THE CENTRAL DOT

エンターテインメントの転換期/道堂本丸(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.10)

2020.07.28
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。
第10回は「エンターテインメント」をテーマに、テクノロジー×エンタメコンテンツを共創し、グローバル展開を目指すHYTEK設立準備室代表の道堂 本丸の意見を紹介します。

Vol.10 エンターテインメントの転換期

博報堂DYホールディングス イノベーション創発センター
HYTEK設立準備室 代表/Technology Content Director 道堂本丸

エンターテインメントは不要不急なのか

 私は今、博報堂DYグループの社内公募型ビジネス提案制度AD+VENTUREを活用して、テックエンタメコンテンツを共創し、グローバル展開を目指す「HYTEK」を設立するべく奮闘しています。エンタメに関わるテクノロジーを持った方々は、高いレベルの技術を持っていても裏側の制作業務として稼働したり、テックが主役になることはあまり多くありません。そんな人たちを盛り上げ、クリエイティブとPRの力を使って、テックエンタメを世に生み出していく、そしてエンタメ業界を活性化させるためにHYTEK設立準備室を設置いたしました。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って政府から2月26日に出された自粛要請に伴い、様々なエンタメイベントが延期や中止をせざるを得ない事態になりました。ニュースなどでは音楽ライブが大きく取り上げられましたが、他にも映画館や演劇、伝統芸能といったリアルイベントは総じて大きな影響を受けています。

 政府の要請はあくまで自粛だったことから、決まっていた興業を強行で決行したアーティストもいて、「エンターテインメントは不要不急か。」という議論も生まれました。一方で、この状況下でもエンタメを盛り上げるべく、新しい形に進化したコンテンツが多く登場したのも、このコロナ禍でした。

手軽になったライブ配信

 コロナ禍におけるエンタメとして大きく話題になったのは、リモート○○です。特に、演者やスタッフが打ち合わせから本番までを全てそれぞれの自宅で完結させるという、リモート演劇は3密でドラマ撮影ができない有名俳優の取り組みだけでなく、専門の劇団が立ち上がるほどでした。

 それ以外にも、アーティストの自宅から配信するリモートライブも多く開催されました。YouTubeなど既存の配信プラットフォームに加えて、ライブに特化した新しいサービスも登場したこともあり、すごく手軽に配信が可能で、視聴者もスマホから簡単に観れる環境が整ってきており、テクノロジーによってエンタメに触れる機会は増加していると思います。

テクノロジーによる進化と弊害

 オンライン配信では、アーティストとのコミュニケーションが取りやすくなりました。通常のライブでは大勢の中の一人ですが、ライブ配信のコメントを拾ってMCをしたり、観客がオンラインミーティングツールで観ている姿をアーティストが観ながらライブをしたり、よりインタラクティブなエンタメが増えてきています。

 プラットフォームが整ってきたことにより着実に進化してはいますが、その弊害も少なからず存在します。エンタメとお金の関係です。自粛期間ということも関係していると思いますが、無料配信が多く開催されていました。これにより、エンタメが無料で観れるものとして、お金をかける対象でなくなってしまう可能性があります。

 手軽になることにより、コンテンツ一つ一つのクオリティも下がってしまい、お客さんが離れていってしまう懸念もあります。さらに、演者だけでなく、脇を固めていた制作スタッフの方々がライブがなくなったことにより仕事ができない状況になっています。スタッフがいなくなることにより、さらにクオリティが下がる。この悪循環を止めるために、エンタメ業界全体で考えていくことが必要です。

真価が問われるエンターテインメントのこれから

 接点は増えていますが、その体験がどう昇華されていくかはここからのエンタメの大きなポイントだと思います。例えば、オンラインでは海外にも簡単に届けることが可能です。そうすると、グローバル基準で受け入れられるような、非言語でクオリテイの高いコンテンツが求められるようになると思います。その体験を作るために必要なのもテクノロジーだと考えています。

 また、既存のライブやリアルの体験の代替ではなく、自粛が落ち着いてからもこのオンライン配信を持続させていくためには、オンラインやその環境だからできる体験づくりが必要となってきます。一つの兆しとして、オンラインライブでは、アーティストが着用しているグッズをライブコマースのようにライブ中に物販を行うことで、観客は列に並ばずにその場で買うことが可能です。観客の不満も解決できますし、リアルライブよりも観客が多いことでアーティストの収益源になる。これはオンラインエンタメならではの状況だと思います。

 コロナ禍で大きな影響は受けましたが、エンターテインメントが業界として進化するチャンスでもありますし、確実に新しいコンテンツが生まれてきています。これまでの代替ではなく「ならでは」の体験を突き詰めていくことで、エンタメの真価を発揮することができるのではないでしょうか。エンタメ業界に関わる端くれとして、また単なる観客の一人として、そのお手伝いをしたいと思っています。

道堂 本丸(みちどう ほんまる)
博報堂DYホールディングス イノベーション創発センター
HYTEK設立準備室 代表/Technology Content Director

2015年博報堂に入社し、研究開発局、TBWA HAKUHODOを経て、現在は博報堂DYグループの社内公募型ビジネス提案制度AD+VENTUREの2019年度採択事業、HYTEK設立準備室でテクノロジー×エンターテインメントを盛り上げるために奮闘中。https://hytek.co.jp
大学時代に、ウェアラブルコンピューティングを活用したダンスパフォーマンスシステムの開発に関わる。マーケティングツールの開発やデータ分析に従事する傍ら、ARやVRなどの新しいテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。大学やベンチャーのテクノロジーの種と企業のビジネスの種を結び付けた事業創造を目指す。

>>連載記事一覧「アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点」

「アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点」の更新情報をご案内します。ぜひご登録ください。
博報堂広報室 Facebook | Twitter

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事