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「2030年、旅ってどうなっているんだろう?」
第2回/東洋大学 島川崇さん【後編】

2020.03.11
#グループ会社
2030年には「旅」というものはどうなっているのでしょうか?
旅を通じて国境を超えた交流がどんどん活発になる時代。
さまざまなジャンルで活躍する人たちに「2030年の旅(いまからだいたい10年後)」ってどうなってるか?「その時に、大事な人に旅を贈るとしたら、どんな旅をつくる?」という話をwondertrunk & co.代表の岡本岳大がお伺いします。

■前編はこちら

ますます旅に関わるプレイヤーの信頼関係が求められる

岡本
改めて2030年の旅について考えてみると、まずはLCCや大手といった旅の手段が一層変わっていくという現実的な話もありますが、一方で今日お話していて思ったのは、旅のテーマ・目的がどんどん多様化し、在り方自体が変わっていくような気がするということです。狭義の意味でのツーリズムといったところから、旅自体が、旅という名の交流だったり、スタディーだったりと範囲が広がっていく。さらにいけば、エシカルの面、地域への貢献自体が旅の在り方であるという風にも変わるかもしれない。そんな風に旅のパターン、仕組みが大きく変わっていくような気がしています。

島川
そうですね。エシカルという言葉が出ましたが、やはり倫理や道徳のバックボーンがないと、知識も情報も軽いものになってしまう。教養とはそういうものだと思います。そして旅も、幅広い人間理解を通じてその教養が得られるようなものにしていかなくてはいけないと思います。

岡本
僕らもそこは試行錯誤をしているところで、地元の人たちと一緒に、山形県の出羽三山で山伏の体験ができる旅とか、長崎県の五島列島で隠れキリシタンの歴史を学ぶ旅などを実施しているんです。ただ、そうしてできあがったものを何と呼ぶかがまだ定まっていない。旅行業界で言えばいわゆるパッケージツアーなんですが、そう呼ぶのはちょっと違和感があるんですね。そこでConnecting People and Place(人と場所をつなぐ)のような、旅の本来の趣旨に立ち戻ったワードにしていくこともいま議論している最中です。たとえばコネクト~とすることで、プロダクトアウトの発想ではなく、出羽三山の山伏の方や、五島列島のガイドや信者の方なども包括した、新しい旅の形を提示できるんじゃないかと。

島川
確かにワーディングはすごく大事な気がしますね。今までの延長でもなく、ただ新しいだけでもない。地域の人もその先の倫理や道徳にもかかわる、深い人間理解にいざなうもの。そして自分自身を超えるような、ひりひりするような旅……そうした次元の違う旅の在り方を目指されているわけですから。

岡本
そうですね。そういえばつい先日僕らのチームがフランス人を五島に連れて行った際、本当に価値のあるいいものは教会にも美術館にもなくて、普通のおじさんの家の箱の中にあるということを体験しました。その方が見せてもいいと思った人にしか見せてくれないようなもの。

島川
そういう体験をすると本当にわくわくというか、ひりひりしますよね。でもそういう出会いって、岡本さんのような仕掛け人、そして仲介者がいなければ無理ですよね。そこにあるストーリーを語ってくれるストーリーテラーの必要性とも言えます。

岡本
そうかもしれないです。さらに言うと、誰もかれも連れていっていいというわけではなくて、やはり誰を、どういう人たちを連れていくかが重要になってくる。

島川
そうなんですよ。倫理観や人生観に共感してもらえるかどうか。だからこそこれからは旅に関わる人と人との信頼関係がもっと大事になってくる。旅行会社もそういうものがないと生き残れないような気がします。たとえばガイドが地域の面白い人に「私のお客さんにはこういう人がいて、会わせたいんです」と言うと、「そうか、あんたが言うなら会ってやろうじゃないの」と言ってもらう。お客さんにも「あなたと一緒にそこへ行ってみたい」「あなたが紹介する人に会いたい」と思ってもらわないといけない。

