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買物は「欲実直結」へ/山本泰士(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.3)

2020.06.29
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。第3回は、買物領域における生活者と企業の新しいつながり方をテーマに、博報堂買物研究所所長 山本泰士の意見を紹介します。

Vol.3 買物は「欲実直結」へ

博報堂 買物研究所所長 山本泰士

1.コロナ禍で加速した「直接つながり、直接とどける」

 このコロナ禍、買物領域で加速したことといえばこれでしょう。JCB社・ナウキャスト社が公開しているクレジットカード消費データ分析によれば、ECでの消費金額は2020年5月で昨年同月比約140%、特に飲食料品は前年比約166%と大きく伸びています。これまでリアル店舗で購入することが当たり前だった飲食料品でさえ、ECで購入し、直接届けてもらう買物行動が急速に拡大したのです。

 これまでもD2Cと言われる企業が小売りを介さず、直接生活者に商品を届ける業態は海外のスタートアップ企業中心に発展していました。しかしコロナ禍では大手企業も動き始めています。英国や米国ではコロナ禍における急速なEC普及に対応するため、大手食品メーカーが独自にECサイトを立ち上げ直接生活者とつながる、届けようとする動きも現れています。

 先行き不透明な感染状況。またいつ外出自粛になるかもわかりません。その中で「直接届ける」プレイヤーとして選んでもらうために企業が生活者と「直接つながり」、絆を形成することがますます重要になるのです。

2.直接つながって、もやっとした欲求を形にする

 では企業はどのようにして生活者と「直接」つながればいいのでしょうか?このコロナ禍でいくつかの「つながり方」が加速しています。

 その1つのヒントがデジタルの「会話」でつながるという視点。コロナ禍のロックダウン下で買物に行けなくなったタイではデパートが生活者とSNSで直接つながり「今日のお薦め商品」を配信。商品を見て欲しくなればお店と直接チャットツールを使って会話をして、そのまま購入、宅配するという買物のありかたが生まれました。また日本でも、店舗休業をせざる得なくなったアパレル企業がチャットやテレワークツールを使った遠隔接客に乗り出しています。

 このようなつながり方は「遠隔・非接触」で接客できるという点ももちろん優れているのですが、重要なのはもはやモノに満ち足りた生活者の「もやっとした欲求」を形にできるという点です。「なんとなく気になる」「なんかこんな気分」という弱い欲求は、あふれる情報の中で流され、消え去りがちです。しかし、いつでもどこでも「ちょっと気になるんだけど?これどんな商品?」「今こんな気分なんだけどおすすめない?」とお店と気軽に会話をすることで、弱い欲求が明確な形になり、形になったら迷わずその場で購入できる、という利点があるのです。コロナ以前から米国などでは「会話経済」と言われ、この潮流は進んでいましたが、このコロナ禍で一気に加速したと言えるでしょう。

3.購入前からダラダラつながり、購入後も繋がり続ける

 とはいえ、どうしたら生活者から「語りかけて」もらえる存在になれるのか?そのヒントが生活者に役に立つ「コンテンツ発信」をし続ける、という視点です。スマートフォン所有が当たり前になった社会で生活者は日々大量の通知、メッセージ、動画にさらされています。そんな大量の情報の中、「ここに相談してみよう!」とパッと思いついてもらえなければいけません。そのためには「買われる以前」からダラダラと長期的に役立ち、つながり続けていることが重要になるのです。

 例えば米国の若者から絶大な支持を受けているコスメブランドがあるのですが、このブランドはそもそもがブログマガジンから生まれています。「外見だけでなく内面から輝く女性を取材する」ブログマガジンを創業者が運営していたところ圧倒的な支持を受け、あっという間に1000万PVに。その支持から「内面から輝く女性を応援する」コスメブランドを立ち上げました。今でも内面から輝く女性を取材し美しさの秘密を発信するコンテンツを発信し、全米の若い世代の「きれいになりたい」願望の役に立ち続け、その実現手段としてのコスメを提供。熱度の高いファンコミュニティを作り、つながり続けています。

 このコロナ禍でこのような一見直接購買につながらなくても、絆をつくる情報発信を行う企業が多く現れました。例えばドイツ最大手の食品スーパーはステイホーム状況をどのように工夫して楽しんでいるのか?の動画を生活者から募集。「みんなの過ごし方のコツ動画」をWEBサイトにまとめ、家に居る生活者に役立つコンテンツを公開。その動画をまとめたCMは4月の広告動画最高となる約1800万回再生を記録しました。他にもスポーツアパレルメーカーがおうちでできるトレーニング動画を公開したりと、多くの企業がコロナ禍を契機にこのような活動を始めたのです。

4.重要な日本企業の「欲実直結」トランスフォーメーション

 さて、以上みてきたような

・直接つながり、直接とどける
・もやっとした欲求を生活者との直接対話で形にする
・購入前からダラダラつながり、購入後もつながり続ける

といった生活者と企業のつながり方を、買物研は「欲実直結」と名付けています。生活者の漠然とした欲求とつながり続ける中で形にし、形になったらすぐ購買等で実現し、とどける。デジタル化を前提にして、アフターコロナ社会を推進力に、このような生活者とのつながり方は今後ますます加速していくでしょう。

 このような「欲実直結」へのトランスフォーメーションを博報堂買物研はみなさまと共に推進していければと考えています。

山本 泰士(やまもと・やすし)
博報堂買物研究所所長

1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学教育学部卒、同年、博報堂入社。マーケティングプランナーとして教育、自動車、飲料、トイレタリー、外食などのコミュニケーションプランニングを担当。2007年より、こどもごころ製作所プロジェクトに参加し、クラヤミ食堂など体験型コンテンツの企画、運営を担当。
2011年より生活総合研究所にて、生活者の未来洞察コンテンツの研究、発表を担当。「総子化」「インフラ友達」「デュアル・マス」などの制作・執筆に関わる。2015年より博報堂買物研究所に異動。近未来の買物行動予測研究と、買物行動を起点としたマーケティングに従事。著書に、『なぜ「それ」が買われるのか?―情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則』(朝日新聞出版)など。

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