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語りたくなる、強いブランドのつくり方
-開発段階にこそPRクリエイティビティを-
Next Creative Map Vol.04 財田恵里

2021.11.17
博報堂には、企業のコミュニケーションやマーケティング課題に対してさまざまな「得意技」を持つクリエイターが数多くいます。その「技」を解き明かす連載「Next Creative Map」。
今回は、PR局の財田恵里が、ここ数年で大きく変化しているPRの役割と、企業におけるPRパーソンの活かし方について語ります。

企業の姿勢が透けて見える時代。PRは“話題づくり”から“価値づくり”へ

―財田さんは営業職からPR職へとキャリア異動して7年目ということですが、7年の間にどんな変化を感じていますか?

私がPR局に配属された2014年くらいには、まだまだ商品発売のタイミングでタレントをつかって発表会をやるといった、いわゆる派手なPRが多かったように思います。何件の記事露出がとれたかということが重視されて、広告換算額の多さを競っていました。
動画PRもとても流行っていて、いわゆるバズ動画をつくるとみんなが“いいね”してシェアしてくれた時代。それに比べると、今は“目立たせるだけのプロモーション”が跳ねなくなってきたという実感があります。表面上で何を言っても、その企業が本当に何に取り組んでいるかが、透けて見える時代になってきています。

―透けて見えるようになったというのは、やはりSNSの影響が大きいですか?

それは大きいと思います。これまで企業からのメッセージは広告会社のフィルターを通して生活者に伝わっていましたが、いまは企業のSNSアカウントが運用されて、生活者との直接的な接点が生まれています。親近感の醸成やメッセージ発信がしやすくなった反面、企業が社会の中で果たす役割や意義、その実態までもダイレクトに評価されるので、社会との合意形成が進む場合もある一方で、メッセージと実態に乖離があれば“口先だけ”と悪い評判を生んでしまうことも。企業のスタンスが見透かされてしまうようになったと思います。
また、動画PR全盛期の頃は、おもしろくて話題になればみんながシェアしてくれました。SNSもそこからだいぶ成熟して、いまは本質的な価値に共感しないと反応してくれないんですね。それはSDGsの文脈も大きく関わっているように感じます。“バカバカしいけどおもしろい”から“本質的なもの”に、求められる発信の質が変わってきた。同じようにPRの活用方法も、話題づくりから価値づくりにシフトしています。一過性のバズではなく、継続した評判形成ができる、本当に強いPRのつくり方。企業・事業として社会的価値と経済的価値の融合点を発掘し、それをどう伝えていくのか。それがいま求められているものです。

商品そのものに話題のタネを埋め込む、“川上”のPRメソッド

―話題づくりから価値づくりにシフトするなかで、仕事のやり方はどう変わりましたか?

大きく変わったのは、プロジェクトに関わるタイミングですね。これまでは、「話題づくり」を目的としてブランドをどう世の中に打ち出すかが中心にあり、キャンペーンや新発売のタイミングに3ヶ月程度の単発で呼ばれることが多かったです。また年間を通じたブランディングコミュニケーションも行いますが、いずれにしても既存ブランドでいかにニュースを生み出すかという、いわゆる広告会社の業務の中では“川下”のお仕事でした。それが最近では、事業の立ち上げや新商品開発のタイミングで戦略パートのメンバーといっしょに入らせていただくことが増えました。数年単位で長期にわたってクライアントと並走することも多く、私は“川上”からご一緒するお仕事を得意としています。

―財田さんのようなPRパーソンが“川上”にいることで、クライアントにはどんなメリットがあるのでしょう?

たとえば新商品の開発段階から私たちが参加できれば、商品そのものにPRのメソッドを注入することができます。ちょっと大げさに言えば「なにもしなくても露出がとれる商品をつくることができる」ということです。
商品のターゲットやコンセプト、ネーミング、発売時期など、あらゆる要素に“話題になる情報のタネ”を仕込んでおくことができる。できあがった商品に対して、なんとかメディアに載せる方法を考えるのではなく、ロングスパンで話題になる商品をつくることが可能になります。
また、開発段階の裏話を知りやすくなるということはクライアントとPRパーソン双方に大きなメリットです。いまPRは、企業から語るのではなく、あの商品ってこうらしいよ、あの企業ってこうらしいよ、とみんなの言の葉(ことのは)にのって語られなければいけない時代。その“勝手に語られている状態”をつくるために、ちょっとした裏話を伝えるストーリー設計がとても大切になってきます。
そのストーリーも、商品発売後に後付けするのでなく、最初から並走することでリアルな文脈として発信することができる。企業をよく知ることで情報に深みが生まれますし、より本質的な価値を伝えることができると考えています。

PRは、世の中にどう思われたいかを設計するためのパートナー

―企業やブランドそのものの価値を伝えるために、具体的にどんなアプローチをしていますか?

