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アルスフェス2021の見どころ・持続可能な未来に、新しい問いを・(アルスフェス2021直前解説 Vol.4)

2021.09.09
#アルスエレクトロニカ#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
2014年からアルスエレクトロニカと「アートシンキング」を日本社会に実装する目的で協働している、博報堂アートシンキング・プロジェクト。そのメンバーが、今年開催される「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2021」のポイントを短期集中でお伝えします。
最終回である第4回では、博報堂ブランド・イノベーションデザインの劉思妤が、「STARTS Prize」の今年の受賞作品から投げかけられる、様々な課題や問題意識について解説します。
※アルスエレクトロニカは、オーストリア・リンツ市を拠点とする世界的な文化・芸術機関です。博報堂は、アルスエレクトロニカ内の組織でR&D・コンサルティング機能を有するアルスエレクトロニカ・フューチャーラボと、2014年度より提携し、協業しています。

こんにちは。アルスエレクトロニカと博報堂による「アートシンキングプロジェクト」メンバーの劉と申します。
アルスエレクトロニカでは、毎年発表するメディアアートの賞である「Prix Ars Electronica(プリ・アルスエレクトロニカ)」に加え、2016年から新たなコンペティション「STARTS Prize(スターツ・プライズ)」が開催されています。本記事では「STARTS Prize」の今年の受賞作品をご紹介したいと思います。

STARTS Prizeの意義

STARTS Prizeは「Grand prize of the European Commission honoring Innovation in Technology, Industry and Society stimulated by the Arts」の略語になります。名前の通り、S(サイエンス)+T(テクノロジー)+ARTS(アート)を融合した作品を表彰するコンペティションです。EC(欧州委員会)を中心に、アルスエレクトロニカのほか、ベルギーのアートセンター「BOZAR」、オランダの文化機関「Waag Society」と共に運営されています。
STARTS Prizeの受賞作品は、既成概念にとらわれず、サイエンスやテクノロジーとアートのコラボレーションによって、様々な社会課題の解決に寄与するプロジェクト・アート作品に特化しており、テクノロジー・産業・社会の新しいあり方に、多くの示唆を与えてくれます。

今年のSTARTS Prize

STARTS Prizeでは2つの大賞「イノベーティブ・コラボレーション賞」と「芸術的探求賞」のほか、「特別賞」が設けられています。
今年の受賞作品から、「人新世(アントロポセン)」、「持続可能な素材やエネルギー」、「食のタブー」、「身体への探求」、「リアルとバーチャルの境界線」、「データ倫理」など、アーティストたちの未来社会に対する危機感が、様々な角度から見ることができます。
ここでは、「持続可能な未来」に新たな気付きを与えてくれる作品をご紹介したいと思います。
受賞作品の詳細はこちらをご覧ください。

持続可能な未来に、新しい問いを

ここ数年よく耳にする「持続可能な〇〇」。STARTS Prizeのアーティストたちはどのように自身の感受性を活かし、最先端のテクノロジーと掛け合わせて新しい持続可能な社会像を提言したのでしょうか。彼らの作品を見ながら、一緒に探りたいと思います。

未来の循環型地域エコシステム

最初にご紹介したいのは、今年のイノベーティブ・コラボレーション賞『Remix el Barrio, Food Waste Biomaterial Makers』です。
『Remix el Barrio, Food Waste Biomaterial Makers』はバルセロナの特定の地域内で出た食品廃棄物を、その地域に住む職人の技術とデジタルファブリケーションを活用することで新たな素材として蘇らせ、その地域ならではの循環型エコシステムを形成したプロジェクトです。例えば、アボカドの種から作られた染料、オレンジの皮から作られたバイオプラスチック、使用済みのオイルから作られた石鹸、コーヒーの皮から作られた紙など、廃棄物から次々と魅力的な製品を生み出しました。

Remix el Barrio, Food Waste Biomaterial Makers / Anastasia Pistofidou, Marion Real
and The Remixers at Fab Lab Barcelona, IaaC (INT)
Credit: Dihue Miguens Ortiz

彼らは素材を作るだけにとどまらず、生産者、行政、近隣住民、レストラン、生鮮市場など多くのそこに住むあらゆるステークホルダーと共に、地域に根ざしたネットワークを構築したことが高く評価されました。資源を無駄なく活用し、環境への負担を減らすなど、地域特性に応じた持続可能なモデルを実装しています。人と人、モノと地域をつなぐテクノロジーを活用した、未来の循環型地域エコシステムのあり方を示しているのではないでしょうか。

人間の体を活用する未来の生息環境

次にご紹介したいのは、今年の特別賞『Project Habitat』です。
地球温暖化、気候変動による自然破壊と聞くと、南米アマゾンや東南アジアの森林が思い浮かぶのではないでしょうか。ただ、その頭に描くイメージは、大半が珍しい植物や巨大な植物を指し、小さなコケや地衣類、菌類などの存在に、ほとんど関心が払われていないのではないかとも思います。そこで、アーティストたちはあえてトネリコという木に着目しました。実はトネリコが1本でもなくなると、それに依存するコケ、地衣類、菌類が生息地を失い、二次絶滅の危機に瀕してしまいます。
本作品は、もし人間がトネリコの代わりになれるとしたら?という問いを起点に、人間中心の考え方の自然観に疑問を呈し、人間が木に代わって宿主となる可能性を提示しました。アーティストたちは、トネリコの樹皮の質感、光量、多孔性、pHを模倣し、人間を生息地として機能する新しいマテリアルを開発しました。このウェアラブルは、人間の皮膚に貼り付けることで、菌類に一時的な家を提供しています。

Project Habitate / Yuning Chan, Tom Hartley, Yishan Qin
Credit: Yuning Chan, Tom Hartley, Yishan Qin

生き物は人間活動の強い影響にさらされ、絶滅に追い込まれています。その絶滅が心配されている動植物の生息地を人類が担うことで、自然と人間の共生のあり方を挑発的に示している作品です。我々が自然に対してできることは一体何なのか、まだ考えきれていない領域があるのではないかと我々にインスピレーションを与えてくれます。

最後に

こうして、STARTS Prizeに集まる・表彰されるプロジェクトを見ると、「アート」は決して額縁の内側や博物館の展示室内に飾られているものだけを指すのではなく、社会のなかに存在し、社会を動かす力があること、前回の記事でご紹介したJournalism、Compass、Catalyst(触媒)として機能するものだということを実感します。
ここでは「持続可能な未来」を例として挙げましたが、STARTS Prizeでは他の様々な課題や問題意識が共有され、新たな解決方法を模索している様々なプロジェクトが見られ、アーティストたちは独自のアプローチで実践的に、時には挑発的に「持続可能な未来」を探求しています。彼らは独特な美意識とテクノロジーやサイエンスを組み合わせ、新しい問いを社会に提言しています。社会課題やビジネス課題の正解は一つではありません。課題に対してアーティストがどういう問いを世界へ投げかけているのか、またどのような議論が行われているのか、ぜひアルスエレクトロニカフェスティバルで我々と一緒に考えていきませんか。

※この記事は、博報堂ブランド・イノベーションデザインのnoteで掲載された記事をもとに編集したものです。

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