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ニューノーマル時代の購買行動からみる、これからのデジタル/リアル接点でのブランド体験価値(博報堂主催ウェビナーレポート)

2021.09.13
#D2C#マーケティング
コロナ禍で私たちの購買意識・行動は大きく変化しました。ブランドや店舗が提供する価値・体験に求められることも変わる中、ニューノーマル時代の事業成長の鍵を握るのは、デジタル化の対応に加え、リアルでの提供価値の再構築も踏まえた「次世代型のブランド発想」です。博報堂の未来視点のマーケティングプロジェクト「LEAD2025」と博報堂グループのエクスペリエンスD、そしてパートナーであるフラクタは共同で、ブランドの接点から購買までの体験をデザインし、ブランド体験価値の向上を支援しています。本記事では、オンライン・オフライン購買に関する各社のエキスパートたちが、これからのデジタル/リアル接点でのブランドの作り方について解説したウェビナー(2021年7月20日開催)の内容をご紹介します。

古賀晋/博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長、「LEAD2025」プロジェクトリーダー
山口理伎/TBWA HAKUHODO イノベーションプラナー、「LEAD2025」プロジェクトメンバー
河野貴伸氏/株式会社フラクタ 代表取締役
坂田照雄/株式会社エクスペリエンスD 代表取締役
(発表順)

【Part 1】 未来に向けての前提の考え方と、ニューノーマル購買行動調査結果のご紹介

Part1では、まず博報堂の古賀晋が、同社のプロジェクト「LEAD2025」の立場から、前提となる考え方を解説しました。古賀はコロナにより「未来の捉え直し」が必要になったと指摘。未来は予測可能であるという前提で目標設定してきたこれまでのマーケティングと違い、ポストコロナにおけるマーケティングは「未来は予測できない」ことを前提に、手持ちの手段をどう使いながら新しいビジネスをしていくかという視点が必要になると述べました。
加えて、日本企業に多い得意分野に絞り込んで勝負する「選択と集中」の考え方では予測不可能なことに対応できないため、これからはいくつかの選択肢に絞ったうえでの「選択と分散」が大事になってくると解説。LEAD2025プロジェクトでは、未来予測ではなく「未来選択」という独自の考え方から、今後企業がどういう「選択」をすればいいかをサポートしていることを説明しました。

ニューノーマル時代の顧客接点を考えるうえでは、「どこで顧客との接点を持つべきか」という未来選択が必要になると古賀。「ECサイトなどのデジタル接点か、今こそリアル接点なのか。あるいはその融合という選択肢もある。デジタル接点の活用にも様々な方法があり、顧客にどこでどんな体験をしてもらうかが非常に大事になる。今日紹介する生活者調査結果をぜひ参考にしてほしい」と話しました。

続いて同プロジェクトのメンバーでありTBWA HAKUHODOの山口理伎が、未来を選択するうえでのベースとなる情報として、今年5月全国1100人を対象にオンラインで実施した「ニューノーマル時代の購買行動調査」の結果を紹介。調査対象者の91%はオンラインで買い物をしたことがあり、オンラインはほとんどの人にとってライフラインでありインフラになっていると述べ、「書籍」「服」「電化製品」などはオンライン・オフラインどちらでも買うが、「自動車」「不動産」など高額商品はオフラインで買うなど、商材による差を指摘。またオンラインでは「すぐに欲しいものを見つけられる」「安く買える」「比較検討しやすい」などの機能面が評価され、オフラインでは「安心感がある」「友だちと一緒に買える」といった情緒面が評価されていると解説しました。

さらに生活者を、すべてオンラインで見てオンラインで買う「ONLINE to ONLINE」、試しながら比較検討して買う「OFFLINE to ONLINE」、情報をオンラインで得て最後に確認して買う「ONLINE to OFFLINE」、実際に見てそのまま買う「OFFLINE to OFFLINE」という4つの購買パターンから分析すると、「なんでもオンライン派」、「ミックスリアル派」、「できればオフライン派」の3タイプに分類できると紹介。それぞれの特徴としては、「なんでもオンライン派」は全体の11%を占め40代独身が多く、「ミックスリアル派」は全体の18%で20-30代が多い。そして、「できればオフライン派」は71%と依然として最も多く、安心感や買い物の楽しさを重視しているとしました。

