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【博報堂・これからの教育ラボ インタビューシリーズ】大切なのは、嫌いなことや苦手なことでも逃げずに頑張れる力(宇宙飛行士 大西卓哉さん)

2020.04.24
#これからの教育ラボ#教育
2020年4月より始まる教育改革で謳われている「自分らしく未来を切り開いていく人材づくり」。そのためには、子どもたちに一体どんな力が求められているのでしょうか。博報堂・これからの教育ラボ・リーダーの大木浩士が、各分野の第一線で活躍される方々にうかがっていきます。初回にご登場いただくのは、2016年に国際宇宙ステーションで113日間の長期滞在を経験、現在はフライトディレクターなどの任務に当たられている宇宙飛行士の大西卓哉さん。一体どんな子ども時代を過ごし、宇宙飛行士として活躍されるようになったのかを探ります。
明日を生きる子どもたちが、自分らしく未来を切り開いていく力を養うための、ヒントにしていただければと思います。

■人間の探求心を刺激する宇宙飛行士という仕事

──まずは現在のお仕事について教えていただけますか。

大西
JAXA(宇宙航空研究開発機構)で宇宙飛行士をしています。その名の通り宇宙に行くのが仕事ですが、JAXAに入って10年ほどのキャリアの中で、僕が宇宙に行った時間は5%くらい。特殊な仕事だと思います。あとはフライトディレクターとしての業務も行っています。宇宙での仕事というのは、実は9割5分くらいは地上から遠隔操作していて、残りの5%、たとえばサンプルの交換作業など、どうしても人の手でやらないといけない仕事だけ宇宙飛行士が現場で行います。そうした作業を地上から監督指揮するのが、管制官と呼ばれる人たち。フライトディレクターとは、その管制官のリーダーです。

──宇宙ステーションに4カ月滞在されていましたが、印象的だったことを教えてください。

大西
宇宙自体がものすごく面白い世界で、さまざまな特徴がありますが、何か一つ挙げるとすると「微小重力」であるということ。分かりやすく言えば無重力状態であることですね。私たちが地上で生活するとき、いろんなところでうまく重力と付き合っています。それがないだけでこんなに生活や仕事のやり方が変わるというのを強く感じました。

──宇宙に関わる仕事の魅力は何ですか。

大西
宇宙は、人間に残された数少ないフロンティアの一つ。そこでの仕事は夢があるし、人間の探求心を刺激してくれます。人間は何百年も前から、行ったことのないところへ行ってみたい、見たことのないものを見てみたいという好奇心、探求心を原動力に文明を築いてきた生き物です。今世界はすごく便利になって、携帯電話一つでいろんな情報に接することができますが、僕らがもともと持っていた探求心を失ってしまうことは、すなわち人間という種が進化のピークを越えることを意味する。宇宙は、そんな探求心をいつまでも刺激してくれるような場所だと考えます。

■大西流、学びのコツ

──小さい頃、ご両親にはどんな風に育てられましたか?

大西
父親はいわゆる「教育パパ」で、「勉強しろ」と口うるさかったのですが、母親は逆に何も言わなかった。今思えば夫婦でバランスをとっていたのかもしれません。特に僕が小学5年生くらいになると、中学受験のために塾に行かされひたすら勉強しろと言われていました。遊びたい盛りだったので嫌々やっていましたが、いざ中学に入学すると、3年程は何をしろとも言われなかった。メリハリはありましたね。

──小さい頃は図鑑がお好きだったとか。

大西
図鑑も好きだったし、「〇〇のひみつ」シリーズも好きでした。ああいった本をたくさん買ってもらえたので、夜まで何度も何度も読み返していました。子どものお小遣いでは簡単に買えませんから、そういう“出会い”を与えるという親の役割も大事だなと、特に今自分が親になって思いますね。小学校高学年と幼稚園に通う子どもがいますが、勉強しろとは一応言うものの、無理やりはやらせたくないんですね。というのも、僕自身、自分の意思で勉強し始めたのは高校2年くらいからで、その時初めて勉強を楽しいと感じたし、成績も伸びた実感があるからです。嫌々やらされるより、子ども自身がいかに興味を持ち、勉強に対してポジティブな姿勢になれるかがすごく大事だと思います。言うほど簡単ではありませんが。

──大西さんが高2で勉強が好きになったきっかけは何だったんですか?

