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パーパスから始まるブランド変革──「マーケティングカンファレンス2022」登壇レポート

2023.01.18
#BX#ブランド・トランスフォーメーション
マーケティングの最新動向を報告する「マーケティングカンファレンス2022」が2022年10月16日に東京・市ヶ谷の法政大学キャンパスで開催されました。日本マーケティング学会が主催したこのカンファレンスの「パーパスから始まるブランド変革」というセッションに、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局のメンバーがスピーカーとして参加しました。その内容を抄録でお届けします。

岩嵜 博論氏
武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授

竹内 慶
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理

岡田 庄生
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 部長

パーパスを起点としたブランド変革とは

岩嵜 博論氏

パーパスという「大きな船」

パーパスは直訳すれば「目的」ですが、世界ではその意味を超えて、「企業や組織の社会的存在意義」と捉えられています。企業は何のために存在するのか。社会においてどのような責任を果たすのか──。それを定義したのがパーパスということです。これまで、企業の差別化戦略は、商品やサービスの「機能」による差別化、顧客の「体験」による差別化と変化してきました。企業がパーパスを掲げることによって、それがさらに「意義」による差別化に変わったと私は考えています。

MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)とパーパスはどう違うのかと聞かれることがよくあります。MVVが、企業が考える「自らありたい姿」であり、「一人称的」であるのに対し、パーパスとは「あるべき社会の姿」であり、「三⼈称的」であると考えるのがわかりやすいと思います。MVVがいわば「小さな船」だとしたら、パーパスとはさまざまなステークホルダーとともに運航する「大きな船」である。そう表現してもいいかもしれません。

パーパスの背景としての「ステークホルダー資本主義」

2019年、米国の有⼒企業のCEOが集うロビー団体Business Round Tableが「State on the purpose of a corporation」を発表し、過度な株主資本主義からの決別宣⾔をしました。宣言では、企業が説明責任を負う相⼿は株主だけではなく、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティを加えた五者であるとされました。のちに「ステークホルダー資本主義」と呼ばれるようになる考え方です。これが、世界中でパーパスが重視されるようになったきっかけの一つと考えられます。

また、世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOであるラリー・フィンク氏は、毎年恒例となっている「Letter to CEO」の2022年版において、持続可能性と経済成⻑の両⽴が資本主義の最新型であり、パーパスを起点にして多様なステークホルダーとともに価値を創造するステークホルダー資本主義がこれからは重要になると述べています。これもまさにパーパス経営を後押しする言葉であると言っていいと思います。

「パーパス・ドリブン・カンパニー」の取り組み

事業会社の中にもパーパスを中心に置いたステークホルダー資本主義を実践している企業があらわれ始めています。その代表的な企業が、アウトドア用品メーカーのパタゴニアです。同社は「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という先鋭的なパーパスを掲げ、ビジネスは手段であり、企業活動の目的は地球を救うことであるという姿勢を鮮明にしました。

パタゴニアは、「循環する製品」というコンセプトを掲げ、リペア、回収、リセール、再生製品の販売までを一貫して手掛けるモデルをつくっています。また、国定公園の保護をはじめとする環境保護活動にも取り組んでいます。社会的責任を果たしている企業の認証制度である「Bコーポレーション」において、同社は非常に高いスコアを得て認証企業となっています。

さらに、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏は、「地球が自分たちの唯一の株主」という考え方のもと、4500億円相当と言われる自社株式の98%をNPO、2%を議決権を持つトラストに譲渡しました。今後NPOは、環境保護に取り組む世界中の団体に配当を分配することになっています。

これは、「パーパス・ドリブン・カンパニー」の一例です。パーパスを掲げ、それを実践することが、ブランドを育て、企業と顧客のつながりをより強固なものにする──。そんな取り組みが今後世界中で進んでいくと私は考えています。

⽣活者から求められるこれからのブランドの姿

竹内 慶

経済的価値と社会的価値の両立が不可⽋に

現在、多くの企業に、事業課題と社会課題の両方を解決するためのトランスフォーメーションが求められています。両課題に取り組む包摂的な態度と⾏動があらゆる企業にとって必須とされる時代になっていると言っていいと思います。博報堂の調査からも、経済的価値と社会的価値の両立を目指している経営者が非常に増えていることが明らかになっています。

5GやIoTといったテクノロジーの進化によって、⼈とモノ、⼈と企業はいわば「常時接続」の状態に置かれるようになりました。しかし、⽣活者の「可処分時間」は有限です。その有限な時間に対して多くのブランドが常時アプローチをしているのが現代です。この時代に生活者から選ばれ、⽀持され、応援したいと思われる企業になるためにも、経済的価値と社会的価値の両立を目指すことが不可⽋であると考えられます。

パーパスとは、企業が「誰の何のために存在するのか」「社会や⽣活者にどのようなよいインパクトを与えられるのか」「どんな社会を創出したいのか」を表明する宣言であり、あらゆる企業活動の起点となる考え方です。「創り出したい未来の社会の姿」と「その社会における⾃社の役割」という2つの視点を統合したものがパーパスであると、私たちは考えています。

ブランド・トランスフォーメーションの6つの要素

パーパスを中心に置くことによって、ブランドはどう変化していくのでしょうか。⽣活者の有限の時間に無数のモノやコトが入り込もうとしている現在、「⼈⽣や⽣活の有限な時間をともに過ごしてもよい」と思われるブランドになれるかどうかが非常に重要になっています。その基盤となるのが企業のいわば「⼈格」です。その人格から生まれるブランドは、企業、生活者、多様なステークホルダーが参加する「場」となり「エコシステム」となっていくでしょう。そのエコシステムはオープンであり、さまざまな参加の形がありうるでしょう。

