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サイバー世界とフィジカル世界が融合する都市の未来図を描く
──国土交通省の3D都市モデル「Project PLATEAU」を活用した実証実験【後編】

2021.09.09
AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を組み合わせ、サイバーとフィジカルの両世界を融合させる──。その実証実験をめぐる座談会の後編をお届けします。この取り組みが生み出した新しい体験、都市のDXの可能性、そしてそれが生活者にもたらす価値について、実証実験を担ったメンバーたちが語り合いました。

(進行:目黒慎吾/博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

中央右:内山裕弥氏(国土交通省 都市局都市政策課 課長補佐)
中央左:梶谷健人氏(MESON CEO)
右:本間悠暉氏(MESON ディレクター)
左:目黒慎吾(博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

前編はこちら

ARユーザーとVRユーザーが肩を並べて街を歩く

梶谷
MESONはこの数年間、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターの皆さんとともに、XR(VR=仮想現実、AR=拡張現実、MR=複合現実などの総称)の技術を活用したコミュニケーションの共同研究に取り組んできました。そのプロジェクトの一つが、VRとARを活用した「GIBSON」です。

二人の友人のうちの一人が、現実の渋谷の街をARグラスをつけて歩いているとします。一方、もう一人は離れた場所で、渋谷を再現したVR空間の中を歩いています。この二人が肩を並べて歩いたり話したりすることを技術的に可能にするのがGIBSONの取り組みです。渋谷の街を歩いている人は、ARグラス越しにVR側の友人を認識します。もう一方のVR側は渋谷のデジタルコピー世界を動き回りながらARユーザーの視界映像を通して実際の渋谷の街を見ることができます。現実の街の様子がリアルタイムにVRに反映されるので、まるで本当に渋谷の街を歩いているような感覚が得られるわけです。

このVR側のデジタルコピー世界を再現するために活用させていただいたのが、Project PLATEAUの3D都市モデルです。それにVPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)という技術を組み合わせて、ユーザーがいる場所をGPSよりもはるかに高精度に特定するシステムを実現しました。

AR/VRユーザーのコミュニケーションイメージ
(カラー写真の人物が渋谷の街を歩くARユーザー。白色の人型が離れた場所にいるVRユーザー)

本間
プロジェクトのコードネームであるGIBSONは、「サイバー世界」という概念を初めて提唱したアメリカのSF作家、ウィリアム・ギブソンに因んでいます。僕たちが実現したかったのは、サイバー世界とフィジカル世界の距離感をゼロにすることでした。問題は、サイバー世界をフィジカル世界のように精密に構築するには、コストも時間もかかることです。しかし、Project PLATEAUの3D都市モデルを使うことによって、その目標に一気に近づくことができました。

梶谷
調べてみたところ、ARとVRを広域な都市空間内で同時に使うのは、世界初の試みだったようです。まさに、Project PLATEAUのような大規模データがあったからこそ実現した画期的な実証実験だったと言っていいと思います。

固定したサイバー空間に命を吹き込む

目黒
もともと博報堂DYホールディングスとMESONは、サイバーとフィジカルの融合によってコミュニケーションの形や体験が大きく変わるだろうという仮説を立てていました。コロナ禍で物理的にコミュニケーションの機会が制限されたことによって、その仮説の意味合いがより現実的になりましたよね。

梶谷
「どうしたら人と人がつながれるか」というテーマがコロナ禍で顕在化しましたね。バーチャル空間の中でコミュニケーションをする試みもいろいろありましたが、どうしても熱量、臨場感、場の共有感といった点で物足りなさがありました。

しかし、ARとVRを同時に使えば、そのような物足りなさを改善できるのではないか。離れていても心理的な結びつきを生み出せるのではないか。ARとVRを横断するモデルは、コミュニケーションの形の一つのオルタナティブになるのではないか──。そう僕たちは考えたわけです。その意味で、社会の動きに呼応したプロジェクトだったと思います。

本間
もう一つ、「サイバー空間をもっと生き生きとした世界にできないか」という裏テーマもありましたよね。デジタルで構築されたサイバー空間は「固定された世界」です。例えば、渋谷を再現したVR空間があっても、これまでは人の動きや場の雰囲気などをリアルタイムに反映することはできませんでした。しかし、ARユーザーの現実の視点映像をVR側と共有できれば、現実世界とダイレクトにつながったVR空間が実現します。VR空間にいわば命を吹き込むこと。それもこの実証実験の狙いでした。

