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サイバー世界とフィジカル世界が融合する都市の未来図を描く
──国土交通省の3D都市モデル「Project PLATEAU」を活用した実証実験【前編】

2021.09.09
国土交通省は、測量データに基づいて都市の3Dモデルを整備する「Project PLATEAU(プラトー)」に昨年から取り組んできました。そのモデルを活用して行われたのが、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を組み合わせてサイバー世界とフィジカル世界を融合させる実証実験です。博報堂DYホールディングスは、体験拡張技術の共同研究パートナーであるMESONとともにその実験に参加しました。Project PLATEAUの狙いや実証実験の成果について、国土交通省、博報堂DYホールディングス、MESONのメンバーが語り合いました。

(進行:目黒慎吾/博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

中央左:内山裕弥氏(国土交通省 都市局都市政策課 課長補佐)
中央右:梶谷健人氏(MESON CEO)
右:本間悠暉氏(MESON ディレクター)
左:目黒慎吾(博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

公的な測量データを活用した3D都市モデル

目黒
まず、国土交通省が主導するProject PLATEAUの概要について、内山さんに説明していただきたいと思います。

内山
現実の都市空間は、建物や道路など3次元的な構築物によって構成されています。それを3Dデータ化し、デジタルツイン(デジタル空間に現実世界を再現する技術)やスマートシティの設計に役立てていくのがProject PLATEAUのミッションです。特徴的なのは、3Dの都市モデルをつくるだけでなく、それをオープン化して誰でも使えるようにした点です。

目黒
これまでの都市データや地図データは、基本的に2Dでつくられていたわけですよね。

内山
広く使われてきた都市空間情報はほぼ2Dですね。3Dデータもありましたが、必ずしも汎用性のあるものではありませんでした。Project PLATEAUの都市モデルは、地方自治体が通常業務の中で作成している「公共測量」のデータをもとにしています。公共測量とは、公的セクションが行う測量のことで、測量手法がルール化されているため品質が統一されています。この公的な測量結果を活用し、かつCityGMLという国際標準のデータ規格を採用しているのがProject PLATEAUの都市モデルの大きな特徴です。ここまでの水準の3D都市データが整備されるのは日本では初めてです。

PLATEAU VIEW(出典:PLATEAUウェブサイト)

目黒
しかも、それをオープン化しているわけですね。

内山
そうです。公共サービスとしてオープンデータを流通させることによって、このモデルの価値を世の中に広げていくことを私たちは重視しました。ここからどのような価値が生まれるかは未知数ですが、私たち自身がさまざまなプレーヤーと協業してプロダクトをつくったり、政策に活かしていったりすることで、広範な活用が推進されると考えています。

梶谷
公共セクターが自らユースケース(活用事例)づくりに取り組むということですよね。社会に大きなインパクトを与える取り組みだと思います。

内山
その手応えは感じています。昨年からいろいろなお問い合わせもいただいていますね。データを作るだけでなく、その「使い方」を提示していくことで、より多くのプレーヤーに使っていただける機会を増やしたいというのが私たちの思いです。

行政機関が都市データ整備に取り組む意味とは

目黒
このようなプロジェクトを国交省が主導する意味はどのような点にあるのでしょうか。

内山
民間が取り組むべきというご意見ももちろんあると思います。しかし、PLATEAUは地方自治体の成果物として蓄積されてきたデータに新たな付加価値を与えるプロダクトです。公共セクターの既存データを統一的な仕様のもとにデータ化し、、しかもオープンで提供することは、私たちにしかできないことです。

梶谷
もともとあった公共資産を誰でも扱える形に整えたということですよね。

内山
そういうことですね。それからもう一つ、モデルに付与できる情報の内容という視点もあります。都市データには、建物の構造を示す「ジオメトリーデータ」と、その建物の役割や機能や性質を示す「セマンティクスデータ」の2種類があります。「形」をあらわすデータと「意味」をあらわすデータと言うこともできます。

「意味」をあらわすセマンティクスデータがあることによって、その建物がいつ建設されたか、延べ床面積はどのくらいか、木造か鉄筋コンクリート造りかといったことがわかります。そのデータのもととなるのが、自治体が実施している都市計画基礎調査です。これは法律で定められた調査であり、この調査によって得られた非常にリッチな情報がProject PLATEAUでは使われています。こういった従来行政庁内でのみ利用されてきた情報をオープンに活用することも、民間のみで手掛けるのは難しいと思います。まずは、行政サイドの私たちが都市データを整備する。そのデータを民間企業や研究機関に自由な発想で活用していただく。それがこのプロジェクトのコンセプトです。

ジオメトリモデル(左)とセマンティックモデル(右)のイメージ
Original from City of Helsinki. (出典:PLATEAUウェブサイト)

目黒
まさに国交省だからこそ実現できたプロジェクトと言えそうですね。構想が始まったのはいつ頃だったのですか。

内山
2020年からです。それ以前も、例えば「バーチャルシンガポール」や「ヘルシンキ3Dプラス」といった海外の3D都市モデルの事例研究は行っていました。またスマートシティの取り組みも以前からありました。プロジェクトが昨年から一気に現実化したのは、コロナ禍によってDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが加速したからです。政府全体でDX推進の合意が形成されたことにより、都市づくりのデジタル化の重要性も認識されるようになったわけです。