大西
好きな科目が一つできたことが大きかったです。高1で初めて習った物理が、自分の性に合っていたんです。物理は世の中のさまざまな現象を説明できて、たとえば消しゴムを指ではじくとどこかで止まるということも、力学の方程式で説明できます。それがすごく面白いと思ったんですね。大好きな科目が一つできると、その勉強がすごく楽しくなるし、そのうち自分に向いている勉強法も見えてきて、ほかの科目にも応用できるようになる。ある方がうまく表現していたのが、1枚のハンカチをテーブルに広げて中央を持ち上げると、当然周囲が引きずられて持ち上がりますよね。同じように、ひとつ好きな科目ができれば、そのいい影響が周りにも波及していくんです。僕は物理がきっかけで化学も好きになったし、勉強が楽しいと思えるようになりました。受け身でやるのではなく、まず自分が興味を持たないと、本当の意味で結果はついてこないような気がします。

──学校以外では、どんな学びが大切だと感じますか?

大西
国内外のほかの宇宙飛行士を見ていると、ボーイスカウトのような野外活動、訓練を体験している人が多いですね。たとえばチームに何かのミッションが与えられたとき、リーダーはどうリーダーシップをとるべきか、そしてメンバーはどうリーダーを支えるべきかが問われます。そのときの状況下で、各自自分の役割を見つけ、その役割をきちんと果たしてチームに貢献する。あるいは状況を自分で判断してその場にあるものをうまく利用し、問題を解決する。そうした創造性や臨機応変な対応力などは、学校の科目授業だけではなかなか身につきません。アメリカはそういう訓練プログラムが充実していて、自分もそういう活動を幼い頃からやっていたら良かったかなとは思います。

それから僕自身は、中3のとき20日間くらいカナダでホームステイした体験が大きかったように思います。10代の早い時期に、日本とはまったく異なる言語、文化、風土に少しでも触れることができた。食べるものひとつとっても日本とは全く違っていて、非常に新鮮でした。世界にはまったく異なる価値観を持つ人たちが暮らしていることもわかったし、日本の得意不得意な部分を客観的に見られるようになる。大きな視点を得られたと思います。英語力も、日本にいて自分の力だけで本当に使える英語を身につけるのは難しいかもしれません。やはり一番の近道は、現地に住み、現地の人たちと一緒に過ごすこと。そもそも彼らは、授業で学ぶような文法に則っているわけでもなく非常にフランクに会話をしている。私たちだって、普段そこまできれいな文法の日本語で話しているわけではありませんよね。英語力も、現地に身を置き、彼らのイントネーションや話しぶりなどに触れ、吸収することで、初めて「自分の一部」になっていくのだと思います。

■大切なのは、苦手なことでも頑張れる力

──大西さんはもともと飛行機のパイロットでした。宇宙飛行士もフライトディレクターもですが、失敗のできない、プレッシャーがかかる環境でパフォーマンスを発揮する力はどのように養われたのでしょうか。

大西
パイロットの場合、プレッシャーのかかる場面にどれだけ自分をさらしてきたか、その場数が大事になります。その場数を日々の「訓練」というシステムで踏んでいくのです。また定期的に何度も試験があり、2回連続で同じ試験に落ちるともう2度とパイロットには戻れません。そうしたプレッシャーにもさらされています。でもそれによって僕のような普通の人間でも、「どんなことがあっても大概何とかなる」という平常心を身につけることができました。

パイロットでも宇宙飛行士でも失敗はします。むしろ失敗したときにどうするかがよっぽど大事。失敗そのものよりも、そこをいかに挽回するか、切り抜けられるかが問われるんです。誰かの失敗はその他の大勢の学びにつながりますから、パイロットの訓練では、「失敗の共有」の大切さを徹底的に叩き込まれます。たとえば、AチームとBチームが2日間同じ試験を受けたとして、Aチームが初日の試験で1つミスをして減点された場合、2日目にBチームが同じ失敗をしたら、怒られるのはAチームです。「お前たちは自分たちの失敗から教訓を得たのに、なぜそれをBチームに伝えなかったのか」と。ですから1人だと1時間の訓練は1時間分の訓練でしかありませんが、6人で1時間ずつ訓練した体験を共有できれば、1時間しか訓練を受けていなくとも、6時間分の学びを得ることができる。そういうマインドは、人生においても大事なんじゃないかなと思います。

──大西さんは読書もお好きだったとか。

大西
失敗の話と似ているかもしれませんが、読書はほかの人の経験を共有させてくれるものだからです。自分が経験したことのないこと、知らない世界の知識を吸収することで、自分の視野も広がり、興味の幅もまた広がります。

──ご自分の「軸」はどんなところにあると思いますか?