私たちはそのような変化を「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」という言葉で表現し、ブランド変⾰推進のための基本要素を「BXフレームワーク」として整理しています。フレームワークは、「パーパス」「ビジネスプロセス」「組織・人材」「コミュニケーション」「コミュニティ」「商品・サービス」の6つの要素によって構成されます。それらの要素の中心にあるのが「生活者価値」です。6つの要素中とりわけ重要なのがパーパスであり、それがほかの5つの要素とつながり、生活者価値の実現に結びつくことによってパーパスは具体化するというのが、BXフレームワークの考え方です。

パーパスは、企業のブランド活動に参加者を呼び込む起点であり、すべての参加者とともに⽬指していくべき究極のゴールでもあります。パーパスは企業活動におけるいわば「北極星」であり、ブランドが進むべき方向性を定める「戦略」そのものである。そう私たちは考えています。

パーパスドリブンなマーケティングが未来を創る

岩嵜 博論氏×竹内 慶×岡田 庄生(モデレーター)

一人ひとりが「コンパス」を持つ組織を

岡田
パーパスをつくったけれど、企業活動自体はあまり変化していない。あるいは、パーパスが社員になかなか浸透しない。そんな声を耳にします。パーパスを中心にした企業変革、ブランド変革をどう進めていけばいいのか。あらためてお二人のお考えをお聞きかせいただけますか。

岩嵜
ブランディングにおいては、まさに「浸透」が重要であるとされてきました。しかし、パーパスにおいては「浸透」よりも「自発性」が大切であると私は考えています。先ほど北極星という言葉が出ましたが、まさに北極星を遠くに見ながら、すべての社員が自発的にそこを目指していけるような状態を組織としてつくっていくことが必要だと思います。

竹内
一人ひとりが「コンパス」を持つ組織。そんなふうに言えるかもしれませんね。コンパスを手にして方角を確認するだけでなく、その方角に向かって実際に歩を進めていくことが重要で、そのためにはパーパスを実現する具体的な仕組みや、パーパスを体現する具体的な事業が必要になると思います。

岡田
トップダウンの方法ではパーパスは実現できないのでしょうか。

竹内
やれることはすべてやるということですよね。トップダウン、ボトムアップ、あるいはミドルアップダウン。そのすべての方法を駆使しないとパーパスの実現は難しいと思います。

岡田
パーパス実現のための具体的な方法論についても考えをお聞かせください。

竹内
パーパスとは、社会的インパクトと経済的インパクトの両方を目指すもので、それをダブルインパクトと言ったりします。ダブルインパクトを大きなゴールと定め、そこからバックキャスティングする形で長期、中期、短期のそれぞれのシナリオを描き、それを一つ一つ実行していく。そんな方法が一つ考えられます。

岩嵜
重要なのは、そのシナリオが2つのインパクトを統合するものになっていることです。社会的意義のある活動は売り上げや利益に結びつかないという声をよく聞きます。社会貢献とビジネスの成長をどう両立させていくか。そこにクリエイティブなチャレンジがあると思います。ポイントは「小さく始める」ことです。大きな成功をはじめから目指すのではなく、小さなチャレンジと小さな成功を積み重ねていくことが大切です。

竹内
その取り組みに成功すれば、マーケティングやブランディングはこれまでにない新たな世界に進んでいくことになると思います。このチャレンジは、インナーブランディングという点でも非常に重要です。最近の若い世代の中には、自分の会社のビジネスが社会にとってどのような意味があるのかと悩んでしまう人が増えていると聞きます。パーパスが明確で、かつそれが事業成果に結びついていれば、企業で働く人たちが自分が働くことの意義を実感できるようになるはずです。

ビジネスの成長と社会貢献を両立する新しいマーケティング

岡田
生活者の視点で見た場合、企業が掲げるパーパスを重視して商品やサービスの購買を決める人は決して多くはないのではないかという意見もあります。

岩嵜
もちろん、パーパスだけでものが売れるわけではありません。先ほど差別化の変遷の話をしましたが、それぞれの段階の差別化は次の差別化に内包されていると考えるべきだと思います。商品の機能が優れていて、よりよい顧客体験を提供することができて、かつ社会的な意義もある。そのようなブランドであれば、生活者に選んでもらえるはずです。

竹内
ビジネスにおいては、最終的に商品が売れることがもちろん重要ですが、そこに至る道筋はいろいろあっていいのだと思います。パーパスを支持してくれる熱烈なブランドのファンもいれば、たまに商品を買ってくれる人たちもいるし、ほとんど購買はしないけれどブランドの情報を拡散してくれる人もいる。そしてその全体がエコシステムとなって、売り上げや利益が生まれる──。そんな考え方がこれからのブランディングでは大切になっていくのではないでしょうか。

岡田
企業活動の中心にパーパスを据えることによって、今後ブランディングのあり方が大きく変わっていくことになりそうですね。

岩嵜
マーケティングに関わる人たちにとって、それは絶好のチャンスだと思います。ブランディングに取り組むことによって、人々の共感を獲得することができて、それがビジネスの成長を実現し、社会貢献にもつながる。そんな新しいマーケティングの方法を自らつくり出すことができるからです。

竹内
未来を創るマーケティング──。そんなふうに言ってもいいかもしれません。今後、マーケターの役割、マーケティングの可能性はどんどん広がっていくはずです。私自身、パーパスドリブンなマーケティングに前向きに取り組んでいきたいと思っています。

岡田
私たち博報堂は、ブランド・トランスフォーメーションの考え方を提示していますが、もちろんこれが唯一の答えではありませんし、最終的な答えでもありません。今後、協業と実践によってこの考え方をどんどんブラッシュアップしていきたいと私たちは考えています。多くの皆さんとともに、これからのブランド・トランスフォーメーションの形を一緒につくっていければ幸いです。

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