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ニューノーマル時代のスマートシティ ―生活者視点での共創、サイバーフィジカル空間に生まれる新体験―
(Advertising Week Asia 2020セッションレポート)

2020.11.09
#イノベーション
2020年10月、今年で5回目を迎えるアドバタイジングウィーク・アジアは、コロナ禍以降の「壁を突き破る」新たな知見を届けるイベントとしてオンライン開催されました。博報堂は「ニューノーマル時代のスマートシティ」と題し、スクラムベンチャーズの宮田拓弥氏をゲストスピーカーに迎え、これからの都市のあり方や、都市のDXにおける新たなビジネス機会について考えるセッションを開催しました。その内容をレポートします。

※アドバタイジングウィーク:世界6大陸で開催されているマーケティング・コミュニケーションのグローバルイベント。2020年はコロナ禍のため世界各地で開催が延期になったが、オンラインにて世界同時期の開催が実現。アジア版は「AW2020:Asia」として10/14・15に開催された。

スピーカー
宮田 拓弥氏:スクラムベンチャーズ 創業者兼ジェネラルパートナー
吉澤 到:博報堂 ミライの事業室 室長/クリエイティブディレクター
木下 陽介:博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター GM兼チーフテクノロジスト

ニューノーマル時代の都市

吉澤
博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」の室長をしている吉澤です。私たちは「事業創造を通じてミライの新しい生活をつくる」というビジョンのもと、複数の注力領域での新規事業に取り組んでいます。その一つがスマートシティ領域で、多様なパートナーとの事業開発や共同研究などの活動を進めています。

今私がいる東京のような、高層ビルで囲まれた都市に人類が住むようになって、実はまだ100年ほどしか経っていません。それが今では世界の人口の約半数が都市に住んでいて、2050年には3人に2人の割合にまで増えると言われています。
しかし新型コロナウイルスの世界的な流行で、この状況が変わりつつあります。大都市の多くがパンデミックの発生源となって、人々は人口密集地に住むことのリスクを感じ、家に閉じこもる時間が増えたことで、もっと自然を感じられる場所で生活したいと思うようになりました。リモートワークに象徴されるように、デジタル化の進展は人々を場所の制約から解放しつつあります。そうした中で今、多くの生活者が都市で暮らすことの意味を考え直しはじめています。

ニューノーマルの時代、これからの都市はどうなっていくのか。テクノロジーは、都市の暮らしをどのように変えていくのか。そして、そうした都市と暮らしの進化に、我々はどう貢献できるのか。二人のスピーカーの意見をうかがいながら、考えていきたいと思います。

「SmartCityX」―社会の変化を変革の機会に

吉澤
宮田拓弥さんは、シリコンバレーを拠点とするVCであるスクラムベンチャーズの創業者として、長年スタートアップと投資家、大企業をつなぐ仕事をされています。今年8月には「ニューノーマル時代のスマートシティ」をテーマにした大企業とスタートアップのグローバルオープンイノベーションプログラム「SmartCityX」を立ち上げられ、博報堂もパートナー企業の一社として参加しています。
宮田さん、なぜ今回のタイミングで「SmartCityX」の立ち上げを考えられたのですか。

宮田
なぜ2020年の“いま”始めるのか、その理由のひとつはデジタルトランスフォーメーションの加速です。世界中のあらゆる場所、あらゆる産業でデジタル革命が進展し、日本でもここにきてデジタル庁の立ち上げなど一気にDXが加速しています。そして、コロナ禍による暮らしの急激な変化です。リモートワークやオンライン授業のように、暮らしの様々な「当たり前」が変わろうとしている状況は、変化のタイミングであると言えます。
もうひとつ、我々日本人がこういったプログラムを世界で立ち上げることにも意味を込めていて、課題先進国である日本は、都市に関しても高齢化や過疎など多様な課題を抱えています。そんな日本が率先してニューノーマル時代の街のありかたや暮らしを考えていくことには、大きな意義があると考えています。

