THE CENTRAL DOT

コロナ禍による、日本・中国・アセアンの生活者変化
~博報堂生活総合研究所オンラインセミナーレポート

2020.06.26
#生活総研#生活者調査
新型コロナウイルスの感染拡大は、たった数か月で世界中の生活者の意識・行動に様々な影響を与えました。生活者の意識や行動の何が、どのように変化しているのか。国や地域によってどのような特徴がみられるのか。博報堂生活総研、博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総研アセアンでは、日本・中国・アセアンそれぞれの国・地域において「新型コロナウイルスに関する生活者意識調査」を実施。その結果から見えてきた生活者の意識・行動の変化と特徴について、先日社内向けのオンラインセミナーを行い、各拠点の研究員が解説しました。セミナーで特に反響の大きかった内容を、博報堂生活総研の堀宏史がレポートします。
博報堂生活総研の堀宏史

■Underコロナ期の日本の現状

「不安」から「行動」へ

まず最初に、日本の調査結果をご紹介したいと思います。首都圏、阪神圏、中京圏の20〜69歳男女1,500名を対象に、2020年3月5〜9日、4月2〜6日、5月7〜11日、6月4〜8日の4回にわたりインターネット調査を実施しました。

まずみえてきたのが、3〜6月のUnderコロナ期からWithコロナ期への移行において、新しい日常を模索するような生活者の変化です。

※「新型コロナウイルスに関する生活者調査」より
※「行政の対応」については、3月は聴取せず

現在生活者が感じている「不安」について聞いたところ、経済の停滞への不安、情報の不足や不確かさへの不安、自分や家族の健康への不安など、いずれも4月にいったん高まり、5月以降は減少していることがわかります。

様々な行動の自粛については、5月には外出・レジャー・外食・交友などを9割前後の人が控えるようになりましたが、全国で緊急事態宣言が解除された後、6月にはそれらも減少に転じています。

※「新型コロナウイルスに関する生活者調査」より

6月以降、生活者が元の生活に戻ろうとしているようにもみえますが、そうではない面もあります。新型コロナウイルス感染拡大を受けて新しく始めたことや増加した行動について聞いたところ、例えば「(通信環境など)家庭環境の充実」を図っている人は増え続けています。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、在宅勤務や家庭内で過ごす時間の充実は今後欠かせないと考える生活者が増えているようです。また、「副業の開始・検討」「投資・資産運用」の増加も、ひとつの収入源では今後の生活が危ういという考えが背景にあるでしょう。「新しい日常は、決して元の日常ではない」と考え、行動に移しつつある生活者の姿がみえてきます。

「消費マグマ」の上昇

下記グラフは、生活総研が毎月発表している「消費意欲指数」というデータです。
モノを買いたい、サービスを利用したいという欲求が最高潮にある時を 100点としたら、来月のあなたは何点ですか、と聞いています。
この指数には季節変動があり、基本的には毎年同じような波形になるのですが、昨年の消費増税のタイミングなど大きなイベントがあると例外的に反応します。
この消費意欲指数は5月に大きく落ち込んだのですが、6月は大幅に上昇して過去5年で最高になり、いわば「消費マグマ」とも言える生活者の消費に対する気持ちの盛り上がりが感じられます。

※「消費意欲指数」より

特に買いたいカテゴリーに関しては、外出関連カテゴリーを中心に消費意欲が上昇しています。 「外食」「レジャー」「旅行」「理美容」「ファッション」などの増加が顕著で、消費意欲が増加したカテゴリー数自体も多い結果となりました。

しかし、コロナ禍による消費控えは、依然強いものがあります。自由回答を見ていくと、「ストレスを発散したい」など消費に対してポジティブな回答が増えているのですが、一方でネガティブな回答をした人の中には「収入が減るから」といったコメントも多く、こういった根本的な消費冷え込み要因はむしろ増えています。

これまでに溜まってきた「消費マグマ」が、そのまま噴出するかというとそうではなく、今後の消費拡大にブレーキをかける要因も一方でありそうです。

■予想以上に冷静で、中長期視点を持つ中国生活者

消費意欲はコロナ禍前の水準に

次に、一足早くWithコロナ期に入っている中国の現状について、生活綜研(上海)からのレポートをご紹介します。新型コロナウイルスが沈静化し、経済活動が本格化していく中で、果たして中国の生活者の中では「リベンジ消費」は起こっているのでしょうか。

