広いターゲットに届けるかが問われていましたが、いまは既存の一部顧客に対していかにLTVを高めるかが問われています。また、ビジョンからパーパスへと目指すものの置き方も変わっており、一部の顧客に対して大きな指針を見せるという構造に変化しています。次なる課題は、顧客を横に広げていく設計です。共感してくれる集団を設計すると同時に、周囲の人も巻き込む施策の展開が必要になります。
以上から、コミュニティ設計に必要な3つの視点が導き出せます。1つ目は「目的」。すべての参加者が共感し行動できるか、信頼できる目的かという視点です。2つ目は「参加者」。ファンはどう位置付けられるのか、参加者は何をモチベーションに参加するのか、有識者など誰の協力が必要かという視点です。2つが明確になれば最後は「つながり」。参加者にとってのトリガーをどう用意するか、幅広い参加を生み出せるかの視点が重要です。これらのポイントを押さえたコミュニティ設計こそが非常に重要だと私は考えています。

■「コミュニティ型マーケティング」~新しいマーケティング・フレームワーク~

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授
宮副謙司 氏

「コミュニティ型マーケティング」という新しいフレームワーク

近年どんどんと進化する企業のマーケティング活動を的確に説明するのに、「コミュニティ型マーケティング」という新たなフレームワークを提示し、そのご紹介をします。まず、大学の周辺である青山にあるオーガニック食品専門スーパーを例にお話します。同社は単にオーガニックな食品や環境にやさしい雑貨類の商品を品揃えし提供すると言うよりも、「オーガニック・ライフスタイル」という価値を提供していると捉えられます。そこでは、仕入先では一定のオーガニック基準を満たす生産者やメーカーが組織化され、その商品を仕入れ、オーガニック・ライフスタイルの価値を形成しています。販売スタッフがその価値の広め、潜在顧客に認知させ、購入が始まり、継続的に購入するようになることで、最終的にそのライフスタイルを定着させるという活動になっています。80年代の開業当初からの常連顧客が、顧客イベントで新規顧客と交流し、ライフスタイルのベテラン顧客が入門顧客を育てることも多くあり、消費者と生産者の交流もさかんで、企業活動がまさにコミュニティ活動になっています。

このように、企業のマーケティング活動の近年の顕著な変化としては、まず価値の創造において、狭義のプロダクトからサービスへとその概念が広がってきています。すなわち、顧客が使うときの価値など顧客視点の価値づくりになったことで、付随機能とされてきたサービスが重要なソリューションとなってきているとも言えます。サービスまで含めて製品ととらえる価値創造が重要となり、ネーミングやパッケージでの差別化ではなく、楽しみ方やアフターサービスといった付加機能が差別化のポイントになっています。次に、価値の受け手、すなわち、顧客の捉え方も、購買対象の狭義の顧客から、企業や製品に関心を持った潜在顧客から組織化するようなコミュニティとしての捉え方へと移ってきています。そして価値の伝達と提供も変化しています。まず企業と接点を持ってもらい、価値を体験してもらい、共感を呼ぶことが重要となります。そして、それが購買や利用につながります。このように、何をつくって、誰に、どのように伝達し、届けるかを考えると、「コミュニティ型マーケティング」という新しいフレームワークでのマーケティング・アプローチが一つの答えになるのではないでしょうか。

コミュニティ型マーケティングがもたらすこと

もう少し詳しく見ると、まず「共感する人を獲得する」アプローチとして、企業が顧客の関心を呼ぶコミュニティをつくり、ファンの組織化を図ることが考えられます。「共感度・情報発信度の高い人を育成」するには、アンバサダーやインフルエンサーを活用します。「顧客が顧客を育てる」側面では、ベテランが初心者を育成することが生まれます。「顧客間の自然発生的な盛り上がり」としては、メーカーが意図しない価値が消費者間で発見され、盛り上がるといったことがあります。「顧客を企業の価値創造に参画させ、取り込む」例としてファン同士のディスカッションからヒントを得て新製品を開発したり、「企業連携での新たな価値創造・伝達・提供」する例として、他企業との連携から新たな製品開発や価値の伝達、提供を協働する場合もあります。このようにコミュニティを意識した顧客との関係性により、新しい顧客間コミュニティや、企業間コミュニティによる価値創造も可能になるのです。

青山エリアにある企業においては、①商品ブランドのファンのコミュニティ、②ライフスタイルの共感によるコミュニティ、③プロフェッショナルなタレントのファンのコミュニティ、④独自で高い専門能力を基盤とする法人営業のコミュニティという、4タイプのコミュニティがあります。たとえば、とあるファッション・ブランドは長年のファンが集まるだけでなく、若い人にもわかりやすいロゴのファッションをつくっていたり、そのブランドから独立した若手デザイナーについた顧客が、後に「親ブランド」に入ってくる展開も見られます。このブランドの服をまとうという体験価値を伝えるために、写真家、美術館、建築家などによる伝達のコミュニティも存在し、クリエイティビティを維持しながら、顧客を増やし売上を増やし、継続性のある経営となっています。
また、インテリア関連の小売店ブランドでは、まずカジュアルインテリアを通して新規顧客を得て、次第に年月を経て高感度家具に発展させていく流れができています。インテリアコーディネーターという専門家がしっかりと顧客づくりを行うほか、オフィスやマンションなどの法人ハウジングビジネスにもつながっています。また、小売店の加盟店コミュニティも地方に展開していて、企業として一定のスタイルを明確化することでそのブランドを広げることに成功しています。

