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Advertising Week Asia2021「雑誌メディアの可能性」
博報堂DYメディアパートナーズ「MATCH」が雑誌編集部とビジネスを拡大。

2021.07.02
#AWASIA
今、雑誌編集部のコンサルティング力が注目されています。高いインサイト発掘力や言語化力、新たな価値観をライフスタイルに定着させる力などが、広告出稿とはまた違った形で、企業の課題解決に発揮され始めています。5月27日(木)にオンラインで開催されたAdvertising Week Asia 2021のセッション「雑誌メディアの可能性」では博報堂の嶋浩一郎をモデレーターに、日経BP総合研究所の藤井省吾氏、雑誌と企業を結び付ける「MATCH」プロデューサーを務める博報堂DYメディアパートナーズの瀧川千智が登壇。「VERY」編集長の今尾朝子氏、「Hanako」編集長の田島朗氏のコメント出演も交えて、新しいマーケティングの可能性が語られました。

博報堂 執行役員・エグゼクティブ クリエイティブディレクター 嶋 浩一郎
日経BP 日経BP総合研究所 副所長(兼)メディカル・ヘルス ラボ 所長 藤井省吾氏
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局・MATCHプロデューサー 瀧川千智

マガジンハウス Hanako編集長 田島 朗氏
光文社 VERY編集長 今尾朝子氏

雑誌が培った力は企業のマーケティングに役立つ

デジタルの普及によって、デジタル上のメディアやコンテンツは爆発的に増加した。生活者がいつでもどこでもほしい情報にアクセスできるようになったため、「レガシーメディアは代替される」「紙媒体は厳しくなる」といった論調も聞かれる。だが、果たして本当にそうだろうか。情報があふれる時代だからこそ、読者のまだ言葉にならない要望をすくい上げて提案し続けている雑誌は、変わらず厚く支持され、強い絆を築いている。
クリエイティブディレクターでありながら、「本屋大賞」の創設、本屋「B&B」の経営や雑誌の発行など紙媒体にゆかりの深い嶋浩一郎は、雑誌メディアについて「マーケティングの世界のなかで課題解決のツールになり得る」と指摘する。注目するのは、雑誌編集部が持つさまざまな力だ。
「雑誌の部数や年間の発行点数は、この2-30年でたしかに減少しています。ですが、広告出稿という形でクライアント企業に価値を提供してきた雑誌の力は、これだけ多様な形で生活者に接触できるようになった今だからこそ、もっと広い領域に活かせると考えています。雑誌の持つナレッジやノウハウ、編集者の知恵を企業に提供するビジネスが、今後とても重要になると思います」(嶋)

雑誌編集者が持つ4つの力

雑誌編集者の力として具体的に挙げられたのは、次の4つだ。まず、インサイトを発掘する力。嶋は「欲望を予測する力」とも表す。雑誌編集者は、ある特定カテゴリに属するターゲット読者が「次に何を求めているか」を常に探っている。「今ならデータから見つけることもあるでしょうが、編集者の持つ“未来の欲望を発見するセンサー”はとても優れていますし、インサイト発掘に膨大な知見があります」(嶋)
2つ目は、その新しい欲望を言語化し、文化として広める、ライフスタイルに定着させる力。実際に『朝活』『コギャル』『エビちゃんOL』『ちょいワル親父』など、雑誌が名付けたことで広まった言葉やカルチャーは枚挙に暇がない。
3つ目に、コミュニティを形成する力。特定の雑誌のファン同士のつながりや熱量は今、Web上のコミュニティやオンラインサロンといった形で可視化されやすくなっている。一方、企業のマーケターには「ファンをつくりたい」という声が多く聞かれるようになっている。それらを結びつけることで、たとえばコミュニティ内での商品開発といった事例が生まれている。
4つ目は、「パーパスを語るストーリーをつくる力」と嶋は指摘する。かつて、企業は市場において競合企業を注視し、顧客に差別化ポイントを訴求してきた。それが今、パーパス経営という言葉が注目されているように、「社会におけるブランドの価値」を表明するストーリーを語ることが重要になってきている。その物語をつくるスキルに、世界観を構築して読者の共感を獲得してきた雑誌編集者の、構成力やストーリーテリングの力が合致する。

