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SDGs視点での企業・事業変革とは/高橋啓一・兎洞武揚
(連載:ブランド・トランスフォーメーション Vol.4)

2021.03.24
#SDGs#コンサルティング
SDGsやESGの機運が世界的に高まり、企業に求められる役割が拡大しつつある今の時代において、日本においてもサステナビリティやパーパスを起点に経営方針を見直し、社会課題の解決を事業の主軸に据える企業が増えている。SDGs視点での企業変革・事業変革を実現するポイントやキーワードについて、最先端で企業支援に携わる二人のコンサルタントに語ってもらった。

高橋 啓一 博報堂PR局 シニアコンサルタント
兎洞 武揚 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 博報堂SDGsプロジェクトリーダー

ソーシャル領域で拡大する企業の役割と説明責任

──お二人は「博報堂SDGsプロジェクト」の推進メンバーでもあります。ご自身の専門分野と、この領域との関わりについてお聞かせください。

兎洞
私は長らくブランド・イノベーションデザイン局において、クライアントのマーケティングや企業ブランディング、組織変革などの支援をしてきました。また、自分自身の関心事として、さまざまな社会的プロジェクトの推進にも積極的に関わってきました。現在は、そうした活動の集大成として、SDGsに取り組む企業の経営支援やマーケティング支援を行っています。

高橋
私の専門は「パブリックリレーションズ」です。一般には「PR」と呼ばれますが、あえてパブリックリレーションズと略さずに言うのは、PRという言葉が広告・宣伝と混同されがちだから。本来はとても広い概念で、「リレーション(Relation=関係性)」という言葉が含まれている通り、一方的に情報を発信するのではなく、伝えることを通じて関係性をより良くしたり、新たな関係を生み出したりするのがパブリックリレーションズの本質。その専門家としてSDGsに携わっています。

兎洞
SDGsをはじめとして、ソーシャル領域のご相談はものすごく増えています。近年、「企業は地球環境や社会課題のような、経済活動を成り立たせる基盤に対しても役割を果たすべきではないか」という認識が日本企業の間でも広がってきています。実際、経済活動の土台が損なわれてしまったら、企業自体が存続できなくなりますから。おのずと我々のマーケティングやブランディングの業務においても、こうしたニーズに対応する必要が増えてきました。そうした中で一昨年、私や高橋さんのような社員が部門を超えて集まって「博報堂SDGsプロジェクト」を立ち上げ、いろいろな知見や専門性を持った社員が連携して企業の支援にあたっています。

高橋
パブリックリレーションズのニーズも年々高まっている実感がありますね。そもそもパブリックリレーションズは、歴史的に社会課題と深く関係しているのです。1970年代、日本で公害が深刻な社会問題として浮上したとき、なぜ河川が汚染され、その責任はどこにあるのかという社会的な論争の中で、企業の説明責任が強く求められました。企業も自然環境と無関係ではいられない。そのことを認識した上で、企業として何ができるのかという説明責任を果たすべき場面に、パブリックリレーションズが常に関わってきたわけです。時代を追うことに社会課題も多様になり、パブリックリレーションズの役割はますます重要になってきていると考えています。

SDGs推進に欠かせない「問う力」と「語る力」

──SDGsの推進に取り組む企業は、どのような課題を抱えているのでしょうか。具体的に、お二人はどんなご相談を受けていますか?

兎洞
企業によってニーズはいろいろですが、社会課題の解決を自社のバリューチェーンに組み込んでいくにはどうしたらよいかというご相談や、すでに行っている取り組みをステークホルダーに伝える方法のご相談もあります。「まずはSDGsの基礎をきちんと学びたいので経営層向けの勉強会をしてほしい、全社員向けのセミナーをしてほしい」という依頼も多いです。どんなご相談でも、自社の事業と社会課題の結びつきをしっかり考えたい、とおっしゃる企業が本当に多い。

高橋
「サステナビリティ推進室」を置くなど社内の体制は整えてみたけれど、何を目指して、具体的に何をやっていけばいいのかを悩んでいる企業は少なくない。そこにどう魂を入れていくかというご相談が、この一年はとても多かった印象ですね。
その一つが「パーパス」(存在意義)をどう作るかという課題です。我々は企業に「問い」を投げかけながら、パーパスを決めていくお手伝いをしています。なぜ創業したのか、これまで社会課題をどう捉えてきたのか、これからどういう企業を目指したいのかーー。特に「生活者発想」の博報堂として、生活者の目線からの問いや仮説をどんどんぶつけるようにしています。