「調査結果をまとめると、オンラインは利便性などの機能面、オフラインは安心感といった情緒面が評価され、『左脳のオンライン、右脳のオフライン』と表現できる」と山口。そのうえでブランドの情報接点と購入場所として、オンライン・オフラインを組み合わせるミックスリアル購買の広がりに言及。「オンラインでスペックを比較し、オフラインでイメージと合えば購入する。あるいはオフラインでイメージを掴み、オンラインで詳細をチェックして購入するというミックスリアルな生活者のジャーニーが見えてきた」と述べました。

そのうえで、今後鍵となるのは、ミックスリアルを前提としたブランド体験「X2C(Experience to Consumer)」であると山口。ブランド体験を核としながら、オンラインとオフラインの役割が融解した状態で生活者が商品と出会い、購入するという体験の設計が大事になると話します。「具体的には、オンラインでのブランドとの出会い、オフラインでのスムーズな購入、オフラインからの興味喚起、オンラインでブランド体験をしながらの購買という、4つの体験がループになるような形がブランドの理想ではないでしょうか」と述べ、それを「MIX REAL LOOP」と名付けたと説明。たとえばアパレルブランドなら、SNSで商品を知り店舗に試着しにいったところ、ほかにも気になる商品があったので、オンラインで着こなしを見ながらECで購入するというような循環が考えられますと語りました。

「一見オンラインとオフラインの相性がよくなさそうなものでもうまく組み合わせることが可能だし、逆に言うと、オンラインとオフラインの組み合わせが前提になっていなければ、生活者にとってはかなり不便なブランドであると感じられてしまうだろう」と最後に指摘しました。

【Part 2】ニューノーマル時代に突入する上で必要なこととは?

Part2では、デジタルネイティブなブランディングエージェンシーとして数多くのD2Cブランドを支援してきた株式会社フラクタの河野貴伸氏が登壇。昨今特に増加するD2Cブランドを、“顧客と共にブランドの成長を共創する動き”と説明し、「そのD2Cがコロナ禍前にすでにオンラインにおけるコミュニケーションの限界に突き当たり、リアル店舗へと軸足を移していきました。それを踏まえ、あらためてリアルとオンラインをブランド活動においてどう使い分けるべきかをお話します」と河野氏。データからは、生活者はオフライン(リアル)を大切にしつつ、オンラインの便利さを知った以上元には戻らないことがわかると話します。

そこで鍵となるのは同社が「MIXED FLAT」と呼んでいる、オフラインとオンラインの中間領域におけるミックスリアル体験。その視点で生活者が何を望んでいるかをとらえてみると、たとえば遠方で実際に店舗に行くには労力がかかるが、それを上回る魅力がある場所、空間をつくるといった「オフライン・フィジカルアベイラビリティ」、また、オンラインでわかりやすい地図を表示したり、一番近い店舗を探してあげることで来店してもらいやすくする「オンライン・フィジカルアベイラビリティ」の考え方が大事になってくると解説しました。

「たとえばオンラインではセレンディピティを生み出しにくいですが、情報のストックやインタラクティブ性を活用することで、いつでも質の高い情報を提供できます。逆にオフラインの場合は刹那が重要で、たとえば季節感に紐づけたリアルなコミュニケーションなどは体験として記憶に残りやすい。互いに補完し合っていて、それをコントロールするのは人、ブランド、企業そのものです」と河野氏。生活者が求めるカスタマージャーニーをどう描き、オンラインとオフラインをどう活用すべきかを考えなければならないと説きます。