そういった社会の変化を前向きな未来への変革の機会と捉え、生活者の目線で「未来のまち」を共創していくことを目指して「SmartCityX」を立ち上げました。大きく変わろうとしている社会は、我々自身が生活者として生きる社会に他ならないわけで、「自分たちがどんな生活を生きていきたいのか?」という目線から、より豊かで充実した暮らし、ウェルビーイングの実現に取り組みたいと考えています。

吉澤
それを、企業とスタートアップが連携して一緒に進めていくということですよね。

宮田
そうです。日本を代表する企業と、世界中の最先端のスタートアップをプログラムに招き、大企業のアセットとベンチャー企業の新しい技術とアイデアを掛け算(=X)して事業を創造していきます。我々スクラムベンチャーズは世界中のプロフェッショナルをメンターとして組織していて、彼らの知見でこの共創の体制を支えてもらいます。さらに、地域課題に取り組む先進自治体として、三重県と東京都渋谷区もオブザーバーとして参画していただいています。

吉澤
今だからこそ異業種が連携し、スタートアップが持つ技術と掛け合わせながら、新しい都市のサービスを社会実装していく絶好の機会だということですね。

まちづくりは、生活者の幸せのために

吉澤
博報堂も「SmartCityX」に参加していますが、なぜ広告会社である博報堂がスマートシティに取り組むのか、その構想を少しご説明します。
IoTやセンサー、AIの爆発的な広がりによって、生活をとりまくあらゆるモノがデータによってつながり、そこがサービスや体験のインターフェースになっていく。我々はそういった世界の到来を予想し、これを「生活者インターフェース市場」と呼んでいます。いつも身につけている指輪が24時間365日身体の状態をチェックして、異常があれば教えてくれたり、クルマが最適な目的地を提案してくれて、駐車場の予約からレストラン探しまでしてくれたり。あらゆるモノがインターフェースになることで、これまでになかったサービスや体験が生まれていきます。

それは、都市全体にも広がっていきます。都市に埋め込まれた様々なセンサーやIoTが私たちの行動を把握することで、それぞれのライフスタイルに合わせた、より快適な都市の生活を実現してくれるようになるはずです。ただ、こういう話を聞いただけでは、多くの人がデータを取られることへの抵抗を感じると思います。

ドバイ政府が取り組む「HAPPINESS METER」という仕組みがありまして、住民はプライベートセクターや行政のサービスを使うたびに、満足したかどうかをスマートフォンのアプリから送信します。集約されたデータがダッシュボード化されることで、街全体のサービスが改善され、ドバイが掲げる「世界一幸せな都市」というビジョンに近づいていけるようになっています。
「HAPPINESS METER」において、データのイニシアチブを握っているのは生活者です。社会にとってのベネフィットを感じた生活者が、自ら進んでデータを共有してくれる状況が実現しているわけです。
このように、生活者が生活者の幸せのためにデータやAIを活用していく、まさにそれが私たちの考えるスマートシティの形で、そうした生活者中心のまちづくりを「生活者ドリブン・スマートシティ」と名付け、色々な構想を進めています。

生活者不在で、テクノロジー主導のスマートシティをつくっても、誰も住みたくない街になってしまいます。生活者の幸せや豊かな暮らしにつながるサービスやデータの使い方を、クリエイティビティを生かして発想していくことが何よりも重要で、だからこそ私たちのような存在が必要になると考えています。

「サイバーフィジカル空間」での新体験

吉澤
マーケティング・テクノロジー・センターの木下さんに、博報堂のスマートシティ領域での研究開発について具体的にうかがいます。

木下
私たちのチームでは、空間コンピューティング技術とXR技術を用いたサイバーフィジカルシステムにおける、生活者エクスペリエンスの研究開発に取り組んでいます。政府がSociety5.0として、フィジカル空間(現実空間)とサイバー空間を高度に組み合わせて人間中心の社会をつくることを提唱していますが、そこに生まれるのが「サイバーフィジカル空間」です。
サイバーフィジカル空間に合わせたUIやUXというものも出てきていて、僕たちも「フィジカルとデジタルが7対3の割合ぐらいだとちょうど良い」と説明したりもしますが、この空間がこれから非常に重要になってきます。

