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人生100年時代を、歩行100年時代に。
100年歩ける身体をつくる。“歩行専用”トレーニングサービス「walkey」って何?

2022.04.28
#グループ会社
さまざまな新規事業を生み出し続ける博報堂グループのquantum(クオンタム)。quantum発の新たな事業として誕生した、歩行専用トレーニングサービス「walkey(ウォーキー)」。“歩行専用”トレーニングはなぜ生まれたのか、開発に至った経緯やサービスの特徴、今後の展望について、開発担当者3名に聞きました。

渡辺達哉 quantum walkey事業責任者
門田慎太郎 quantum walkeyデザイン責任者
中村覚 quantum walkeyプロジェクトリーダー

■コロナ禍で生まれた、「歩行」をテーマとした事業アイデア

――事業の着想について教えてください。

渡辺
もともとquantumではさまざまな事業開発を行っており、特にヘルスケア領域においては、「人生100年時代においてどう健康寿命を延ばすか」というテーマにおける多くの知見が貯まってきていました。そこでヘルスケアの新規事業を立ち上げようという話をしていた矢先にやってきたのが、新型コロナウイルスでした。コロナウイルスにより外出自粛生活を余儀なくされたことは、多くの人の健康寿命に影響を及ぼしました。健康寿命を延ばすという命題がより喫緊のものとなった中で、我々は「歩行」に着目しました。「健康的に歩くことを通して、いろんな生活を楽しめる世界をつくる」ための事業にしようと決めました。

中村
当初のアイデアのひとつには、歩行をサポートするためのサポーター、パワードスーツのような人工筋肉のプロダクト開発の案もありました。しかし、チームメンバーでアイデアを出し合いながら、大学教授や医師などさまざまなプロフェッショナルに話を聞いたり、理学療法士や作業療法士の方が勉強する専門書を読んで、歩行のメカニズムや身体の構造的理解を深めると、歩行障害の症状は千差万別で、障害が出てしまうと、パワードスーツのようなひとつのソリューションでカバーすることが非常に難しいということがわかりました。また、症状が出てしまってからでは遅く、加齢に伴い衰えていく筋肉や関節といった歩くために必要な身体の機能を、症状が出る前からいかに整え維持し続けるか、が大切だということもわかりました。色々なことがわかってきた中で、歩行に注目してこれらをケアするアプローチはまだ世の中にないのでは?ということで、今のサービス開発に至りました。あくまでも自分の力で歩行し、暮らしを楽しめるような世界を目指したいと思ったんです。

渡辺
僕の両親が田舎で暮らしていて、車中心の生活で、ほとんど歩かないと聞いていたのですが、さらにコロナ禍でそんな生活が加速して、足も細くなり、筋力が弱っているように感じました。個人的には、そういう方たちの歩行力を改善できたらなという思いもありました。

――事業構想からどれくらいの期間で実証実験までたどり着いたのでしょうか?

渡辺
コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が出されていた20年5月、この事業の構想が始まりました。実証実験の開始が21年10月なので、1年半くらいの間にデバイス、アプリ、ラボ(店舗)を作り上げました。「walkey」は自宅でのトレーニングが中心というコロナ禍を背景に生まれたサービスでもあるので、3~4年経つときっと人々のコロナウイルスに対する向き合い方も変わるはずだと考え、なるべく早く形にすべく、スピード感をもって進めていきました。

■「反転ジム方式」で運動に馴染みのない人を長期的にサポート

――歩行専用トレーニングとは、具体的にどういうものでしょうか。

渡辺
まずはラボ(店舗)に来ていただき、足や全身の筋肉や関節の可動域など、計70項目を測定する「歩行力チェック」を行います。それをもとに改善が必要な個所を特定し、120種類にのぼるトレーニングプログラムからご本人専用のメニューを提供。そのメニューに従って、ご自宅でトレーニング専用機器とアプリを使ってトレーニング(1日約30分)をしていただきます。2週間後に再びラボ(店舗)に来ていただき、トレーニングの成果に応じてまた次のトレーニングメニューを処方していくという流れです。

中村
コロナ禍も考慮しつつ、アクティブラーニングの考え方に則り、ラボ(店舗)にいる時間は最小限に、なるべく人に会わずに自宅でのトレーニングを中心としながら、メニューの復習やさらなる学習の場としてラボ(店舗)を活用いただくという「反転ジム方式」というコンセプトを考ました。毎日のトレーニングに専門家が寄り添い、定期的にチェックするという形で、歩行力を長期的に改善していくことを目指しています。