続いてニューノーマル時代には、コロナ後の世界におけるリアル店舗の役割の捉え直しが欠かせないと河野氏。現在急速なOMOの実現が図られているが、実際に新しい世界においてどんなOMOの形がベストなのかは明確になっていないと話します。たとえば店頭でアプリ会員の登録をしてもらうといったことは、顧客にとっては非常に面倒で最悪のUXになる可能性もあり、オンとオフを無理やりつなごうとするとコミュニケーションの難易度が高くなってしまう。そこで、オンラインで販売し、リアル店舗は体験だけに絞ったり、ポップアップストアをテストマーケティングに活用するなど、お客様との対話の場となる「ニュートラルゾーン」を作ることが有効であり、生活者にとっても事業者にとっても実験的な場=「sandbox(砂場)」で、PoC(概念実証)を行うことが欠かせないと続けます。

「オムニチャネル化はほぼ必須ではありますが、いきなり全システムを切り替えるのではなくsandboxの中で実験的に体験ができる場を作ってみる。Eコマースの表と裏を実験的に結合させた状態――現在事業で使っているモノとは違う、テスト的なコンパクトなモノ――で運用してみる、といったことも有効です」と河野氏。「コンパクトに素早く立ち上げ、生活者の望む体験を磨き上げる」をキーワードに、「概念実証から始めるニュートラルゾーンの構築」をぜひ皆さんに試してほしいと語り、締めくくりました。

【Part 3】ニューノーマル時代における実店舗のあるべき姿とは?

Part3では、博報堂グループで店舗構築における戦略・企画・デザイン・運営を専門とし、「ニューリアル体験」の構築を支援する、株式会社エクスペリエンスDの坂田照雄が登壇。
まず今回の調査結果から、7割の生活者が「今後はなんでもオンラインで購入するようになると思う」と回答したことを受け、多くの人がオンラインの利便性を体験し、オンライン購買が生活の一部になった一方で、6割以上の人が実店舗は「ブランドの想いや思想が伝わる」接点と感じ、「より楽しい場所になっていく」と期待していると紹介。生活者はオンラインに一定の物足りなさも感じていて、そこを補う役割を実店舗に期待していることがわかり、コロナが落ち着けばリアルへの揺り戻しが来るだろうと話しました。アメリカでもオンライン販売の成長はすでに鈍化しており、ワクチン接種が広がるにつれ、実店舗の売上が元の水準に戻りつつあるとし、「前提として、オンライン購買が今後も増えることは間違いありませんが、オンラインの強化だけでは生活者の意識変化を捉えることにはならない。店舗でいかに差別化されたブランド体験を提供できるかが鍵となります」と語りました。

そのためのポイントは2つあると坂田。まずは、①オンライン購買体験を補完するために、実店舗での情緒的な体験を無機質なオンライン販売へ活用すること。そして、②店舗に期待されているブランド・製品体験の独自性を最大化させ、差別化された店舗体験の提供によってLTVを向上させること。これら2つの視点が今後の店舗づくりに欠かせないと説きました。

それぞれのポイントをより具体的に掘り下げると、①については、例えば、リアルタイムでの接客をオンラインで受けられるようにしたり、また実店舗でディスプレイにスマホをかざすことでより深い情報が得られ、かつスマホ上で支払いまで済ませられたり、店舗の世界観や環境を活かしてオンラインで買ってもらうという体験設計が重要になっていくだろうと坂田。こうした取り組みを推進するためには、店舗とオンラインを分断させず、両方を合わせて収益管理するという考え方も欠かせないと説明しました。