岡本
だからこそ「また行こう」「またやろう」と言ってもらえるようになる。そういうことの繰り返し、循環が必要なんですよね。

島川
そうです。ロンドンで学んでいた時にサステナブル・ツーリズムの考え方を知ったときの衝撃は大きかったですね。まさにそれまで自分がいた業界がやっていた、ハワイや沖縄のキャンペーンとは対極にある考え方でしたから。つまり特定の目的地への旅をブームにし、場所を変えて繰り返すような、急激な盛り上がりをつくるのは観光地にとってデメリットが大きくて、じわじわと長く続けていける観光が必要なんです。
さらに今、国連世界観光機関(UNWTO)は、サステナブルというのはエシカルであり、アクセシブル(近寄りやすい)であることだと言っています。手前味噌で恐縮ですが、10月に『観光と福祉』(成山堂書店)という本を出して、障がい者も高齢者も等しく楽しむことができる旅のバリアフリー化、ユニバーサルデザインの重要性といったことに触れました。

岡本
誰もが行ける旅ですね。いいですね。

島川
これからますます少子高齢化になりますが、残念なことに旅行業界の意識は一番と言っていいくらい低いんです。

岡本
そういえば飛騨高山市は、割と前から十何か国語で対応できる案内所があったりと、バリアフリー対策において先進地でした。根底には、高齢化と過疎化が進行しても、誰もが旅をできる形を目指そうという方針がある。そこのバックボーンがしっかりとあるので、揺らがないですね。
それからサステナブル・ツーリズムでいうと、最近は「飛ぶことは恥だ」というスウェーデン語のFlugskamという言葉も話題になっています。飛行機を使うと二酸化炭素が大量に排出されるほか、余った燃油が捨てられるため環境保全のためにも飛行機移動を避けようという考え方です。

少し前にイギリス人の方と一緒に、旅をしながら映像を撮ったんですがその方が「もう僕は長距離旅行はしないと決めているから、これが最後の旅なんだ」と言っていた。話には聞いていたけど、身近な相手からそういう話をされて、改めて時代の潮流はいまこうなんだなと思いました。それって当然、僕らのビジネスを継続する上では結構クリティカルな問題なんです。また、僕らが日本に呼びたいと思っている人ほどそういう社会課題への関心が高い傾向があるので、余計に悩ましいんですよね。

島川
そうですね。確実に、世界的なFlugskamの傾向は強まるでしょうね。

岡本
将来石油に代わる飛行機の代替エネルギーができれば理想的ですが、それまでの間、いかに“あえてでも行こうと思えるような価値がある旅”、“それに見合う体験や出会いを持ち帰ってもらえるような旅”を提供できるかがますます大事になってくる気がしています。

僕らはいまトライブ(種族)マーケティングの手法で、好きなものが同じ人たちをつないでいくことは一つの近道ではないかなと思っているんですが、今日先生とお話をしていて、好きなモノだけではなく、同じ倫理観や道徳、考え方を共有できる人たちが集まって、その場所でなければ得られない体験を求めて移動する旅というのが、2030年に向けて目指すべき旅の形かなと思いました。

島川
岡本さんがワンダートランクで取り組まれていることには非常に共感します。すごく応援していますから、何かできることがあればお声がけください。一緒に理想的な旅の形をつくり上げていきましょう。

岡本
本日はこうしてお話ができてよかったです。どうもありがとうございました!

■プロフィール

島川 崇
神奈川大学 国際日本学部 教授
(※インタビュー時は東洋大学 国際観光学部)

1970年愛媛県松山市生まれ。1993年国際基督教大学卒業。5年間日本航空に勤務後、松下政経塾に入塾。ロンドンメトロポリタン大学経営学修士(MBA)観光学専攻課程修了。韓国観光公社海外振興所日本部客員研究員を経て、2001年7月、参議院議員選挙に愛媛選挙区から立候補、次点で落選。大検フリースクール 「島川勉強堂」 を設立。(株)日本総合研究所 研究事業本部新ユビキタス社会創造クラスター研究員、東北福祉大学 講師を経て、2009年4月より東洋大学着任。2016年度および2017年度国際観光学科長。東京工業大学大学院 情報理工学研究科 情報環境学専攻 博士後期課程 満期退学。2018年4月より国際観光学部 教授。2020年4月より現職。

岡本 岳大
株式会社wondertrunk&co. 代表取締役共同CEO

2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。

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