兎洞
「問い」って、とても大事ですよね。やらされるだけの宿題は嫌になるけれど、良い「問い」がそこにあると、自分から考えたくなります。SDGsも宿題と捉えられがちですが、どうして自分たちが社会課題の解決に貢献すべきなんだろう?と思わず考えたくなる良質な問いがあれば、自然とそちらに向かうことができる。
「企業は環境保全に取り組むべきだ」と教条主義的に受け入れるのは一種の思考停止で、物事をきちんと考えていないのと同じ。なぜそうする必要があって、自社は何をやるべきなのかと社員が自問自答できるような余白があるといいですよね。

高橋
さらに、問うた上で、それを「語る」ことも重要です。方針やパーパスは言語化したり見える化したりしながら、みんながやりたくなる具体的なかたちにして世の中に出していく必要がありますが、このとき、社長や経営者の「語り部」としての役割がとても大事になってきています。
なぜ自社がこの課題に取り組むのか、何のために一生懸命やっているのかという「WHY」を、社長個人の意見や想いを載せて世の中に語っていく。従業員や取引先、投資家などに向けて「だから一緒にやりましょう」「だから応援してください」と語ることでステークホルダーの心を動かし、賛同が得られていきます。正確な情報を伝えればよいという時代ではなくなりました。「語る力」のニーズは、確実に高まっています。

兎洞
自分で解釈して、自分の言葉で想いを語るということですね。「問う」と「語る」は、これからSDGsを推進していく上での重要なキーワードになるように思います。

生活者を巻き込みながらSDGsを推進する

──HAKUHODO X CONSULTINGでは、SDGsやサステナビリティを企業・事業変革の重要なドライバーの一つとして捉えています。こうしたテーマを自社の本業に結びつけ、変革を実現していくポイントはどういう点にありますか。

兎洞
先ほどもお話ししたように、「自社が経済活動を続けていくには、環境や社会の基盤が整っていることが不可欠である」という認識を持つことがファーストステップです。経営者も社員もSDGsを自分事として理解し、それに取り組むことに腹落ちしている必要がある。
次に、社会的なインパクトと自社の利益がどう結びついているのかを論理的に整理し、価値創造のストーリーを描くことが求められます。例えば、環境破壊は目の前のビジネスにどう影響するのか。飢餓や貧困の問題は、どんな文脈で自社につながっているのか。そうした理解の上で、社会課題の解決と自社の利益が結びつく価値(shared value)をどう創造していくのか。そのストーリーが、企業内のさまざまな部門をつなぐ共通言語にもなっていくはずです。

そして、これからの鍵になるのが「生活者の参加」ですね。個人データを企業に提供するかを自ら判断する流れもその一つですが、今後は生活者が意思を持って企業の経済活動に関わっていくようになる。すると、生活者と共創するプラットフォームを持った企業が評価されたり、選ばれたりしていくでしょう。個人と企業と社会の幸せ、それらを同時に実現するような観点がより大事になってくると考えています。

高橋
生活者と企業の関係性では、「利他」という考え方もヒントになるかもしれません。いろんな日本の経営者とお話ししますが、皆さんこの言葉にはピンと来られますね。「自分を高めていくためには、まずは人に資することをしていこう」ということですが、もともとはフランス革命後に生まれた思想で、仏教、禅の精神とも通じて、日本人にも深く根付いています。利他という視点で自社と生活者の関係を捉えなおしてみると、あらためて経営哲学の説明がつく場合もあります。こういう時代だからこそ、大事な視点だと思います。

──この領域において、博報堂の強みはどういう点にあると思いますか?

兎洞
パーパスの設計や価値創造のストーリー構築といった川上領域から、マーケティングや事業開発、コミュニケーションといった川下領域まで、一気通貫でやれるのは博報堂ぐらいしか存在しないと思っています。どこか特定の領域に強い企業は多数ありますが、プロセス全体をSDGs視点で一貫してサポートできるのは、我々の大きな強みではないかと。高橋さんはどう思いますか?