コミュニティ型マーケティングから得た新たな発見

これらの事例からわかるのは、潜在顧客に価値を認めてもらうと同時に熟達者の満足度を高めるなど、一定方向にベクトルを向けながらその意味合いを変えることで複数方向に並行してアプローチし、広め、深めるマーケティングが可能になると考えられます。また、企業と顧客が常時接続関係にあり、従来のようなセグメントを仮想するやり方でなく、あらかじめ顔が見え数も明確な特定多数への実対応が可能になるため、ある意味B2Bマーケティングに近い状況になります。そして、その中で顧客間に出てきた意図しなかった顧客が創発する価値や気づきをしっかり次なる企業活動に活かすマーケティングも重要になります。「コミュニティ型マーケティング」が発展すれば、価値の伝達は企業から顧客への「教育」になり、顧客から企業へのオーダーから「協働」も生まれ、SDGsのような社会的テーマに結びついた新しい価値に向けて企業間が「連携」することにもつながると考えます。

■ディスカッション

ブランド変革を実現するコミュニティとは?

上地:
ブランド変革の推進にコミュニティはどう寄与できるでしょうか。

宮副:
企業はより積極的に顧客の声を取り入れることが重要と思います。いまは企業と顧客は結びつきやすいし、顧客もSNSなどで主体的に活動している。そうした動きや声をしっかり企業が巻き取っていくことで変化につなげられるはずです。消費者間で生まれた新しい価値や使い方を的確にとらえられるよう、マーケティングスタッフの感度を磨くことも大切です。

上地:
先生はコミュニティデザインとサービスデザインを並列でとらえられていました。

宮副:
共通するのは顧客にとっての価値を設計、デザインするという視点。細かいセグメントは必要なく、企業の製品やサービスに共感し、企業の呼びかけに反応する人であればいい。そう考えるとサービス(何を)とコミュニティ(誰に)がきれいに対になると考えました。

上地:
ビジネス上のKPIはどう想定すべきでしょうか。

宮副:
重視すべきは顧客側の満足が高まったかどうか。満足度・参画度が高まり企業の評判が上がり、その結果として顧客数が増えて売上が増えると考えるのが自然でしょう。

そのコミュニティはどのように構築・運営するのか?

上地:
コミュニティの構築、運営において、共感者の育成と顧客化を分けている理由は。

宮副:
関心が1%もないような消費者に関心を持ってもらい共感してもらうという話と、すでに認知してもらいいいと思ってもらっている顧客へのアプローチの仕方は違う。間口は広げておいて、価値をどう楽しんでいるかは消費者が発信すればいい。トライアルしながら、何かしら反応してもらえた人は確実に仲間に入れていくことが重要です。

上地:
コミュニティを始める前に準備すべきことは何でしょうか。

宮副:
自社や製品の特徴や強みなどを見つめ直し、どんな価値を認めてもらいたいかを明確にすること。ただ、それが消費者にヒットするかはわからないので、複数の引き出しは必要です。

上地:
コミュニティがうまくいっていない場合はどこで判断すべきでしょうか。

宮副:
よくない評判で盛り上がってしまうリスクもあるので、次の手を準備しておくべきです。ただ、前提として顧客と企業は信頼し合っているわけで、悪い評判に対し反論の声が自然に出る状態が望ましい。企業が介入するなら、あくまでも自発的にベテラン顧客の力で論調が補正されていくような形にできるといいのではないでしょうか

上地:
きちんとした介入と、ネガティブな意見をどうファシリテートするかが重要ですね。
本日は、ありがとうございました。

宮副 謙司氏 (みやぞえ けんし)
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科 教授

九州大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA取得)、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。2009年4月より現職。
「マーケティング」「ファッション・リテイリング」「地域活性化のマーケティング」「SDGsコミュニティ・マーケティング」などマーケティング関連科目を担当。
主な著書に『コア・テキスト流通論』(2010年新世社)、『地域活性化マーケティング』(2014年同友館)、『米国ポートランドの地域活性化戦略』(2017年同友館)、『企業経営と地域活性化』(2021年千倉書房)など。

上地 浩之 (うえち ひろゆき)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
コミュニティプロデューサー/イノベーションプラニングディレクター

2005年、博報堂入社。ストラテジックプラナーとして、ブランド戦略立案からコミュニケーションプランニングまで、マーケティングにおける多様な領域の戦略立案担当。その後ソーシャル領域を専門にSNSを活用した次世代型CRMや、社会課題を中心においたムーブメント創出などを企画実施。
2013年、株式会社VoiceVisionを設立。共創による価値創造のパートナーとして様々なコミュニティ・プロジェクトをプロデュース。
2020年より博報堂Brand Innovation Design局所属。既存の領域・組織構造に捕われない共創活動の設計とそのファシリテーションを通じて新領域開拓、組織改革、VISION起点のブランディングにより多様な企業のイノベーションを推進する。

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