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n=1の声からプラニングの始点をつくる「ナマ声ドリブンプラニング」|Next Creativity Map Vol.26 良知俊資

2025.11.27
企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第26回は、ストラテジックプラニングディレクターの良知俊資。生活者のリアルな定性データを活用し、人の体温を感じる戦略を目指すという良知に、そのプラニング手法をききました。

たった「n=1の声」から、ブランドを勇気づける提案が生まれる

-2016年の新卒入社ということで、今年で10年目になるのですね。

良知:そうですね。そもそも広告業界に興味を持ったきっかけが、博報堂のサマーインターンシップだったんです。マクロデータや世の中で起きている事象から世相を読み解く、という生活総研のアプローチに憧れて、ストプラ職を志望しました。

-入社してからストプラ一筋ということですが、この10年の変化など感じますか?

良知:入社してすぐ配属されたチームは、ひとつのクライアントに専属のストプラが10人弱いるような環境。業務がある程度体系立っていて、新人の仕事は大規模な定量調査を行ないブランドのスコアを定点的にウォッチすることでした。時間も予算もかけて、腰を据えて丁寧にリサーチ業務に向き合うことができた、そんな贅沢な環境でもありました。しかしいまはクライアントのビジネスも高速化し、マーケティングリサーチに時間をかけることがむずかしくなっていると感じます。
一方で、SNSや口コミサイトなど、世の中の動きや今後の兆しについて示唆を与えてくれるツールは身の回りにあふれています。顧客のナマ声を集める方法は以前より豊富かつ手軽になった。僕は「ナマ声ドリブンプラニング」と呼んでいるのですが、プラナーの仮説ありきで戦略構築をするのではなく、生活者のリアルな定性データから得られる気づきをプラニングに活かす、という手法がいまの僕のアプローチになっていますね。

-「ナマ声」に注目しようと思ったきっかけは?

良知:もともと人の話を聞くのが好きという僕のパーソナリティもあると思いますが、プラニングに深みを持たせたり、意外性を持たせたりするためにはやはり顧客のナマの声が強い。この商品をこんなふうに使ってくれている、こんなふうに感じてくれているという一人ひとりの声は、意外なプラニングのヒントにあふれているんです。
たったn=1の声かもしれないけれど、こういうお客さんが増えてくれたら幸せだよね、という視点でプラニングすることは、ブランドとしてもすごく勇気が出る提案になる。これはコンサルではできない仕事なんじゃないかと思います。

地道な口コミ収集からAIを活用した分析まで。「地球の果てまで探す」精神

-具体的にはどのようにナマ声を採取するのですか?

良知:口コミについてはデータを全部スプレッドシートに落とし込んでひとつひとつ読み解いていくようなすごく地道な作業が必要です。でもそこからプラニングの糸口になるような光るコメントをみつけることができる。ストプラの仕事ってスマートに世の中を斬る、みたいに思われがちですが、実情はすごく泥臭いんですよね(笑)。
博報堂のストプラは、調べられるものは調べ尽くす、という姿勢が叩き込まれていると思います。かつての弊社のある役員が残した「世界中、探したのか。」という格言が今でも言い伝えられているくらい。プラニングのヒントを探すのに近道はないと思っているので、とにかく徹底的に調べ尽くします。
顧客の声と同じくらい徹底的に調べるのは、クライアント企業の技術について。専門的な分野で苦戦することもありますが、とにかく調べて理解して、生活者にとってそれがどういうよろこびにつながるかを考え尽くしますね。

-生活者のナマ声に耳を傾け、クライアント企業の持つ技術に徹底的に向き合うのが良知さんのプラニングウェイなのですね。実際、「ナマ声ドリブンプラニング」はどのように行われるのでしょうか?

良知:プラニングの最初のフェーズとしては、商品やサービスの利用者にインタビューを行なうことが多いですね。ここでいきなりヒントを得られることもありますし、そうでなくても基礎情報として商品価値を理解するために有効です。ネットで調べて出てくる情報ではありませんし、カスタマージャーニーを追体験することができるので、よりリアルに商品やサービスの価値を理解することができるんです。
一方で、生成AIの進化によってSNS上に無数に転がっているナマ声を定量的に分析することで、プラニングの実装に活用していくアプローチも確立しつつあります。これまでストプラ職が定量データの味付け程度にしか使えてこなかった定性的な意見やデータの本来の利用価値が生成AIによって爆発的に増しているように感じます。

「偶然の出会い」を大切に、独自のプラニングを深めていきたい

-先ほど口コミは地道にひとつひとつ読み解くとおっしゃっていましたが、SNSの発話データ分析には生成AIを活用しているのですね。

良知:そうですね。商品やサービスに関するポジティブな発話データを読み込ませたうえで、ユーザーをクラスター化するという使い方をしています。「こういう層がいるのではないか」という仮説からではなく、実際の発話からクラスター化しているので、そこに恣意性がまったくない。想定もしていなかった使い方をしているクラスターを発見できる可能性もありますし、すごくおもしろいアプローチだと思います。
もうひとつは、定量調査のフリーアンサーを生成AIに読み込ませ、各セグメントの特徴を可視化するということもやっています。クロス表上では見えてこないボトルネックが見えてくるので、セグメントの深堀分析にすごく有効なんです。

-具体的にはどのような発見があるのでしょう?

良知:モバイルオーダーシステムのケースでお話しすると、導入についてのアンケートで「ぜったい導入しない」と答える層と「認知はしているけど導入予定がない」という層では何が違うのか。BtoB商材はとくに、肌感覚としてその違いを理解するのがむずかしいですよね。そこでフリーアンサーの内容を生成AIに読み込ませ、頻出語や特徴語を抽出してみるんです。そうすると、出てくる言葉がぜんぜん違う。
たとえば、「ぜったい導入しない」のセグメントには「バー」「常連」というワードが出てきて、小さな店でモバイルオーダーの必要がない、あるいは常連が多い商売で接客が重要であることなどがわかります。一方、「認知はしているけど導入予定がない」のセグメントには、「高齢者」「通信料」というワードが上がってきて、お客さまへの負担を考慮していることが伺える。
業態の違いや経営意識の違いなど、定量だけでは見えない部分があぶり出されることで、分析の温度感や納得感が変わってきますし、打ち手のヒントが見えてくるんです。プラニングの起点を見つけるという意味でもとても役に立ちます。

-さまざまな手法で「ナマ声ドリブンプラニング」を実践している良知さんですが、今後どのように活用していきたいですか?

良知:たとえば、長く続くブランドで最近元気がなくなっている、というような場合に、お客さまの声から「ひとすじの光明」を見つけることができる。また、輪郭がはっきりしない課題に対して解像度を上げることもできる。いずれにしても、プラニングの「始点」となる貴重なデータがナマ声だと考えています。マーケターはよく「定量データの海に溺れる」という表現をしますが、定性データの海にも溺れたらいいんですよね(笑)、時間の許す限り。そこには、自分の頭の外で起きている事象が山ほど詰まっているはずだから。それをできる限り吸収して、プラニングを深めていくのが僕のやり方です。
仮説ももちろん大切ですが、数多のナマ声からの偶然の出会い、セレンディピティも大切にして、これからも独自のプラニングを深めていきたいです。

良知 俊資(ラチ シュンスケ)
博報堂プラニングハウス ストラテジックプラニングディレクター

2016年博報堂入社。以来一貫して戦略プラニング業務に従事。2019年博報堂プラニングハウスに参画し、現在に至る。

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