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【日本タイダン。】第3回ゲスト 小幡美香さん
女将さんこそ地域プロデューサー  地方に新風を巻き起こす女将ネットワーク

2019.04.02
#ブランディング#地域創生
日本の地域を訪れ、体験や発見をつづる連載コラム「日本トコトコッ」の執筆や地域のまちづくりに関わる、スマート×都市デザイン研究所長・深谷信介が、日本の地域活性について、さまざまな分野のオピニオンリーダーと対談する連載コラムです。

深谷 小幡さんと初めてお会いしてから3年ほどになります。私が地方創生の仕事をはじめて間もない頃。鳥取県と島根県一帯の観光周遊ルート(鉄の道文化圏)の開発に取り組んでいたとき、美しい日本庭園で世界的に有名な足立美術館を訪れる機会があり、近くで宿泊するならここだと薦められたのが「さぎの湯温泉 竹葉」でした。
旅館に泊まるとき、朝食時に女将さんと会話する時間を一番大切にしているんです。お忙しい時間帯のはずなのに、今までで一番たくさんのお話をしてくださったのが小幡さんでした。

小幡 ありがとうございます。嬉しかったのだと思います。地元・安来市の歴史や産業、地域の観光や文化まで、とても熱心にお聞きいただいたので。

深谷 「旅館の女将さんこそ、地域活性化に欠かせないプロデューサーである」……というのが私の揺るぎない想いで、今日の「日本タイダン。」のテーマでもあります。女将というお仕事は、旅館の経営者であると同時に、地域社会全体のコンシェルジュであり、地元と外部をつなぐコーディネーターでもある。小幡さんの場合、全国の女将さんと独自のネットワークづくりにも取り組まれていて、“旅館業界"の中で知らない人はいないという存在です。ぜひ日本を代表する女将という立場から、地域に対するお考えを色々お聞きしたいと思っています。
小幡さんは島根県松江市のご出身で、女将になる前は金融機関にお勤めだったそうですね。

小幡 はい。農林中央金庫で7年ほど勤めていました。日本の農林水産業を支えるという仕事に誇りとやり甲斐と感じて、それなりの営業成績を挙げてキャリアも積み、最終的には、日々、「山陰両県の億単位以上の資金を日銀へ運用する」という責任ある仕事を任されていました。ちょうどその頃、主人と出会ったんですね。

深谷 1996年にご結婚されて、金融機関の会社員から、ご主人の家業である旅館の女将へ。かなりの大転身ですよね。不安や迷いはなかったのですか?

小幡 金融機関の時代に、いずれは全国の支店を巡り、日本の農業全体を元気にしたいという大きな夢を持っていました。そんな私だったら、旅館業でも自分の新しいステージがつくれるかもしれない。旅館業に新風を巻き起こせるんじゃないか……。まだ若かったですし、不安よりもそんな想いが湧き起こってしまったんですね。主人も「三代目としてこの旅館を立派に盛り上げていきたい」という真摯な気持ちを持っていましたので、それを支えたいと素直に思えました。

深谷 でも、実際はそう簡単なことではなかったようですね。

小幡 はい。すべて嫁いでからわかったことですが、有名美術館から徒歩30秒という好立地なのに、お客さまが全然いらっしゃらない。そもそも地元でも存在を十分認識されていない。しかも資金もない。あれれ、結婚は失敗だったかなと(笑)。お客さまと資金がなければ未来もありません
とにかく今やれることをやるしかない。融資を得て露天風呂を新設し、自分と娘の写真を載せたパンフレットをつくって地元に営業に回りました。また、湯治目的での長期滞在のお客さまが中心なのに、お料理に特徴がありませんでした。「身体を軽やかにしたい」というニーズに応えようと、調理師とマクロビオティックス・コンシェルジュの資格を取得しました。時間はかかりましたが、今では大半のお客さまがマクロビや薬膳など健康に配慮したメニューを求めて訪れてくださいます。

