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スマートシティにおける、よりよいくらしと“広場”。/ 大家雅広(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.9)

2020.07.21
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。第9回は、これからのスマートシティをテーマに、ビジネスデザインディレクター大家雅広の意見を紹介します。

Vol.9 スマートシティにおける、よりよいくらしと“広場”。

博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター 大家雅広

 コロナ以前から、スマートシティは産業界の重要トピックでした。リアルとデジタルを統合して、便利で効率的な都市サービスをつくり、公的コストの削減や産業イノベーションにつなげようというものです。コロナ対策により、スマートシティで語られていた変化の一部が、必要に迫られて一気に進みました。スーパーシティ法案も成立し変化が加速する中、私たちはどのようにして未来のくらしを築いていけるでしょうか。

スマートシティがようやく自分ごとになってきた。

 この短期間で、リモートで働くことや、学ぶことが当たり前になりました。買い物のオンライン化が定着してずいぶん経ちますが、くらしの中で大きなウエイトを占める、通勤、通学というところまでオンライン化が定着しつつあります。デジタル技術を活用することにより、物理的な移動コストをかけなくても、不便なく生活できることがわかってきました。オフィスフロアを大幅に削減すると発表する大企業も出てきました。

 この急速な変化は、コロナ対策で必要に迫られてデジタル化が進んだということがきっかけではありますが、生活者であるわたしたちが、便利であるとか、家族との時間を増やせるとか、自分たちにとってのメリットを見出すことができたということが大きいのではないでしょうか。満員電車に1時間も揺られて通勤・通学しなければならなかったこれまでのライフスタイルを、ようやく見直す時が訪れています。

“くらしかた”のビジョンから考える、これからの都市モデル

 日本は人口減少がつづき、公共インフラの老朽化も進む中で、今のコロナが起きました。ここからの立ち直りは簡単ではないと思います。だからこそ、今の危機を乗り越え、これからの新しい日常をよりよいものにしていくためには、行政と企業と、市民が、ともに手を取り合い、未来に向けて動いていかなければいけません。既成概念にとらわれることなく、新たな都市の姿を実現できる、くらしのモデルと、それを持続可能にする新たな産業モデルの創造が急務であると考えます。

 そのときに頼りになるのは、わたしたち生活者一人ひとりが、どのような未来を暮らしていたいかという“くらしかた”のビジョンであると思います。同一業界内だけで考えるのではなく、生活者や行政からも広く強い賛同を得られるような「くらしたい未来」のビジョンを、業界を超えて議論し、共有していく必要があると思います。

 「やり甲斐のある仕事や、コミュニティでの役割がある」、「健康でいつまでも楽しく暮らせる」、「地域でとれた新鮮な野菜が食べられる」、「自然の豊かさも、ときには都会の刺激も欲しい」など、「くらしたい未来」を実現するためには、あらゆるサービスや産業を再構成していくことが求められると思います。その際、デジタルでできてしまうことはデジタルに任せて効率化を進め、その上でリアルの場でなければできないことを、人や都市という実空間で担っていくようにしていくべきであると考えます。

デジタルサービスにも、都市の“広場”が必要。

 コロナ禍以前から、都市に公共空間や“広場”を取り戻そうという動きが先進国各国で起こっていました。行きすぎた近代的機能都市から、人間にとって歩きやすく、多様な活動に溢れた魅力的な市街空間を作る動きです。ヨーロッパに古くからある、豊かな広場が引き合いに出されることも多くあります。広場とは、市民にとっての憩いの場であり、政治的・宗教的な儀式が行われる場であり、お祭りやマーケットなどの商業の場でもあり、それらが1年を通して常に目に見える場でもあります。豊かな広場とは、多様なステークホルダーが主体的に関わることができる、都市を共創していくための余白のような場所と捉えることができます。

 都市は今、リアル空間とデジタル空間が融合するスマートシティへと変化しつつあります。これからは都市の“広場”の役割も、リアル空間だけではなく、デジタル空間にも求めていく必要があると考えます。

 様々な領域でサービスのデジタル化が進み、人々の行動や都市のデータが蓄積されつつありますが、家やオフィスに閉じた行動のデータは外から見ることはできません。個人情報の保護は非常に重要なことではありますが、自分の行動データを個人のPCやスマホに閉じこめておくのではなく、皆で街を良くしていくためのものとして共有していく、という考え方もできると思います。市民一人ひとりがデータの共有や活用に主体的に参加し、街が良くなっていくことを実感することができれば、それはよりよい未来づくりにつながる、デジタル空間に生まれる “広場”になるのではないかと考えています。

大家雅広
博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター

石川県金沢市生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。博報堂入社以降企業のブランディング、新商品・サービス開発、ビジョン開発、イノベーション支援、都市開発・地方自治体支援などの業務に従事。現在は、博報堂の新規事業部門で、スマートシティ関連の事業開発をリード。宣伝会議「ファシリテーション養成講座」講師、法政大学「コミュニケーション・デザイン論」。著書『Innovation Design』(日経BP)『マーケティング基礎読本』(日経BP)、Forbes JAPAN寄稿など。

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