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博報堂生活綜研(上海)、中国生活者の新たな買物行動・意識に関する研究成果を発表 ~自由に変化する買物尺度「度物(ドゥオ・ウ)」

2021.03.12
#グローバル#中国#生活者研究#生活者調査
博報堂生活綜研(上海)(以下、生活綜研(上海))が、2020年12月、第8回目の「生活者“動”察」研究を発表しました。毎年、生活者の本質的な欲求や新しい暮らしのあり方を洞察・提言する場として、中国伝媒大学広告学院と共同で実施しています。
今回のテーマは、「アフターコロナの中国に出現した、新しい買物意識と行動」です。生活綜研(上海)所長 鐘鳴が発表内容のサマリーをご紹介いたします。
博報堂生活綜研(上海)の研究員とゲストスピーカーたち

新しい買物尺度「度物」(ドゥオ・ウ)の出現

劇的に進化を成し遂げている中国消費市場における生活者の情報行動、購買行動の変化ぶりを徹底的に観察するため、今回は、従来型の調査手法(定量、定性)に加え、生活者が自ら発信しているソーシャル投稿内容及びEC(eコマース)購買行動の履歴に基づいたビッグデータの分析を行いつつ、生活者のインサイトをさらに深く掘り下げました。

その結果、コロナ禍に伴う自粛期間に自分自身の生活や価値観を見つめなおす時間を経た中国生活者の中に「他人の評価を気にせず、本当に自分に必要なものを購入しよう」という意識が芽生えていることが判明しました。
いまや中国生活者は、「お得感があるから」「周囲に自慢できるから」といった単一の基準ではなく、状況に応じて自由に変化する買物尺度を用いて、買物を楽しみつつ生活を見直そうとしているのです。
生活綜研(上海)は、このような生活者のインサイトを、「度物」(ドゥオ・ウ)と名付けました。中国語の「度」は、名詞として「基準」という意味があり、動詞としては「測る」という意味があり、買物の対象となる「物」との組み合わせで「度物」という造語を開発しました。生活者が日々の消費行動を見直し、ニューノーマルな日常での新たな価値観の表れのひとつと分析しています。

「度物」生活者の情報源は、ECサイトの店舗とオンライン生中継

まず、一つ目の特徴としては、情報接触行動の変化があげられます。生活綜研(上海)の「買物生活調査」によると、「買物をする際に、最も影響を受けている情報源は何か」と聞いたところ、マスメディアやKOL(Key Opinion Leader)をおさえて、「ECサイトの公式店舗」及び「オンライン生中継」が上位にランクされました。また、友人・知人、ユーザーコミュニティなどによる口コミ情報も上位にきています。
「度物」生活者の買物情報源が、マスメディアからソーシャルメディアに移行しながら、さらにEC店舗から発信されるリアルタイム情報の重要度が急速に高まっていることが分かりました。ECの普及は、生活の豊かさを享受したいという気持ちの高まりと相まって「度物」生活者の買物行動の頻度と回数数量を世界に類を見ないほど急増させました。この傾向は、コロナ禍を経て、さらに加速しているようにも見受けられます。

<図①:買物の際に影響を受けた情報源>

「度物」生活者 購入タイミングの変化

続いて、買物行動変化の2つ目の特徴として、買物プロセスにおける購入タイミングの変化があります。オンラインショッピングがすでに普通になっている中国では、図②が示している通り、購入のタイミングが分散化しています。通勤途中や、昼間の休む時、夕食の後、寝る前など、日常生活のすき間時間のほとんどが買物行動に費やされています。
また、「買物プロセスにおいて“楽しい”と感じる瞬間はいつか」という問いに対して(図③)、購入前の情報収集(特に「割引や特典を見つけた時」は突出)~購入時のカスタマーセンターや店員とのやりとり、購入後に「発送済」の文字を確認する時、商品を箱から出すとき…といった具合に、“買物の楽しさを感じる瞬間”が各段階で複数存在しており、それは購買プロセス全体に行き渡っているのです。
スマホの通信環境さえ確保できれば、いつでもどこでも買物を楽しむことができるようになった今、中国生活者は何が自分にあった買物スタイルなのか、どんな買物体験が自分のニーズを満たしてくれるのかを熱心に研究するようになりました。その行動のヒートアップに比例して「度物」生活者の買物欲求は日々増強され、中国の消費市場全体の盛り上がりを押し上げている重要な要因となっていると考えられます。