深谷 さらに小幡さんは民謡「安来節」の踊りの准師範でもあるのですよね。旅館の夕食後、女将が男踊りを踊られたのには驚きましたが、もっと印象的だったのは「安来節」伝承に対する小幡さんの造詣の深さです。あれは「どじょうすくい」ではなく、伝統的製鉄法「たたら」の砂鉄をすくい上げる姿だという説があるそうですね。

小幡 そうなんです。産鉄技術が貴重だった時代に、砂鉄という原材料を、鉄製品に形を変えて各地に送り出していく。そんな日本のモノづくりを支える起点になっていたのが安来の地です。その歴史をコミカルな芸能として地元に根付かせたのがあの踊りだというんですね。もちろん、みなさんに笑っていただけるのが嬉しいですし、誇りを持って踊らせていただいています。

【個人ブログから全国の女将ネットワークへ】

深谷 小幡さんの活動の中で、興味深いなと思っていたのが個人ブログでの情報発信です。今ではブログやSNSの活用は当たり前ですが、それをインターネット黎明期の20年前からおやりになっている。旅館業界だけでなく、日本の全業界の中でも圧倒的に早い段階でネットの活用に取り組んでいたわけです。何かきっかけはあったのですか?

小幡 正直、それほど大きなきっかけやエピソードがあったわけではないんです。ただ、あまりにも旅館の存在を知られていなくて、何か情報発信をしなくてはと。地元の青年会の方がホームページを作っていたので、見まねで手製のホームページを立ち上げたのが始まりで、その後、個人ブログをほぼ毎日書くようになりました。
大きな転機は、ブログを見つけた女性編集者の方が取材に来て、大手週刊誌の巻末カラー企画で取り上げてくださったことです。自分で言うのはあれですが、「西日本の美人女将」という企画で(笑)。ただ嬉しかったのは、地元の方々の反響が大きかったこと。全国紙に地元旅館の女将が掲載されたと、わざわざ花束を持って来てくださった方もいました。これをきっかけにブログへのアクセスも地元取材も増え、徐々にですがお客さまも増えていきました。

深谷 何か良いスパイラルが生まれそうですね。

小幡 はい。変化は2つあって、1つはブログで発信する内容です。旅館のお食事のメニューや日常の個人的なつぶやきが多かったのですが、雑誌に載っただけでこんなに喜んでもらえるのだから、地域のことを書いた方がずっといいなと。地元・安来はもちろん、島根県や山陰全体の情報発信をしようと心がけるようになって。地域あっての私たちなのだと改めて気づかせていただきました。
もう1つは、ブログを通じて全国各地の旅館の女将さんたちとのつながりが生まれたことですね。ブログのランキングが出るので、それでお互いの存在に気づいて。同世代と少し若い世代の女将の10人ぐらいのグループですが、SNSで情報交換したり、勉強と交流のための会合をしたりしています。もともと旅館は家族経営が多くて悩みも似ていますし、同業の方と接する機会がなかなか無いので、最初はお互いの悩みを打ち明けたり、アドバイスしたり。それが次第に、それぞれの地域の素晴らしさを共有し合ったり、旅好きのお客さまを紹介し合ったりするようなコミュニティに成長していった気がします。

深谷 業界ごとにネットワークをつくっている方々はいますが、小幡さんが“女将業"のみなさんとやっているネットワークは、その次元を遙かに超えたものを感じるんです。「自分が儲けるのが最優先」と考えるのが当たり前。でも女将の方々はそうじゃない。旅館業よりも先に地域のことを大事にして、それが旅館業の発展につながっていく。その懐の大きさ、スケール感がすごいなと。

小幡 もちろん自分の旅館を一番大事にと思った時期もありました。でも結局、それだけではうまくいかないんですね。広い意味での旅館業、観光業は本当にさまざまな業種の人々が支えていて、それをうまく成り立たせるのが私たちの仕事。こっちがうまくいくと、あっちもうまくいく。地域や業界の垣根を越えたり、小さなイノベーションを起こしやすい立場なのかもしれません。

深谷 あと、女将さんがすごいなと思うのは「熱量」ですね。宿のこと、地域のこと、家族のこと、ご自身のこと。いろんな視点ですごい熱量が必要で、どうしてこれほど維持し続けられるのかと。それも女将という職業柄でしょうか。

