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「データを参考に」ではなく、「データで」意思決定するクリエイティブ|Next Creativity Map Vol.24 東晃弘

2025.10.01
企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第24回は、クリエイティブディレクターの東晃弘。クリエイティブ職でありながら、「データ至上主義の帝国から来た人」と自称する東の、「データとクリエイティブの距離0mm」の仕事術とは?

立場の違うステークホルダーを説得する、共通言語としてのデータ

-はじめに博報堂に入社したきっかけから教えてください。

東:広告会社を志望したのは、大学在学中に博報堂社員による広告やマーケティングの講義を受けたのがきっかけ。講義や飲み会を通して、広告会社の人は人間力があるし、博報堂はおもしろそうな会社だなと思って志望しました。入社してからは、テレビCMや、グラフィック広告という、いわゆるマス広告を制作する仕事に携わってきました。

-データと向き合うようになったのには何かきっかけがあったのでしょうか?

東:もともと理系だったので、統計学やデータに関する知見のベースはあったのですが、提案までのリードタイムが短い仕事が多くて、ストラテジックプラナーを入れる余裕がない業務もあったんです。だから自分でやるしかなかった。R言語などで解析をしはじめたのが最初ですね。
昔はIoTもなかったですし、取れるデータも限定的でした。いまはあらゆるデータが取れるようになっているので、それを立体的に組み合わせて分析できることが大きく変わった部分です。いまは「データを参考に」ではなく、「データで」意思決定するというのが僕のスタンスになっています。

-「データで」意思決定をすることがもたらすものとは?

東:なんと言っても意思決定が早い。プロジェクトには複数のステークホルダーが存在します。そして、企業文化も立場も違うステークホルダーを「感覚」で説得することはできません。共通言語としてのデータで決めていくしかない。それがデータを活用する理由です。

広告会社の基本機能を集約中。データ収集、分析、考察まで自分でやるからズレがない

-そこまで振り切ってデータ活用をしている人はあまりいないのでは?

東:クリエイティブでは僕のチームくらいかもしれないですね。データサイエンティストのような人材はビジネスやクリエイティブの文脈に触れる機会が限られており、それに対してクリエイティブ人材にはデータに未だ苦手意識を持つ人も多くいます。本来両者は密に連携する必要があるのに、なかなかうまく融合できていない。クリエイティブ職のなかには、データ領域は専門家に任せてしまおうという考えを持つ人もいますが、そうではなく、コミュニケーション設計を統括するリーダーがやるべきだというのが僕の持論です。
僕の仕事ではストプラを入れずに調査からレポートまで一貫して兼務しています。自分で仮説を立て、データを集め、分析し、考察までするからズレがない。チームで対応することの良さもあるとは思いますが、精度の高さとスピードアップという二つの側面から、自分でやるのが一番いいと僕は考えています。

-幅広い業務を担当されていますが、どれくらいの割合で稼動しているのでしょうか?

東:業務時間の状況を見ると、クリエイティブ関連が30%、ビジネス設計10%、データ解析30%、システム開発30%という配分ですね。広告会社の基本機能をほぼ一人に集約しているような状況です。

データ解析は未来を捉える重要な手法。データドリブンな組織づくりを推進したい

-具体的にはどのようなシーンでデータを活用するのでしょう?

東:MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)を使ってメディアの貢献度を計測したり、構造方程式モデリングを用いて広告のクリエイティブ表現を提案したりします。構造方程式モデリングではタレント、世界観、メッセージなど、どの要因が結果に結びついているかを明らかにして次の表現を決定できます。広告表現だけでなく、キャンペーンの建て付けなどあらゆる施策に活用できます。

100%とは言えませんが、データによって施策の確からしさが裏付けられ、成功の確度が高まれば、クライアントとの信頼関係も構築できる。「可視化された根拠」が説得力を持ち、継続的なパートナーシップの強化に貢献できるんです。

-東さんと同じように、データに長けたクリエイターを増やすためにやっていることなどはありますか?

東:データドリブンな組織づくりは進めていきたいですね。経験や生活者の定性的な理解はもちろん大事ですが、データも同じくらい大切。長年にわたって「経験と勘」で判断する世界でしたが、ここ数年で生活者のデジタルデバイスに対するタッチポイントが増え、さまざまな行動データを取れるようになっています。データ解析は未来のことを考えるための重要な手法なので、クリエイターも武器のひとつとして持っておくべきだと思います。
自分のチームをもってからは月に1回、「データドリブンフルファネル」というテーマで勉強会を開いて、メンバーにもデータ領域に関する知見を浸透させています。「フルファネルとは」という初歩から、レコメンドシステムで使われる協調フィルタリングという手法など、突っ込んだ内容までレクチャーしています。データについて知見がないクリエイターも「刺激になる」と言ってくれていますね。

誰かの思考や論理、歴史もデータ。効率よく活用しながら「考える時間」を創出する

-仕事をしていて一番やりがいを感じる瞬間は?

東:得意先の売り上げが2倍、3倍になったときですね。仮説が立証できて計算通り物事が進んだということなので、一番アドレナリンが出ます。その確度を上げるためには、とにかく何度も試して学ぶことしかない。お掃除ロボットも、最初はウロチョロ色々な場所を動き回りながら、効率のよい掃除ルートを学んでいきますよね。それと同じで、はじめから正解なんてない。試行錯誤しながら最適解を見つけていけばいいんです。

-データが好き、というのはもともとのパーソナリティなのでしょうか?

東:そうですね。時代に求められてというより、好きでやっている。父親が建築士だったので、その血を受け継いでいる部分も大きいかもしれません。綿密に計画を立ててブロックで巨大な創作物をつくるなど、小さい頃から細かい作業が好きだったんですよね。今でもプライベートで旅行に行くときも分刻みの計画表をつくって行動しますし、計画変態みたいなところもあると思います(笑)。
ビジネス書はかなり読みます。誰かの思考や論理もある種のデータだし、僕は歴史もデータだと思っているんです。自分で一からつくるより、過去の偉人たちの考えやケーススタディをデータとして取り込んだ方が効率がいい。それをベースにして自分なりによりよくアジャストさせるというのが自然と仕事の型になっているんだと思います。たぶん、広告会社じゃなく他の業界で働いていたとしても、同じようなアプローチで仕事をしていると思います。

-最後に今後の展望について聞かせてください。

東:一昨年、これまで溜め込んできたGoogle Colaboratory(ブラウザ上で駆動するPython)のスクリプト群を数クリックで解析できるようにアップデートし、独自のソリューションを構築しました。これによって、従来は最低30分はかかる解析・グラフ化の作業時間が10秒程度に短縮。より多くのリソースを考える時間に投入できるようになりました。いまは自分が関わるプロジェクトで活用していますが、今後は Google Cloud Platformの機械学習ツールを組み込む等のアップデートを行い、博報堂発のマーケティングソリューションとして社内外に展開すべく、準備を進めている段階です。
我々が提供するソリューションは、常に得意先とつながりつづけるためのもの。高速かつ高度なデータ解析を通して「意思決定の精度向上」と「チーム全体の業務効率化」を図り、事業成長の確度を上げるものです。今後もこのソリューションに磨きをかけ、得意先のグロースをサポートしていきたいと考えています。

東 晃弘
クリエイティブ局 クリエイティブディレクター

「データ解析 ✕ コミュニケーション戦略構築・実装」によって、企業・ブランドのグロースを、確度高く実現させる。

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