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「はざま」を埋めるミドルファネル思考で、愛されるDXを実現する。(連載:愛されるDXはカタチにできるのか Vol.2)

2021.09.07

「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第2回、生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長代理 クリエイティブディレクター 小野瀬学の記事が掲載されました。

博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長代理 クリエイティブディレクター 小野瀬学

博報堂グループにおいて、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」。その唯一のクリエイティブ部門である「生活者エクスペリエンスクリエイティブ局」は、“潜在需要を発掘し、生活者の新たな好意・行動を喚起し、よりよい生活、社会を創り出す”といった価値創造型のDXをリードする部門です。キーワードは、「愛されるDXは、カタチにできるか?」。このテーマに取り組むメンバーたちの多様な視点をご紹介していきます。第2回は、局長代理 クリエイティブディレクターの小野瀬学が登場。社内外でミドルファネル に対するアプローチについての啓発と統合型のマーケティングに取り組んでいる小野瀬に、博報堂流ミドルファネルの課題や可能性について聞きました。

ミドルファネルはマス・デジ広告が長年抱える課題解決の手がかりに

──ミドルファネルに注目が集まっています。その理由はなんでしょうか。

昨年から、ミドルファネルというテーマで問い合わせをいただくことが多く、社内で勉強会を開催したり、クライアントの経営陣にプレゼンしたりしています。社内外ともに評判はとても良く、共感を得られている実感があります。共感のポイントは、大きく二つ。一つは、認知と購買をつなぐための行動設計を行う「ミドルファネル」によって、マス広告の効果を計測できる可能性があることです。

マス広告によるブランディング効果について一定の評価は頂いているのですが、課題は費用対効果が分かりづらいこと。ブランディングに関わるクリエイターや、クライアント企業の方々にとって、広告効果の計測化は長年の課題であり、ミドルファネルの設計はその解決の手がかりになると期待が高まっています。ある企業の経営者の方は「マス広告は今まで霧の中に矢を打ち込んでいるようなイメージがあった。だが、ミドルファネルを見ることによって、マス広告でリーチした後、どのような行動につなげていくか見えてきたので、霧が少し晴れたような気がする」と話してくれました。

もう一つのミドルファネルが注目される理由は、デジタル動画・記事・体験施策・コンテンツなど博報堂らしい多様なアプローチによって、従来のリスティングやDSPなどの獲得系デジタルには難しかった、新たな顧客創出できる可能性がある点です。デジタルマーケティングの課題は、効率を追求すればするほど、狙い通りの顧客にリーチできるようになり、費用対効果は向上します。しかし、顧客の獲得手法が高度化して効率が上がるほど、母数が伸び悩むという状況が起きています。そうした現象を、デジタルマーケティング業界では、サチレーション(飽和)を略して「サチる」と呼んでいます。マーケティングは、効率追求とスケール拡大の両立が命題の一つ。効率とスケールという、一見すると相反するものを、どう両立させていくか。効率を高めた結果、サチることは、あらゆるマーケティングが抱えているジレンマだと思います。だからこそ、そうした状況に、ミドルファネルが、デジタルでありながら潜在需要を掘り起こせることに関心が高まっているのだと思います。日頃、数字にコミットしているデジタルマーケティングに関わっている方々からは「効率追求も大切だけど、新規顧客を獲得していくことも必要だと思っていた」といった声は多いのです。

つまり、ミドルファネルは、マス広告側からも、デジタル広告側からも、それぞれ違った視点で評価や共感していただいているように感じます。ただ、そういったミドルファネルへの期待は、本来のマーケティングとクリエイティブが果たすべき、当たり前の役割に応えているに過ぎません。

リスティング/DSP広告/リマケ(全てデジタル広告の一種)
リスティング=検索エンジンの検索結果ページに表示されるもの/DSP広告=DSPというプラットフォームを通じて配信されるもの/リマケ=サイト訪問や興味を示したユーザーに再アプローチするもの

──当たり前のことが、なぜ今まではできていなかったのでしょうか。

課題の一つは、クライアント企業のマーケティングに関わる部署が縦割であることです。ブランディングとデジタルマーケティング、各分野を得意とする人たち独自の考え方や話法、言語、思想、KPIなど、全部違います。だから、マス広告などの認知施策と、デジタルの獲得施策をつなげて考えることができなかったのです。

そこで、私が今、取り組んでいるのが、認知から購買までの断絶を解消し、アッパーからロウワーファネル全体を接続・統合すること。それによって、創造と効率の両立を目指しています。これまで相入れることが難しかった異なる領域の間には「はざま」があり、それをミドルファネルで埋めていこうという考えです。

──具体的に「はざま」はどうやって埋めていくのでしょうか。

 デジタルマーケティングで獲得効率を追求するために、ロウワーファネルにおけるバナー広告などでよく使われるのが「今だけの特別価格。お得です!」「今だけ、●%オフ」といったフレーズです。それらを見たユーザーは、思わず購入したくなるかもしれません。ただ、割引きの戦いから抜け出すことは難しく、ブランディング広告を手掛けている部署からすると、「それをずっと続けていくつもりなのか」と考えてしまいます。

逆に、デジタルマーケティングを手掛けている部署からマスで展開するブランディング広告を見ると、抽象的な言葉で表現したイメージ重視のキャッチフレーズは「確かにそうかもしれないけど、それで売り上げが伸びるんですか」と問いたくなってしまいます。