目黒
同時に、「現実側をデジタル的にリッチにする」ことにもチャレンジしました。

梶谷
ARグラスにいろいろなコンテンツを配信する試みですね。例えば、あるショップの前に来ると、その店の情報がグラスに表示されるといった仕組みをつくりました。現実世界に付加価値を与える仕組みです。

AR/VRが融合した世界でとくに重要なコンテンツは「口コミ」であると僕たちは考えました。ユーザー同士がショップや観光地にまつわる思い出やエピソードを写真やテキストで共有できれば、現実の場所の価値がより高まるし、そのエピソードをめぐって語り合うことができるからです。

AR/VRユーザーが空間に残すコメントイメージ

これまでにないまったく新しいエクスペリエンス

目黒
実証実験の具体的な内容について、本間さんから説明していただけますか。

本間
この実証実験では、博報堂DYホールディングスの皆さんと僕たちMESONのチーム、そして内山さんら国交省の皆さんとで何度も対話を重ねました。その中で、3つの価値を実証しようという方向が決まりました。「離れた場所にいる人が空間を共有することの価値」「現実の街にコンテンツが重畳されることの価値」、そして「街に対する愛着が生まれるという価値」です。

実験は、20人ほどのモニターに参加していただき、ARとVRで街歩きをするグループと、現実の渋谷の街を一緒に歩くグループに分かれてもらって比較検証をするというものでした。結果は、「親密なコミュニケーション」という点ではいずれもほぼ同等で、一方、街の中のスポットに立ち止まって滞留する時間はAR/VRユーザーの方が長くなる傾向があることがわかりました。

左:実際に神南エリアにいるARユーザー  右:遠隔地からアクセスしているVRユーザー
(ARデバイスを活用した屋外実証調査)   (VRデバイスを活用した屋内実証調査)
現実空間情報のバーチャル空間リアルタイム配信
現地にいるARユーザー(左)から、VRユーザー(右)へのリアルな街の映像配信
コミュニケーションの質に関する分析(7点満点)

梶谷
スポットに立ち止まった回数で比較すると、AR/VRグループの方が現実空間を歩くグループのほぼ倍という結果になりました。それだけでなく、立ち止まった場所の記憶の定着度は、AR/VRグループの方が5倍に増えています。AR/VRグループには、その場所に関係するコンテンツが提示されたので、そのぶん印象が強く残ったということはもちろんあると思います。しかしそれだけでなく、ARやVRの技術には、視覚的、心理的に街の空間の魅力を高める力があるのではないかと僕たちは考えています。

僕自身もAR側、VR側の両方を体験してみましたが、まったく新しい感覚で、これまでにない風景が見えたような気がしました。VR空間にいるのに、現実に渋谷を歩いてる人と目が合ったりするのも不思議な感じでしたね。サイバー空間にいながら、魂は現実空間にある。そんな新しい体験でした。

目黒
国交省としては、この実証実験をどう評価されていますか。

内山
私もARとVRを体験させていただいたのですが、梶谷さんがおっしゃるように、とても新しいエクスペリエンスでした。説明を聞くだけではよくわかりませんでしたが、実際に体験してみて、この取り組みの価値を実感しましたね。

これまでのVRの世界は固定的だったという話がありましたが、現実世界にいる人の視点をVR側で共有すると、VR空間がまさに生き始める感覚があります。ライブ感というのでしょうか。それ自体が非常に楽しい体験でした。この技術が汎用化すれば、Instagramのようなカジュアルなツールになる可能性もあると思います。

PLATEAUの3D都市モデルにはいろいろな活用法が想定されますが、今回の実験のようにコミュニケーションに3D都市モデルを使うことで、新しい都市体験を提供するエンターテインメントが生まれると思います。たいへん意義のある取り組みであると感じています。

目黒
民間企業とのコラボレーションのモデルケースにもなりそうですね。

内山
まさしくそのとおりですね。最新の技術に関する情報やスキルをもっているのは民間企業の皆さんです。新しいアイデアやソリューションがPLATEAUと融合することによって、まちの楽しみが増え、市民の生活の利便性が高まり、安全・安心につながる。そんなユースケースがこれからもどんどん出てくることに期待したいと思っています。