大西
たとえば僕は決して大勢の中で場を盛り上げるのが得意なタイプではなく、小さい頃はそれがコンプレックスでした。でも僕みたいな人にも向いている仕事があるわけで、無理して性格を変える必要はないんです。

というのも、宇宙飛行士選抜試験の最終選抜で閉鎖環境試験というのがあるんですが、その試験では外部から隔離された1つのスペースに10人が1週間缶詰状態でさまざまな課題に取り組むんです。5分刻みのスケジュールで、カメラとマイクですべての発言や行動が記録され、心理学者のような人たちにチェックされ続ける。精神的にもとても厳しい試験です。初日の僕は、「こういう言動をすれば評価が高くなるんじゃないか」と得点を意識するあまり、自分ではない自分を演じてしまって、疲れ切ってしまいました。でもそこで、嘘の自分を評価されて宇宙飛行士になれたとしても苦労するのは自分自身だと思い直し、2日目からはありのままの自分で過ごすよう努めました。するとものすごく楽になったし、その分肩の力も抜けて、もともと自分の持っていた力を思う存分出せるようになった。おそらく2日目からの得点のほうが高かったのではないかなと思います。自分らしくあることの大切さをそこで知りました。

──最後に、これからの教育について大切だと思うこと、子どもたちへのメッセージをお願いします。

大西
目の前のやらなくてはならないことを一生懸命やる、ということ。自分自身を振り返ると、子どものころ嫌々ながらも勉強したことや、パイロット時代に一生懸命訓練に励んだことなどが、その後宇宙飛行士への道を切り開いてくれたと思います。一見自分の夢と直接関係のなさそうなことでも、その時々でやるべきことを一生懸命やっていけば、そこからいろんな学びを得て成長できるし、ひいては夢にチャレンジするときに絶対役に立つということを実感として持っています。好きなことは誰でも頑張れますが、嫌いなことや苦手なことでも逃げずに頑張れる力というのは、すごく大切な力だと思います。

──今日は貴重な話をたくさんしていただき、ありがとうございました!

■大西卓哉さんプロフィール
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士。1975年、東京都生まれ。1998年3月、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。全日本空輪(ANA)でパイロットとして勤務していた2009年、JAXAから国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する日本人宇宙飛行士候補者に選抜される。2016年7月に宇宙初飛行を果たし、10月まで約113日にわたってISSに滞在。ISS滞在中は、フライトエンジニアとして日本人で初めてシグナス補給船をキャプチャし、日本実験棟「きぼう」船内に新たな利用環境を構築したほか、さまざまなJAXAの利用実験を行った。
※JAXAのホームページ https://www.jaxa.jp
■「博報堂・これからの教育ラボ」について
“教育に博報堂らしい別解を”をテーマに、情報の発信や教育プログラムの提供を行っています。大切にしているのは、”クリエイティビティ“で未来を切り開く人材づくり。そして、自分らしい“粒ちがい”な個性を育む人材づくりです。
中高生を対象とした教育プログラム・H-CAMPは、2013年から活動をスタート。2016年には経済産業省が主催するキャリア教育アワードで、経済産業大臣賞と大賞を受賞しました。2020年3月には、対話型授業のノウハウをまとめた単行本『博報堂流・対話型授業のつくり方』を出版しました。
先生や保護者、そして未来を担う子どもたちに向けた取り組みを、これからも進めてまいります。
※H-CAMPのホームページ https://www.hakuhodo.co.jp/h-camp/
※『博報堂流・対話型授業のつくり方』の紹介ページ
https://www.hakuhodo.co.jp/h-camp/kigyohomon-camp/book/
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