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すべてがサービス化する時代、企業と生活者の関係はどう変わるのか/横山陽史・山形健
(連載:ブランド・トランスフォーメーション Vol.5)

2021.04.08
#コンサルティング
博報堂がグループ横断で提供するコンサルティングサービス「HAKUHODO X CONSULTING」では、多様な専門性を持ったコンサルタントたちが最先端の知見を活かして企業の変革支援を行っている。なかでも企業からの相談が年々増加している「サービス開発」そして「生活者体験の変革」というテーマに関して、異なる立場からその支援に携わる二人のコンサルタントに、現在起きている変化や、これからの企業と生活者の関係などを聞いた。

山形 健 博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 部長
横山 陽史 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長代理/博報堂マーケティングシステムズ代表取締役

デジタル化が変えた購買行動

──お二人はサービス開発の業務、またその中での生活者体験の設計を数多く手がけておられます。まず、それぞれの専門分野や、普段の業務内容についてお聞かせください。

山形
以前はマーケティング部門にいまして、その頃から企業・商品のブランディングを幅広く手がけてきました。2007年にブランディングとイノベーションの専門組織であるブランド・イノベーションデザイン(BID)局に来てからは、特にブランドをベースとした商品開発、事業・サービス開発やUXデザインの支援、また最近ではD2Cブランド開発の案件にも多く携わっています。

横山
私は外資系ITコンサルティング会社の出身で、当時からコンサル半分、システム半分という感じで、博報堂に来てからもマーケティングプラナーとコンサルタントとして働いてきました。7年前に、今も所属するマーケティングシステムコンサルティング(MSC)局へ。ここはデジタル化に合わせた新しいマーケティングのあり方や生活者体験を設計し、そのためのシステムを開発する組織です。具体的にはCDP(Customer Data Platform)のようなマーケティング基盤、MAやBIといったマーケティングツールをベースに、企業の顧客接点のマーケティングDXを支援しています。

──デジタル化の進展は、生活者の購買行動や体験をどのように変えたのでしょうか。お二人の印象を聞かせていただけますか?

山形
生活者がSNSを使って情報収集したり、自分のほしいものをECサイトで見つけて購入したりする行動は、2000年代に入った頃からありました。ただ、購買行動全体から見ればまだ少数派でした。しかし、それがここ5年ほどで劇的に増えて、世の中のマジョリティと言ってよいほどになった。これは大きな変化の一つだと思います。最近では、SNS上の口コミだけで事業を急成長させるD2Cのプレーヤーがいくつも現れるなど、生活者側の行動だけでなく、事業者側にも変化が見られます。

横山
かつての生活者は、いろいろな制限があるなかで、仕組みに合わせながら購買行動や生活者体験をしていたと思うんです。でも今はテクノロジーの進化のおかげで、より自分がやりやすい購買行動を選べるようになった。買い物に行くことがストレスだった人が、ECを利用すれば出掛けなくて済むとか。生活者一人ひとりが、それぞれのライフスタイルや嗜好に合った自分らしい購買行動や顧客体験ができるようになっていて、それがどんどん細分化している。それが今の生活者の大きな変化ではないかと個人的には思っています。

──そういった変化は、コロナ禍で加速したのでしょうか?

横山
確かに加速した感覚はありますね。ECの仕組みがあっても、例えばファッションなどは「お店で実物を見てから買う」という人が以前は多かった。でも今はネットで見かけた洋服を、そのままECサイトで注文して終了。そんな「デジタル完結」ともいえる行動が明らかに増えました。

山形
以前だったら非接触型のライフスタイルは、一部の若い人たちのマニアックなものだと思われがちでした。今はむしろコロナ禍の社会環境に適応していると捉えられて、主流が逆転した感じですね。キャッシュレスも含め、マイノリティだった人が急に世の中のお手本になった、そんな雰囲気も感じます。

横山
決済のデジタル化は、いろんな心のハードルを劇的に下げましたね。「あ、最後までデジタルでやっていいんだ!」と思わせられたのは、人々の生活様式を変えた大きな要素だと思います。

山形
「ショールーミング」という言葉って、僕の知るかぎり10年ぐらい前までは、少なくとも事業者側にとってはネガティブな意味合いで使われていました。でも今は、そういう声を聞くことはなくて。店頭の決済機能が要らなくなるし、むしろその場でスマホ経由で買ってもらって構わないと、前向きな考え方が広がっています。
ただ、だからといってリアル店舗を無くすという発想はないので、リアルな場が持つ意味がどう変わっていくか、それもひとつの注目点かなと思っています。

横山
いろいろな形でのリアルとデジタルの組み合わせが生まれ、リアルとデジタルのハイブリッドが進んでいる。これはまさに、顧客体験のプラットフォームが整ってきたことの現れでもあると感じています。

あらゆる業種がサービス競争に向かう

──企業、事業者側ではどういう変化が起きているのでしょうか。例えばクライアントからの相談内容に感じる変化などはありますか?

