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世界で戦うカギは、サービス領域の拡大と人材の確保~戦略的アライアンスを加速 博報堂 常務執行役員 伊藤俊太郎(連載:「博報堂のグローバルビジネス」Vol.6)

2021.04.07
#グローバル
ボーダーレス化する企業活動への対応力の更なる強化のため、海外事業を強化している博報堂。現在、海外19の国と地域、105を超えるオフィスで事業を展開しています。また、昨年の米国Ad Age誌の「World’s 10 Largest Ad Agencies」によると、博報堂は、世界3位にランキングされています。
連載「博報堂のグローバルビジネス」では、博報堂の世界における新しい挑戦について、各領域のリーダーへのインタビューを通じて紐解いてまいります。
第6回は博報堂のグローバルビジネスにおけるアライアンスネットワークについて、4月より海外事業全般を統括する常務執行役員兼Hakuhodo International Unit長に就任した伊藤俊太郎に話を聞きました。

──Hakuhodo International Unit(HIU)が掲げる「世界で戦えるエージェンシーネットワークになる」という目標に対して、伊藤さんが担っておられるミッションの領域や内容についてお聞かせください。

 3月まで中華圏・欧米圏で博報堂グループが展開している事業の拡大と、拠点の能力強化をミッションとしていました。今後は、ASEAN地域も含む、海外事業全体を統括していくわけですが、エリアが拡大しても、考えていることは変わりません。これからのグローバルビジネスを見据えた場合には、それぞれの地域を強化していくことは不可欠です。

私の担当地域においては、中長期的な目標として「①海外ネットワーキング力の強化」「②統合コミュニケーションの設計力と実現力の向上」「③デジタル・データマーケティング力の強化」「④強みの設計(Activationやダイレクト領域など)」の4つを掲げ、取り組んできました。今年度もこれは継続していきますが、これらの目標を達成するには、各拠点の単独の競争力だけでは難しいですから、海外においてM&Aやアライアンスによる協業には特に力を入れています。

──たしかに中華圏・欧米圏では最近、積極的なM&Aやアライアンス形成の動きが目立ちます。それぞれの狙いについてお聞かせ願えますか?

まず大きなM&A案件として、2020年4月の台湾の「Growww Media(以下、Growwwグループ)」の買収がありました。

第一の狙いとして、これまでも博報堂グループに大きな貢献をしてきた台湾市場においてナンバーワンのポジションを確立したい想いがありました。Growwwグループは台湾の独立系大手広告エージェンシーグループであり、今回のディールにより、現地の優良なクライアント基盤と優秀な人材を持つ、新しい仲間と一緒に仕事ができるようになりました。

第二の狙いとしては、HIUがめざす「アジアに強い博報堂」を実現するための基盤強化があります。Growwwグループの傘下には、デジタルマーケティングやPR、アクティベーションなどの領域で優れたサービスを提供できる事業ブランド群があり、アジア地域を「面」として捉えてクライアントに幅広いサービスを提供する上で、大きな武器になります。

こうした複眼的な視点でM&Aに取り組むことで、実際にGrowwwグループとの協業では良い成果が出てきています。また、この連載の平塚さんの記事にもあったように、買収交渉前にも相手側のキーマンたちと面談をしてみて、博報堂のケミストリーと合うのか、シナジーを生み出せるのかなどを検討しながら交渉を進めていくのも我々のグローバル戦略の特徴だと思います。

──アライアンスについては、欧州のServiceplan Group、Unlimited Groupとの相互包括提携や、中国のGIMC(広東省広告集団股份有限公司)との合弁会社設立がありますね。

まず欧州についてご説明します。博報堂グループの欧州拠点は現在、英国・ドイツ・ロシアの3か国のみですが、取引のあるクライアントからのニーズには、例えば汎欧州横断の施策提案が求められるケースもあります。