高橋
それに加えて、やはりクリエイティビティですよね。パーパスを言語化して魅力的に伝えたり、ワクワクする活動を提供して生活者を巻き込んだり、あるいは簡単にやれる仕組みをつくってSDGsへの参加のハードルを下げていったり。兎洞さんも言っていた通り、SDGsを「やらされているもの」ではなく、「ぜひやりたい」と思えるような文脈づくりができるかどうかは、とても大切です。これは博報堂が最も期待されているところだと感じています。

──今後企業を支援していく中で、お二人が大切にしていきたい注目のキーワードはありますか?

高橋
最近兎洞さんとも話して盛り上がった言葉でぜひ挙げておきたいのが「リジェネラティブ(Regenerative)」です。日本語の良い訳を考えていて、今のところ仮に「再生的な創造」と呼んでいるんですけど。
ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、「ステークホルダー資本主義」とか「グレートリセット」とか注目されるキーワードがよく出てきますよね。でも実はそれは一部で、さまざまな方の発言に出てくる単語を6年分ほど解析してみたんです。その中で、登場回数も多く、他の語との関係性の軸にもなっている言葉の一つがリジェネラティブでした。バイデン氏がスローガンで掲げていた「Build Back Better」にも近い理念です。海洋プラスチック問題などに代表されるように、豊かさを最優先する人間の経済活動によって地球環境が危機的に変わってしまっている中で、単純に過去に戻すのではなく、できる限り環境的にも、倫理的にも正常な状態に戻すという考え方です。
破壊するのではなく、修復してより良い方向に向かっていく。まさにサステナビリティの考え方ともつながります。今後、この概念を起点にした活動を企業などと一緒に考えていきたいなと思っています。

兎洞
北欧などではサステナビリティが一つの産業になっている国もあります。日本はまだそこまでは到達できていませんけれど、本来、日本文化はこうしたテーマととても合っていて、言葉としても「三方良し」とか「論語と算盤」とか、昔から良い言葉があるんですよね。なので、海外からきた考え方を取り入れながらも、日本人がずっと事業を営んできた中で大切にしてきたものをあらためて実体化させていく。そういう考え方で企業をサポートしていきたいですね。

高橋啓一
博報堂PR局 シニアコンサルタント

1991年博報堂入社。自動車、流通、製薬企業、飲料業界のブランディング、リスクコミュニケーションなどを担当。環境省の地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」のPR責任者。内閣府へ出向し男女共同参画、ダイバーシティ政策広報を担当。東日本大震災発生直後、内閣官房内閣広報室にて勤務。12年3月、博報堂に戻り現職。

兎洞武揚
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
博報堂SDGsプロジェクトリーダー

1992年博報堂入社。マーケティング、ブランディング業務に従事した後、ビジョンに基づく企業の組織変革のコンサルティングにおいて豊富な業務経験を重ねる。2010年より、企業の利益と社会インパクトの同時実現を専門としてきた。日本で最初のSDGs有識者プラットフォームであるOPEN 2030 PROJECT(蟹江憲史 代表)を組織化。現在、全社横断の博報堂SDGsプロジェクトのリーダー。主なソーシャルプロジェクトとして「フードロス・チャレンジプロジェクト」「未来教育会議」「かいしゃほいくえん」「未来を変える買い物 EARTH MALL」等。

HAKUHODO X CONSULTING(博報堂クロスコンサルティング)
博報堂グループ横断で提供する統合コンサルティングサービス。「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」を旗印に、次世代のブランド発想を基軸にしたアプローチで「ビジョン・パーパスを変革」し、「組織・事業・人を変革」し、「生活者体験を変革」することで、独創的な企業活動へ大胆にトランスフォームします。
>専用サイト https://www.hakuhodo.co.jp/hxc/
博報堂SDGsプロジェクト
SDGsの視点からクライアント企業のビジネスイノベーションを支援する全社的プロジェクト。マーケティング・ブランディング、PR、ビジネス開発、研究開発、クリエイティブなど、SDGsに関する経験と専門性を持つ社員で編成。次世代の経営のテーマとなる、企業の経済インパクトと社会的インパクトの統合に資するソリューション開発や経営支援、事業開発支援、マーケティング支援などを行います。
https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/82711/
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