梶谷
僕たちとしても、博報堂DYホールディングスとのパートナーシップに加えて、国交省の皆さんと共同で実験に取り組めたことは、非常に意義深いことでした。デジタルツインの扱いは実はとても難しくて、建物のデータは誰のものなのか、街区などのデータを勝手に使っていいのか、といった疑問や不安が常につきまといます。しかし、国交省が公共データとして3D都市モデルを整備してくださったおかげで、デジタルツインやVRへの取り組みが非常に楽になりました。国が都市データ活用に本腰を入れている姿を見ることで、今後いろいろな企業の熱量が一気に高まっていくのではないでしょうか。

デジタル技術によって生活者中心の社会をつくっていく

目黒
これまで、文字や画像や音声がデジタル化され、いろいろなものがIoTでつながり、家がスマートホームになるといった流れが進んできました。今後は、サイバーとフィジカルが融合することで、街全体のデジタル化が実現していくことになると思います。そのような土台の上でコミュニケーションやクリエイティブの新しい形をつくって、生活者メリットを生み出していくこと。それが私たち博報堂DYホールディングスの役割だと考えています。

内山
データやデジタル技術を使って、人間中心型の社会をつくっていくということですよね。それはまさしく政府が掲げるSociety5.0のビジョンとも合致します。

目黒
最後に、今後の見通しについてお聞かせください。

本間
国交省との共同プロジェクトをさらに推進していきたいと考えています。これまでは建物の外形のデータを活用してきましたが、今後は店舗や施設の内部データも使い、例えばAR/VRユーザーが一緒に店の中に入って買い物ができるような仕組みをつくることが当面の目標です。

もう一つ、AR側からVR側への動画配信や物体認識技術などを組み合わせて、VR側の「現実感」をより高める技術にもチャレンジしていく予定です。VRのサイバー世界をさらに生き生きとしたものにすることを目指しています。

内山
PLATEAUはまだまだ発展過程にあるプロジェクトです。現在整備されている3D都市モデルは56都市にとどまっているので、まずは整備都市を増やしていくことが必要です。また、3D都市モデルのデータ仕様やテクスチャの貼り方にも改善の余地はあります。

最終的な目標は、PLATEAUの3D都市モデルが社会実装されて、誰もが使える公共インフラになることです。その目標に向けて、いろいろなプレーヤーとの協業をいっそう推進していきたい。そう考えています。

内山 裕弥
国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐

1989年東京都生まれ。東京都立大学、東京大学公共政策大学院で法哲学を学び、2013年に国土交通省へ入省。水管理・国土保全局、航空局、大臣秘書官補等を経て現職。

梶谷 健人
MESON CEO

当時国内最大級のファッションSNSサービス「IQON」のグロースを担当した後、アメリカ、インド、日本それぞれで現地のスタートアップや大手ブランド向けにサービスデザインとグロースハックのコンサルティングを行う。 世界一周を含めた海外放浪中に何度か命の危険に晒された経験と、海外で日本の技術の存在感が薄れていることへの憤りから、2017年にMESONを創業。 ARをはじめとした空間コンピューティング技術によって、人類の可能性を拡張し、より人間らしい社会を実現するべく活動している。 著書には「いちばんやさしいグロースハックの教本」がある。

本間 悠暉
MESON ディレクター

東京大学経済学部にて経営論について学ぶ。
SPATIAL COMPUTING技術を活用し、5年後10年後にあたりまえとなる体験を創りたいと考え、2018年5月にMESONにジョイン。 現在はディレクターとして、ARプロダクトの企画、プロトタイピング、開発の進行を行う。UX・UIの考察や自らのデモをソーシャルメディアで発信中。

目黒 慎吾
株式会社博報堂DYホールディングス

マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ
上席研究員 兼 株式会社博報堂 研究開発局
University College London MA in Film Studiesを修了後、2007年に博報堂入社。FMCG領域におけるデジタルマーケティング業務、グローバルPR業務に従事。2018年より現職で、ARクラウドや空間コンピューティング技術などを始めとした生活者との新たなタッチポイントやコミュニケーションを生みうる先端技術の研究を行っている。

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