そこでたどり着いたのが、ドイツの独立系広告会社グループである「Serviceplan Group」(以下、Serviceplan)と英国の「Unlimited Group」との相互包括提携でした。どちらも欧州で非常に強いネットワークを持っていて、博報堂とアライアンスを組むことで、互いの空白部分を補完できます。我々が拠点を持たない地域では、彼らのネットワークを活用させてもらう。また彼らもグローバル戦略の強化を目指しているため、博報堂のアジア・中国ネットワークを活用した協業を進めており、すでに成果が出始めています。現在それだけではなく、クリエイティブ領域での事例交換や協業も活発化しています。

一方、中国市場では、GIMCとのアライアンスを一歩進めて、合弁会社を複数設立しています。GIMCは広東省広州市に本社を置く独立系トップの総合広告グループです。グループ全体で約4000名もの社員を抱え、100社以上の傘下企業を有します。しかも中国政府との強いパイプがあり、クライアント企業は有力な国営企業が多い。博報堂との関係も約20年の歴史があり、04年と06年には日系自動車対応の合弁会社を広州に2社立ち上げています。近年は、自動車メーカーを中心に中国企業がグローバル化に取り組むなかで、GIMCも海外戦略を強化していて、ASEANやロシアでネットワークを持つ博報堂グループとの協業を通じ、新しいアカウントに結び付いています。

両社の信頼関係は一層進化していき、19年5月には包括提携として「戦略的パートナーシップ協議書」を締結しました。さらに、21年4月に、GIMCグループとの4社目となる合弁会社が武漢に発足しました。GIMCとは、当初はブランドエージェンシーの合弁からスタートしましたが、現在両社の関係は従来からの領域に加えて、デジタル領域や国を越えた協業にまで拡大しています。

──海外における、M&Aとアライアンス強化の意義の違いは何でしょうか?

簡単に言うと、M&Aとは、魅力的な仲間を見つけて家族となり、従来我々には無かったケイパビリティを得て、その後適切なPMI作業を通じWIN-WINの関係を作り出していく事です。それによって博報堂グループとしてのプレゼンスを着実に向上させる狙いがあります。
それに比べると、アライアンスはもう少し柔軟なパートナーシップで、相互補完的な協業関係と言えます。地域や国を越えたプロジェクトを展開したり、合弁事業を立ち上げたり、さまざまな可能性があり得ます。

アライアンスの大きなメリットは、互いの独立性を保ちながらも人材資源を有効に活用しやすい点です。例えばドイツでは、Serviceplanのオフィスと博報堂のオフィスは、同じフランクフルトのビルにあって、いわば同居しているんですね。それぞれのスタッフのナレッジを共有したり、人材の行き来というか、コラボレーションがしやすい環境になっています。この効果は意外に大きいのです。

──人材活用がしやすいのは、欧米でフィービジネスが定着していることとも関係しますか?

それもあります。欧米では、そのプロジェクトに求められる人員一人ひとりの人件費を積算するかたちで、プロジェクト全体の報酬が決まる“フィービジネス”が一般的なので、博報堂のプロジェクトにServiceplanのメンバーにも参画してもらうことが柔軟にやりやすい。もちろん、その逆もあるわけで、互いの優秀な人材を臨機応変に活用しあえるから、事業も強化されやすいんです。

実際、すでにドイツのビジネスでは“同居の成果”が出ています。クライアントからも「それだけのメンバーを揃えてくれるなら、きちんとフィーをお支払いしましょう」という具合に、高く評価されています。いずれコロナ禍が落ち着いたら、もっと人材交流を発展させて、それぞれ得意とする領域で、新しいシナジーを生み出していきたいと考えています。

──その意味では、アジア拠点の人材活用は工夫が必要になりそうですね。

そうですね。博報堂グループのASEAN拠点などで、それぞれ人事制度や報酬体系が違う場合には、現在HIUが進めている「1国1マネジメント」で、こうした課題にも対処していく計画です。国ごとに、複数ある拠点を束ねて総合的にコントロールする統括組織が、人事制度等ある程度共通化することができれば、柔軟に対応できると思います。

──欧米・中華圏・ASEANの3つのエリアでは、ネットワークづくりにどのような課題や難しさの違いがありますか?