――ターゲット層はどういった方々を想定していますか。

渡辺
女性を想定しています。というのも、多くの方の筋力が低下し始めるのが45歳くらいの年齢で、さらに女性は更年期を迎えると筋力と骨密度が急速に落ちることがわかっていたからです。その中でも何年も継続的に運動を行えていないという女性の方々に、後々の人生の歩行力改善に役立てていただきたいという想いがあります。もちろんゆくゆくは男性にも広く活用していただきたいですね。

――独自に開発された自宅用のエクササイズ専用デバイスについて、デザイン面で工夫されたことについて教えてください。

門田
運動器具というものはどこかゴツゴツしていたり、メカニカルなデザインになりがちですが、そうするとあまり部屋に置いておきたくなくなります。このプロジェクトの目的は、日常の中で運動を習慣化することでもありますから、まずは部屋の中で悪目立ちしない、やさしいトーンのデザインを心掛け、さらに足をぶつけても痛くないよう角をなくすなど、安全性にも配慮しました。部屋に出しっぱなしにしておけば、毎日の生活の中で何度もこの器具が視界に入ることになる。自然とトレーニングしようという気持ちになれるわけです。

■動的な事業開発プロセスだったからこその苦労と醍醐味

――今回の事業開発を進める上で、苦労されたことや嬉しかったことを教えてください。

渡辺
実証実験を3カ月間行った結果、30名程度のモニターの方において、8割程度の方に身体的改善が見られたことはとても嬉しかったです。トレーニング開始時に比べ、「ここまで曲げられるようになった」とか、「ぐらついていたのにしっかり支えられるようになった」などの声があがりました。そして「実証実験後も、せっかく習慣になったのでぜひ続けたい」という方もいました。非常にありがたい言葉で、事業を始めた意義が感じられ、嬉しかったですね。

中村
今回のように、始めにイシュー(=「100年歩ける身体を作る」)だけが決まっていて、ほぼゼロベースで総合的なサービスデザインまでをつくりあげるというケースは、博報堂グループ内の事業開発でも非常にまれだと感じています。

当初想定していたパワードスーツのようなプロダクト開発から、総合的なサポートサービス開発へとゴールがシフトする過程で、プログラムのサービスデザイン、サービスへの導線としてのアプリ開発、ラボ(店舗)の設計・デザインなど、関係するさまざまなプロフェッショナルがどんどんチームに加わっていきました。そして最適なソリューションを見つけるまでの間、全員がアイデアを出し合い、柔軟に体制やプロセスをアジャストさせながら実現にこぎつけた。そこに大変さもあり、面白さもありました。メンバー同士の相互作用なども生まれ、動的な事業開発プロセスの醍醐味を感じました。
その結果として、参加者の方から高い満足度を得られたこと、身体的改善が見られたことは、チームとして非常に励みになりました。

門田
デザインに関しては、今回ハードウェアもありソフトウェアもあり、プログラムも物理的なラボ(店舗)も…と、非常に多岐にわたっていました。そこに一本軸を通し、walkeyというブランドの顔つきをどうコントロールするか。やはりしっかりしたブランディングには、どこを切っても同じ顔つきをお客さんに提示することが大切ですから、walkey全体としてのトーンはとても意識しましたし、大変なところでもありました。

一般的なスポーツジムのデザインを思い浮かべると、少しアグレッシブだったり、ビタミンカラーが入ったり、どちらかというとアッパーな雰囲気で、元気で力強い印象があると思います。walkeyの場合はターゲットがエントリーシニアなので、「体力にはあまり自信がないけど、私にもできるかな」と思ってもらえるよう、全体のトーンは少し抑え目に、優しい雰囲気で、ある意味ハードルを少し下げた感じを目指しました。

ハードウェアに関しては、しっかりと体を鍛えるというよりは、日常生活の延長にあっても違和感のない印象にし、アプリのUIUXに関しては、ターゲット層を意識して、視認性の高いフォントサイズ、色を採用。カレンダー上にトレーニングのログが残る仕様を加えたり、アニメーションを使うことで励ましてくれるなど、動機付けを意識し、毎日継続して使っていただけるようなUIを目指しました。その結果、ユーザーさんの離脱率も低く抑えることができ、モチベーションアップにもつなげられたのではないかと思います。

