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ヒット習慣予報 vol.208『言葉遣いメンテナンス』

2022.03.01

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの永井です。

いよいよ本年度も残り1ヶ月。春の訪れが待ち遠しくなりますが、いかがお過ごしでしょうか。僕が住む札幌は、連日の報道にあるように例年にないほど雪深く、コロナ禍の自粛も相まって、平日はリモートワーク、休日は自宅で映画を見漁るだけの冬眠生活を送っています。
そんなお籠り生活を続けているなかで最大の悩みなのが、日に日に会話ベタになってきているということ。当方一人暮らしのため、ひとり黙々と仕事をこなしていますが、いざビデオ会議や対面で誰かと会話する際、言葉が全然出てこないことがあります…。プレゼンでも「あの時、こういう言い方で話せばよかった」と後の祭りのオンパレードです(笑)周りでも同じような症状に悩んでいる人も少なくなく、日常会話の大切さと言語コミュニケーションの難しさを痛感する今日この頃です。

さて、今回ご紹介するテーマは「言葉遣いメンテナンス」です。
新しい生活様式でコミュニケーションのあり方が変容するなか、今一度自分の言葉遣いや話し方を見直そう、より良くしようとする兆しを「言葉遣いメンテナンス」と名付けました。書店の売れ筋ランキングをみると、様々なカテゴリで「言葉」や「語彙力」、「話し方」、「言語化」といった見出しの書籍が上位にランクインし、SNSを覗いても言葉遣いや会話力の衰えを嘆く声が散見されました。では、どのように言葉遣いをメンテナンスしているのか、具体的にご紹介したいと思います。

まずは「インプットでメンテナンス」です。
会話でつい言ってしまいがちな言葉をポジティブに変換した言い換え表現や、話し方のコツ・心構えを書籍などからインプットする、最もオーソドックスな手法です。書店や動画サイトを見てみると、ここ最近この類のコンテンツが存在感を高めているように思います。これはビジネスシーンに限らず、日常のコミュニケーションにおいても悩める人が非常に多いからでしょう。うっかり余計なひと言を発したり、つい相手を正論で論破したりする方は、ご一読をおすすめ致します。

次は、「下書き機能でメンテナンス」です。
自分の身の回りで不条理な出来事や人物に出くわすと、ついついSNSや周囲の誰かに罵詈雑言を吐きたくなってしまうものですが、そこを思い踏みとどまり、一旦SNSの下書きにとどめ寝かせる手法です。自分の書いた下書きを一度寝かせてから見てみると、あえて公に言うことではなかったり、不適切なものや言い過ぎた表現に気づいたりすることがあります。調べてみると、そのような使い方をしている人がSNS上に散見され、なかにはテキストだけではなく、ボイスメモに自分の気持ちを吐き出す人もいました。思いの丈をいっときの感情のまま周囲に発するのではなく、一度自分だけのツールに吐き出し気持ちを整理しつつ、後に自分の言葉遣いを客観的にチェックしているようです。僕自身、酔っ払ったときの発言が危うい(らしい)ので、自省のためにぜひ取り入れたい手法です。

最後にご紹介したいのは「チャットボットでメンテナンス」です。
まだ実証段階で、広く生活者の兆しといえるものではないですが、チャットボットが自分の口癖を機械学習し、まるでもうひとりの自分と会話できる、そんな未来がすぐそこに来ています。海外ではチャットボットにとどまらず、自分そっくりのマネキンロボットに人格まで移植する実験が行われていたり、日本でも自分で育てた会話AIとメッセージできるアプリが話題になっていたりもしていました。さきほどの下書き機能でも客観視はできますが、クローンのようなもうひとりの自分と会話できると、自己の言葉遣いを他者として受け取ることができることでしょう。その正確性にはまだ時間はかかるかもしれませんが、技術的には既に実現可能であり、決め台詞や恋愛の口説き文句も他者視点で受け取って、メンテナンスできてしまうかもしれません。

ここまで「言葉遣いメンテナンス」についてお話してきましたが、なぜこれほどまで言葉遣いやコミュニケーションが注目されているのでしょうか。

その理由はいくつか考えられます。
まずひとつは「自己肯定感」。専門家いわく、自己肯定感を高める最大の手法のひとつが、言葉遣いを(ポジティブに)改善することのようです。スポーツ選手が失敗もプラスに捉え、成功イメージを描くのと同様の考え方です。日本人の自己肯定感はかなり低いと最近よく耳にしますが、Googleトレンドで「自己肯定感」というワードで調べてみると、ここ5年間で大きく上昇傾向にあり、特にコロナ禍をきっかけに急激に注目が高まっていることがわかります。

出典:Googleトレンド YouTube検索(「自己肯定感」で検索)

もうひとつは、オンラインでいつでもどこでも好きな人と繋がれる時代のなか、避けられない人付き合い・人間関係の存在がより強調されていることもあるかと思います。職場での上司と部下の世代間ギャップの埋め方やパワハラ防止法として、はたまたクラスやママ友、親戚などのコミュニティで軋轢を生まないために、自身の言葉遣いを見直す意識がより高まっているように思います。

最後に、「言葉遣いメンテナンス」のビジネスチャンスについて、少し考えてみました。

「言葉遣いメンテナンス」のビジネスチャンスの例
■テキストをポジティブな表現に矯正してくれるチャット機能。
■普段の言葉遣いを音声認識・分析し、統計的に信用度や好感度を数値化するボイス録音アプリ。
■会話を通じて、自分の言葉遣いをコピーして成長し続けるAIアバター
など。

中学の卒業アルバムに「全力ネガティブ」と記されるほどネガティブ思考の人間でしたが、本稿を執筆していくなかで、僕もやさしい言葉遣いから自分を、周囲を、社会を少しでも良い方向にしたい気持ちが芽生えてきました。言語化が効いているようです。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

永井大地(ながい・だいち)
北海道博報堂 / 博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2018年北海道博報堂に入社し、2021年から博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局に複属。アンダーグラウンドからメインストリームまで、新たな生活者インサイトを発掘すべく、日夜どこかの街を徘徊している。

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