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経営のコトダマ 第10回 気くばりのコトダマ ひきたよしあき

2019.04.15
政治、行政、大手企業などのスピーチライターを務め、「言葉の潜在的なちから」をテーマに子どもからビジネスマンまで読める著作多数。
明治大学をはじめ様々な教育機関で熱弁をふるう博報堂スピーチライターひきたよしあきが、企業経営における言葉のちからを綴る。

学生時代、 NHKでクイズ番組の問題を作る
アルバイトをしていました。

番組の司会者は鈴木健二さん。
NHKアナウンサーにして、350万部の
大ベストセラーを放っていた時代の寵児。
私はその人の姿を追いながら、学生時代を
過ごしていました。

「気くばり」という言葉で一躍有名に
なった人だけに、アルバイトの学生にも
容赦はありませんでした。

資料の揃え方、ホチキスの留め方、
封書の書き方、電話の取り方・・・
まさに箸の上げ下ろしまでに厳しい環境が
そこにはありました。

毎週2回、クイズを作り、それが信用できる
ものか調査する。
当時の NHKには「三文献一系統」という
厳しい掟がありました。どんなに面白いクイズでも、
3冊の文献と有識者ひとりの確認がとれない
限り放送できないのです。
ネットのない時代です。
朝から夜まで、 NHKの資料センターに籠って
文献を漁っている。
それが私の大学生活でした。

先日、40年ぶりに鈴木健二さんの書いた
本をまとめて読んでみました。

人の呼び方、名刺の出し方、電話の取り方、
うなずき方から嫁と姑との関係構築まで、
実に細やかに「気くばり」の技術がかかれています。
当時、この本が売れた背景には、戦前まで
「常識」だった気くばりが日本から消えつつある。
その危機感や飢餓感が背景にありました。

それは当時の「年功序列」と「終身雇用制」
の世の中だから求められたものではないか。
平成の今は、そこまでのルール、マナーを叫ぶと
「上から目線」といわれてしまう。
そうそう、この「目線」という言葉を世に広めた
人も鈴木健二さんでした。

しかし、多くを読破して、少し考えが変わったのです。
鈴木さんの主張は、決して細かなマナーの話ではなかった。
小さな気くばりを続けることで、
未来に気を配るようになれる。

未来の自分をどのような方向にもっていくか。
そのためには、どんな気くばりがいつ、どこで必要か。
誰に、どんな人間関係に気くばりすべきか。
自分の足りてない部分に心を馳せ、
それを埋めるために教養を身につけていく。

だから、英雄というものは大抵雑事が得意。
人への声かけに気くばりがあると鈴木健二さんは
書かれていました。

「未来は気くばりで作られる」

その精度をあげていくために、目の前の
書類を丁寧にそろえる。

それは「茶道」にも似た日本人の
「仕事道」なのかもしれません。

自分と自分の未来への気くばり。
新しい季節が始まる今、
心がけてはいかがでしょうか。

<経営のコトダマ>
第1回 あなたの会社が終わるとき
第2回 徹底的に戦いを省け
第3回 サービスとホスピタリティ
第4回 文学は、実学
第5回 未来を五感で味わいつくせ
第6回 体調のコトダマ
第7回 座右のコトダマ
第8回 激励のコトダマ
第9回 未来のコトダマ

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