■walkeyを通して「歩行力」を強化し、その先の世界を楽しんでほしい

――実証実験を経て新たにわかった課題や、今後の展望についてお聞かせください。

中村
ターゲット層は、どちらかというとこれまで運動や身体のケアをしておらず、人生100年時代に歩くことができるか不安を抱えている方々なわけですが、そういう方々は、過去健康器具を買ったりジムに入会するなど、トライしたものの挫折経験がある方たちでもあります。僕らとしては、歩行100年時代に向けてできるだけ長くサポートしていくというのが至上命題なので、いかに飽きずに、挫折せず続けていただけるかが大きなポイントだと考えています。

実証実験の結果も、「是非続けたい」と評価してくださる声がある一方で、一部の方からは「やっぱり続けられないかも」という声もありました。後者の方は、続けることへの不安があったり、モチベーションを保つのが難しいとおっしゃっていました。僕らは、2週間に1度、ラボ(店舗)でのトレーナーとのコミュニケーションを通じてモチベーションを維持してもらえるよう設計していましたが、それだけではまだ不十分であることも実証実験を通して分かりました。ですからもう少し違う視点で、継続性をどう上げていくかを考える必要があると考えています。

たとえば、コミュニティで横のつながりをつくってもらうとか、自分の足で歩く世界を知ってもらうためのイベント開催なども検討しています。walkeyのロゴが緑なのは、100年歩ける身体をつくることの先に、いろんな世界、山、川など、自然の中を歩くことを楽しむ世界を連想してもらうためです。サービスだけではなく、サービスを通じた世界をどう広げていくのか、という部分をどうサポートできるのか、イベントやコミュニティづくりなどは、今後しっかりやっていきたいと思っています。

門田
実証実験の参加者で「歩行は最小だけど、最大の能力ですね」と言ってくださった方がいて。本当にその通りだなと改めて思い知らされました。歩行は、基本的な能力ですが、すべての活動において根底にある。我々のサービスを通じて、歩行筋力を鍛えることだけを目的にするのではなく、その先の世界を楽しんでいただけたらと思います。

渡辺
我々も、お客さまに歩行マスターになってほしいわけではありません。あくまでも、行きたいところに自分の力で行って世界を楽しんでほしい、そういう世界を広げるお手伝いがしたい、ということなんです。
イベントにしてもコミュニティにしても、新しい人と出会ったり、閉じかけた世界を広げるきっかけになるような、歩行100年時代を支える魅力的なサービスに成長させていければと考えています。

渡辺 達哉
Tatsuya Watanabe
walkey事業責任者

東大発バイオベンチャー・ペプチドリームの研究室にて創薬技術の研究に携わったのち、外資系コンサルティング会社にて戦略策定や企業統合、事業開発に従事。その後、ベルリンでも事業の立ち上げを経験し、2017年12月、quantumに参画。
ヘルスケア、フィンテック、ブロックチェーンを中心に、quantumにおいても様々な領域の新規事業プロジェクトに取り組むほか、IoTデバイスの開発からソフトウェア開発まで、多岐にわたる事業開発の経験を元に、大企業の社内起業家育成プログラムの立ち上げ・運営も数多く担当してきた。
現在はビジネス開発ならびにグローバルアライアンスの担当執行役員としてスタジオを牽引、新規事業開発・事業戦略の企画推進にあたっている。

門田 慎太郎
Shintaro Monden
quantum 常務執行役員

国内デザインファーム及び外資系PCメーカーにて、一点モノの家具から世界で数万台を売り上げるラップトップPCまで幅広い分野の製品デザインを担当したのち、quantumに参画。quantumのデザイン部門を統括し、プロダクト、グラフィック、UI/UXデザインなどの境域から幅広い分野の新規事業開発を牽引する。デザインリサーチ、コンセプト開発、実証実験、量産設計支援まで一連の製品開発を一気通貫に行うことを強みとしている。 手掛けたプロダクトは、iF Design、RedDot design、D&AD、Cannes Lions、グッドデザイン賞など、数多くのアワードを受賞しているほか、ドイツ・ミュンヘンのPinakothek der Moderneのパーマネントコレクションにも選定されるなど、国内外から高い評価を集めている。

中村 覚
Satoru Nakamura
quantum Venture Architect Senior Manager

博報堂・TBWA/HAKUHODOでのSTP職を経て、2020年6月quantumに参加。 これまでに、観光客の行動履歴データを活用したナビゲーションシステムの開発、流通の購買体験を拡張する食のプラットフォーム事業の設計、AIを活用した予測サービスの立ち上げ、等々の新規事業開発案件に従事。また個別の新規事業開発案件だけでなく、企業内から起業家を育成するStart Up Programの設計と実施にも携わる。 歩行専用トレーニングサービスWalkeyでは、プロジェクト全体のリードを担当。

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