世界観を醸成し文化を発信する、雑誌のポテンシャル

広告会社の立場で雑誌のビジネスに関わりながら、雑誌編集部と企業を結び付けて課題解決につなげるマーケティングソリューション「MATCH」を運営する瀧川は、雑誌の価値について「これだけ無料コンテンツがあふれるなか、有料で皆が『ほしい』と思える内容を提供し続けている」ことを挙げる。
「同じ領域や同じターゲットの方々をずっと見ている雑誌編集部の方々のノウハウやスキルは相当なもの。また、独自の世界観を醸成する力も雑誌ならではだと思います。最近、D2Cブランドがオリジナルの雑誌を通して世界観を伝えようとしている潮流がありますが、それは雑誌がこれまで当たり前に続けてきたことですよね」(瀧川)

日経BPにおける研究機関、日経BP総合研究所の副所長を務める藤井氏は「雑誌が行っていることはライフスタイルの提案、文化の提案」だと続ける。同研究所には編集長を歴任してきたメンバーが在籍し、藤井氏自身も『日経メディカル』の記者を経て『日経ヘルス』編集長を6年間勤めたほか、複数の媒体の発行人を務めた経験を持つ。
そんな藤井氏は、「雑誌は元祖SNS」と指摘する。雑誌の下にたくさんの読者からの声が寄せられ、編集者はそれにつぶさに目を通して気持ちを拾い上げ、取材先にあたって具体的に答えをもらってくる。
「やはり、それが雑誌の大きな強み。今はメールマガジンや会員IDなどオンラインでつながっているので、意見を得やすくなりましたが、アナログな時代からそれを実践してきたのが雑誌です」(藤井氏)

雑誌のコンサル力と企業をつなげる「MATCH」

そうした雑誌のポテンシャルについて、「読者と常に対話しているから、メーカーなど企業の方々が気づかないインサイトを発見できる」と嶋は解説する。併せて、D2Cブランドに限らずさまざまな企業が注目し始めている「カルチャーをつくる」ことにおいても、雑誌の編集技術が生きる。
それらを踏まえて立ち上げられた「MATCH」は、メディアの企画に精通する博報堂DYメディアパートナーズのメディアプロデューサーらが間に立ち、企業の課題と30誌以上のパートナーメディアをマッチングするソリューションだ。誌面の広告出稿ありきではなく、たとえば主婦向け雑誌の編集長とともに消費財のテレビCMを制作するなど、雑誌に蓄積されたナレッジとノウハウを柔軟に取り込んだ試みがすでに始まっている。
企業の側からは、特定領域に精通する編集長や編集者の安心感や信頼感が、特に支持されているという。「過去にタイアップ記事広告などを出稿したことがない企業からも、いろいろな要望の声をいただいています。金融サービスの企業が金融系の雑誌と組むだけでなく、あえて観点をずらして、異なるターゲット層を読者に持つ雑誌の編集部と、新しいアプローチを探る価値もあると思います」(瀧川)

「編集部の視点では、その領域や市場の企業価値がどのように受け止められ、どんな部分がまだ読者に知られていない価値なのかがよくわかる」と藤井氏。そうした指摘や意見を重ねて、企業の課題解決に対して提案するのは、まさにコンサルテーションだ。

『VERY』『Hanako』が取り組む社会課題解決

では、根強く支持される雑誌の編集長は、今どのような変化を捉え、取り組みに落とし込んでいるのだろうか。子育て中のママ層を多く読者に擁する『VERY』編集長の今尾氏は、「以前から編集方針のひとつに『夫婦間のジェンダーギャップを埋める』ことを掲げ、誌面やオンラインイベントで推進してきた」と話す。特にこの1年は、家事が増えた負担もありながら、新しい時間の使い方や役割分担を模索するポジティブな意見も多く寄せられたという。
一方、特殊な状況下で出産を迎えたママ層は、不安や孤立化に悩んでいた。実家への里帰りや夫の立ち会い出産、児童館でママ友と知り合うなど、出産前後の周囲とのかかわりが難しくなったからだ。

