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加速する地域発イノベーションの可能性/岩嵜博論(連載:アフター・コロナの新文脈 博報堂の視点 Vol.4)

2020.07.01
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業や生活者を取り巻く環境はどのように変化したのか。また、今後どう変化していくのだろうか? 多様な専門性を持つ博報堂社員が、各自の専門領域における“文脈”の変化を考察・予測し、アフター・コロナ時代のビジネスのヒントを呈示していく連載です。第4回は、地域経済の可能性をテーマに、ビジネスデザインディレクター岩嵜博論の意見を紹介します。

Vol.4  加速する地域発イノベーションの可能性

博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター 岩嵜博論

変化への対応を迫られた地域経済

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、地域の経済は大きな変革を迫られています。博報堂のミライの事業室では、2月に資本業務提携を行ったやさいバス株式会社とともに、新しい地域経済圏づくりのビジネスに挑戦しています。コロナウイルス危機の渦中においても、静岡にいるやさいバスのメンバーと日々やり取りをする中で、地域経済の変化を目の当たりにしてきました。

 コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの飲食店がお店を開くことができなくなりました。静岡のある地域ではこの難局を打開すべく、飲食店のみなさんが、地域の様々なステークホルダーと協調しながら、いちはやくデリバリーの仕組みを整備されました。やさいバスも飲食店向けの流通量が少なくなる一方で、小売の販路を新たに広げるべく、普段は青果の小売をされていない店舗でも野菜の販売ができる仕組み「ご近所八百屋」をいち早く展開しています。

 いずれのケースもその対応のスピード感に驚かされました。少しでも早く直面している課題を解決すべく、時間をかけて緻密に仕組みを検討するというよりも、思いついたことをまず実行してみようという考え方が優先され、迅速に仕組みが立ち上がりました。

計画的アプローチから適応的アプローチへ

 製品開発や新規事業開発の方法論として、計画的(predictive)アプローチと適応的(adaptive)アプローチという二つの考え方があります。計画的アプローチとは、つくるものの最終形を最初に明確に決め、それを実現するためのロードマップに従って企画や設計を進める方法です。一方の適応的アプローチとは、つくるものの最終形を最初にはっきり決めずにプロセスをはじめ、試作やプロトタイプを通じてその有効性を検証するサイクルを何度か回すことで、検証の結果を見ながら少しずつ意思決定を重ねていく方法です。

 適応的アプローチは、アジャイルソフトウェア開発と呼ばれるソフトウェアの開発要素を小さなタスクに分解し、優先度の高いタスクから開発を行い、開発の進捗を見ながら動的に優先順位を変えたり、タスクの内容を変えたりしながら臨機応変にソフトウェアを開発する方法において議論がなされてきました。その後、ソフトウェア開発に留まらず、サービス開発や事業開発の領域においても近年この適応型アプローチが注目されています。

 コロナウイルス危機の中、静岡で実践されていたことはまさにこの適応型アプローチによる迅速なサービス開発でした。サービスの理想形を時間をかけて検討するのではなく、直面する課題を解決するための機能を入手可能なリソースを使ってまず立ち上げてみるというものでした。

地域発イノベーションの可能性

 コロナウイルス危機の最中に静岡で目にした適応型アプローチの実践は、世界のイノベーションの担い手が採用している方法論そのものでした。同時に頭に浮かんだのは、これは大都市の大きな組織で同じことができただろうかという問いでした。

 目の前の課題をなんとかしなければという危機感によって実現のスピードがより加速したという側面ももちろんあったと思います。それに加えて、地域にはイノベーションを加速するための条件が実は揃っているのではないかと気付かされました。

 地域では、当事者意識が高いステークホルダー同士がお互いにコンタクトが取りやすい状態にあります。そして、それぞれが持つリソースを提供するスピードが早いことも地域ならではです。例えば、やさいバスの「ご近所八百屋」では、取組みの理念に共感した地域のステークホルダーが、自社のスペースの一角を野菜の販売スペースに変え、近所の方々に声をかけてお客さんが集まりました。

 今回のコロナウイルス危機は、潜在的な地域の課題を急速に顕在化させました。一方で、その課題に迅速に対応できる適応力、そしてそこから新しいものを生み出す力が地域にあることも明らかになりました。こうした適応型アプローチによる地域発イノベーションは今後も大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。

岩嵜博論
博報堂 ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター

博報堂において国内外のマーケティング戦略立案やブランドコンサルティングに携わった後、米国シカゴのデザインスクールを修了。現地デザインファームでのインターンを経て、帰国後は製品・サービス開発や新規事業開発のコンサルティングに従事。現在は、博報堂の新事業開発部門にて事業開発をリードしている。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。著書に『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『アイデアキャンプ―創造する時代の働き方』(NTT出版)など。

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