<図②:実際に買物をしたシーン>

<図③:買物プロセスにおいて「楽しい」と感じる瞬間>

「度物」生活者。爆買いを卒業。自分にあうものを探すメリハリ志向へ。

三つ目の特徴として、生活者の買物心理や志向の変化があります。生活綜研(上海)が実施している消費意欲に関する定点調査、「消費晴雨表」(2020年11月実施)の調査結果にもその傾向が現れています。生活者の節約意識が向上している一方で、品質の高い商品/サービスの購入意欲も同時に高まっており、新型コロナウイルス感染拡大が、中国生活者の消費意欲に影を落としている気配はまったく感じられません。
過去の爆買いや無駄使いに対しては反省の意を表すようになっており、本当に自分に合ったものやサービスを選ぶようになっています。消費に対してよりメリハリを付けて買物生活を楽しんでいる姿が浮き彫りとなっています。

<図④:買物意識について>

このような生活者の買物行動の変化が、今後、情報や買物環境のインフラ整備と、企業のマーケティング活動において、更なる変化をもたらす可能性があると確信できます。

今後の中国生活者を捉えるための企業への提言

我々は、今回の「度物」生活者の発表内容の中で、企業マーケティング活動の視点に立ち、いくつかの提言をしました。一つは、生活者がいつでもどこでも買物を楽しめるオンライフ・ショッピング(On Life Shopping)を見据えた情報の発信です。
前にもご説明しましたが、中国における買物行動の進化は、生活者にとって買物をする場所や買うタイミングが、OnlineかOfflineかを問わず、いつでもどこでも生活のあらゆる場面に広がるようになっていることです。このような状況を考えると、普段、ネット上での買物を「Online Shopping」と呼んでいるように、あらゆる生活場面に広がっている買物行動のことを、我々は「On Life Shopping」と呼んでいます。

他には、OnlineとOfflineのチャネルを別々に存在していた売り場環境を統合させ、販売と情報発信という2つの機能を融合させた売り場を起点とするブランディング活動の重要性や、過度に誇張されたメッセージやイメージの発信ではなく、生活者に寄り添いながら、生活者の嗜好に沿った情報設計の重要性について、具体例を通じてより詳細に解説しました。
詳しい内容は、3月31日に本研究結果をまとめた書籍を刊行いたしますので、お手に取っていただければ幸いです。

生活綜研(上海)と「生活者“動”察」
生活者綜研(上海)は、博報堂グループのシンクタンクである、博報堂生活総研の初海外拠点として、2012年に中国・上海で設立しました。グループの企業理念、「生活者発想」の具現化を推進すると同時に、中国における企業のマーケティング活動をサポートしていくとともに、これからの中国の新しい暮らしのあり方を、中国現地で洞察・提言する活動を行っています。

「生活者“動”察」とは、博報堂生活綜研(上海)と中国伝媒大学広告学院との共同研究発表です。書籍は日本語版と中国語版を出版しております。ご興味のある方は生活綜研(上海)までお問い合わせください。
博報堂生活綜研(上海) hills@hakuhodo-shzy.cn

調査概要

■「買物生活調査2020」
対象国:
・中国:1-4級都市 計3,000サンプル
・日本:関東、関西、東海エリア 計1,000サンプル
・アメリカ: ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ 計1,000サンプル
3か国合計5,000サンプル
対象者条件:スマートフォンを個人で所有する20~59歳男女
※中国は、家庭月収6,000元~29,999元の収入条件 (注:「1級都市」のみ家庭月収「8,000元~49,999元」)
※日本、アメリカは収入条件はなし
調査手法:インターネット調査
調査時期:2020年11月
調査機関:株式会社マクロミル

■「消費晴雨表調査」
調査手法:インターネット調査
調査対象:スマートフォンを個人で所有する中国1級都市、新1級都市の20~69歳男女 1,600名
家庭月収7,000元~29,999元 ※注「60~69歳」のみ、世帯月収4,000元~9,999元
調査機関:問巻網

鐘 鳴(ショウ メイ)
博報堂生活綜研(上海) 所長

1998年博報堂C&Dにコピーライターとして入社。
2002年に博報堂に転籍後はマーケティングプラナーとして自動車、嗜好品、飲料、化粧品等、幅広い業界のプラニングに携わる。2012年4月、博報堂生活綜研(上海)の設立とともに上海に駐在。各種研究、講演、ブランドコンサルティング業務などの領域で活動している。

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