「この時期に出産した方々が、本当に心配でした。その方々の悩みに応える施策のひとつとして、オンラインで『VERY児童館』を立ち上げ、お子さんの月齢が同じママ同士で情報交換などをできるようにしました。月1回の開催に7-800人が参加し、満足度はほぼ100%なので、安心感を得たりストレス解消の場になっている手応えがあります」(今尾氏)。雑誌の信頼の下、新たなチャネルを通した発信や読者コミュニティづくりが実践されている。

「この1年は、SDGs特集に大きな反響があった」と話すのは、『Hanako』編集長の田島氏。食や旅のイメージが根強い『Hanako』だが、近年は社会課題を扱う特集も増えている。背景にあるのは、読者ターゲットである働く女性の価値観の変化だ。「以前のような享楽的な消費ではなく、『自分の稼いだお金をどう使うか』に真剣に向き合い、自分にも周囲にも、地球にも優しいかという観点でモノやコトを選びたいというインサイトがあります」(田島氏)
その流れのなか、2020年4月から6月に3号連続でSDGsを取り上げたところ、予想以上の反響があり、10月の丸ごと1冊SDGs特集につながった。編集部では特に伝え方を重視し、SDGsをどう咀嚼するかを悩んだ末に「気持ちいい生活の選び方」というワードを考案。読者が“自分ごと”として受け入れやすく構成した。一連の特集を通して、食べ物の選び方やごみの捨て方などと同じように「日本企業のアクションを知りたい」「信頼できる企業を探したい」という需要も感じられたという。
「社会課題は女性たちの関心が高まっている今こそ、企業が取り組むべきタイミング。Hanakoでも普段の雑誌制作で培った編集力を生かし、企業の方々の課題解決に一緒に取り組んでいきたいと思います」(田島氏)

編集者の「未来視点」からバックキャストする

両誌の話から、読者の気持ちや状況に日々寄り添うことで、今求められている情報提供や提案の形を見出していることがよくわかる。SDGsにしても、大きな目標ではあるが、実際には自分たちの日常のなかにある課題を解決することでもある。
「その間をつないで理解や共感を得るのは、やはり雑誌ならではの力だと思いました。同時に雑誌は、読者にとって『あるべき未来』を描き、バックキャストしていく視点も持っている。それを企業の課題や社会課題に適用すれば、今マーケティングしようとしているサービスや事業や戦略が、将来どんな意味を持つのかを踏まえて提案することもできるはずです」(藤井氏)
雑誌編集部が持つ知恵を、企業の課題解決に活かしていくのは、雑誌業界全体にとっても新しいチャレンジになるだろう。
瀧川は、MATCHを通して、広告会社としてのナレッジも存分に生かしたいと展望を語る。たとえばワークショップの開催など、出版社や事業会社にはあまりないナレッジを、広告会社が補完できる。「私たちも価値を発揮しながら、関係者のみなさんと新しいビジネスをつくっていきたいと思います」(瀧川)
生活や暮らし方のスタンダードが変わり、生活者の価値観が大きく揺れ動いている今だからこそ、誌面をはじめさまざまな場を通して読者の心を捉えている雑誌に学ぶことは多いだろう。MATCHを通して、前例のない価値の提案が今後次々と生まれていきそうだ。

藤井省吾
日経BP 日経BP総合研究所 副所長(兼)メディカル・ヘルス ラボ 所長

今尾朝子
光文社 VERY編集長

田島 朗
マガジンハウス Hanako編集長

嶋 浩一郎
博報堂 執行役員・エグゼクティブ クリエイティブディレクター

瀧川千智
博報堂DYメディアパートナーズ 新聞雑誌局・MATCHプロデューサー

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