※「消費晴雨表調査」より
※2020年2月の消費意欲指数は、博報堂生活綜研(上海)実施「新型コロナ影響把握調査2020年2月」の調査結果の数値を参考数値として使用
※2020年3月は調査を実施せず

まず、生活綜研(上海)が毎月行っているインターネット調査「消費晴雨表調査」で中国の消費動向から見ていきます。
これまで消費指数は概ね70点以上で推移していたのですが、新型コロナウイルスの流行が深刻となった2月時点で大きく低下し、その後すぐに元の水準に戻っていることが分かります。

この時期の消費品目を見てみると、感染が広がっていた1-2月には生活を支える「食品・飲料・医薬品」の消費が前年を上回っており、3月には「通信・オフィス用品・日用品」が、4月には「たばこ・酒・化粧品・自動車」が前年比でプラスの成長となっています。

実際の街中の様子を聞くと、外食は活況を取り戻し、エンターテインメント施設も再開されていますが、一部の映画館や学校などはまだ再開できていないとのことでした。
日本のGWに当たる5月の連休「労働節」では、多くの中国生活者が屋外でのレジャーを楽しみましたが、中国全体での観光客数は1.15億人と昨年の同じ連休3日間の1.95憶人を大きく下回っており、まだ完全に経済活動が回復をしていないことがうかがえます。

「防衛」と「先手」

ここで中国の生活者の生活行動変化を見ていくと、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しつつある現在においても外出時にはマスクを着用したり、旅行や金額の大きな買い物を控えており、お金をかけて良いものを買おうとする行動や我慢していた欲しいものを買うような積極消費型の行動が低い状況となっています。この傾向は4月と5月を比較しても大きな変化はなく、「リベンジ消費」と呼べるような大きな生活行動の変化は見て取れません。

※「アフターコロナの中国生活者の意識・行動変化調査」より

生活綜研(上海)が行ったインタビュー調査からも、「消毒水を使った家の吹き掃除や孫のおもちゃの消毒を徹底して実施している(60代女性・上海)」「労働節連休で旅行に出かけても、ピークを避けたり旅行日数を減らして感染のリスクを防ぐように行動している(30代女性・広州)」といったように、生活者の防衛意識がいまだに続いていることが伺えます。

また、「もともと買物をたくさんしていた行動を改め、衝動買いを減らし、その代わり保険や貯金にお金を回すようになった(20代女性・上海)」といった貯蓄への意識や、「自分のスキルアップや資格取得に取り組んでいる(30代男性・広州)」といったように学習に取り組む姿勢なども生まれてきているようです。

「今を楽しむ」ことを重視していた中国の生活者が、予想以上に冷静で中長期的な視点をもって「将来に備える」といった方向へ大きく変化していることが見て取れるのではないでしょうか。

■コロナ禍においても「明るさ」を忘れないアセアン

国によって生活者の意識に大きな差がみられる

それでは、コロナ禍におけるアセアン各国の生活者の現状はどうなっているのでしょうか。
生活総研アセアンの調査から見ていきましょう。2020年3月27〜31日に、 タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピンの6カ国でインターネット調査を実施しました。
まず大前提として言えるのは、それぞれの国によって新型コロナウイルスの影響やステージが異なり、生活者の意識や行動にも大きな差があるということです。

※「新型コロナウイルスによるアセアン生活者の変化調査」より

「生活者が感じるコロナ禍によって影響を受けたこと」は、タイでは「移動手段」「食事」がトップにあがり、インドネシアでは「他人との関係」、シンガポール「旅行/レジャー」、ベトナム「医療」、フィリピン「コミュニティ」といったように、それぞれの国の置かれた環境によって生活者の受け止め方が大きく異なる様子が見て取れます。
それでもアセアン全体で見ると、「新型コロナウイルスは最も影響を与えた出来事」と答えた人が91%に達するほど、今回のコロナ禍はアセアンの生活者にとっても大きなインパクトがあったことは間違いないようです。