続いて②については、実際に手に触れて商品を試すときにブランドらしさを出していく「トライアル」、EC購買でのレコメンデーションに匹敵する店舗サービスを実現する「パーソナライゼーション」、右脳でブランドの独自性を感じてもらう「カルチャー」を通して、店舗が得意とする分野をより伸ばしていくべきと解説。さらに、「トライアル」には適度な距離を保った丁寧な接客が必要で、プレッシャーなく自由に買えるというECの利点と必要な時には細かい説明が受けられるという点を両立させ、ブランドらしさを伝えていく設計が必要としました。「パーソナライゼーション」についてはオンラインとオフラインを統合して在庫管理しつつ、その精度を上げる。またオンラインで得たデータや地域性を商品構成に活かしたり、短いスパンで商品構成を変えるなど、オンラインに負けないスピード感でお客様が望むサービスを提供していくことが必要と説明。「カルチャー」については、店舗の役割についてマインドチェンジをし、店舗でブランドや文化を伝え感じてもらい、オンラインで買ってもらうという割り切りが必要と話しました。

このように、よりブランドらしい顧客体験が求められるようになるニューノーマル時代の店舗では、スタッフがいかに高いモチベーション、デジタルリテラシーをもって対応できるかが成功要因の重要なファクターであり、「最高の顧客体験(CX)は最高の従業員体験(EX)により提供される」と坂田。そして「コロナ禍の終息に向けて新たな実店舗をどう作っていくか、その準備は今から始めても十分だと思う」と語り、ウェビナーを締めくくりました。

河野 貴伸 氏
株式会社フラクタ 代表取締役
Shopify 日本初代エバンジェリスト
株式会社Zokei 社外CTO
ジャパンEコマースコンサルタント協会講師
元 株式会社土屋鞄製造所 デジタル戦略担当取締役(~2020/3/31)

1982年生まれ。東京の下町生まれ、下町育ち。
2000年からフリーランスのCGクリエイター、作曲家、デザイナーとして活動。美容室やアパレルを専門にデジタルコミュニケーション設計、ブランディングを手がける。
現在は「人の“心”に届く、ブランドの最適解を探究し続ける」をミッションに、ブランドビジネス全体とD2Cブランドへの支援活動及びコマース業界全体の発展とShopifyの普及をメインに全国でセミナー及び執筆活動中。

坂田 照雄
株式会社エクスペリエンスD 代表取締役、チーフ・エクスペリエンス・オフィサー

2007年博報堂入社。エクスペリエンスデザイン部(当時)に所属。事業戦略・マーケティング・ブランド戦略を軸とした店舗・ブランド体験開発の専門家としてさまざまな業種の業務支援を手掛け、戦略・企画・デザイン・運営までのプロセスをオフライン・オンラインの統合型体験設計で支援する。
博報堂入社前はアメリカ大手ブランドコンサルティング・ファーム(ニューヨーク本社)にてグローバル規模のブランド店舗開発を経験し、グローバルブランディングにも精通。2020年より博報堂グループ唯一の店舗開発・運営構築一体型専門組織として「Human Experience Innovation Company」を掲げるエクスペリエンスDに参画。

古賀 晋
株式会社博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションマーケティング局 部長
「LEAD2025」プロジェクトリーダー

2004年博報堂入社後、企業/地域ブランディング専門部門を経て、一貫してブランディング・マーケティングを担当。近年ではトイレタリー、アルコール/飲料/住宅等の消費財耐久財問わず、戦略を統括、商品、サービス企業ブランド強化を推進。その他、インターネットサービスや通販ブランドのブランディング戦略にも従事。
現業に加えて、未来起点でマーケティングやブランディングを行う全社プロジェクト「LEAD2025」のプロジェクトリーダーとして、各お得意先のミライを創造中。弊社地域会社での地域×ミライの視点で講演なども多数実施。
東京農工大非常勤講師。共著「超図解・新しいマーケティング【入門】~生活者価値を創造する博報堂の流儀」。

山口 理伎
株式会社TBWA HAKUHODO イノベーションプラナー
「LEAD2025」プロジェクトメンバー

2017年博報堂入社、2020年より株式会社TBWA HAKUHODOに所属。スタートアップから大企業までの様々なクライアントのブランディングを担当。D2Cブランドや新規事業の立ち上げなどイノベーション領域の業務を多く経験。

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