そんな両者の「はざま」を、どうやって結びつけていくか。それがミドルファネルの妙だと思います。簡単に言えば、情報を得た後、どういうステップを経ると購買したくなるか。その方法を両方の立場の人間が、納得するまでカスタマージャーニーを設計していくことが大切だと思っています。目指すゴールは、マーケティングを成功させること。それは両者とも一緒ですから。

大切なのは、博報堂のフィロソフィー「生活者発想」に立ち返ることだと思っています。生活者が商品を知ってから、どんな心の変化があれば購入したいと思えるか。そのとき、メディアがどうあるべきか。クリエイティブはどういうストーリーで接すれば、気持ちの変化が生まれるか。仕掛ける側ではない、生活者の側の視点で、一つひとつ丁寧に考えていくことが、ミドルファネルをつくることになります。その視点でいえば、博報堂的ミドルファネルは、クリエイティブとメディア、戦略と設計など、あらゆる領域の「はざま」を埋めるための、概念や思考法だという風にも捉えています。

──異なる領域の「はざま」を埋める人材やソリューションは、どのように生み出していけばいいのでしょうか。

今まで会話したことがない職種や領域の人との掛け算で、新しい何かが生まれると思っています。たとえば、デジタルのプラットフォーマーとマス広告のブランディングを手掛けているクリエイターを引き合わせる取り組みを行っています。プラットフォーマーが持つ様々なテクノロジーやデータをクリエイターにインプットしているのですが、その結果、新しいケミストリー や面白い表現などが、博報堂では次々と生まれつつあります。

どちらかというと、対極にあるような部門や職種の人たちを引き合わせると、効果が大きいような気がします。思いもよらない掛け算によって、新しいことが生まれると期待しています。

──新聞はミドルファネルにおいて、どのように連動できるでしょうか。

何か一つの施策に触れただけで、ものを買うことはないですよね。テレビCMを見ただけでも、バナー広告を見ただけでもないはずです。

新聞や雑誌の記事広告も、ミドルファネルの一つだと考えています。もとともと知っていた商品を新聞や雑誌の記事広告で「このブランドや商品は信じられるな」と、心を動かすきっかけになるかもしれません。そうした記事広告の強みを、マス広告とデジタル広告にもつなぐことができれば、クライアントに価値を感じてもらえる可能性があると思います。

──連載のテーマでもある「愛されるDX」とミドルファネルは、どのように関連づけられるでしょうか。

一般的にDXのファーストステップは、ムダなプロセスや再現性の低いムラのあるプロセスを省き、改善していくことです。それは、いわゆるデジタルマーケティングの効率化の追求と同じなので、やがてどの企業も同じテクノロジーを活用することになる。つまり、競争力を追求しているのに、最終的には同質化してしまいます。そこで、博報堂は効率化だけではない、価値創造型のDXを目指しているのです。

効率化を図りながら、どうやったらもっとサービスを使ってもらえるか、商品を好きになってもらえるか。まさにミドルファネル的な価値や視点を考えられるのは、やっぱり人間であると、私は信じています。生活者に、いかに長く使ってもらい、愛されるかを考えていくことが重要です。

──生活者に愛されるためには、何をすべきなのでしょうか。

僕自身、大切にしているのは「違和感」を発見することです。サービスや商品を世の中に導入させたとき、生活者がそれらを好きになってくれるか、愛してもらえるサービスや商品になりそうか。そのときリアリティが生まれないとしたら、その違和感の正体は何なのか。それを解決するためには、ミドルファネル的な視点で、どういうプロセスであれば違和感を解消できて、クライアントが望む「生活者が好んで買ってくれる」という状況になるか。ゴールに対するボトルネックを発見することが、大事なことだと思っています。

──愛されるDXと小野瀬さんがリーダーを務めているHDY グループ4社横断のプロジェクト「hakuhodo.MOVIE」とはどのような関係性があるのでしょうか

 2016年から始まったプロジェクトで、デジタル広告の領域で博報堂の新しいソリューションを作ろうと始まりました。当初はクリエイティブ系のメンバー中心で始まりましたが、表現を高めながら成果を出すためには、メディアも一緒に考えないと成果が出せないことも分かってきました。さらに、テレビ広告を見た人がデジタル広告と接触したとき、どうやったら効果が増幅するか。マスとの掛け算やデジマスの在り方など、どんどんテーマも広がってきました。現在は様々な領域の人材が集結し、次々登場する新たなメディアのフォーマットに対応していくことができるクリエイターを育成しています。

従来の博報堂はもちろん、マーケティング業界には存在しなかった人材、アプローチ、ソリューションを作っていくことで愛されるDXのある社会につなげていきたいと思っています。

小野瀬 学(おのせ・まなぶ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長代理 クリエイティブディレクター

2000年に広告会社に入社。直後から、インターネットのメディアやクリエイティブに傾倒し、デジタルメディアプランナー、デジタルクリエイティブ職を経て、2011年博報堂へ。デジタル専門ユニット、その後マス広告制作部門、統合プラニング局チームリーダーを経て現任。デジタルとマス、ブランディングとコンバージョン、クリエイティブとメディアなど、異なる領域・言語・概念の統合をテーマに、HDY グループ4社横断のプロジェクト「hakuhodo.movie」の統括リーダーなども務める。

※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-2858 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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