小幡 職業に対する責任と誇りですね。旅館の女将の言葉遣いや立ち居振る舞いだけ、お客さまの旅の想い出や地域全体の印象が大きく変わるというほどの責任ある仕事ですので。
もう1つは地域に対する愛情です。「ここは素晴らしい土地なんだぞ!」って。島根は神話の国であり、安来は鉄の神様がいらっしゃいます。たたら製鉄という文化を通じて日本のモノづくりを支えてきた素晴らしい土地です。また「安来」という地名も、神話に登場する素戔嗚尊が「吾が御心安平けくなりぬ」……心がほっとしたと語ったという神話に由来します。この土地の人々はみんな穏やかで、人を和ませる風土が今も息づいています。そんな地元愛のおかげで、ずっと熱量が変わらない気がします。
全国の女将ネットワークでやっていることの一つが、みんなの誇りと地元愛の共有ですね。お互いに認め合うことでより強固になる。良い心の状態を作り上げて、それをお客さまへのおもてなしにつなげていく。地方創生(地域創生)を支えるのも私たちの仕事である、という意識もその中で醸成されているように感じます。

【インバウンドだけを目指さない。地域の中で旗を立てることが大切】

深谷 これから日本で国際的なスポーツイベントが続いて、「拡大するインバウンド需要に地方としてどう対応すべきか?」などとよく話題になりますが、率直なところ小幡さんはどう思いますか?

小幡 いずれしっかり対応したいとは考えていますが、私たちが今、一番心を尽くすべきはそこじゃないという想いがあります。
日本のお客さまに安来を、島根を、山陰をもっと知っていただき、竹葉を愛していただく。私たちは、国内でやるべきことをまだ目一杯やれていないと思うんです。まずは、みなさまに愛される旅館の姿を追求することを心がけていればいいんじゃないかって。
インバウンドについても、外国の方に直接アピールするのではなく、もし東京を訪れたお客さまの中に島根に来たいという方がいたら、そのときに選んでいただける旅館であろうと。「島根の宿をお求めなら、竹葉に!」という旗の掲げ方であれば、私たちの身の丈に合っていると思うのです。

深谷 その考え方は大賛成です。我々が広告でお付き合いのある大企業と呼ばれるところは、どこもグローバルビジネスに取り組んでいますが、じつは狙いがすべて異なります。自社のビジョンや他社との競合関係などを考えて、自分たちは海外をどう狙うのか? 戦略を丁寧に考えている。ごく普通の話です。
しかし、なぜか地方の仕事ではどこも一様に、ものすごく大きなグローバルビジョンに飛びつきがちなんです。「世界を見据えてビジネスをしよう」とか、「県内で訪日客◯◯万人を目指そう」とか。竹葉さんの冷静さを見習って、みんな一旦落ち着くべきです。

小幡 島根県の訪日客数は年間5万人。これを「たった5万人しか来ていない」「だから、もっと増やそう」と考えがちなのでしょうね。でも、うちはそもそも7部屋ですから(笑)

深谷 そう。「5万人しか」来ていないではなくて、すでに「5万人も」来てくれている。そこから地元にどれだけ来てもらえるかを考えましょうよと。地方の旅館で多言語対応とかを目指す必要ない。もっとやるべきことは別にあるはずです。
最後に、私たちのように外部の立場で地域活性化に携わる企業に対して、何かご意見やアドバイスはありますか?

小幡 地域の魅力を伝える情報発信のお手伝いをぜひしていただきたいです。特に島根は全国でも人口が少なくて、就労人口も産業規模も小さいので、どうしても発信していくものも小さくなりがち。最初に私のブログを見つけてくださった大手雑誌編集者の方のように、外部の方が広く発信してくださるのは有り難いです。

深谷 地方の方には、私たちのような余所者を心よく思わない人が少なくないんです。ある意味当然だと思うのですが、小幡さんはそれがないですね。女将という職業柄でしょうか。

小幡 そうなのかもしれません。私たちからすると、外部の方は地域に新しい風を起こしてくれる大切な存在です。私自身も、風を起こすのが大好き。風が起こってこそ、その地域も活性化するものだと思います。

