THE CENTRAL DOT

分断の時代にXR技術で新たな繋がりを/目黒慎吾(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.8)

2020.07.17
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。
第8回は、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターでXR技術の研究に取り組む目黒慎吾の意見を紹介します。

Vol.8 分断の時代にXR技術で新たな繋がりを

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員 目黒慎吾

感染対策によって生じた“距離”

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界では今も多くの人命が失われ続けています。変異の早いRNAウィルスを人類はいまだかつて駆逐したことがなく、「ワクチン開発までこの状況は少なくとも2年は続くというだろう」という予測や、「今までの日常はもう戻ってこないのではないか」という悲観的な声さえ聞かれ、この事態が長期化する懸念はいまも払拭できていません。

 手探りの中で経済活動は再開されるも、グローバル経済は今尚深刻な打撃を受け続けており、そこで暮らす我々一人ひとりの今までの生活様式も変化を余儀なくされています。顔をマスクやフェースシールドで覆い隠し、混雑する場所は避け、周囲に人がいる時はなるべく大きな声で話さないようにする。安全確保のために入店人数の制限や営業時間の短縮、遠隔会議システムによるリモート化と、現金手渡しによる感染リスクを防ぐための非接触決済・電子マネー化等、感染防止対策はソーシャルディスタンスのみならず、人と距離を作り、人との接触をなるべく少なくするということでした。

繋がっている感覚をどう作れるか

 しかし、世界各地のロックダウン、そして緊急事態宣言下の自粛期間といったなるべく人を避けることが良しとされていたその時期に我々が感じていたのは、「人に会いたい」「もっと人と繋がりたい」というその想いではなかったでしょうか。フィジカルに分断されていたからこそ、心理的にはより繋がりを求める。この時期にBlackLivesMatterの運動がかつてない規模となって米国以外の国にも大きく波及したことは、それと無関係ではなかったようにも思います。

 また、現実には会えないからこそ、遠隔会議のシステムを使って飲み会や映画の上映会を企画したり、ゲームの中に集ってそこで卒業式・入学式や結婚式を催して祝う等、バーチャルな空間を現実の代替として用いる動きもこの時期に多く見られました。自分が所属するマーケティング・テクノロジー・センターで研究を進めているXR(AR/VR/MR)技術も、コロナ禍によって生じたそういった物理的・心理的距離をどのように埋めるかという視点で、社会実装が急速に進んでいる領域です。

 店舗やショールームを保有する企業では、現実の場所に人を集めることが難しくなったため、今まで以上にバーチャル・ショールーミングやバーチャル内見が真剣に検討され、現在その問い合わせは何倍にもなっていると聞きます。博物館や美術館は3DVR展覧会の形式でその会期を継続し、大型カンファレンスの幾つかはバーチャル空間で実際に行われ、いずれも多くの人を集めました。リテール分野では、ECサイトで気になった商品を自宅空間に再生・投影することを可能にするようなAR技術の利用だけでなく、バーチャル接客の活用も今後益々進んでいくでしょう。

 ライブエンターテイメントの分野に目を向けると、年内に予定されている音楽フェスの中に、バーチャル空間の構築を既に発表している所があります。これはフェスティバル(祝祭)というものが、音楽を聴くという“機能”以上に、人が集まっているという暗黙知化されたその“感覚”を特に求めるからでしょう。リモート会議についても、会議参加者の映像と音声をつなぐという現在の“機能”を超え、XR技術や空間コンピューティング技術によってお互いの空間をシェアすることで存在感や繋がっている“感覚”まで共有するようなサービスが今後登場してくるはずです。

人類規模の未来創造がはじまる

 ここで重要なのは、こういった新しい取り組みは、リアルvsバーチャルというように今までのあり方を否定するものではないということです。人との距離をできるだけ避けつつ、しかし心理的な距離を近づけるために行うこの時期の様々な試行錯誤やプロトタイピングは、アフターコロナのタイミングで元々のリアルなサービス体験と融合していくことによって、より大きな体験価値を生むものへと生まれ変わっていきます。

 ここ日本では、緊急事態宣言下の2ヶ月で2年分のデジタルシフトが一気に進んだという話がなされていますが、このシフトは日本のみならず全世界で進行している話でもあり、だからこそサービスや技術進化のスピードは今後ますます早くなっていくでしょう。感染を防ぎつつ経済を動かし、今までの己の常識を更新し、感受性の変化を経験しながら、人類規模で新たな未来を創っていくフェーズです。挑戦は今ここから始まっています。

目黒 慎吾
株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ
上席研究員 兼 株式会社博報堂 研究開発局

University College London MA in Film Studiesを修了後、2007年に博報堂入社。FMCG領域におけるデジタルマーケティング業務、グローバルPR業務に従事。2018年より現職で、ARクラウドや空間コンピューティング技術などを始めとした生活者との新たなタッチポイントやコミュニケーションを生みうる先端技術の研究を行っている。

「アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点」の更新情報をご案内します。ぜひご登録ください。
博報堂広報室 Facebook | Twitter

FACEBOOK
でシェア

TWITTER
でシェア

関連するニュース・記事