
-はじめにこれまでのキャリアについて教えてください。
田口:2018年に飲料メーカーに新卒入社後、事業会社を経て2022年に博報堂に入社しました。もともとマーケティングに興味があり、飲料メーカーでもマーケ部門を希望しましたが、新入社員は営業経験を積む方針で流通営業担当になりました。ドラッグストアやスーパーマーケットに対し、自社商品だけでなくカテゴリ全体、お店全体の売り上げを伸ばす提案をしていました。営業と言ってもマーケティング思考が重視される現場だったので、その経験は今も役立っています。

-マーケティングに興味を持ったきっかけは?
田口:子どもの頃から「なぜ人はこんな行動をするんだろう?」と考えるのが好きなんです。言うことを聞かない弟に、どう伝えれば動いてくれるか試行錯誤したり(笑)。あとは、人と話すことが大好き。人と話して人のことを考える仕事ができたら、と思っていた頃、大学のゼミで広告学に出会い、マーケティング職を志しました。
学生時代はマーケティングにおける店舗の重要性に目を向けていませんでしたが、メーカー時代にその意識は大きく変わりましたね。どれほどいい商品をつくり、いい広告を打っても、店頭に置いてもらえなければ生活者に届かない。「店頭」の大切さを身に沁みて感じた2年間でした。その経験が契機となり、事業会社へ転職。ストラテジックプラナーとしてのキャリアをスタートさせました。
-事業会社ではどんな経験を?
田口:食に関連したメディアを運営する会社でマーケティングを担当していました。会社が持つ膨大なデータをもとに、食品メーカーさんと商品開発を行うなど、広告以外の業務に携われたことも大きな経験です。
-メーカー時代も事業会社時代もデータに関わることが多かったのでしょうか?
田口:個人的には、生活者のN1の声を聞くのが好きで、営業時代は店舗で直接対話したり、事業会社ではレシピサイトのレポートから声を拾ったりしていました。同時に、膨大なデータから大きな流れを読み、その背景のインサイトを探るなど、様々な視点を行き来することが好きなんです。そういう多角的な視野で仕事ができる場として、広告会社である博報堂で力を試したいと思い、転職しました。
-博報堂に入ってからはどのような仕事をしてきたのですか?
田口:いわゆる広告をつくるマーケティングコミュニケーションに加えて、商品開発やサービス開発に携わる仕事が多いですね。得意先、営業、クリエイティブとワンテーブルで向き合い、ストプラでありながらプロジェクトマネジメントまで担うケースも多いです。

-田口さんがどのように開発に関わっているのか、具体的なエピソードも交えて教えてください。
田口:2024年11月に発売されたヘアケアの新ブランドは、開発初期のコンセプトづくりから0→1で並走させていただいた事例です。クライアントが持つ技術を、どうすれば生活者にとって価値ある商品に昇華できるか、何度も思考を重ねたり、ワークショップを繰り返して導き出しました。そのとき役立ったのが、店頭のお客さまと直接対話してきた経験。実際ドラッグストアでこの商品に出会ったとき、お客さまがどう感じるか、どんな商品があれば買っていただけるかという視点が商品開発にも反映できたと思います。
-コンセプトをつくるにあたってキーワードになるような「声」の存在がありましたか?
田口:この開発のために集めた声ではないのですが、メモに書き溜めていた印象に残っている声で、以前友人が「ずっと腕時計の正解がわからなかったけど、スマートウォッチが普及して、自分の正解がわかった気がする」と言っていたのを思い出して。シャンプーも同じで、たくさんの商品がありすぎて何を選べばいいかわからない、というのが店頭のお客さまの本音だと思うんです。そんな生活者のために、「これを選べば正解」というヘアケアブランドがつくれたらというアイデアが生まれました。
N1分析ができる定性調査ツールなどもありますが、プラニングの軸となりうる強いインサイトは、生活者の生の声から聞くのがいちばん。日頃から「これってインサイトかも」と思う声をストックして、仕事に生かすようにしています。
-ほかにも田口さんのプラニングのコツのようなものはありますか?
田口:やはり、視点を切り替えるというのは常に意識していることの一つです。グッとのめり込んで一人の生活者の視点に立つことと、全体を俯瞰することを行ったり来たりするような。
たとえば、きれいごとではない生のインサイトを見つけたいときには、生活者が店頭でどこを見て、どういう動きをするかという視点に立ちますし、一方でビジネスの視点では、カテゴリ全体として市場の状況を把握する。メーカーや事業会社でデータを扱った経験が、多角的な捉え方を身につけられた要因かもしれません。

あとは、ストプラだから戦略だけをつくるのではなく、コア価値を開発するフェーズも、戦略が固まった後のクリエイティブフェーズにも関わって、最後までチームでいいものをつくっていきたいですね。最後の形まで見届けたいのはメーカー出身だからかもしれません。バトンタッチ型でなくストプラが並走することで、コンセプトをぶらさずにチームに貢献したいんです。
-そこまでプロジェクトに入り込むと、商品に対して思い入れが深くなるのでは?
田口:そうですね、商品開発までには何年も時間がかかりますし、その間に商品のこともブランドのことも大好きになってしまいます(笑)。得意先と長くご一緒できる仕事にはすごくやりがいを感じます。
生活者インサイトに加え、得意先インサイトを考えるのも好きです。売り上げの課題に対し、対話で答えを見つける。人と話すのが好きで、相手の思考に想いを馳せる私のパーソナリティも大きく影響していると思います。

-ご自身のキャリアやパーソナリティがプラニング術に直結していますが、博報堂に入って影響を受けたことなどありますか?
田口:博報堂には、生のインサイトを突き詰める人や経営視点でビジネスを構造化する人など、様々なプレイスタイルのプロフェッショナルがいます。彼らと仕事をすることで、自分の「物事を多角的にみる」というスタイルがよりシャープに研ぎ澄まされていると思います。
-それらの経験を活かして、今後こんなクライアントの力になりたいなど展望はありますか?
田口:ビジネスを伸ばすにはどうしたらいいのかという課題に、手法にとらわれずアプローチしたいというのがずっと考えていること。決められたやり方でプラニングするのは面白くないと思ってしまうんです。「困っているけどどうしたらいいかわからない」というような漠然としたお悩みの相談相手として、一緒に問いをつくるパートナーになりたい。決まったセオリーではなく、お客さまに合わせてオートクチュールでつくっていくような戦略です。
これまでの商品・サービス開発の実績を軸に、より広い視野でビジネスを前進させるお手伝いができるよう経験を積んでいきたいと思います。クライアントが持っている素晴らしい「種」を様々な視点から捉え、光を当てて、輝かせるお手伝いをしていきたいです。


1994年、岐阜生まれ。
飲料メーカーに新卒入社し流通営業を担当したのち、事業会社のストラテジックプランナーを経て、2022年より現職。
コミュニケーション戦略策定、ブランド・商品・サービス開発などに従事。