博報堂は、「カンヌライオンズ2019(6月17日~21日)」にて7回目となるセミナーを開催しました。今年のテーマは Let’s Talk More about Humans: This Pathetic, but Lovable Creature (人間について語ろうーこの哀れで愛すべき生き物たちー)。
博報堂APAC CO-CCOの木村健太郎が、今年業務提携を行ったUnlimited Group(英)傘下のWalnut Unlimited クリスティーナ・ディ・ブランゾーさん、Serviceplan Group(独)のアレクサンダー・シルさんと共に登壇。3人が「人間」についての深い洞察と実例の紹介を、それぞれの専門領域に基づき発表しました。モデレーターは、博報堂の執行役員 中尾文美が務めました。

「本日のテーマは人間について。このテーマは時代を経て、幾度となく論議され、分析され、考察され続けてきたテーマです。今日は同僚3人がそれぞれの視点に立ち、人間の心理を紐解きます。
人間の感情、行動、傾向。決して美化することなく、深い意味を持ったストーリー。気まぐれで、浅はかで、時には愚かな人間のストーリーをみなさんと共有していきたいと思います。」という中尾のコメントで、セミナーは幕を開けました。

博報堂 執行役員 中尾文美

人は繋がりがなしでは生きていけない

最初のスピーカーはServiceplan Groupのアレクサンダー・シルさん。「人間が人間であるために、テクノロジーをどう活用したらよいか」という興味深い問いを投げかけました。

人間は社会的な生き物だから、「つながること」が重要です。テクノロジーは、人間が、いつでも、どこでも、何にでも、「つながること」を可能にしました。ブランドやマーケッターにとっては、アクセシビリティが大切だということを意味します。
テクノロジーを使えば、我々は肉体的な限界を超えて、それらの障害を克服することができるのです。
スマートフォンは人を様々な可能性と結びつけてくれたし、車椅子は移動の制限から解放して世界を結びつけまし
た。

Serviceplan Group アレクサンダー・シルさん

サービスやプロダクトやウェブサイトにアクセスし、「つながる」ことは、今や「人間の権利」だと思うのです。
しかし、一方で、視覚障がい者が利用できるウェブサイトは全体のたった30%であり、世界2億8500万人の視覚障がい者は70%のウェブサイトにアクセスできていないという事実もあります。
先日、視覚障がい者で、デベロッパーの友人とアクセシビリティについて話しました。
彼女が最新のコーヒーマシンを買った時のこと。箱を開けるとそれは触れればわかるボタン式ではなく、デジタルディスプレー式であることが判明しました。彼女は結局コーヒーの淹れ方が分からず、ただ新しいデバイスへと交換しただけで、突然、朝のコーヒーとの「つながり」を失ったのです。

ブランドやマーケッターはこうした点を見落とさないように注意すべきです。未来を切り開くためのデジタル化によって、誰かを置き去りにしてしまわないように。

Service Plan Groupは2013年、2億8500万人の視覚障害を持つ人々を、様々な形で現代社会に結びつける技術を開発するために視覚障害者支援製品を開発したDot Incorporationという韓国企業と提携しました。
彼らは、「触覚」コミュニケーションによって視覚化を実現する世界初の点字モバイルウォッチ「Dot Watch」と、あらゆるデジタルメディアにアクセスできる点字翻訳デバイスDot Miniなどの実用化を通じて不自由な人たちと、公共インフラや交通機関を結びつけています。
テクノロジーを通じて、アクセスやコネクテッドを実現するデバイスを増やすことが、いかに大切かを伝える、良い事例だと思います。

人を動かすのは情報でなく感情である

2人目のスピーカーとしてWalnut Unlimitedのクリスティーナ・ディ・ブランゾーさんが、人間と「感情」の関係をテーマに発表を行いました。

アレックスは人間にはつながりが必要だという話をしました。私は「感情」を通じたつながりの変化についてお話しします。
偽りのない、真の感情こそが、情報やメッセージを効果的に伝えるのです。

