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スタートアップスタジオ“quantum流”事業創造術とは

2022.05.18
多様な新規事業を生み出し続けるquantum(クオンタム)。今月、quantumが事業開発した歩行専用トレーニングサービス「walkey(ウォーキー)」(前回の記事はこちら)が、JV(ジョイント・ベンチャー)化されました。walkeyの事業開発を経て実感した、事業創造におけるquantumの強みについて、walkey開発担当者3名に聞きました。

渡辺達哉 株式会社walkey代表取締役
門田慎太郎 quantum常務執行役員/チーフデザイナー
中村覚 quantum Venture Architectシニアマネージャー / walkey プロジェクトリーダー

■さまざまな職能のメンバーが職域を超えて、事業の根幹から考える

――quantumでの事業開発はどのように推進されているのでしょうか?メンバー構成や役割について教えてください。

渡辺
事業開発の規模や内容によって、構成するメンバーや人数は変わってきますが、まずはミニマムに少人数で開始するものもありますし、先日お話したwalkeyの開発のように割と大人数でチームを組んで進めるものもあります。
walkeyを例に、メンバー構成や進め方についてお話しすると、quantumからは合計10人程メンバーが携わっています。私とquantumの取締役共同CEOの川下がプロジェクト責任者として全体統括し、プロジェクトのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)として中村、デザイン責任者としてデザインの開発、監修にあたったのが門田です。門田率いるデザインチームが、ロゴやサービス全体、プロダクト、店舗など、ブランドに関わる全てのデザインを担当しました。またwalkeyの場合は、我々の協業先でもある、医療機器メーカーである朝日インテックと一緒にジョイントチームを構成しています。朝日インテックのメンバーには、デバイスをつくっていらっしゃるようなエンジニアの方もいらっしゃいますが、全員フラットに最初のアイデア出しから具体的な事業構想を固めていくまで、半年くらいの期間をかけてチームで進めていきました。アイデアが固まった段階で、アプリ・デバイスのUI担当のエンジニア、ビジネス・サービス設計、PR、接客を担当するメンバーを増やしながら、推進していきました。

中村
広告の仕事においては、営業やマーケティング、クリエイティブなど部署間をまたいで見事なバトンリレーのように、業務が進んでいくことも多いと思うんですが、quantumで新規事業開発をする場合、協業先も含めてチームみんなで、事業の根っこの部分から一緒に考えることを大切にしています。
walkeyのプロジェクトもそうでしたが、チームで最初に行ったのは、「人生100年時代」に健康的に歩けるようにするには、どういった事業が考えられるかのゼロベースでのアイデア出しです。チーム全員でアイデアを出しながら、大学教授や医師、理学療法士といった有識者の話を聞いていくうちに、「歩行のメカニズム」をきちんと理解しなければならない、というところにたどり着きました。そこで理学療法士、作業療法士の方が勉強する分厚い専門書を取り寄せ、分担して読みこみ「歩行のメカニズム」について全員で学習、理解しました。そのうえで、アイデアを作っては壊し・・・というのを何度も繰り返し、全部で100個くらいのアイデアがでましたが、専門的なアドバイスももらいながら、最終的にwalkeyという事業アイデアにたどり着きました。

チームには僕のようなマーケティング出身者の視点もあれば、渡辺さんのようなビジネスコンサルティングの視点、門田さんのようなデザイナーの視点など、さまざまな視点があり、それぞれの視点を活かしたアイデア出しを意識的に行った結果、今ある事業にブラッシュアップすることができたと思います。そしてみんなで理解し考えた土台があるからこそ、後のフェーズでそれぞれが別々に動くことになっても、軸がブレずにいられるのだと思います。

門田
協業先を含めた大きなチームで、前提とする常識が違う人同士が意見をみんなで出し合うことで、相互作用も生まれ、結果的に今までにない、自分たちだけでは思いつかないようなアイデアも出てくると思います。

■quantumという「出島」を使って共創環境を整える

――新規事業として誕生したwalkeyはこの5月に、協業先である朝日インテックとJV化されたとのことですが、そこにはどういう意図があるのでしょうか。

渡辺
会社化することで、さまざまなプレイヤーと協業しやすくなると考えています。つまり、共創しやすい環境を整えるという意図があります。今回開発した歩行専用トレーニングサービスwalkeyはあくまで手段でしかなく、我々がこのプロジェクトで目指したのは、walkeyによって歩行力を鍛え、ユーザーが自力で歩くことで、新しい世界を楽しんでもらうということ。その一環としてwalkeyユーザーに向けて、旅行会社と協業し旅行を企画することも考えられますし、家電メーカーと協業しフットケアのようなサービスを企画することもできるでしょう。歩行100年時代のサービスとして形にするために、1社だけではなく、様々な企業と連携・協力しながら進めていきたいと考えています。

中村
また、協業先である、医療用カテーテルで高いシェアを誇る医療機器メーカーの朝日インテックにとって、walkeyはBtoC領域に臨む初のチャレンジということになります。もともとquantumには、クライアントがなかなか踏み込めないような新領域へのチャレンジの際に、quantumという場を活用してもらう「出島」プログラムがあります。今回JVという形をとるのも、社内のさまざまな制約を超えた「出島」的な環境で、自由度高くスピーディに事業展開にあたっていただくという狙いもあります。