サイバーフィジカル空間における生活者エクスペリエンスの研究例として、ARクラウド、空間コンピューティング技術を軸にした体験拡張の研究をしているベンチャー企業のMESONと一緒に行ったロケーションベースのフォトアルバム「Mirr(ミラー)」という取り組みをご紹介します。
普段、いわゆるフィジカル空間でどこかの場所を訪れて、これ面白いな、楽しいなと思ったときの感情をSNSに残しておくことはよくありますよね。しかしSNSはフィジカル空間とは離れたデジタル空間にあるものです。
もし、楽しかった、悲しかったという気持ちを、訪れた空間上にそのまま紐づけることができたら、新しいコミュニケーションやインタラクションが生まれるんじゃないか。そう考えて設計したものが「Mirr」です。

ウェブページから自分の写真を入れて、VRヘッドセットを掛け、都市がデジタルコピーされたバーチャル空間に入ります。自分の写真を空間内に配置して、周りに今の気持ちを表現するようなデコレーションを選んで自由に飾り付けてもらう。最後に好きな角度から写真を撮り、その写真をみんなでシェアしてもらいます。いわば「Spatial SNS」ですね。

https://www.youtube.com/watch?v=RULkleuQTcE

吉澤
面白いですね。体験された方も楽しそうです。サイバーフィジカル空間の研究に関して、今回コロナでの変化は何かありましたか?

木下
ARとVRを、今まで僕たちは別々のものと考えていましたが、コロナで「ARとVRを行き来できるような体験」が発展してきています。現実空間でARグラスを掛けて見ている状況を、自宅でVRゴーグルを通して同時に体験できたり、さらにそれを現実空間のWEBストリーミングで第三者がライブ体験できたり、様々なデバイスで同一の空間を体験することができるようになってきています。この領域は僕たちも引き続き掘っていきたいと思っています。

ニューノーマル都市をつくるテクノロジー

吉澤
「ニューノーマル時代のスマートシティ」を実現するテクノロジーやビジネスモデルとして、お二人が特に注目されているものがあれば教えていただけますか。

宮田
今の木下さんのお話をうかがっていて、あらためて「コミュニケーション」という軸が重要になってくると思いました。通常、スマートシティやまちづくりを考えるときにコミュニケーションという軸はあまり出てこないと思いますが、今回コロナになって、画面を通じた会話はしていても、ちょっと外に出て近所の人としゃべるとか、そういう他愛もないことができない状況がこれだけつらいと知り、「まちは、コミュニケーションデバイスだった」と痛感しました。
街の中で話す、助け合うといった従来のコミュニケーションもそうですし、それができない今だからこそ出てきたバーチャルなコミュニケーションツールも、この十数年で広がったスマートフォンやSNSも含めて、ニューノーマルで、コミュニケーションが次の時代にいくということは、大きな注目ポイントかと思います。

木下
僕は、データの取り扱いですね。個人情報、IDをどう安心安全に取り扱うか。欧米ではかなり進んでいますが、コロナで日本にもついにその波が来たと感じています。
これを進めていくためには、先ほど吉澤さんのお話にもありましたが、「こんな体験ができるんだったら、データを渡したほうが得だ」と生活者に感じてもらえるような技術や、表現技法がポイントになると考えています。アバターにVRやARを活用して自分の動きや感情を組み合わせられると聞けば、やってみたい、と思ってくれる。企業側がそういうものを提供していければ、利活用できるデータも溜まっていきます。生活者の「使ってみたい」という気持ちを呼び起こせるような技術がないかなと、日々探しています。

吉澤
非常に面白いですね。コロナというと健康や安全という話になりがちですが、実はそこで失われているコミュニケーションだったり、体験のワクワク感こそがチャンスかもしれないと。