データドリブンな都市計画が可能に

目黒
Project PLATEAUの3D都市データにはどのような活用法があるのでしょうか。

内山
PLATEAUのデータは、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)や歩行を促すことで健康を促進する健康アプリなど、スマートシティを構成するさまざまな仕組みと組み合わせてサービス化していくことが有効です。データを活用したパーソナル型の都市サービスの基盤として利用する。そんなイメージですね。

出典:PLATEAUウェブサイト

目黒
セマンティクスデータがあることによって、例えばスクールゾーンの交通量を減らすといった都市設計ができそうですよね。

内山
おっしゃるとおりです。すでにそのような交通シミュレーションを昨年実施しました。交通シミュレーションには、ジオメトリーとセマンティクス両方のデータが必要です。騒音や道路の見通しといった要素を検討するには、建物や壁の高さなどの3次元的な情報が求められます。一方、道路の安全性を確保するには、学校や保育園が近くにあるといった意味的な情報が必要になります。ジオメトリーとセマンティクスの両データを備えた3D都市データがあることによって、市民の安全を確保しながら交通を最適化することが可能になると思います。

目黒
防災プランづくりにも活用できそうです。

内山
それも非常に重要な取り組みですね。最近は「垂直避難」という考え方が必要とされるようになっています。身体の不自由な方やお年寄りが災害時に指定の避難所までたどり着くのは難しい場合があるし、夜間の避難にも危険が伴います。そこで、自宅や近くの商業ビルやマンションの上階に避難しようというのが垂直避難の考え方です。

課題は、どこにどのくらいの高さの建物があるかを一律に把握できるデータがこれまではなかったことでした。しかし、PLATEAUの3D都市モデルがあれば、垂直避難が可能な建物を割り出すことができます。それをもとに、避難経路や避難場所を最適化した避難計画や避難訓練が可能になるはずです。

梶谷
今後、まちづくりそのものにも3D都市モデルを役立てていくご予定ですか。

内山
それが本丸の活用法でしょうね。市街地整備、区画整理、都市再開発などをデータに基づいて進めていく「スマートプランニング」の基盤になるのが、まさしくPLATEAUの3D都市データです。このデータを、例えば人口密集度や交通量といったほかのデータと連携させることによって、どこに賑わいをつくり、どこの道路の幅を広げればいいかといったシミュレーションやマーケティングができるようになります。

梶谷
これまで経験に基づいて立てていた都市計画が、データドリブンな都市計画に変わるということですね。

内山
ええ。まさに都市計画のDXと言ってもいいかもしれません。

目黒
たんに「経験」が「データ」に移行するだけでなく、人の経験則とデータを組み合わせることで計画の精度をより高めることができるような気もします。チェス世界王者のガルリ・カスパロフはチェス専用AIに破れましたが、AIと人間が協力するいわば「人機一体のケンタウロスモデル」が実は一番強いという話を思い出しました。

内山
どれだけデータが整備されても、人の経験、判断力、感性といったものが力を発揮する場面は必ずありますからね。3D都市データと人間の力をいかに融合するか──。そんな視点が必要かもしれません。

目黒
私たち博報堂DYホールディングスは、そのProject PLATEAUのデータを活用した実証実験にMESONとともに参加させていただきました。その経緯と実験の内容や成果について、MESONの梶谷さんから報告していただきたいと思います。

後編につづく≫

内山 裕弥
国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐

1989年東京都生まれ。東京都立大学、東京大学公共政策大学院で法哲学を学び、2013年に国土交通省へ入省。水管理・国土保全局、航空局、大臣秘書官補等を経て現職。

梶谷 健人
MESON CEO

当時国内最大級のファッションSNSサービス「IQON」のグロースを担当した後、アメリカ、インド、日本それぞれで現地のスタートアップや大手ブランド向けにサービスデザインとグロースハックのコンサルティングを行う。 世界一周を含めた海外放浪中に何度か命の危険に晒された経験と、海外で日本の技術の存在感が薄れていることへの憤りから、2017年にMESONを創業。 ARをはじめとした空間コンピューティング技術によって、人類の可能性を拡張し、より人間らしい社会を実現するべく活動している。 著書には「いちばんやさしいグロースハックの教本」がある。

本間 悠暉
MESON ディレクター

東京大学経済学部にて経営論について学ぶ。
SPATIAL COMPUTING技術を活用し、5年後10年後にあたりまえとなる体験を創りたいと考え、2018年5月にMESONにジョイン。 現在はディレクターとして、ARプロダクトの企画、プロトタイピング、開発の進行を行う。UX・UIの考察や自らのデモをソーシャルメディアで発信中。

目黒 慎吾
株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ
上席研究員 兼 株式会社博報堂 研究開発局

University College London MA in Film Studiesを修了後、2007年に博報堂入社。FMCG領域におけるデジタルマーケティング業務、グローバルPR業務に従事。2018年より現職で、ARクラウドや空間コンピューティング技術などを始めとした生活者との新たなタッチポイントやコミュニケーションを生みうる先端技術の研究を行っている。

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