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「2030年、旅ってどうなっているんだろう?」
第2回/東洋大学 島川崇さん【前編】

2020.03.09
#グループ会社
日本では2020年にむけてインバウンドが盛り上がっています。2018年に日本を訪れた訪日外国人は3000万人を超えましたが、世界に目を向けると海外旅行をする人の数は、推定で14億人(国連のUNWTOの統計:到着ベース・一泊以上の旅行者)。2030年になると、なんと、18億人もの人が海外旅行をするようになるそうです。
10年前にはAirbnbもUberもまだサービスがはじまったばかりでした。旅の仕方も、好みも、どんどん変化していきます。2030年には「旅」というものはどうなっているのでしょうか?
旅を通じて国境を超えた交流がどんどん活発になる時代。
さまざまなジャンルで活躍する人たちに「2030年の旅(いまからだいたい10年後)」ってどうなってるか?「その時に、大事な人に旅を贈るとしたら、どんな旅をつくる?」という話をwondertrunk & co.代表の岡本岳大がお伺いします。

旅をめぐる、激動の時代

岡本
「ちょっとだけ未来」の旅の形、旅のありかたについて考えてみるという本連載、2回目のゲストとして東洋大学(取材時)の島川先生にご登場いただけてとても嬉しく思います。
実は僕、国際関係とか外交政策を学んでいた大学院時代の終盤に、先生の書かれた『観光につける薬―サスティナブル・ツーリズム理論』(同友館)という本に出合ったんです。それまでは、日本をどう見せるかという広報外交、いわゆるパブリック・ディプロマシーの研究をしていたんですが、日本のことを知り、体験してもらう方法として改めて“観光”に着目するきっかけになりました。それで、2005年に博報堂に入社してからも、ビジット・ジャパンなどの仕事を通して、旅の持つ力というのを再認識するようになったんです。

島川
ありがとうございます。テーマにある「2030年」って相当先だと思いましたが、あとわずか10年後ですよね。とはいえ、10年前の2009年やその10年前の1999年、その先にある10年後の現実を想像できたかというとできなかった。だから2030年も、想像すらできないような世界になっているかもしれませんよね。

岡本
本当にそうかもしれませんね。ではまず、島川先生と観光について、お話しいただければと思います。

島川
20年前の1999年は、僕がJALを辞めて松下政経塾に入ったころです。国際社会における日本の立ち位置、国際競争力に課題を感じ、政治から世の中を変えられないだろうかと考え始めた頃でした。
当時、外国人観光客は本当に少なく、日本や日本文化に対する誤解もたくさんありました。世界の人たちに日本のアイデンティティーを発信するのに観光政策ほど重要なものはないと気がつきイギリスでMBAを取得し、そのあと日本総合研究所での研究員などを経て、東洋大学に着任したのが10年前の2009年です。
そこからは観光業界にとって激動の時代。2010年にJALの経営破綻、2011年の東日本大震災……さらに10年経った2019年、ヨーロッパ最古の旅行代理店であるトーマス・クックが破綻しました。

岡本
トーマス・クックが破綻したのは、衝撃的なニュースでしたね。

島川
衝撃的でしたよね。
そういう激動の世の中で、私が感じる変化は“世の中が不寛容になっている”ということ。自分さえよければいい、相手の立場で考えない人が増えている気がします。「みんな違ってみんないい」という個性尊重の考え方が、どこか歪んでしまい、主張した者勝ちのようになっている気がします。
若い方は持っている情報量が多く、その情報を正しいと信じて疑わない方も多い。そこを一度ゼロにして、自ら学ぼう、新たな出会いから何かを得ようという気持ちが少なくなっているようにも感じます。真理を追求せずに出会いを求めなくなり、アピールする人ばかりになると当然衝突が生まれますから、おそらく不寛容な時代はこれからも続くのかもしれません。