欧米市場では、ビジネスが簡単に国境を飛び越えて動いていくので、ネットワーク力は不可欠です。また、ビジネスを極めてロジカルに捉える傾向が強い。「博報堂は我々にどんなベネフィットを提供できるのか?」と常に問われます。つまり、博報堂が欧米市場で選ばれる明確な理由を提示できる必要があります。デジタル、ブランディング、コンサルティング、アクティベーション、PR、ラグジュアリーマーケティングなど、それぞれの領域でのケイパビリティをきっちり持ってクライアントに対峙しなければなりません。博報堂USAではグループの連携も推進し、一歩進んだ取り組みをしています。

一方のアジア市場は、ASEANと中国でもまったく違ってきます。ASEAN諸国は、一国一国、宗教や文化が全く違うため、1国1マネジメント体制で国ごとの競争力を上げていくことが必要だと思います。1970年代から博報堂はASEANに進出し、拠点数もクライアント数も多いので、M&A等も含めネットワーク拡充をさらに進め、サービス領域を拡大しています。

中国は13億もの人口を抱え、市場規模がとにかく大きい。また地域ごとに、例えば北京、上海、武漢、長沙、広州でも市場傾向が異なります。基本は各クライアント企業への対応体制の強化を進めることに注力しています。武漢では従来のブランド業務から業務範囲を拡大するために、博報堂単独の体制から中国資本を入れた合弁形態に変更しています。こうしてアライアンスを組み、合弁会社を増やしていく中で、優秀な現地の人材も集いますし、単独では難しかった領域にもチャレンジしやすい体制ができつつあります。市場構造が急速に変化している中国では、クライアントのニーズに応えられるよう、事業、サービスの提供領域をどう広げていくかは非常に重要です。

──海外市場において博報堂が選ばれる強みはなんでしょうか?

この連載でみなさん言っているように、「生活者発想」のフィロソフィーは多くのパートナーに受け入れられています。ServiceplanやGIMCとのアライアンスにおいてビジネスがしやすいのも、こうしたフィロソフィーに共感してもらっていることが大きいと思います。

あとは生活者発想も含めて、博報堂グループが「人」を中心に考える価値観を持って、一対一で対話や交渉に臨んでいることも特徴ですね。私も若い頃からずっと「Making friends is our business.」という想いで仕事してきました。グループ内にも自然にミューチュアルリスペクトができる人が多い様に思います。いずれも今回のテーマであるM&Aやアライアンス推進において大切な姿勢ですよね。博報堂の「人」を中心に考える価値観やダイアログのあり方は、今後のグローバルビジネスにおいて強みになるのではないかと。

──今後のビジョンや目標をお聞かせください。

HIUとして掲げた「世界で戦えるエージェンシーネットワークになる」のが大前提です。そのために、各国・地域で何が今後必要なのか、欠かせない領域は何なのかをより具体的に明確化していきたいと考えています。
オーガニックな成長に加えて、今日お話ししてきたM&Aやアライアンスの形成による未来への投資は引き続き大きな成長エンジンになるはずです。
今までHIU全体で取り組んできた蓄積を一層飛躍させ、チーム一丸となって「人のつながり」と「ケイパビリティの強化」を武器に、将来の変化に対応できるサステイナブルなビジネス基盤を構築していきたいと考えています。

伊藤俊太郎(いとう・しゅんたろう)
株式会社博報堂 常務執行役員 Hakuhodo International Unit長

1999年に(株)博報堂入社。営業職としてキャリアを積み、2011年に海外事業統括局長に就任。2014年執行役員となり海外事業を担当。2021年、常務執行役員に就任。Hakuhodo International Unit長となり、グローバルネットワーク力のさらなる強化と体制整備の指揮を執る。

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