■次の時代の正解を見つけるための連立方程式を解く

――quantumの事業創造におけるこだわり、また強みは何だと思われますか。

渡辺
一つは、博報堂グループの一員として、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」はしっかり浸透していて、生活者を中心としたサービスやプロダクトをつくっていることです。今回のwalkeyもそうですが、これから生まれていくサービスについても、生活者が潜在的に望んでいることを見つけ出し、結果ニーズやペインの解消につながるようなことを、生活者の視点に立ってつくっていきたいと思っています。二つ目は、エンジニアやデザイナー、ビジネス設計やPRを得意とするメンバーなど、さまざまな職能を持った人たちが集まり、チームみんなで考えることで、今までにない新しい事業の創造を目指すことは、quantumならではの事業創造のあり方かと思います。

門田
デザインに特化してお話すると、狭義のデザインは、形や色、目に見える部分の話になりますが、quantumの事業創造におけるデザインは、見た目はもちろん、サービス自体をどう設計していくかという広義のデザインが求められます。上流からサービスをデザインしていき、最後のプロダクト、デバイスをつくるという下流のデザインまで一気通貫してできるというのが、quantumのデザイン面での強みだと考えます。

中村
アプローチとプロセスの2つに分けてお話したいと思うのですが、アプローチの面でいくと、世の中にはイシューがはっきりしていながら、まだソリューションが生まれていないものはたくさんあります。walkeyのプロジェクトでは「歩行」でしたが、人生100年時代を考えると、たとえば認知症へのアプローチなど、現時点でぴったりとはまるようなソリューションは存在していません。quantumがこだわっているのは、そうしたイシューに真正面から向き合い、「自分たちこそが次の時代の正解を見つけるんだ」という姿勢でアプローチしていること。事業開発で大切にしているquantum独自の考え方だと思います。

また、プロセス面では、そうした課題解決にはあらゆる人の考え、視点が欠かせませんから、職域が限定されていないさまざまな職能の人たちがフラットにつながり、さまざまな角度からアイデアを出し合い、ゼロベースで解決策をつくっていけるという点も、quantumの事業創造において大きな強みだと思います。
事業をつくるうえで肝心なのは、技術面、サービス設計、資金、ヒューマンリソース等々が複雑に絡み合った連立方程式から、いかに現実解を導くことができるか。その解は決して一人で解けるものではなく、さまざまなプロフェッショナルがさまざまな角度から考えるからこそ解けるものだと思います。

walkeyのプロジェクトでは、アプローチにおいてもプロセスにおいても、そうしたquantum独自の強みをあらためて自覚しましたし、事業開発には欠かせないものだと実感もしました。

渡辺
職能を持つそれぞれが、越境し混ざりながら、いいもの、新しいものをつくるために前に進んでいく。ひとつのビジョンのもと、各自がそれをしっかりと意識していることも、quantumの事業創造の大事な素地になっていると思います。

渡辺 達哉
Tatsuya Watanabe
walkey事業責任者

東大発バイオベンチャー・ペプチドリームの研究室にて創薬技術の研究に携わったのち、外資系コンサルティング会社にて戦略策定や企業統合、事業開発に従事。その後、ベルリンでも事業の立ち上げを経験し、2017年12月、quantumに参画。
quantumでは執行役員として、新規事業開発プロジェクトや、社内起業家育成プログラム、外部企業とのアライアンスを牽引。
朝日インテックとの新規事業としてスタートした歩行トレーニング事業を合弁会社化し、2022年5月に「株式会社walkey」を創業。
現在は、株式会社walkeyの代表取締役として事業を推進中。

門田 慎太郎
Shintaro Monden
quantum 常務執行役員

国内デザインファーム及び外資系PCメーカーにて、一点モノの家具から世界で数万台を売り上げるラップトップPCまで幅広い分野の製品デザインを担当したのち、quantumに参画。quantumのデザイン部門を統括し、プロダクト、グラフィック、UI/UXデザインなどの境域から幅広い分野の新規事業開発を牽引する。デザインリサーチ、コンセプト開発、実証実験、量産設計支援まで一連の製品開発を一気通貫に行うことを強みとしている。 手掛けたプロダクトは、iF Design、RedDot design、D&AD、Cannes Lions、グッドデザイン賞など、数多くのアワードを受賞しているほか、ドイツ・ミュンヘンのPinakothek der Moderneのパーマネントコレクションにも選定されるなど、国内外から高い評価を集めている。

中村 覚
Satoru Nakamura
quantum Venture Architect Senior Manager

博報堂・TBWA/HAKUHODOでのSTP職を経て、2020年6月quantumに参加。 これまでに、観光客の行動履歴データを活用したナビゲーションシステムの開発、流通の購買体験を拡張する食のプラットフォーム事業の設計、AIを活用した予測サービスの立ち上げ、等々の新規事業開発案件に従事。また個別の新規事業開発案件だけでなく、企業内から起業家を育成するStart Up Programの設計と実施にも携わる。 歩行専用トレーニングサービスWalkeyでは、プロジェクト全体のリードを担当。

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