広告業界では、ポジティブな感情だけが人間の行動を変えると考えられがちです。しかし、悲しみ、怒り、失望といったネガティブな感情もエンゲージ度が高く、行動誘発に効果的です。
たとえば重要なのは、CMの中でブランドを登場させる際、感情的なクライマックスを狙った方がいいのです。感情反応がブランドと同期していないと、広告は思い出せてもブランド想起には結びつかないからです。

Unlimited GroupのWalnut Unlimited クリスティーナ・ディ・ブランゾーさん

神経科学や心理学の手法を使ってミリ秒単位で人の感情を測定すると、様々な感情のパターンに分類できて、何が効果的なのかがわかってきます。
(実例としてユニリーバの男性化粧品ブランドLynxの動画CM「Boys Don’t Cry」を紹介。男性たちが泣いたり、弱い面をさらけ出したりする情緒的な映像と、脳が示すエンゲージメント指数の動きの関係を説明した。)

ブランドとの結びつきを作るためには、理性的なメッセージより、感情的なコンテンツが大事なのです。
記憶や認識や意思決定は「感情」が左右します。人間とはロジカルでなくエモーショナルな生き物なのです。
100%確実なのは、我々の脳は「考える」ためというより「感じる」ためのものだということです。ホモ・サピエンスは地上でもっとも感情的な生き物だということを忘れないでください。私たちは理性的なのではなく、理性的に正当化しているだけ。

行動経済学者のことばを借りるなら、「人間にとって“考える”ことは、猫にとっての“泳ぐ”ことに近い。できるけれどやりたくない」なのですから、コミュニケーションはできるだけシンプルにした方がいいのです。
人間のコミュニケーションは情報だけでなく、感情が大事です。もちろん、メッセージを伝えることも大事ですが、感情に訴えかけるエモーティブキャンペーンは情報や説得よりも人の心を口説くのです。さらに長い目で見ると、ブランドに寄与します。

感情が大事であるという、もう一つの理由は共感できるからです。科学界では賛否あるミラーニューロンという神経細胞を通じて、人と人は感情を通じてつながることができます。先ほどのCMで、男性が泣いてしまって話のできない姿を見て、私たちは共感したのです。「誰かと共有しているものが多いほど、その人を近く感じ、共感反応はより強まる」これはブランドの目指すことでもあります。近い関係性を築いて、共感反応を最大限に引き出すのです。

経済を牽引している欲望はストーリーが作る

スピーカーの最後を飾ったのは木村健太郎。大成功をおさめ、海外広告賞を多数獲得した統合キャンペーン「絶メシリスト」を好例として、人間の「欲望」について語りました。

アレックスは、テクノロジーがいかに人間のつながる力を拡張してきたかということを、そしてクリスティーナは、いかに情報より感情の方がコミュニケーションにとって効果的かということを話してくれました。

僕は、「人間の欲望」について話したいと思います。

人々は、欲望に従って生きています。食べたいから食べるし買いたいから買う。
つまり我々の経済は欲望によって成り立っているのです。
人は生まれつき自分勝手です。厄介なのはポジティブな欲望もあれば、ネガティブな欲望もあるということ。
天使になったり悪魔になったり、その両方だったりするのですが、ある調査によると、人は自分の欲望のたった10%しか認識していないそうです。

では、何が僕らの欲望を作り上げるのでしょうか。
たとえば、食べ物への欲望、食欲を例に考えてみましょう。お腹が空いたとします。何を食べたいですか?牡蠣?ブイヤベース?ステーキ?フレンチ?いい店知ってる?新しい店にする?どうやって選ぶ?―するとあなたは、スマホを手にとって、グーグルで検索したり、イェルプを見たり、ここはカンヌなんだからミシュランブックで星付きを探そうよということになりますよね。

博報堂APAC CO-CCO 木村健太郎

私たちは「人気店は必ず美味しい」というロジックで納得しているから、人の評判やランキングに頼りがちです。
でも、博報堂ケトルと博報堂は違う方法でレストランの選び方を思いつきました。一番人気のお店ではなく、一番さびれてすたれたお店を選ぶのです。

(「絶メシリスト」の統合キャンペーンを説明した映像が流れた。経営者の高齢化、後継者の不在により、多くの個人経営レストランが閉店に追い込まれている高崎市の現状と、それらの店舗から生み出される素晴らしい料理たち、そしてキャンペーンとしての成功やメディアでどう取り上げられたか、などが紹介された。)