岡本
それはなんとも悲観的なシナリオですね。でも、2030年がそんな世の中にならないように、「旅」を通じて何かできればいいですよね。

島川
その通りです。旅も、いまは行きたい時間、行きたい場所に、自分たちだけで行く個人旅行が増えました。パッケージツアーのように知らない人と行動を共にし、案内される場所に行くことが非常に面倒なのかもしれません。でも、個人旅行の自由さは本当に旅の醍醐味なのかという疑問もあります。自由ではあるけど、本当の楽しみを得られているんだろうか?自分の思考の範囲内で動くから、新たに知ること、新たに触れる世界はないんじゃないか?と。もっと他の人や違う文化に関心を持ち、意識的に触れていくような機会が必要だと思うんです。そうして初めて、自分以外の人たちの存在を認め、共感し、気持ちを寄せていくことができると。

岡本
なるほど。面白い視点ですね。

島川
また、たとえば最近はオーバーツーリズムが問題になってきていますが、観光は地域にとって毒にも薬にもなります。メリットとデメリットを理解した上で、デメリットを最小にする努力をしながらメリットを追求しなければならない。そこができていないまま地域振興と観光を絡めていこうとしているのは、問題があると思いますね。

岡本
先生が『観光につける薬~』を出されたのが2002年で、いまようやくサステナブル・ツーリズムについて知られるようになってきました。いま思えば、かなり先取りされていましたよね。

島川
そうですね。出版当時は生意気などと批判されましたが、僕自身は何か信念めいたものがありました。「観光先進国」という旗印のもとに設定された「〇〇年までに〇千万人」という数値目標のために、オーバーツーリズムが発生した。オーバーツーリズムは観光客も地元も、誰一人幸せにしません。自分たちの狭い見識の中で設定した数値目標ではなく、別の指標が必要なんです。

岡本
先日環境省が行っていたある分析でも、観光だけを突出させるのではなく、農業など地元産業との相互関連が強いほどサステナビリティが担保できるということが提示されていて、いい発想だなと思いました。

島川
まさにそれは、拙著『観光につける薬~』でも触れた、他産業への波及、リンケージ効果が大事だということ。いまのように外国人がたくさん来て、地元とは何の関係もない免税店で買い物されては何の恩恵もない。そういうところをウォッチしないといけないと思いますね。

岡本
同じ日本文化を発信するとして、たとえば海外で日本文化を紹介するイベントをやるとそれなりに楽しめるんですが、どうしても関係性は一方通行になってしまいます。その点、旅というのは行く行かないを判断する権利は旅人側にあるし、受け入れるかどうかは受け入れ側が決められる。そのイーブンな関係性が、とても健全だと思っているんです。ワンダートランクでもそうした関係性を突き詰めていきたいなと思っています。

島川
その視点には非常に共感します。いま議論されているような「受け側が地域振興にいかに寄与するか」は、マーケティング用語で言うところのプロダクトアウトの発想。でもだからといって、マーケット主体、お客様の意見ばかりだと、一方的に消費される観光地になってしまう。観光を成功させるには、対等な関係性が必要です。

岡本
先生の『観光につける薬~』では、そこにさらに観光事業者が入って、三方一両得になることが重要だとおっしゃっていました。

島川
そう、結局あの本で一番言いたかったのはそこなんですよ。理想論だけでも補助金で補うだけでもダメで、観光事業者を商業的に成り立たせることは絶対的に必要なんです。そうしておいて、観光客と地域住民の3者を回していくことがサステナブル・ツーリズムにつながると思います。

「あなたと会うために生きてきた」と思わせるような旅を

岡本
そういえば先日、オーストラリアから来た観光コンサルの方と一緒に、北海道などを巡りながらネイチャー系の話をいろいろと伺いました。彼は高校中退後にガイドになり、南米のプロダクト開発の責任者に抜擢され、オーストラリアでも政府観光関係の仕事に携わり、サステナブル・ツーリズムで博士課程をとった業界では第一人者的存在の方です。
そのような、ツアーというよりは、ガイドさんに話を授業のように聞いて、ワイルドライフについて学べる旅があってもいいのかなと考えたりしているところです。