山形
ここ10年ぐらい、サービス開発の案件が増え続けています。「モノからコトへ」と言われますが、実際に企業から相談される内容が移り変わってきたことを感じますね。
企業が新しいことを始めるとき、従来は「商品開発」をしていました。今はそれが、「サービス」や「事業」に変わってきています。これはデジタル化への対応という意味だけでなく、商品だけで競合と差別化することが限界にきていたというのが背景にあります。
もちろん、メーカーがサービス開発や顧客体験の改革に取り組むということは、商品以外の領域を変革しなければならないということで、簡単ではない話です。それこそ流通のあり方や店舗、サポート、情報発信なども含め、一気に再構築するのはかなり難しいので、出島的に本体と切り離して新規開発してみようといった議論もよく出てきます。D2Cもそういう文脈で話題にのぼることが多いです。

横山
私の方では、業界横断的な事業に取り組みたいという相談が増えています。例えば金融業界やインフラ業界などの企業が、生活サービスの領域に入っていくなど。業界全体でのパイが決まっている中で、サービスの方向に事業を広げていこうという動きが活発になっていますね。金融などはすでに顧客基盤を持っているので、それをベースに生活者向けの事業を始めるとか。
BtoB業界には生活者に関するビジネスの知見やノウハウが少ないので、その部分を博報堂に期待されるケースが結構あります。どんなサービスだったら生活者に受け入れられるか、どんな生活者体験を提供していくべきなのか、そういったことを支援する機会が多くなっています。

山形
各業界がXaaS(X as a Service)的に、サービス化に勝機を求めていますよね。ただ、カテゴリーごとの“as a Service"は、どこの企業が取り組んでもだいたい同じような結論に近づいていく可能性があります。一方で、個別の企業やブランドごとに独自の顧客体験を提供してファンを作っていくという取り組みもまた別途あって。メーカーと生活者が直接つながるD2Cはまさにその代表例です。この両方の視点での取り組みが同時に起こっているように感じます。

横山
提供するものがモノではなくサービスに変わると、流通を介さずに直接生活者と結びついていかねばならない、という考え方になりますよね。

──企業は“サービス競争”に入ってきているのですね。その中で、今後何が一番のポイントになると思われますか。

横山
いろんな業種・業態の企業が参入してくるので、競合関係が複雑化していくのはまず間違いありません。ただ、テクノロジーだけでは差別化はしにくい。どこも同じようなテクノロジーを使って、似たようなプラットフォームを構築していきますから。今山形さんが言ったように、業界、カテゴリーでの差別化も難しい。
だからこそ、より「ブランド」が重要になってきます。変革のスピード感が求められる中でも、ブランドとして何を残して、何は残さないのか、きちんと選びながらサービス開発をしていくことが、生活者との関係性を築いていく上でとても大切だと思います。

山形
いずれは一つの大きなテクノロジープラットフォームを各社が共通して利用する、みたいな状況に落ち着いていくとなると、同じプラットフォームを使いつつ、個別のブランドが何を提供していくのか。生活者とどういう関係を作っていくのか。それがブランドのアイデンティティとして重要になってきます。
最近の生活者って、誰もが何らかのオタク的な要素を持つようになっていますが、そういう人たちのコミュニティでは、事業者側のことを「運営」と呼ぶんですよね。これはおそらく、企業の「運営の姿勢」や「センス」のようなものに注目しているということだと思うんです。チャットサービスは何を使っているのかなども含めて、運営のあり方が評価され、そこに企業ごとの個性や差が生まれていくように思います。

横山
まさにその通りだと思います。いままでソーシャルは生活者の間のプラットフォームだったけれど、これからは企業も人格を持ってソーシャルに参加していく時代だということですよね。企業と生活者のコミュニティの中に新たなサービス体験や購買行動が生まれ、そこでの企業の立ち居振る舞いが、新たなブランド価値をつくっていくのだろうと思います。

生活者発想を深めて、新たな生活者体験を生み出す

――サービス開発の案件にコンサルタントとして関わられる際、お二人の役割やアプローチはどう違うのでしょうか?

山形
私たちがサービスの見えている方の側、横山さんたちが後ろ側の動きを考えているとすると、その融合は進んでいますよね。象徴的な例でいうと、「ECサービスのブランディングをしたい」という依頼があれば、両方が必要です。ブランドの在り様を考えることが先行することもありますし、今使っているECサイトのデータ分析から入るケースや、新しいシステムの検討から始まるケースなど、進め方はさまざまですが。
ただ僕自身で言うと、どんな案件でも、まずはブランドや顧客体験を感覚的な方向から考えることが多いですね。ブランドの世界観をイメージしたり、生活者にとっての理想的な体験を考えたりして、そこに論理を与えていくと言うか。横山さんたちはどうなんでしょうか?