深谷 地域の仕事をしていると、旅館の女将さんこそ地域プロデューサーなのだと実感します。一番大きいのは「翻訳」ができることです。地域の人々とそれ以外の人々の言葉をつなぐ役割です。地域の良さを外部の人々に伝わる言葉で発信できるし、逆に外部の素晴らしさを地元に伝えることができる。そういう橋渡し、コーディネーターのような役割ができる人は、地域に意外といないんです。そして何より今過渡期である旅館業を切り盛りするビジネスパーソンである。おもてなし・域内外/異文化交流・経営という卓越した統合スキル。私たちのような立場で地域の仕事をするとき、女将さんのような人々との関わりがキーになる気がするのです。
在り来たりの地元PRのために地方創生予算を投じるよりは、地域のプロであり、おもてなしのプロである女将さんたちが力を発揮してくれるような予算投入方策も十分にあるのでは。その方が遙かに大きな成果が出るんじゃないかと個人的には思っています。

小幡 そうかもしれません。ぜひ応援してください!

対談を終えて|深谷信介

語らいが、メインディッシュです

拙いコピーワークから20数年
まさか自分がシャワーのように体感するとは
そんな朝のひとときを、昨朝のことのように覚えている

明らかにわたしより数時間も早く起き
私よりも数時間遅く就寝する
働き方改革とは無縁の、暮らしていること自体がしごと、だからこその生業

住民+産官学金労言士
呪文文字を2週間かかって覚えたのが、4年前
概念は現実に、ものの見事に、瞬時に打ち負かされた

多くのステークホルダーと語らう中で
唯一、カテゴリー認知して良さそうなのは、
旅館やホテルを切り盛りする女性ビジネスマネジメント層の方々

出張をひとと出会う旅と言い
発信はやらなければ気持ち悪いと言い
地域は戦わずして勝つことだと言う

家族 しごと 地域 社会 そして お客さま
全てをこよなく愛するその身体性は
社会を照らし
直感力と行動力と芯の強さ故の巻き込み力は
ビジネスを圧倒的に牽引する

北で南で
東で西で
全国の気概ある女将さんたちに、
どれだけ支えていただいたことか

そんな献身的社会活動全体を
圧倒的に下支えする日本という国であってほしい

ほのかなあたたかさを感じるようになった宵の口
ミカ女将はきっと
あの客間で
みなさまの心の澱をすべて洗い流すかのごとく、
ハツラツと天真爛漫に安来節を踊っているはずだ

いつか女将がOKAMIとなるよう
都会も田舎も海外もなく
地域というフィールドで
阿呆と言われながら、わたしも踊り続けたい

小幡さま
ありがとうございました、またふらっと泊まりにいきます。

プロフィール

小幡 美香
「さぎの湯温泉 竹葉」女将 調理師 マクロビオティック・コンシェルジュ

歩く元気の源泉掛け流し

1970年島根県生まれ。
広島県尾道短大卒業後、農林水産業組織の全国金融機関、農林中央金庫松江支店に7年間勤務。結婚出産を機に退職。 島根県安来市さぎの湯温泉旅館「竹葉」三代目女将。
1996年~
調理師、マクロビオティックコンシェルジュ、 唎酒師。ホスピタリティー・コーディネーター(JHMA認定)、 講演講師、しまね観光PR大使、JR西日本外部広報員『山陰いいもの探県隊』
(メディア出演)
近年では、CM、情報番組等出演、新聞雑誌掲載多数。SNSを利活用した地域地方創生や地域活性化、集客、ホスピタリティについて全国で講演活動を展開中。

深谷 信介
スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表 / 博報堂ソーシャルデザイン副代表

事業戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やソーシャルテーマ型ビジネス開発に携わり、 近年都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究・実践を行う。主な公的活動に環境省/環境対応車普及方策検討会委員 総務省/地域人材ネット外部専門家メンバー、富山県富山市政策参与などのほか、茨城県桜川市・つくばみらい市・鳥取県日野町など内閣府/地方創生人材支援制度による派遣業務も請け負う。

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