島川
すごく面白い方ですね。ぜひお会いしてみたいです。

岡本
あと、僕らワンダートランクのグランピングチームは、自然を体験しながら、テントを張って宿泊してもらうことをやっています。ラグビーW杯のときに釜石のスタジアムのそばでテントを張り、日本と海外のお客さんで焚火を囲んで一緒に過ごしました。
そこに、震災で被災した宝来館という旅館のおかみさんもいらっしゃって、当時の話をいろいろとしてくれました。海外の方も、「そうだったんだ」「実は自分は当時日本に留学したいと思ってたんだけど周囲に止められて」なんていう話を、ごくごく素直に、自然に語り合っていたんです。その時間がなんだかとてもかけがえのないものだと感じました。
そこまで深いつながりではないにしても、その瞬間を共有できる、共通の価値を持つ人同士がいれば、旅はまたまったく違うものになり得るんじゃないかと。

島川
それはおっしゃる通りだと思います。何と言うか、旅が本当の意味で交流を深められるもの、何か信頼できる相手を探すようなものになるといいですよね。
一緒に生活する相手でもなければ家族でもなく、もしかしたら人生の中で5回しか会わない相手かもしれませんが、その5回のため、あなたと会うために生きてきたと思えるような旅。本当に、それこそが旅なんですよ。
だから私は、個人手配で自由に過ごす個人旅行が、団体旅行より進んでいるとは思えないんです。団体旅行なら添乗員やガイドが、事前に観光地のいろいろな背景を語りますが、そういうインプットがないままだと、結局現地へ行っても「あ、すごいな」だけで終ってしまう。美術館で例えると、絵画の背景を何も知らなければ、ああ色彩がきれいだな、構図がきれいだなで終わってしまう。でも美術館ガイドがいればインプットをしてくれます。そうして初めて、単なる構図や色彩ではない、絵の奥が見えてくる。私は旅も同じだと思います。

岡本
なるほど、そうですね。

島川
そういった思いもあって、個人旅行だらけにならないように「旅という文化」を残したいですね。日本ならではのバスガイドは減っていますが、彼らがいるからその地域の魅力が伝わることはある。これからのバスガイドは暗記した内容を繰り返すのではなく、車窓の風景に合わせて臨機応変に地域の魅力を伝えられるようにならないといけないと思います。
添乗員も海外にいるガイド兼ドライバーのように「私の旅にようこそ」というくらい、パフォーマーになっていいと思うし、楽しませることを考えないといけないと思いますね。
実は私も添乗員になって人との出会いの大切さを、身をもって伝えていきたいと思っています。春から神奈川大学に籍を移すのですが、そこでは添乗員をしながら大学教員をやろうと思い、旅程管理主任者の資格を取る勉強中です。

岡本
そうなんですか!重大発表を聞いてしまいました(笑)。

島川
実際のところ、大学でももっと社会ですぐ役立つような学問に力を入れるべきだという流れがあります。人文学系は肩身が狭いですが、本来大学というのは、歴史とか哲学、美術など、答えのないことをああでもないこうでもないと思考できる貴重な場なんですよね。他者と出会って人を知るといったことが難しくなっているからこそ、私は観光学も、人文学、つまり深い人間理解に根差したものにしていきたい。
ですから神奈川大学では国際日本学部の観光文化コースに籍を置き、人文学に寄った観光学を追求しながら、添乗員として、人に対する寛容さ、異文化を知り人間の豊かさを得られるような旅を目指したい。それが、この2030年に向けての私のチャレンジです。

岡本
それは素晴らしいですね。

<後編へつづく>

■プロフィール

島川 崇
神奈川大学 国際日本学部 教授
(※インタビュー時は東洋大学 国際観光学部)

1970年愛媛県松山市生まれ。1993年国際基督教大学卒業。5年間日本航空に勤務後、松下政経塾に入塾。ロンドンメトロポリタン大学経営学修士(MBA)観光学専攻課程修了。韓国観光公社海外振興所日本部客員研究員を経て、2001年7月、参議院議員選挙に愛媛選挙区から立候補、次点で落選。大検フリースクール 「島川勉強堂」 を設立。(株)日本総合研究所 研究事業本部新ユビキタス社会創造クラスター研究員、東北福祉大学 講師を経て、2009年4月より東洋大学着任。2016年度および2017年度国際観光学科長。東京工業大学大学院 情報理工学研究科 情報環境学専攻 博士後期課程 満期退学。2018年4月より国際観光学部 教授。2020年4月より現職。

岡本 岳大
株式会社wondertrunk&co. 代表取締役共同CEO

2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。

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