年単位でご一緒しているクライアントとは、週に2回程度の定例会を行ったり、かなり深い関わり方をしています。そういったクライアントは経営のトップの方とお会いすることも多いですね。この商品がどういいかを伝えるためには、この商品をなぜつくったのかという理念の部分も重要。商品を担当するとなったら、会社の成り立ちや企業理念をしっかり勉強させていただきます。
海外だと経営者のとなりにPRパーソンがいるのは常識ですが、日本ではPRはどうしても“最後に賑やかしてくれる人”だと思われがち。そこを変えていきたいんです。PRは露出のために使うのではなく、世の中にどう思われたいかを設計するためのパートナーとして活用していただければ、ぜったいにお得だと思います(笑)。

―世の中にどう思われたいかを設計するというのは?

私たちPRの強みは、ソーシャルの声やメディアからどう思われているかを熟知していること。クライアントが発信したいメッセージと世の中の声にズレがあった場合、それをきちんと伝えて修正していくことが使命だと思っています。
たとえばあるクライアントの仕事で、「安さ」訴求を軸にするコミュニケーションがありました。しかし、世の中の声に耳を傾けると、その企業は「安さ」よりも「品質」を評価する生活者が多かったのです。競合他社にもある「安さ」訴求では実態とのミスマッチが起こることを問題提起し、ご納得いただいた上でコミュニケーションの方針ないしは中期経営計画から見直すに至りました。
PRストラテジーから経営方針にも影響を与えるって、ちょっと考えるとすごいこと。でもその“出口の広さ”がPRのおもしろさだと思っています。
最初にお話ししたように、うわべだけのコミュニケーションは見透かされてしまう時代。世の中の人にどう見られたいかから逆算して、ソーシャルの視点でブランドを見立てることがいま求められるPRの仕事です。

出口にはお金をかけない。ブランドにも商品にも、最初からPRの文脈を

―いま求められるPR業務での博報堂の強みは?

やはり、露出をとるだけでない戦略を一気通貫でご提示できることだと思います。博報堂は戦略パートやクリエイティブなど多岐に渡るさまざまなメソッドが社内で共有されているところが強み。職種を超えてフラットに意見交換できる社風があるので、いろいろな視点からアイデアをもらいますし、そこからベストのシナリオを選ぶことができます。
PRパーソンとしての自分らしさは大切だと思っていますが、いつも同じ解決策を提示するだけではつまらない。社内のメソッドをフル活用して、自分らしさに凝り固まらない柔軟な提案をしていきたいですね。

―今後取り組んでいきたいことを教えてください

私は並走型の開発系業務が得意です。社会文脈から記事をつくることはPRパーソンの基本スキル。でも私は社会文脈から商品をプロデュースできると言いたくて。露出という“出口”にお金をかけなくても、自走できて長期間話題になる商品をつくれたら、商品企画することで露出にもつながる。それを内実ともにつくっていくことが大切だと思っているので、一商品だけにとどまらず企業の仕組みづくりから並走させていただきたい。
企業の本質的な価値が問われているいまだからこそ、ブランドにも商品にも最初からPRの文脈を仕込んでいく必要があると思っています。もし商品やサービス開発の出口で困っていらっしゃったら、最初から私たちを呼んでいただければきっといい解決策をご提示できるはず。
極端な話、露出するためだけにお金を使わなくていい。それが私の理想です。

財田 恵里
博報堂PR局 PRディレクター

2010年営業職として、博報堂入社。2014年より現職。
ACCクリエイティブイノベーション部門シルバー受賞。
話題発想での商品・事業開発を得意とし、商品開発、D2Cブランド、株価上昇のための情報戦略を手がけ、ブランド価値創造に努める。

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