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ヒット習慣予報 vol.197『ブッシュクラフト』

2021.11.30
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの山本です。

今日の話は、自分も大好きな「自然』にまつわる新習慣についてです。
以前執筆した『Vol.172グリーンインライフ(https://www.hakuhodo.co.jp/magazine/91256/)』では、観葉植物や自家菜園などの例を挙げながら、自然を生活の中に意識的に取り込む新習慣を取り上げ、コロナ禍の影響で、人々の自然に触れたい欲が高まっていることをご紹介しました。
グリーンインライフは、自然に触れる手段として最も手軽で身近なものですが、グリーンインライフの高まりと同じ理由から、森林浴やキャンプなどのアウトドア人気も高まっているようです。アウトドア関連の新しい製品やサービスが投入され、アウトドアの間口がより多くの人に広がったことも背景にあると思います。
また近年は、現代的で文明的な生活環境を享受しながら、自然のなかに滞在できる宿泊施設として、グランピングの人気も記憶に新しいところだと思います。

このように、コロナ禍でいっそう加速したアウトドアブームの主流には、“できるだけ負荷をかけずに、自然に触れたい“という人々の気持ちがあるように思います。しかし、今回ご紹介する新習慣「ブッシュクラフト」はこれとは逆のお話で、 “文明の力にできるだけ頼らず、自然の中でサバイブする”というものです。「ブッシュクラフト」は、平たく言えば“サバイバル術を、趣味として遊んで楽しみながら学ぶ”という新習慣です。僕たちが作った造語ではなく、すでに海外メディアや国内のアウトドアメディアでは一般的に使われている言葉で、自然の中で生きるための知恵を身につけることを目的にした、キャンプよりも、よりワイルドでストイック、そして自給自足的な精神を持ったアウトドアスタイルの総称であります。
Googleトレンドで「ブッシュクラフト」と検索してみると、ここ数年間で急激に検索され始めていることがわかります。

また、SNSで「#ブッシュクラフト」と検索すると170,000件もの投稿がヒットし、自然の素材を現地調達して作った自家製の焚火台、テント、食材などの画像が投稿されていました。

薪から火を起こしてみる、空き缶を使ってパンを焼いてみる、川で汲んだ水を蒸留して飲んでみる、テントを木材から作ってみる…。このように、難易度やハードルの高さに差はあれど、自然の中で生きるサバイバル能力を楽しみながら身につけることに、ブッシュクラフトの本質があるように思います。また、水の蒸留キットや火おこしキットなど、より手軽にブッシュクラフトを実践するためのアイテムも商品化されているようです。
僕の友人にも、月に何度もキャンプに行くようないわゆる「プロキャンパー」の友人がいますが、キャンプ場は使わず野営で寝泊まりし、食材や調理道具など部分的にあえて手間をかけて現地調達するという、ブッシュクラフトを実践している人がいました。

ここまで、自給自足型のキャンプとしてブッシュクラフトを紹介しましたが、サバイバル術的な側面のある他のアクティビティーも盛り上がりを見せています。その例として、「釣り」の再燃トレンドがあります。コロナ禍を受け、釣り市場は右肩上がりを見せており、ある大手釣具メーカーは今年の売り上げ予想が前年同期比で62%も増加したと発表しているほどです。市場が好調である理由として、従来の釣り人であった中高年層ではなく、若者や女性で釣りを楽しむ人が増えてきているようです。釣りを楽しむ若者のSNS投稿を分析してみると、“できないことができるようになって楽しい”“釣るだけじゃなく、調理するプロセスも楽しめる”という声が見られ、アウトドアブームの中でも釣りが好調なのは、“自分で食べるものを自分で獲ってみたい”というブッシュクラフト的な価値観が一翼を担っているように思いました。

また、自然の中でのサバイバルや自給自足体験、そしてそのための知識が価値になってきている例として、「ブッシュクラフト系YouTuber」の存在も挙げられます。野営での自給自足生活を記録したキャンプ系チャンネルや、プロの猟師や漁師の生活を記録したチャンネルなどが人気で、登録者数が10万人を超えるチャンネルも多く見られました。自宅にいながら、ブッシュクラフトの生活の一部を擬似体験できたり、サバイバル術の豆知識が勉強になるということで、自然の中で生きる知恵を感じられるコンテンツが盛り上がりを見せています。
また、このような動画チャンネルは、男性に限らず女性の動画配信者も多いようで、サバイバルするアイドル「さばいどる」という呼称で、自然の中でのサバイバル術を紹介する女性アイドルYouTuberも登場し始めているようでした。

ここまで、ブッシュクラフトの具体例を紹介しながら、「文明の力に頼らない、自然でのサバイバル体験やその術」への関心が高まっていることを述べてきましたが、手軽に自然に触れることを目的とした通常のアウトドアとの違いという観点から、その背景について少し考察してみたいと思います。

ブッシュクラフトが盛り上がる背景には、 “あえて便利さを選ばないことが心の豊かさにつながる”という考え方を持つ人が増えていることがあると思います。あえてスマホを見ない「デジタルデトックス」や、あえて自分で作ってみる「DIY」などが最近のトレンドワードになっていることも、その代表的な例です。
森林浴やオートキャンプが「デジタルデトックス」を求めて行われている側面があるとすれば、ブッシュクラフトはさらにDIY要素を加えて、あえて文明の恩恵から離れて自分でやりくりしてみる「文明デトックス」のために行われているということができると思います。
都市型の生活のような合理的で便利な生活からあえて離れることで、自分で自給するプロセスを楽しめ、サバイバルスキルも身につき、日々の生活の便利さにも改めて感謝できることが、盛り上がりを見せている一因なのではないかと思います。

また、普段の生活ではほとんど使わないものの、サバイバル術を知っていることの価値自体も、災害意識の高まりとともに高まっているように思います。安定したライフラインや生活が供給されない非常時に必要な自給自足スキルを、“いつかの万が一のために、楽しく実践して学ぶ“という意識が根付き始めているのではないかと思いました。

最後に、「ブッシュクラフト」をめぐるビジネスチャンスについて考えてみました。

「ブッシュクラフト」のビジネスチャンスの例
■ サバイバル体験を売りにしたアウトドア旅行パッケージ
■ 火おこしキットなど自宅にいながらサバイバル術を練習できるパッケージ商品
■ ブッシュクラフトをコンセプトにしたアウトドアD2C

今回ブッシュクラフトについてリサーチをする中で、改めて、不便を楽しめる人って素敵だよなあと思いました。皆さんも、キャンプやアウトドアに行かれる際は、テーマを決めてできるところからブッシュクラフトにトライしてみてはいかがでしょうか。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

山本健太(やまもと・けんた)
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2017年に博報堂入社以来、ストラテジストとして、企業やブランドの戦略・企画立案に従事。ミレニアル世代/グローバル領域の業務経験多数。写真と音楽とすべてのユースカルチャーをこよなく愛する

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