楽しみを忘れず、助け合いの精神で

ここで注目したのは、85%の人が「外出を控え、家の中でできる娯楽を楽しむようにしている」と答えているように、マスク着用などの予防策を講じながらも「常に楽しみは忘れない」アセアンの生活者の明るさです。

※「新型コロナウイルスによるアセアン生活者の変化調査」より

タイの公共交通機関では、職員が歌とダンスで感染予防を啓発する動画を作成し話題になりました(https://www.youtube.com/watch?v=7Se7Su6SOJc)。常に明るいトーンで感染予防対策を促している点が、アセアンの特徴のひとつのようです。

このコロナ禍を機に、普段は外食やテイクアウトが多くあまり自炊をしないアセアンの生活者も自炊を始めたり、運動を始めた人も多いと聞きます。家族との時間や、エンターテインメントを含めて自宅の中でできることを楽しみながら、この難局を明るく乗り切ろうとしているアセアンの生活者が浮かび上がります。

新型コロナウイルスを機に、経済への打撃を受けている人たちへの助け合いのプラットフォームが立ち上がり、自国や周囲の人々への「思いやり」「助け合い」の精神を持つ生活者が多くなっているとの話もありました。例えば、新型コロナウイルスで経済的なダメージを受けた近隣の人々をサポートするために、食品や洗剤、水などの物資をシェアするタイの「ハピネスボックス」と呼ばれる取り組みなどはその代表例です。

コロナ禍においても、常に明るさを忘れず、お互いをサポートしながら難局を乗り切ろうとする姿勢は、日本でも学ぶべきところが多いと感じました。

以上、コロナ禍における日本・中国・アセアンの生活者の実態を見てきました。
確かに、新型コロナウイルスの感染拡大が生活者の意識や行動を大きく変えたことは間違いありません。しかし、それぞれの国の置かれた環境や文化によって、その反応は大きく異なっています。こういったさまざまな生活者の視点を理解することで、これからの日本の社会の変化もみえてくるのではないでしょうか。

生活総研、生活綜研(上海)、生活総研アセアンでは、コロナ禍における生活者の意識や行動の変化を引き続き注視していきたいと思います。

上段左から、山本哲夫(生活綜研(上海))、堀宏史(生活総研)、内濱大輔(生活総研)
下段左から、伊藤祐子(生活総研アセアン)、高田知花(生活総研アセアン)、鐘鳴(生活綜研(上海))

【調査概要】

■日本

「新型コロナウイルスに関する生活者調査」
調査時期:
_2020年6月4日(木)~8日(月)
_2020年5月7日(木)~11日(月)
_2020年4月2日(木)~6日(月) =政府の緊急事態宣言前
_2020年3月5日(木)~9日(月)
調査地域:
_①首都40km圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県)
_②名古屋40km圏(愛知県・三重県・岐阜県)
_③阪神30km圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県)
調査対象者:20~69歳の男女
対象者割付:調査地域①〜③各500人を各地域の人口構成比(性年代)に合わせ割付
サンプル数:1500人
調査方法:インターネット調査

「消費意欲指数」
調査時期:毎月上旬実施
調査地域:①首都40km圏 ②名古屋40km圏 ③阪神30km圏
調査対象者:20~69歳の男女
対象者割付:調査地域①~③各500人を各地域の人口構成比(性年代)に合わせ割付
サンプル数:1500人
調査方法:インターネット調査

■中国

「消費晴雨表調査」
調査時期:毎月中旬実施
調査地域:
_1級都市(北京・上海・広州・深圳)
_新1級都市(天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安)
調査対象者:20~69歳の男女
サンプル数:1600人
調査手法:インターネット調査

「アフターコロナの中国生活者の意識・行動変化調査」
調査時期:2020年5月8日~22日
調査地域:
_1級都市(北京・上海・広州・深圳)
_新1級都市(天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安)
調査対象者:20~69歳の男女
サンプル数:1600人
調査手法:インターネット調査

「アフターコロナ変化インタビュー調査」
調査時期:2020年5月7日~8日
調査対象者:上海4人、広州2人、成都2人
調査手法:対面デプスインタビュー

■アセアン

「新型コロナウイルスに関するアセアン生活者の意識調査」
調査時期:2020年3月27日~31日
調査地域:タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、フィリピン
調査対象者:20~49歳の男女
サンプル数:1800人
調査手法:インターネット調査

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事