普通、さびれたレストランに行こうとは思わないけど、でも、家族経営で、古くて、後継者不足で、閉店してしまいそうなレストランだったら興味がわくかもしれませんね。
なぜかというと、地元のお店に行くことで地元の「物語」に参加しているからです。つまり、物語は欲望を生み出すのです。

このキャンペーンは様々な物語の役柄を演じさせてくれます。例えば、ある人にとっては、つぶれそうな店やなくなりそうな味を救うヒーロー物語だったり、別の人には、ドキドキしながらさびれたレストランを探検する宝探しをするような物語だったり、更には、20世紀半ばの料理を食べに行くバック・トゥー・ザ・フューチャーのようなタイムトラベルの物語だったり。

クリスティーナが言う通り、感情を揺さぶる物語は単なる情報よりも強いのです。

サピエンス全史という本で著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏はこう言っています。
「“サピエンス(人間)”の最大の特徴は虚構を作り信じること」人間は想像上の現実を信じることがでる唯一の動物なのです。

例えば、通貨、国家、宗教。これらはみんな人間の想像力が作った「物語」なのです。そうした「物語」を信じることで繁栄してこれたのです。
「物語」を作る能力は欲望を生み、突き動かす、人間の素晴らしい能力なのです。

もう一つ、このキャンペーンで教えてくれていること。それは強い「共同体意識」です。地方のコミュニティで幸せを見つける喜び。
アレックスが言ったように、人間は共同体とつながっていたい存在なのです。地元の小売店を応援したキャンペーンは、同じコミュニティの人をサポートしたいというポジティブな欲望です。
私はこうした「隣人を助けたい」という欲望が世の中をもっと良くしていくと思います。つまり、ポジティブな欲望こそが明るい未来を創り上げていけるのです。

AI時代の私たちの役割は、ポジティブな欲望を引き起こす「物語」を作ることなのです。人間とは、自らの欲望にすぐに振り回される「悲しき生き物」と言われてきました。時には愚かなこともするけど、絶えずポジティブな物語に突き動かされる愛すべき生き物だと思いませんか?

最後に・・・

プレゼンテーションの締めくくりとして博報堂の中尾文美が、今回のセミナーを通じて彼らが共有したインサイトについて語りました。

このセミナーの準備段階で、当初から決めていたのは人間について語りたい、ということでした。ステレオタイプの先にあるリアルな人間の本質をテーマにしたかったのです。

アレックスは人間の「つながり」の素晴らしさだけでなく、「切り離される恐怖」についても語り、クリスティーナは「人間は“情報”より、その裏にある“物語”や“感情”に関心がある」ことを提示し、健太郎は「時に愚かで哀れな人間は、自分のコミュニティや文化を愛し、それに“共感”できる素晴らしい生き物である」と語りました。

私たちはあるインサイトに辿りつきました。それは、私たちにとっては、「グローバル」がテーマなどではないということ。そもそも地図には「グローバル」などという場所はありません。
私たちが探究しているのは歴史の中で淘汰された、時を超えて普遍的な「真理」であり、その時々の主流なものや、何かを追加したり更新することで拡張する広告やトレンドでもない、「本物」とは何かを語るということでした。

何が信じられるか、何がリアルか議論を重ねてきた中で、このセミナーに限らず、これが私たちの共通信念であることを認識できました。そして、だからこそこうしてパートナーとなったのだと思いました。Service Plan、Unlimited、博報堂―ミュンヘン、ロンドン、東京それぞれの地域特色を持ち、エキセントリックで、際立った個性を放つ3社。この舞台に一緒に立ち、共有の場に恵まれたことを非常に光栄に思います。

中尾 文美

博報堂 執行役員

木村 健太郎
博報堂 APAC CO-CCO

博報堂ケトル 代表取締役共同CEO兼エグゼクティブクリエイティブディレクター

Cristina de Balanzó

Walnut Unlimited
コンサルタンシーディレクター

Alexander Schill

Serviceplan Group グローバルチーフクリエイティブオフィサー、取締役、アソシエイトパートナー