横山
まず論理ではなく、感覚的なことを大事にするのは一緒だと思います。生活者が求めている体験価値とは何なのか、そのブランドにとって最も大切なことは何か、そういったことを徹底して考えた上で、それをシステムやプラットフォーム上の生活者体験として設計し実装していく。
そういう点がクライアントから期待されている実感もあります。企業のIT部門の方とお会いすると、「せっかく博報堂さんが来たんだから、ブランドはどうあるべきか、生活者とどんな関係性をつくっていくべきか、そういう議論がしたいんです」と言われることがよくあります。

山形
やはり博報堂は、みんなそうですよね。まずは生活者発想から入っていく。

横山
その先にはもちろん違うところもあって、システムやプラットフォームだと、顧客行動を網羅的にカバーするような考え方が必要になりますが、ブランディングは、とんがりというか、研ぎ澄ますことが求められますよね。BID局とMSC局が協働すれば、とんがりも、それ以外の全部の両面のカバーもできる。

山形
おっしゃる通りですね。ブランドは強度が高ければ高いほど多くの顧客がついてくるし、お客さんとの結びつきも強くなる。ぬるいモヤっとしたブランディングではなく、強度の高さは常に意識しています。

──大きな共通のアプローチも持ちつつ、それぞれのフェーズゆえの特徴もあるということですね。サービス開発において、博報堂という会社の強みはどういった点にあると思いますか。

横山
クライアントをワンストップで支援できること。提案で終わらずに、実際にプラットフォームを作ってツールを入れて、運用するところまで一気通貫でやりますし、構築した後も世の中の変化に合わせてどんどん修正をかけていく。そういった姿勢も我々が選ばれるポイントだと思います。この4月には、MSC局も一員になる「HAKUHODO DX_UNITED」という横断組織も立ち上がりました。マーケティングDXとメディアDXの両輪で、企業のDXをまさに一気通貫でサポートするための組織です。
そしてもう一つ、生活者のことが分かっていて、マーケティングの実務も分かっているという点も、やはり大きな差別化ポイントかなと思います。

山形
僕の普段の仕事ではデザインコンサルティングファームと競合することも多いんですが、そこで強みになるのは、横山さんもおっしゃった一気通貫で対応できる総合力。そして、システムの領域とデザイン思考の領域をつなげるコンセプチュアルな考え方も強みだと思っています。

──最後に、今後の目指したいことや展望を教えてください。

横山
我々MSC局が、かつての博報堂にはなかったマーケティング基盤やシステム領域の対応力を持つことで、博報堂がクライアントに提供できるサービスの幅が広がっています。その結果として生まれる新しい形でのブランディングであったり、先ほどもお話しした生活者のコミュニティに企業が入っていって、新しい顧客体験を作っていく取り組みであったり、そうしたサービス開発の領域でぜひいろいろと貢献していきたいですね。

山形
博報堂にとってはクリエイティビティが最も重要だと思っています。広告のクリエイティビティはかなりの蓄積がありますが、ビジネスモデルの創出や顧客体験の創造といった領域のクリエイティビティは黎明期で、まだまだやれることがたくさんあると思っています。HAKUHODO X CONSULTINGというフィールドの中で大いに実践していきたいです。

横山陽史
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長代理
博報堂マーケティングシステムズ代表取締役

外資系コンサルティングファームにて、ビジネス・プロセス、新規事業立ち上げ、基幹系システム導入等のコンサルティング業務を担当したのち、2001年博報堂入社。博報堂では、ストラテジックプラニング局に所属し、食品、飲料、通信、家電メーカー、インフラ企業等の広告戦略、マーケティング戦略、CRM戦略の立案を担当。その後、マーケティングシステムコンサルティング局の立ち上げメンバーとして、マーケティングDXに向けたマーケティング基盤の構築・運用の支援を行う。

山形健
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 部長

2004年博報堂入社。ストラテジックプラニング局を経て、2007年より博報堂ブランドデザイン(当時)に所属。ダイレクトマーケティングのPDCAや、BRICs諸国でのセールス基盤構築などのマーケティング領域業務を経て、神経科学を基にしたリサーチプログラムの研究および開発、文化人類学発祥のエスノグラフィ実践などデザインリサーチ領域を経て、商品開発、サービス開発、事業開発の支援業務を近年では多く手掛ける。著書に『ビジネスは「非言語」で動く』 (アスキー新書)がある。

HAKUHODO X CONSULTING(博報堂クロスコンサルティング)
博報堂グループ横断で提供する統合コンサルティングサービス。「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」を旗印に、次世代のブランド発想を基軸にしたアプローチで「ビジョン・パーパスを変革」し、「組織・事業・人を変革」し、「生活者体験を変革」することで、独創的な企業活動へ大胆にトランスフォームします。
>専用サイト https://www.hakuhodo.co.jp/hxc/
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