オープンイノベーションを加速する発想、マインドセット

吉澤
生活者中心のまちづくりは、一企業だけでできるものではなく、多様なメンバーが連携して進めていく必要があります。「SmartCityX」はまさにそれを目指しているわけですが、異業種の連携や、大企業とスタートアップの連携など、オープンイノベーションを成功させるためにはどんなことが重要だと思われますか。

宮田
そもそも業種の定義が変わってきていること、それをとらまえることがポイントだと思います。博報堂は長く広告会社でしたが、これから変わろうとしている。自動車会社も自動運転の時代にモビリティの会社に変化し、もしかすると、さらに違う世界に向かっていくかもしれない。これからの時代は、「私たちは何屋です」という定義が変わっていきます。
もちろん自分たち自身で変革をリードしていく方法もありますが、たとえば今置かれている環境に軸足は置いたまま、自分たちが変わっていかなければいけない方向にいる全く違う業種の方々と連携していくことで新しいものを生み出す、というやり方もできるのではないでしょうか。

木下
大企業とベンチャーが向き合うときは、どうしても縛られがちなお互いのマインドセットやルールをいかに解放するかが大事だと、普段から実感しています。お互いが思っていることを言い合えるような関係性を作っていかないと、本当にいいものは生まれない。今日ご紹介した「Mirr」のケースも、僕たちとMESONとでサービスのUXを非常に細かく設定していますが、両者の深い共通理解がなければできなかったことだと思います。これをやってうちの会社は儲かるのかなとか、上司にちゃんと説明できるかなといった気持ちがよぎっても、そういうことを取り払って、生活者はこれだったら楽しめるかなということを一緒に考えられるかどうか。それが企業や業種の垣根を越えるときに非常に大事なマインドセットだと思っています。

吉澤
宮田さんがおっしゃった、業種というものをまず捉え直したうえで連携していくというお話、そして木下さんの、大企業だスタートアップだというカテゴリーではなく、一人の人間としてチームで取り組んでいくというお話、どちらもまさにオープンイノベーションだと思います。

私たちは今、都市のありようが大きく変わる歴史の転換点にいます。色々な業種や企業、スタートアップがフラットに一つの場に集まって、生活者の幸せを中心に置いたスマートシティを実現していきたいですね。多くの企業やスタートアップの皆さんに「SmartCityX」に参加していただき、あるいは様々なオープンイノベーションの機会を通じて、未来のまちづくりや新しい生活づくりをご一緒できたらと思います。

宮田 拓弥
Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー

サンフランシスコと東京を拠点に、日米のテックスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタルを経営。これまでに、Mobility、Fintech、IoT、VR、コマース、ヘルスケアなど80社を超えるスタートアップに投資を実行している。TechCrunchなど国内外のメディア、イベントでの寄稿、講演など多数。それ以前は、日本および米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。
スクラムベンチャーズ:https://scrum.vc/ja/

吉澤 到
博報堂 ミライの事業室 室長
クリエイティブディレクター

1996年博報堂入社。クリエイティブディレクター、コピーライターとして国内外の大手企業のブランディング、ビジョン開発を手掛ける。その後、海外留学を経て、イノベーション専門部門のマネージャー兼グローススタジオTEKOのメンバーとしてクライアントの事業成長に従事。2019年より現職。ロンドン・ビジネス・スクール経営学修士(MSc)。著書に「イノベーションデザイン〜博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)
ミライの事業室:http://mirai-biz.jp/

木下 陽介
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
チーフテクノロジスト 兼 グループマネージャー

2002年博報堂入社。マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、通信など業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、ダイレクトビジネス戦略に携わる。2010年より現職で、データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わる。またAI領域、XR領域などの先端テクノロジーを活用したサービスプロダクト開発、プロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスに従事。

■SmartCityX ウェブサイト
https://www.smartcity-x.com/

■アドバタイジングウィーク(グローバルサイト)
http://www.advertisingweek.com/

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